何様

著者 :
  • 新潮社
3.45
  • (44)
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本棚登録 : 1554
レビュー : 233
  • Amazon.co.jp ・本 (316ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103330622

作品紹介・あらすじ

生きていくことは、何者かになったつもりの自分に裏切られ続けることだ。光を求めて進み、熱を感じて立ち止まる――今秋映画化される『何者』アナザーストーリー六篇を収録。光太郎が出版社に入りたかったのはなぜなのか。理香と隆良の出会いは? 瑞月の父に何があったのか。拓人を落とした面接官の今は……。「就活」の枠を超えた人生の現実。直木賞受賞から3年、発見と考察に満ちた、最新作品集。書下ろし作品も収録。

感想・レビュー・書評

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  • 「羊と鋼の森」以来、約10か月ぶりに小説のレビューを書きました・・・・・・。

    朝井リョウは確かに成長しているのだろう。
    でもその成長の仕方は辻村深月と似ているように思える。

    小説を読む意味はどこにあるのだろう。
    心が折れそうになったとき、どうしていいかわからない時、僕は小説を読む。

    どこかに答えはないか? 
    胸が打ち震えるような感動を与えてくれるものはないか? 
    どこかでカタルシスを感じさせてくれないか? 
    ある意味、現実から逃避するように僕は小説を読む。この年になっても、いやこの年だからこそ悩むことがたくさんがある。
    仕事であれ、プライベートであれ、多くの問題が今でも存在する。

    直木賞受賞作「何者」のスピンオフ短編集とも言えるこの本は、初出を調べると一作目から最後の作品までかなりの時間が経っている。そこには彼の変遷が読み取れる。

    「桐島部活やめるってよ」から始まる、類稀で光り輝くような表現が駆使されていた初期の時代。
    そこには人の心を動かす言葉がたくさんあった。
    心を揺さぶられる感動の場面がいくつもあった。
    でもこの作品集の中で僕が本当に感動したのは2作目だけである。

    もちろん他の作品も、人間の心理の奥底を鋭く突いている言葉で表現されているものがほとんどで、なるほどと唸るような場面がたくさんがあるのだが、最後に感動するという思いには至らなかった。

    どちらかと言えば、心が重たくなり沈みがちな作品の方が多かった。

    文学的な完成度で言えば、おそらく後半部分の最近書かれた短編の方が高いのだろう。
    ただ小説の読み手の1人として考えたとき、読み終えた後の満足感、充実感、カタルシスは若い頃の作品のほうがより多くあったように思う。

    そこでいつも考えるのだ。

    小説は何のために書かれるのかと。
    小説は誰のために書かれるのかと。
    世に出た小説は誰のものかと。

    「桐島、部活やめるってよ」「もういちど生まれる」「少女は卒業しない」「星やどりの声」。
    彼の初期の作品で迸るばかりにあふれていたキラキラと輝く比喩や文章が最近の作品では少なくなってきたと感じるのは僕だけだろうか?
    今までの作品ほど感動しなくなってきたと思うのは僕だけだろうか?
    文学の完成度とはいったい何なのだろう?

    この短編集を読み終えたとき、ふとそんなことを思った。

    • 杜のうさこさん
      koshoujiさ~ん、こんばんは~。
      待望のレビュー、やっと読むことが出来ました!
      お知らせを下さっていたのに、返信が大変遅くなって...
      koshoujiさ~ん、こんばんは~。
      待望のレビュー、やっと読むことが出来ました!
      お知らせを下さっていたのに、返信が大変遅くなってしまい、本当に申し訳ありません。<(_ _)>
      体調を崩してしまって、なかなかPCに向き合うことができませんでした。

      早く読みたいです!待ってます!と、
      ことあるごとに連呼して、忙しいセンパイをせっついて、
      あれほど楽しみに待っていたレビュー。
      あ~~もっと早く読んでいたら、元気が出たのかもしれないのに!
      このひ弱さが情けないです…。

      特にこのレビューは、今の私にとって何時にもまして心に響きました。

      >心が折れそうになったとき、どうしていいかわからない時、僕は小説を読む。
      すごくわかります。
      私も現実から逃避するように、何かの答えを求めるように、
      すがりつくように読むこともあります。
      幼い頃から今まで、本はいつもそばにありました。
      その時々で本は形を変えて、寄り添うように隣にいてくれました。
      なのに、子供のころのように無垢な心で読めなくなってしまっている自分にイラついたり、
      いかなる時にも、感動できる心を持ち続けていたいと思いながら、
      最近は心配事や雑念に翻弄されて、心で読むことが難しくなってしまっていました。
      それでも、読みたい本が目の前にあるワクワク感だけは失ってはいないんですが…。

      >小説は何のために書かれるのかと。
      >小説は誰のために書かれるのかと。
      >世に出た小説は誰のものかと。

      この病み上がりの頭で考えてみました。
      少しでも心に響くことがあれば、何の疑いもなく自分のために書かれた本だと思い込む私(笑)。
      少し俯瞰して読むことも大事なのかもしれませんよね。

      列島大寒波、お風邪など召されていませんか?
      お仕事お忙しいとは思いますが、お身体を大切に。
      今年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
      2017/01/15
  • 「何者」のアナザーストーリー6篇、一気読みしてしまいました。どれも「何者」絡みの登場人物のストーリーだが、それぞれ微妙に手触りの違いを感じた。
    一番気になっていたのは一話目『水曜日の南階段はきれい』、光太郎が何故就職先に出版社を希望していたのかの理由が明らかになる。高校時代のキラキラした日々が眩しくて、甘酸っぱさがパ~っと心に広がっていく描写が印象的。この短編は発表が「何者」より先だったのか。
    理香と隆良の出会いを描いた『それでは二人組を作ってください』、本作のみ「何者」を読む前に別アンソロジーで既読。そのときから印象的な作品だったけど、「何者」読了後、そして映画を観た後に改めて再読すると、その痛さがハンパない。心の内側を引っ掻かれるようだ。見栄やプライドの高さで動いてしまう大学生女子の心情、何でこんなによくわかるかな朝井さん。
    『逆算』(サワ先輩)『きみだけの絶対』(ギンジ)『むしゃくしゃしてやった、と言ってみたかった』(瑞月の父)、「何者」絡みの登場人物は脇役のため「何者」感は薄いけど、それぞれに心がざわざわする短編ばかりだった。いや~苦い苦い。
    そして最終話『何様』。人事部が舞台、人を選ぶことに逡巡する新入社員の克弘。どこか煮え切らない、やたら「当事者」に拘る彼の理由が後半明らかになり、もう一度読み返して色々と腑に落ちる。朝井さんの視点の鋭さと構成の巧さに唸らされた。
    朝井さんの作品を読むと、自分が無意識のうちに蓋をしていたネガティブな感情がちょっとずつ漏れていくような気持ちになる。その都度軽い自己嫌悪に陥るけど、それでもページを捲る手を止められないのだよな。

  • 短編。6編。「何者」(直木賞受賞作品)のアナザーストーリー集。
    バンドにハマるばかりで大学受験勉強がおろそかになってしまうタイプの神谷。夢を追い続ける彼を見つめていた女性。(水曜日の南階段はきれい)
    「何者」では面接をされる側だったが、本作で面接をする側に回り、自分に採用面接をする資格などあるのかを自問自答する克弘。(何様)
    さらっとした感じで描かれているのだが、鋭い人間観察眼はさすが朝井節といった感じ。「いったい何様なんだよ」とうなずくことも。
    一番面白かったのは、最初の「水曜日の南階段はきれい」だった。

  • 初めての朝井リョウさん。
    「何者」のアナザーストーリーとは知らずに読みました。
    展開が読めるところや、ん?って思うところや、オチつけたがるなーとか色々思ったけれど、ちゃんと全部読めました。

  • 少し前に「何者」を読み返しておいて良かった。
    まったく別物の本を読む気分になってたと思うから。
    「何者」のアナザーストーリーなんだよね、これ。
    最後の「何様」だけ、どこに誰が???だったけど今いろいろ検索して納得しました(笑)

    最初の「水曜日の南階段はきれい」が好き。

  • 全体的に何者の話とリンクしていて、読んでいて飽きない。特に水曜日の南階段はきれいは素晴らしい。何度も再読したくなるクオリティ。逆算の仕掛けや発送も好き。朝井リョウさんは初めと最後の一文にこだわっていて、伊坂幸太郎っぽさを感じる。

  • 私はたぶん、朝井リョウという作家がとても好きなんだと思う。
    紡ぐ物語が好きというのではなくて、
    この人が持ってる人に向き合おうっていう覚悟みたいなものがとても好き。
    そしてそれを、自分が必要としているときがあると感じる。

    朝井リョウが書く人間は本当にフラットに人間で、かっこいいとかかっこ悪いとかもなくて、まるまるその人で、きっとこの小説に書かれていないその人物もまだまだあるんだろうと思う。

    朝井リョウが覚悟として持っているのは、自分は人を勇気づけるために本を書いているってことだと私は思う。
    その勇気づけを決してきれいごとにはしたくないっていう意思を感じる。
    人の色んな所をみて、そんな中にもただひとつでも、信じられるコレはどうかなと差し出されているような気持ち。
    主人公たちと同じようなことで悩んだりは決してしていなくても、
    その差し出されたものに、確かに私は勇気づけられて、それで少し前に進む。

  • 『何者』のような衝撃はなかったが、短編それぞれに何か胸に引っかかる台詞があり、読んだ後自分のいろいろな気持ちが蘇ってきた。

    『それでは二人組を作ってください』はタイトルからして嫌な話になるなと予想していたが、想像したよりキツめの話だった。理香と朋美の会話に恐怖を感じた。理香はだいぶ自意識過剰に描かれているが、合わないグループに所属しているとこういう人間関係のズレって私もあった気がする。えっ、そういうつもりで喋ってたのか、額面通り受け取ってしまってた、みたいな。女子の会話って表向き無意味なくだらないことを話しているように見えて実は高演算機で相手がどれだけイケてるか値踏みしていて、それができない子はおいていかれる。そのことを描いてて怖かった。

    『むしゃくしゃしてやった、と言ってみたかった』は、MR.TANABEというまさかの人物をとりあげて、真面目に生きてきて行き詰まってしまった女性を主人公に描いていた。案外こういう女性は多い気がする。私も、ずっと真面目に生きてきた人より、破茶滅茶に生きて更生した人の方がより評価されることが不思議だった。きっとみんな、怖いもの見たさなんだろうなあ。自分は出来ないし、そういう人生送りたくもないけど、話は聞いてみたいっていう感じ。だから私個人としてはずっと真面目に生きてきた人のことを信頼したいけど。

    表題作の『何様』。人事って仕事は、確かに大事な仕事だが、いくらでもテキトーにできる仕事のような気がしていた。働いてる時は、あんな数分の面接で何がわかるんだよ、適材適所でちゃんと異動させてるのか、人事って何がわかってるの?といつも思っていた。きっと人事に配属された人もこうやって悩んでるんだろうな。みんな異動した場所でよくわからないなりに"誠実に"仕事してるんだなと思った。

  • 「何者」のアナザーストーリー。
    6編からなる短編集。

    「何者」を読んでいなくても無理なく読み進められるとは思うけれど、読んでいた方が楽しめる1冊。
    何者を読んだ後のガツンとくる様な衝撃を期待して手に取ったのだけれど、恥ずかしくなるくらいの鋭いヒリつき感は少なめ。

    表題作が良かったなぁ。
    大人といわれる年齢になり、親にもなったものの、
    自分みたいな勝手な人間が何を偉そうに…
    と、ふとした瞬間に思ってしまう。
    初めから100パーセントなんてのはムリなのだ。
    少しずつ、そうなっていくのだろうな。

  • 『何者』はだいぶ前に読んだから、あんまり覚えないけど、1つの短編の気持ちで読みました。

    人間の中にある書きにくいモヤモヤを表現するのか上手だと感じました。個人的にはすごく様々なシーンで心に刺さったと思います。

    特に印象に残ってるのは、『きみだけの絶対』かな。
    多分この本を読んでも感じ方はそれぞれの価値観によって違うということを、本を読んで感じさせられました。

    私にとって拾っちゃった言葉の多かった、好きな一冊。そんな感じ。

  • 何者のことはすっかり忘れてしまったので、
    まっさらな気持ちで。

    ちょうどやってしまったと思うことがある今、
    とくに表題作は読んでて辛かった。
    前半3作は何かで読んだことがあり再読。

    水曜日の南階段はきれい
    この話はかなり好き。夢って。夢とは。

  • 初読

    「何者」のスピンオフ。
    「何様」というタイトルにすべて帰結する、うまいなぁ。

    「水曜日の南階段はきれい」
    光太郎が何故出版に拘ってたか、忘れられない人って誰?
    何者でぽっかり浮いた疑問に充分過ぎる答え。
    高校生のきらきら、上手いなぁ…

    「それでは二人組を作ってください」
    でたー、理香!理香の嫌なところ、すっごくよくわかるよ!w
    宮本君のダサさというかバカさというかも。
    この2人の痛々しさ、本当に知ってる。
    あまり救いがないようなラストだと思うけど、
    バッドエンドにも感じない読後感。

    「君だけの絶対」
    ギンジ君は成功?して何者かになれたんだね。
    演劇を観に来る、来れる人だけが見る事の出来る生き辛さへのエールね。
    うん。

    「何様」
    えー、誰だ?って思ったら、面接の眉毛カッターのあいつか!
    1%の本気の瞬間。

  • 人の心の中にある、わざわざ言うまでのこともないんだけど、ずっと引っかかっているもの、を、書くのが上手いなーと思いながら読みました。
    人の目を気にしながら生きている日々に疲れていたり、ふと言われた一言がずっと重しとなっていたり。誰もが持っているもの。その荷物を下ろせたとき、本当の自分を認められるのではないか、と思える作品。

  • 内容紹介(公式サイトより引用)
    生きていくこと、それは、
    何者かになったつもりの自分に裏切られ続けることだ。
    光を求めて進み、熱を感じて立ち止まる。
    今秋映画公開予定『何者』アナザーストーリー集。

    光太郎が出版社に入りたかったのはなぜなのか。
    理香と隆良はどんなふうに出会って暮らし始めたのか。
    瑞月の両親には何があったのか。拓人を落とした面接官の今は。
    立場の違うそれぞれの人物が織り成す、`就活'の枠を超えた人生の現実。
    直木賞受賞作『何者』から3年。いま、朝井リョウのまなざしの先に見えているものは――。

    収録作品(関連人物)
    『水曜日の南階段はきれい』(光太郎)
    『それでは二人組を作ってください』(理香、隆良)
    『逆算』(サワ先輩)
    『きみだけの絶対』(ギンジ)
    『むしゃくしゃしてやった、と言ってみたかった』(瑞月の父)
    『何様』(?!)
    ただの前日譚、後日談におさまらない、『何者』以後の発見と考察に満ちた読み応えのある最新作品集。

    朝井リョウさんにハマるきっかけになった「何者」のアナザーストーリー。
    本当は文庫まで待つつもりだったが、結局我慢できずに購入…
    でも全く後悔無し、購入して大正解の本だった(笑)

    普段はあまり短編は好きではないのだが、気に入った話が3つ。

    まずは「水曜日の南階段はきれい」。
    バンドマン、光太郎の話。
    青春ど真ん中、終始ニヤニヤしながら読んだ(笑)
    なんて甘酸っぱい話なんだろう。
    なにせ、最後の「おまけ」にヤラれる。
    光太郎にとっても、そして読者にとってもまさに「おまけ」に違いない。
    自分もこんな青春時代があればなぁ…
    ただ、そこは朝井リョウの作品。
    単純な青春ストーリーでは終わらせてくれない。
    光太郎の「夢に向かって頑張っている人間と思われたい」感覚、すごく分かるなぁと。
    自分は33歳になってしまったけれど、結局今の自分にも答は見えていない。
    光太郎と一緒に、もう少し探してみようかな…
    「何者」以降で2人はどうなったんだろうか、続きがとても気になる。

    次に「それでは二人組を作ってください」。
    自分を賢く見せようとする気持ち、人に弱みを見せられない弱さ。
    そしてそれが壁になり、結果として人を遠ざけるてしまう感じ、痛い程分かる。
    こういうことに、そしてこういう自分に気付かせられてしまうから、朝井リョウさんの作品は困るなぁとつくづく思う。
    自分を変えることはなかなか出来ないけれど、同じ感覚・考えを持っている人がいると思えること。
    それが、少し気持ちをラクにしてくれることもあるような気がする。
    きっとコレを書ける作者も、同じ感覚を持っているに違いない(笑)
    ちょっと「何者」の理香のイメージとは少し違ったかもしれない。

    そして最後に「何様」。
    「100%誠実でなければいけない」という強迫観念的な思想、ものすごく共感できた。
    自分も、そう思ってしまい身動きがとれなくなるタイプだ。
    「間違ってはいけない」、「正しいことを言わないといけない」という感覚。
    それが結果的に自分を制限してしまっている気がする。
    君島さんの言葉に少し気が楽になったかな。
    それにしても君島さん、なんか憎めない。
    なんか好きになっちゃうなぁ、ズルいなぁ…

    <印象に残った言葉>
    ・神谷くんも同じ気がする。(P28、夕子)

    ・俺は、夢がぎゅうぎゅうづめになっている教室の中で、とにかく一番大きな音を出さなければ、と、必死だった。自分には夢があるって思いたかった。夢に向かって精いっぱい頑張っている人間だって、誰かに思ってもらいたかった。あの人ならミュージシャンになれるかもしれない、そう誰かに思ってもらうことによって、自分のやわらかい、覚悟のない夢を固めていきたかった。夕子さんは違った、ぎゅうぎゅうづめの教室の中で、擦り減ってしまわないよう、摩耗してしまわないよう、外側からの力で形が変わってしまわないよう、両腕でしっかり自分の夢を守ってきた。(P54、光太郎)

    ・結局私は、自分よりバカだと思う人としか、一緒にいられない。(P102、理香)

    ・本当か嘘かもわからない情報の渦の中にいると、人間は、とにかく何でもいいから「○○は××だ」とはっきり言い切ってくれる人に惹かれる。それは、就活生も面接官も同じだ。(P212、正美)

    ・ああいうの、不思議ですよね。昔遊んでた人のほうが、人生分かったような気になるのって。(P229、田名部)

    ・そして私も、こういうふうに正しくないことを、してみたかったはずだ。栄子や東郷晴香のように、衝動のままにしてしまった正しくないことの上に立ったときだけに見える景色を、見てみたかったはずだ。そんな場所にだけ眠っている何かがあるならば、掘り出して、きれいに洗って、つぶさに観察して、そのうえでそうかこんなものなのかと投げ捨ててやりたかったはずだ。(P249、正美)

    ・その子の名前は何だっただろう。私はそう思いながら、目の前の男の舌を吸った。(P250)

    ・あらゆる行動において、これといった動機なんて、ないのだ。もともと当事者でない限り、行動に見合った動機なんて、ない。こちら側に座っている誰だって、きっとそうだ。だけど、面接を受けに来る学生には、切実な動機を求める。当事者としての、切実な、誠実な動機を。胸の奥の、奥の奥の、源泉から湧き上がってきたような理由を、その理由を表現する濃厚な言葉を。(P296・克弘)

    ・面接してる自分嘘っぽいなーとか何様だよーとか私も思うけどさ、そんな中でも、あ、この学生のこともっとちゃんと見抜かなきゃやばいとか、この学生採用すべきとか、そういうことを本気で思う瞬間みたいなものもちゃんとあるんだよね。その一秒からちょっとずつ拡張していくっていうか。だから、あんたを面接したときの武田さんは、必死に面接官やってたんだよ。あんたがこれから必死に父親をやるみたいに。その中で、あんたを採用したいって、ほんの一秒でも、本気で思ったんだよ。その一秒間が、もともと面接官でもなんでもなかった武田さんが、今みたいな姿になるはじめの一歩だったんじゃないの。あんたもさ、子どもができたって言われて、うれしいって本気で思った一秒くらい、あったでしょ?すぐ不安な気持ちに呑み込まれたのかもしれないけどさ、でも、その一秒だって誠実のうちだと思うよ。(P313、君島)

  • 図書館にて。
    最近子育て中のためたまにしか読めていない小説だったが、久々に堪能。
    ほかの方のレビューを読むと1話目の「水曜日の階段はきれい」が高評価のようだったが、わたしは「むしゃくしゃしてやった、と言ってみたかった」が好きだった。
    ただ残念ながら元の「何者」を読んでから時間が経ちすぎていた上、申し訳ないが「何者」はあまり印象に残っておらず、なおかつ後日談を求めるほど多分当時も登場人物に愛着を感じていなかったため、逆にこの本が何かの続きって言うんじゃなかった方が良かったなという気が今はしている。
    もう一度「何者」を読んでみたら違うんだろうか。
    それには今の自分が就活の頃から変わりすぎていて、あのテンションや環境を描いた小説を読みたいと思うほど余裕がない気がする。
    この本のせいではないけれど、ちょっと残念。

  • 他人を見下すことで自分の位置を確認する。あるあるネタだと思うけど誰もそんなことしてるなんて言わない。自分の汚さをわざわざ晒す必要ないし、そんなことをしたら自分が見下される。
    自分より下だと思ってた人が本当は自分よりしっかりとした考え方や、行動をしていたときのダメージは大きい。

    『何者』のスピンオフらしいけど、そういうの関係なしに面白かった。朝井さんはデビュー作から一貫して、感情の醜い部分をトリックとして使うのが上手な作家さんだ。

  • 『何者』を読んでからこの本を読んだ方が良かったかな。読んでないものは仕方なく。続きものでなかったので救いかしら。私にとっては、普通の短編集となっていまいました。
    作中あるよう、「大きい物語として」ではなく「生きづらさ」に「寄り添う」、「自分一人じゃない」と思えるような内容で書いていているのかなあと。若者の心の中をうまく書いてはいますが、嫌な面でもうまく書いてますね。ドロドロしすぎていないのがいいとこです。ただ、<むしゃくしゃしてやった、と言ってみたかった>は30代女性が主人公で、これは浅い。朝井さんが描くのは少々無理があったのでは。

  • 自意識にとらわれて悩む6人の男女の姿を描いた短編集。

    『何者』のサイドストーリーとのことだが、個別の登場人物についての記憶がないため、独立した作品として読んだ。
    立場はそれぞれだが、他人の目、評価を異様に気にするという点ではみな共通する。自意識の塊のようなタイプが足掻く様を、じくじくと追い詰めていく息苦しい展開は、相変わらず健在。ただ、短編のためオチがあってさらりと次にいくので、読み手の気分としてはラクだ。
    こういう青臭い悩みは、年齢を重ねるとともに消えていくものだが、作者のような感覚の人にはずっとついて回るのかも。

    表題作の本気の一秒がスタートになるというポジティブな捉え方は、何をするにも励みになっていいな。

  • 『何者』のアナザーストーリー。短編集・全6編。
    ●水曜日の南階段はきれい ●それでは二人組を作ってください ●逆算 ●きみだけの絶対 ●むしゃくしゃしてやった、と言ってみたかった ●何様

    何者を読んでからだいぶ経ってしまったので、主要メンバー以外のことはもう忘れかけており…。最初の2話以降は特に覚えてなくても差し支えなさそうでした。

    朝井さんの描く若者たちはみんな自我が強くて人間の負の感情が多く、読んでいてずーんとします。なにかしらの圧力を感じます。
    それでも最後はからっとした爽やかさがあるのだけど、今作はもやっとした部分も結構ありました。

    「むしゃくしゃ~」は、まあ主人公の言いたいことはわかるけど・・・親に可愛がられたいってばっかりで親の誕生日すら忘れてて妹に嫉妬して自分しか見えてない、結局自分一番かわいいって人なんだなと。
    自分から知ろうともしなかったくせに、そんなの言ってくれなかった、知らない聞いてないとひねくれる。
    それで表題のようなこと言われてもあまり同情できません。
    終わり方もなんだかすっきりしませんでした。こういう毒はあんまり好きではありません。
    「それでは二人組~」は心の中で嗚咽あげてしまいました。こういう毒は好きです(ぇ
    理香に幸あれ・・・。

  • 人間関係の悩みの答えがすべて詰まっていた。

  • 何者を読まなくちゃ

  • 図書館で借りた本。
    「何者」のアナザーストーリーということで借りてみた。どんな話だったか覚えていなかったけど、読めば思い出すと思っていたら甘かった。話によってはぼんやりと覚えていて、なんとなく知ってる話だなぁっていうところまでは思い出せたけど、詳細はさっぱりでした。自分の記憶力の悪さにがっかりしました。機会があればどちらももう一度読み返してみたい。

  • スルスルと読み進めてしまう。おもしろかった。
    材料となる一つ一つのシーンは平凡でつまらない日常なのに読み進めたくなる。朝井さんは何気ない日常を「今風」エンターテイメントに変えてしまう。そう感じる。言葉の表現、粒、リズムが何気ないけど実はかなり意図的で絶妙。初めて朝井さん作品を読んだときから、文章のセンスがすごいなと思ったけど、本作品は更にパワーアップしてる感じがした。わざとらしさが少なくなってる=共感できることが多くなってる。
    特に一番最後の章「何様」はすごく共感した。「あーそれな!あるある!」て感じで。メッセージ性がすごい。まさに「今風」を見事に表現してた。

  • モヤモヤした読後感。自分のことを何者だ?と問うこと自体が何様のつもりだというような…そんな感覚。

  • ”何者”の続編かと思いきや、サイドスートリー的なもので、私はこっちのほうが面白く読む。
    でも、読んだそばから内容を忘れてしまうのはなぜ。

    湊かなえも朝井リョウも面白くさくさく読めるんだけど、
    なぜか心に残らないんだよね。
    最初の”水曜日の南階段はいつもきれい”、光太郎の出版社に就職した気持ちは翻訳者になってるだろう夕子さんと再会したい一心でのことでちょっとひいてしまうくらい静かな情熱で光太郎を想っていた夕子さんに合い通じるものを感じた。

    ラストの”何様”これだけが”何者”の登場人物がひとりもでてこなかったような…。拓人を落とした面接官の話しだったの?
    これが就職試験の現実なの?ほんと今、大学生じゃなくてほんと良かった。絶対選ばれる気しないもの。
    海千山千の面接官の前でとうとうと自己アピールをして質問にも完璧に答え… ムリムリ。
    まっ、だからこそ面接官の難しさ、やるせなさを描いてるんだけど。

  • 何者のスピンオフ?
    1つ目の物語がかなり泣ける展開で、
    おいおい「何者」と全然ちゃうやんと思いながら読み進めましたが、2つ目から最後までは幸か不幸か「何者」と同じテイストで構成されておりました。

    読むのが辛くなるぐらい、
    人間の腹の底にあるなんとなく黒いものを浮き上がらせてくる朝井リョウ。
    だから「いい!」とはなんとなく言い切れなくても悪いとも言い切れなくて、どちらかと言われたらいい作家に分類してしまう。というかいい作家だと思う。というか好きだわ。
    このノリで映画も観てしまうんだろうな。

    キツイところをいつも突いてくるのに、着地するところは救いがあるのがまたいいんだ。

  • タイトルがすべて言い切っているなあ、と思った。他人への悪口のようでいて、ほとんどの大人が自分に対して心のどこかで思っている皮肉。何様なんだ、こんな資格が自分にあるのか、という不安。

    人事という仕事は特にそれが他人からも分かりやすいかもしれないけれど、すべての職業がそうだよね。仕事として扱う内容に対して自信満々で詳しい人なんて社会人の一握りじゃないのかな。自分はこの仕事をやる資格があるのか、時に自分が嫌になりながら、不安を覚えながら、それでもまるで自信があるかのように振る舞う。だってそれが仕事だから。怖くったってそれがお金をもらっている大人だから。怯えながら、自信が持てないときなんてしょっちゅうありながら、目の前のお客さんや生徒や取引先に言い切る。自分の中の1パーセントでもある本当を、必死で差し出す。

    すごく解る。本当はだって自信がないほうが傷つかないで済むし怖くない。でも必死で立ち向かっていくかっこわるい大人、嫌いじゃないです。社会人になって数年経って、転職もして、必死で足掻いてるのは偉い人も案外変わらないんだなと知って。これからも足掻いていきたいなって、素直に思えたから、わたしはあながち就活も捨てたもんじゃないなと。

  • 『何者』も読んだけれど、内容のつながりを思い出せないくらい前のことなので、純粋に『何様』だけを読んだレビュー。

    痛い所を沢山暴かれたような短編集だった。
    「それでは二人組を作ってください」では、ルームシェアの相手を求める女の子のじとっとした焦りが描かれている。
    いつも一緒にいる子が、そっぽを向いてしまう瞬間の切ない痛み。ああ、分かるなーって。
    一人でも苦しくないのに、一人にされることは苦しい。そういうことは恋愛でもあるのだけど、恋愛とはまた違う、同性の時間感覚のようなものがある。
    だから、彼女の選んだ結末は、とてもしっくり来るものだった。

    同じように「むしゃくしゃしてやった、と言ってみたかった」も結末が好き。
    既視感のある話で、優しいオジサンの弱みにくらっときちゃうキャリアウーマン。
    真面目であることより、真面目でない生活から立ち直ったことに価値を感じる人々の理不尽。
    こういうテーマ設定が、本当に上手い。

    表題作「何様」はラストに。
    今度は面接官として、人を判断する力が自分にはあるのかどうか、という葛藤。
    武田さんと君島という、対照的な先輩。
    でも、二人はどちらが善でどちらが悪ではないところが、人間だなぁと思う。
    それぞれの、真摯な価値観。
    私はどちらかというと武田さん側だけど、きっと君島に共感するビジネスマンは多いと思う。

    小説らしい小説で、それぞれがテーマにしている感情がなんだかとてもよく、伝わってきた。

  • 水曜日の南階段はきれい
    光太郎の出版社を目指した理由に迫る高校3年生の話。
    荻島夕子さんに対して素直に「好きだな」って思いました。
    内に熱いものをもってるのは私も同じで、クラスに光太郎みたいな人がいたら同じように羨ましいと思うタイプです。
    そんな彼女に頑張ってではなくて頑張ろうって言わせた光太郎の存在の大きさ。
    彼は偽物の夢だと言うけれど、それで勇気をもらっている人は確かにいることをわかってほしい。
    最後の文集の文字も文章もとてもきれいで後味良い物語でした。

    それでは二人組を作ってください
    理香と隆良の出会いからルームシェアまでの話。
    何者では拓人は人を笑ってるって言ってたけど理香も人をバカにしてるやん。
    にしても朋美のバカそうな感じから一転する構成はドキッとした。朝井さんの得意技やね。
    理香みたいなどうしようもない人の描写力に関しては他の作家にないものを感じる。そして自分は理香ではないか、隆良ではないかと不安になる。
    なんとなく、身の丈って言葉が浮かぶ物語でした。

    逆算
    主人公の松本さんに激しく共感を覚えた。
    逆算して生きる感覚を持っている人ってやっぱいるんや。
    僕はやりたいことがないから、せめて大人になって後悔がないように今しかできないことを逆算してこなすようにしてる。それでも残るのは虚しさだけやけど。
    そしてリオ五輪とか高校野球見て彼らの一生をかいまみて自分と比較して劣等感に苛まれたり。
    それに対して救いの手を差し伸べるのがサワさん。
    教習所の例えはほんまに分かりやすい笑 僕自身、合宿免許で遠征して初日から運転させられてびっくりしたのを思い出した。
    でもこの例えがはまるのは、まずやってみてから理由が後付けになってる人が一定数以上いるからやね。一部の人は自ら野心的に獲得していっているのでしょう。

    きみだけの絶対
    ギンジの演劇のお話。
    何者では拓人に批判されていたが、ギンジが生み出したものはあったのか。そんな命題を抱え、甥視点で物語は進む。
    演劇や表現の主題ってその主題を必要としている人には現実的に届かないってのはあるあるやろなぁ。そして花奈には届いたようで、生活を変えるものにはなっていなかった。
    最後の意味の描写はなんやろか。それとも意味を知りたくさせることこそが表現する意味ってこと…?

    むしゃくしゃしてやった、と言ってみたかった
    このご時世にまさかの不倫話。
    何者でたぶんお父さんは浮気してないって瑞月さんは思ってたけど、しちゃってたんやね笑
    大切なことは、むしゃくしゃしてやったあと、そうかこんなものなのかと投げ捨てることでしょう。
    正しいレールを歩んで人の言いつけを正しく守ろうとしてきた人ほど後の挫折に対して処理方法が分からないってのは大変共感できたなぁ。人の正しさ重視やなくて自分が何をしたいのかに正直になる意味の正しさが本当は重要なのかも。

    何様
    当事者である感覚がない。そんな人事部配属で面接官をやることになった上に彼女の妊娠が発覚している男の話。
    さも当事者かのような振る舞い。しかしその裏には1秒だけでもこれをやりたい、こんなことを実現したい、やらなきゃと思った瞬間があったはず。それが誠実ってことじゃないか。
    すごく分かるなぁって思った。直感っていうのかな。今までの人生でもこの人と仲良くなりたいとかこれをやりたいって1秒だけでも思ったことを実行してはまることなんてほとんどやったはず。
    当事者であろうとしなくていい、そこに誠実さが潜んでいればそれでいい。
    そんな朝井さんにしては優しいメッセージを感じました笑

  • 何者の登場人物に関する短編ストーリー。何者を読んだのが結構前すぎて、関連人物を思い出せないものもあって、短編小説みたいに読んだものもある。
    どの物語も、ひとの感情の表と裏という感じ。学生も社会人も男も女も、二面性があって自分に、人生に、葛藤している感じ。

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著者プロフィール

朝井 リョウ(あさい りょう)
1989年、岐阜県生まれの小説家。本名は佐々井遼。早稲田大学文化構想学部卒業。
大学在学中の2009年、『桐島、部活やめるってよ』で第22回小説すばる新人賞を受賞しデビュー、後年映画化された。
大学では堀江敏幸のゼミに所属し、卒論で『星やどりの声』を執筆。2013年『何者』で第148回直木賞を受賞。直木賞史上初の平成生まれの受賞者であり、男性受賞者としては最年少。『世界地図の下書き』で、第29回坪田譲治文学賞受賞。
その他代表作に『少女は卒業しない』、映画化された『何者』がある。

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