正欲

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 14392
感想 : 1250
  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103330639

感想・レビュー・書評

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  • 2019年「死にがいを求めて生きているの」
    2020年「どうしても生きてる」
    そして2021年「正欲」

    1年ごとに向き合う、「生きる」ということ。
    ここ数年、春先はいつも朝井リョウ氏の「生きる」と向き合って、わたしも生きている。そう、わたしは生きている。

    前2作品は、あまりにも直接的に心の中を覗かれて、ずるむけにされたような感覚に陥っていた。
    本作品はどうか。深くて狭くて、暗い穴の中。斜め上から、光が差す。そこから、こっそりと覗かれているような。始まりはそんな感じだった。

    しかし。

    読み進めていくにつれ、一番覗いてほしくないところを覗かれた上に、そこをゴリゴリと押して刺激してくるような感覚が、最後まで続く。
    前2作品は、各主人公が苦しみながらも「生きる」という方向に向かっている姿に胸を打たれたが、本作品は、主人公が人に言えない「生きづらさ」を抱えていて、それは簡単に「死」の方へ振れてしまいそうなレベル感を持っている。帯の『生き延びるために、手を組みませんか』という言葉が、作品を手に取った時とは異なった重さとベクトルで、響いてくる。

    よく耳にするようになった「多様性」という言葉。
    それは、言葉にした時、相手に発した時、共感をしてくれる人がいる時にのみ効力を発揮するものだ。
    自分に都合のいい、マジョリティの作り出した言葉だ。
    平等で受容的に見えて、実は支配的。どうしたって「多様性」にはじかれた者たちは存在する。
    もちろん、それを含めて「多様性」であることは分かっている。
    けれど。
    どうしても入り込まれたくない何か、どうしても大切にしたい何かを抱えていると、それを安易に人に言えなかったりする。
    それを分かりやすいストーリーにされたり、多様性とひとくくりにされることには違和感がある。だから、口を噤む。
    そして語らないことは、時に勘違いされ、その勘違いから傷つけられることがある。
    全員が共感できる作品ではないだろう。でも、目的は共感ではない。

    物語冒頭、ある記事からこの作品がスタートする。
    最後までこの作品を読んでいくと、こんなにも違って見える、この記事。
    違う違う違う、そうじゃないそうじゃない、って思いながら読んでいるから、全然言葉が入ってこなくて、気付けばラストは何度も同じところを読んでいた。

    これは衝撃作。
    「多様性」という言葉を使う自己嫌悪が、じっとりと残る。
    自己嫌悪。
    自分の理解の範囲内で話を聴きたがるところ、相手の開示をすんなり落とし込めなくて、沈黙が相手を傷つけてしまうところ。こうした話の聞き方は、相手がせっかく開いてくれた口だけでなく、心をも閉ざす。
    多様性、多様性なんて言って、自分に都合のいい多様性のレールに乗せて、自分が理解できるように誘導しているだけ。
    結局わたしが理解できる多様性なんて、自分を勝手に被害者のポジションに置いて、それを受け入れて、愛してと叫ぶ多様性だ。その被害者のバリエーションを多様性と言っているにすぎないのだ。
    自分の理解の範疇をこえる「多様性」を目の前にした時、わたしはそれを理解できないかもしれない。でも、理解したいとは思っている。受け入れようとも思っている。

    途中、話についていけなくなった自分は圧倒的マジョリティなんだろう。
    厄介なのはたぶん、マイノリティのフリをしているマジョリティだ。
    彼らが、マイノリティを深く傷つけている。
    わたしもたぶん、それに該当する。
    八重子のような人間。話せばわかると相手に開示の圧力をかける。これはマイノリティからしたら明らかなハラスメント、暴力だ。
    そんな大っ嫌いな八重子が、自分と重なった。
    「多様性、多様性」と声高に叫びながらも、自分の描いたストーリーにない多様性が目の前に現れた時、動揺する。その動揺こそが、相手を傷つける。
    これまで、様々な話を様々な人から聞いてきて、多少のことでは動揺もしないし引くこともなくなった。
    ではそれを聴いた上で、事実と受ける止めることができなかったとしたら。
    開示された以上、そこに向き合う責任が生じる。
    人のことを理解したふりをして、話を聞くよと近づいて、なにも出来ないことなんていっぱいあるのに。
    当事者は、常にそれを抱えている。
    話を聞くことは、その苦しみを、常に一緒に抱えるということだ。
    わたしに、その責任が負えるのか。
    結局分かりやすいストーリーに落とし込んでいるだけなんじゃないのか?
    わたしは理解したい、受け容れたい。
    だけど、きっとその責任を負うのは怖いのだ。だから、仕事のような責任の所在がはっきりした場所でしか、多様性の責任を負おうとしてない。
    でも、じゃあ、それが自分だったら。自分と関わらざるを得ない人だったら。
    逃げずに向き合うことができるだろうか。目をそらすことができないところに存在する、多様性に。
    矯正する必要なんてない。むしろ共生したい。
    だけど、マジョリティはそれを許さない。だからこそ、マイノリティは口を噤んでしまうのだ。時に、自分で自分を殺そうとする。結局、マジョリティの勝利だ。

    マジョリティになる必要なんてないと思う。でも、マジョリティにいないと生きていけない社会なのだ。

    • naonaonao16gさん
      たけさん

      こんにちは!
      コメントありがとうございます^^

      本当に、衝撃作です。
      是非、読んでいただきたい作品です。

      こ...
      たけさん

      こんにちは!
      コメントありがとうございます^^

      本当に、衝撃作です。
      是非、読んでいただきたい作品です。

      このレビュー、ここに載せるまでにかなり揉みました…やっと、という感じです。
      なので、もう一度読んでいただける機会があるのはとても嬉しく思います!

      そして、探してもなかなか出てこないのでリンクを貼るのは諦めましたが、「多様性」という言葉の意味から再度検討していく必要があるなと感じるネットの記事がありました。
      日本と諸外国では「多様性」という言葉に含まれる意味が異なっているので、そもそも多様性という言葉を、どう捉えるべきか。
      捉え方によっては、必要な新しい意見が古い不要な意見に呑まれてしまいます。

      日本において多様性とは、ジェンダー平等!とか訴えながら「女らしく」「男らしく」も求められていて、その考え方も多様性の枠の中に入れてしまうと、結局慣れ親しんだ「男らしく」「女らしく」がマジョリティになってしまうんですよね。

      と、長々と書いてしまいましたが、是非読んでみてください!
      レビュー楽しみにしています^^
      2021/05/16
    • ぬーんさん
      もう一度本を読見直してるかのような感覚になるどころか、『正欲』のもうひとりの登場人物として楽しめる様な素晴らしいレビューですね!
      本をもう一...
      もう一度本を読見直してるかのような感覚になるどころか、『正欲』のもうひとりの登場人物として楽しめる様な素晴らしいレビューですね!
      本をもう一度楽しませてくれてありがとうございます。
      2021/09/06
    • naonaonao16gさん
      ぬーんさん

      こんばんは!
      フォロー&コメントありがとうございます^^

      とても嬉しいお言葉をありがとうございます!
      『正欲』の...
      ぬーんさん

      こんばんは!
      フォロー&コメントありがとうございます^^

      とても嬉しいお言葉をありがとうございます!
      『正欲』のもうひとりの登場人物として、というのは大変おこがましいような気持ちではありますが、光栄です!
      本当にありがとうございますm(__)m
      また是非遊びにいらしてくださいね!!
      2021/09/06
  • 水の噴出する映像に性的欲求を感じる夏月と佳道を通して、多様性について描かれた物語。

    「自分がマジョリティ側にいて、マイノリティを受け入れる」という上から目線の気持ちでいることを真正面から指摘されて衝撃だった。多様性について考えを改めないといけない。

    自分は誰が何を好きだろうとあまり興味はなく、人に迷惑をかけなければ自由だと思っていた。ところがその迷惑の物差しの1つである法律を「誰に説明したって分かるように作られた法律」とあくまでもマジョリティの常識に基づいて作られたものであると言っている。考えたこともなかった。

    じゃあどうすればいいのか。答は分からない。でもこういう考えがあるということを知るだけでも、何か変わるかもしれない。

  • 本書のタイトルは「せいよく」だ。
    ダブルミーニングというか、そのまんまというか、「正しい性欲」がテーマだ。

    「正しい性欲」って?
    性に正しいも正しくもない。
    なぜなら、性は多様性が認められるべきだからだ。
        ↑
    今日的には、たぶん模範解答。

    でもね、「多様性」って言葉が曲者なんですよ。
    「多様性」って響きが良いから、使うと安心してしまって、そこで思考停止になる。

    だけど、例えば、性癖。
    もし犯罪的な性癖を持っていて、それを抑えることが死ぬほど辛い人はどうすればいい?

    性犯罪を犯さざるをえないような性癖。
    それも性の「多様性」だと受け入れることができる?

    まあ、それは法がある以上、守らねばならないと整理するとして…

    法に抵触しないけど、なんだか嫌悪感を感じる性癖。
    理解ができない性癖。

    「自分はあんなヘンではない」と排除しがちだ。
    そして陰で他のマジョリティと思われる人に確認したくなる。
    「あの人のヘンな趣味持っててヘンな人だよね」と。
    確認して、自分がマジョリティであることを確認したくなる、そんな弱い自分がいる。

    本書では「多様性」について、以下のように述べている。

    ー 都合よく使える美しい言葉ではない。想像力の限界を突きつけられる言葉のはずだ。

    この本を読むと、自分たちマジョリティの同調圧力に従わざるを得ず、本当の自分を隠して生きるマイノリティがいることに気づかされる。

    自分をマジョリティの側に置いて、マイノリティに同情するように「多様性」という言葉を使うのはやめるべきだ。

    かく言う自分だって、いつマイノリティになるかわからない。正しい側(マジョリティ)にいた昨日の自分が禁じた項目に、今日の自分がマイノリティとして苦しめられる可能性がある。

    あるいは、すでにマジョリティの同調圧力に苦しめられているにもかかわらず、それに気づいていないだけかもしれない。
    人は皆、マイノリティの一面も持っているものではないか?




    いやー、やられた!
    非常に画期的な小説。
    「桐島、部活やめるってよ」でスクールカーストに着目した朝井リョウさんらしい小説だ。
    一気に読まされるし、考えさせられる。

    • naonaonao16gさん
      たけさん

      こんにちは!

      ついに読まれましたかー!!
      レビュー拝見させて頂きながら、うんうんと、1人カフェで大きく頷いております。目の前に...
      たけさん

      こんにちは!

      ついに読まれましたかー!!
      レビュー拝見させて頂きながら、うんうんと、1人カフェで大きく頷いております。目の前にはシフォンケーキ!

      多様性という言葉や社会は悪くない。でも、その言葉で全部片付けることが出来てしまうものでもあるんですよね。
      犯罪でいうと、酒鬼薔薇聖斗の事件を思い出しました。彼も「変わった」性癖を持っていました。多様性という言葉で、彼を包括的に社会で受け止めることができるかどうか。
      事件に直接関わっていない立場からすれば受け止めることはできるかもしれません。でも、被害者とか加害者の関係者の立場なら、それはきっと出来ません。

      性癖もしかりです。
      どんなに普通(ここで使うと定義づけが難しくなりますが)の性癖でも、性癖って大体変です。それがさらに理解できないものだとしたら。わたしは理解することから逃げてしまうかもしれません。

      マジョリティであることを確認する弱さ、
      いつひっくりかえるかわからない、マジョリティとマイノリティの立場。
      年齢を重ねるにつれ、自分が禁じた側にいってしまうことがあります。
      誰かに自分を理解してほしいって、傲慢なんでしょうか。どうして、こんなに誰かに何かを伝えるのが怖いんでしょうか。
      いろいろ突きつけられる作品でしたね。
      2021/06/05
    • たけさん
      naonaonao16gさん、こんばんは!
      コメントありがとうございます。
      僕の拙い文章を、おしゃれなカフェで読んでいただいて、非常に光...
      naonaonao16gさん、こんばんは!
      コメントありがとうございます。
      僕の拙い文章を、おしゃれなカフェで読んでいただいて、非常に光栄です!
      そして、レビューに共感いただいたようで嬉しく思っています。

      さて、性犯罪については、再犯率が高いと言われていて、痴漢とか完全に病気だと思うし、この問題をどうするかとかって非常に根深い話になってしまいますよね。一案としては、バーチャルリアリティで被害者の辛さを追体験してもらうとか、どうでしょうかね?

      性癖も…相性がばっちりの人と巡り会えたら幸せだよねと言う感じですかね。話が合う人よりも体が合う人…ってなんの話だ(笑)

      いろいろと突きつけられる作品、そうですね、朝井リョウさんの真骨頂ですね。朝井さんの本読むといつも感心してしまうんですね。若いのに本質突くなぁ…と。
      2021/06/05
    • naonaonao16gさん
      たけさん

      拙くないですよ~!!読みやすくてわかり易くてわたしは好きです^^
      カフェはおしゃれでした(笑)

      性犯罪、卒論で取り上げたんです...
      たけさん

      拙くないですよ~!!読みやすくてわかり易くてわたしは好きです^^
      カフェはおしゃれでした(笑)

      性犯罪、卒論で取り上げたんですが結局性教育が根っこにあり、日本ではなかなか表に出てこなさそうです。
      バーチャルリアリティ、面白いですね!せっかくAI等のテクノロジーも進化していますし、実現可能な感じがします!

      性癖ばかりは…開示もなかなか難しいですしやってみるしか方法が…←おい(笑)

      朝井リョウさん、最初は若い作家さんでちょっとウェイウェイした印象しかなかったんですが、本当に本質をついた作品が多く、読んだあとはいつもざわざわします。とてもいい意味で。これからが楽しみな作家さんですね^^
      2021/06/06
  • 薄っぺらな私の頭をガンガンガンガン叩かれているような、そんな感覚で読み続けました。
    分かった“ような“フリをしている人間にとっては、居心地の悪くなる一冊だと思います。
    「まとも。普通。一般的。常識的。自分はそちら側にいると思っている人はどうして、対岸にいると判断した人の生きる道を狭めようとするのだろうか」
    そうだ!そうだ!その通りだ!と読み進める。
    「自分だけかもしれない」分かる。
    「私はあんたが想像もできないような人生を歩んでるんだ」分かる。
    ‥‥でも、それが想像以上だったら、『分かる』と言えるだろうか?
    物分かりのいい顔をして『うん、うん、分かるよ』なんて言っていたところを横からハンマーで殴られたような、そんな感覚。
    「人間は結局、自分のことしか知り得ない。社会とは、究極的に狭い視野しか持ち合わせていない個人の集まりだ」
    潔くこれを認めるべきだと思った。中途半端に分かったフリをするのはやめて。
    でも、作中の「どうしよう。私もう、ひとりで生きてた時間に戻れないかも」の言葉がとても印象的で。
    人は、みんなに分かってもらえなくてもいい、たった一人の人に分かってもらえれば生きていけるんだ、そう思います。
    だから八重子のような人はとても大切なんだと思う。
    大也が最後、「自分でも驚くほど素直な気持ちで一度、頷いた」ことが私には希望の光のような気がしました。

    「あってはならない感情なんて、この世にない。それはつまり、いてはいけない人なんてこの世にいないということだ。」

    本当に衝撃的な一冊でした。読後、いつまでも頭の中がグルグルしている。なかなか消化しきれそうにありません。ぜひぜひ読むべき一冊です。

  • 朝井リョウさんの新作。
    良作との噂を聞き購入、読了。

    いやぁ……激ヤバですね…
    面白い、おもしろい、オモシロイ…(´∀`)

    読み終えた後、しばらく放心状態…
    久々の感覚…震える…

    今までの朝井さん作品の中でも、ダントツの最高傑作です。

    そして大袈裟ではなく、この本に命を救われる人もいるのかもしれないと思いました。

    「全て」の人間の存在を「肯定」してくれる。
    そんな本なのではないかと思います。

    誰しも少なからず意識したことのある「性的嗜好が異なる人との共存」というのが主題です。
    けっこうな「パンドラの箱」的なテーマに対して、ズバズバと真理に切り込んでいきます。

    「多様性」という耳障りの良いワード。
    ただ、「小児愛」等の抱えきれない異質なものは排除する前提の言葉。
    ぐぅの根も出ないくらいのド正論だなと…
    自分も同じ考え方をしていました。

    特異な性的嗜好を持つ人の生き辛さも巧み表現されています。

    でもコレって、根深い問題だよなぁと…
    そういう人がいると知ったとして、じゃあ100%受け入れられますか?って問われたら…

    例えば、噴水見て自慰してる人とかどう感じる?…と聞かれたら…
    いや、やっぱ怖ぇなと…ちょっと気持ち悪いなと…やっぱりそう思ってしまうところはあるなと。
    自分の想像を超えるものに相対したときは、人間というものはそういう反応にならざるを得ないのかなと。

    ただ、一方で「性」っていうものはそもそも、そういった側面があるようにも思いました。
    自分だって他人に話す内容はある程度選択するし、そもそも全てを人と分かち合う必要は無いのかなと。

    どんな人も「持ってはいけない感情なんて無い」し、それを「共感できる仲間」さえいれば、人生を歩んで行くことはできる。
    作者が伝えたかったのは、そういうメッセージなのかなと思いました。

    あと、八重子の存在も物語の上で重要な役割を果たしていると思いました。

    「はじめから選択肢奪われる辛さも、選択肢はあるのに選べない辛さも、どっちも別々の辛さだよ」とか…もう刺さりまくるなぁ…と(笑)

    生きて行くことが辛いのは、何も特殊に生まれてきた人だけでは無いのだと。
    そこを代弁してくれているようにも思いました。

    そういう意味で「全て」の人を救う物語なのかなと。

    あと、改めて自分の「のほほん」と生きてる具合も痛感しましたね(笑)
    普通の家庭環境で育って、仕事があって、家があって、飯が食えて…それだけでも十分ありがたいことなんだなと。

    昔は「努力で手に入れたもの」って思ってた気がするけど、最近は「たまたま運が良かった」なぁ…と、歳を取るほどそっちにシフトしてる気がする(笑)
    本作を読んでより一層その気持ちが強くなった気がしました。
    恵まれた環境に感謝かなぁ…( ´∀`)

    そして、最後の一文…「両目を善意で輝かせた友人が」…これがまたもう…
    この問題の根深さ、その全てを表現しているように思いました。

    逃げない作家だなぁ…朝井リョウさんは…

    <印象に残った言葉>
    ・その〃大きなゴール″というものを端的に表現すると、「明日死なないこと」です。(P4)

    ・多様性、という言葉が生んだものの一つに、おめでたさ、があると感じています。自分と違う存在を認めよう。他人と違う自分でも胸を張ろう。自分らしさに対して堂々としていよう。生まれ持ったものでジャッジされるなんておかしい。清々しいほどのおめでたさでキラキラしている言葉です。これらは結局、マイノリティの中のマジョリティにしか当てはまらない言葉であり、話者が想像しうる″自分と違う〃にしか向けられていない言葉です。想像を絶するほど理解しがたい、直視できないほど嫌悪感を抱き距離を置きたいと感じるものには、しっかり蓋をする。そんな人たちがよく使う言葉たちです。(P6)

    ・自分とは違う人が生きやすくなる世界とはつまり、明日の自分が生きやすくなる世界でもあるのに。(P282)

    ・なんか人間って、ずっとセックスの話してるよね。それはきっと、誰にも本当の正解がわからないからだ。(P323)

    ・はじめから選択肢奪われる辛さも、選択肢はあるのに選べない辛さも、どっちも別々の辛さだよ(P343)

    ・「あってはならない感情なんて、この世にはないんだから」それはつまり、いてはいけない人なんて、この世にいないということだ。(P346)

    ・異性の性器に性的な関心があるのは、どうして自然なことなんですか(P371)

    ・いなくならないからって伝えてください(P373)

    ・両目を善意で輝かせた友人が″頭おかしい人の暴走″と断じたニュースは、いつの間にか、ブラックアウトした画面の奥へと消えてしまっている。(P379)

    <内容(「BOOK」データベースより)>
    あってはならない感情なんて、この世にない。
    それはつまり、いてはいけない人間なんて、この世にいないということだ。

    息子が不登校になった検事・啓喜。
    初めての恋に気づいた女子大生・八重子。
    ひとつの秘密を抱える契約社員・夏月。
    ある人物の事故死をきっかけに、それぞれの人生が重なり合う。

    しかしその繋がりは、"多様性を尊重する時代"にとって、 ひどく不都合なものだった――。

    「自分が想像できる"多様性"だけ礼賛して、秩序整えた気になって、 そりゃ気持ちいいよな」

    これは共感を呼ぶ傑作か?
    目を背けたくなる問題作か?

    作家生活10周年記念作品・黒版。
    あなたの想像力の外側を行く、気迫の書下ろし長篇。

  • 息継ぎしたくなった一冊。

    大波のように襲いかかってくるような数々の言葉に何度も息継ぎしたくなる苦しさを感じた。

    人それぞれ…わかる。
    多様性、うん、当たり前。

    なのになんだか心が落ち着かない。

    たぶん読むほど自分が思っていた多様性の愚かさが次々に降り積もってくるから。

    まるで自分の心がアメーバになった気分。
    四方八方うねり出す。
    ストンと落ち着く場所、酸素を求めてうねり続く感覚。

    何が正しいかなんて答えはない。

    ただ多数派か否かなんて関係なく、とある感情を持っている人が今たしかにいること。
    そのことだけは理解できたかな。

    • くるたんさん
      naonaonao16gさん♪ありがとうございます♪

      うん、これを受け入れるのは簡単にはいかないですよね。

      黒い方の浅井さんはグリグリな...
      naonaonao16gさん♪ありがとうございます♪

      うん、これを受け入れるのは簡単にはいかないですよね。

      黒い方の浅井さんはグリグリなんですね(° ꈊ °)✧˖°
      言葉選びとか、表現のセンスが素敵だなって思いました。
      オススメ作品ありがとうございます♪
      またチャレンジしてみたいです。

      naonaonao16gさんの丁寧に作品に向き合われたレビュー、毎回素敵です¨̮♡
      2021/05/21
    • 勝又健太@炎上商法さん
      他の方のレビューも読んでいますが、テーマが多様性なんですね。
      今の私のテーマでもあるので、ぜひ読んでみたいと思います。
      他の方のレビューも読んでいますが、テーマが多様性なんですね。
      今の私のテーマでもあるので、ぜひ読んでみたいと思います。
      2021/05/23
    • くるたんさん
      勝又健太@炎上商法さん♪コメントありがとうございます。
      読み応えのある作品でした!ぜひぜひ!
      勝又健太@炎上商法さん♪コメントありがとうございます。
      読み応えのある作品でした!ぜひぜひ!
      2021/05/23
  • 朝井リョウさんの本は読んだことがありませんでしたが、インターネットで見かけた、オンリーワンのつらさに関する記事を見て、自分の想像力のなさを、見せつけられた気がしたのを覚えています。

    多様性、ダイバーシティという言葉はよく聞きますが、全部救えるほど、両手は大きくなくて、どうしたって掬った水は溢れてしまう。

    わかり合おう、と言いながら、許容範囲を広げようのように使われて、「でもあなたの「それ」は違うから」という声が聞こえてくる。

    きっとこの本は、そんなテーマを持って生まれた本なのだろう、と私は思います。

    冒頭の事件を見て、あぁ、そういう本なのか、なんて思っていましたが、読んでいるうちに、彼らの頭の中を見ているうちに、単純なことではない、という事実を知らされます。

    マイノリティの受け皿は、これからもどんどん広がっていくと思います。
    ただその受け皿が広がっても溢れていく人がいる。

    そのとき、受け皿は「あなたは異常者」だと、何度も突きつける暴力となるのです。

    -----

    読んでいるうちに、文章が主人公たちの叫びのように聞こえてきて、時間を忘れて読み進めてしまいました。

    今まで読んだ本の中で、誰ともテイストが違っていて、そして、自分と年齢が近いので、ここまで考えられることに、ちょっと憂鬱な気持ちになりました。

    しかし、自分よりも、ずっと優れている人間がいるという現実は、明日への活力になる気もします。

  • 苦しかった。
    一般的な「男女間の恋愛」が成り立たない人たちの苦悩をこれでもか!これでもか!とてんこ盛りにした感じ。

    冒頭の詩が読み手をぐんと惹きつける。
    「明日、死にたくない」と思って生きる、その事に無自覚な人達。
    そんな人達が大多数を占めるこの世界。
    その中で「今日、何とか死ななかった」と思いながら生きる。この先何十年と。

    そしてその辛さは誰にも、到底理解されない。
    たった一人で季節のない世界を通過していく。
    想像すらしたことがない感情が、そこには溢れていた。


    ---------------------------------

    最初の「児童ポルノ所持を摘発」という事件。
    容疑者3人の名前が小説の中に出てくるたびにドキっとするが、ある瞬間気付く。

    この人達は子供が好きなんじゃない、と。

    彼らの欲は、世の中にあまりにも認知されていないため、全く違う罪に当て嵌められ、裁かれようとしている。
    しかもその事は、警察にも弁護士にも説明できない。到底理解される気がしない。

    もうこの絶望といったら無い。

    しかし夏月と佳道はこういう風に自分が破滅することを想定しつつ生きてきた訳で
    その生き方を思うと切なくなった。

    「居なくならないから」と取り乱す事なくお互いに伝え合っている彼らをみて
    この生き辛さしかない世界で、本当に出逢えてよかったねと思った。


    ---------------------------------

    この本を読んで「自分が想像もできない事」を認めることの難しさを知った。
    安易に「わかる」「理解できる」と言えない程の深い傷と憎しみを知った。

    ただそれを知った上でとても難しい。
    彼らのことを知りたい、当然幸せになるべきだと思う反面
    じゃあ自分や家族が彼らの性の対象になることがあったら、危害が及ぶことがあったらと思うと、そこは無理。受け入れ難い。
    到底、受け入れられないのだ。
    その態度が彼らを傷つけていたと知っていても。

    繋がりだ、絆だといっても、所詮は自分とその周りに不利益が生じない場合に限る。
    人間同士なんて所詮その程度だと
    嫌というほど突きつけられた。

    ただし絶対にこうはなりたくないと思う姿は
    頭から彼らを存在しないものとしたり
    異端だと決めつけて批判すること。

    到底受け入れられないことがあったとして
    相手をどれだけ自分と同じ感情がある人間なんだ、と思えるか
    とても難しいことではあるけども。

    ---------------------------------

    この物語の中で【多様性】の言葉が持つ薄っぺらさ、みたいなものが注目されていたけど
    その言葉がよく聞かれるようになったこと自体は良いことのように思う。

    そこに確かにあるものを「無い」と決めつけていたのが大多数だったのが
    「有る」と認められる人達が増えてきたということだ。

    色んなものが「有る」と認められていく世の流れ。それはこれから加速する。

    まずは「有る」ことを余計な先入観なく見つめられるようになりたい。

  • なるほど。これは問題作といわれるかもしれない。最初の数ページで心の奥底で思ってたことをほじくり返された感覚になった。冒頭でこんな気持ちにさせられた小説は初めて。
    特殊性癖のマイノリティに焦点を当てて、彼らの生きづらさを描いた作品。性的マイノリティにすら当てはまらない彼らの苦悩、それを満たす術。感情と感情の衝突。
    朝井リョウさんの作品は独特のワードセンスが光っていて、個人的にはそれが楽しみ。以下はお気に入りの一節。

    P66
    例えば動画を観ている途中、携帯の上部に新規メッセージ受信のお知らせが表示されると、まるで、自分が今観ていた動画をメッセージの差出人に覗かれたようなきもちになる。

    P97
    一文字入力してすると、予測変換の速報たちがすかさず手を挙げてくる。

    P185
    急に怒り出す人の隣には、大抵、ある。そこにある種にせっせと農薬たっぷりの肥料をやり、わざわざ新種の花を咲かせるような人間が。

    P324
    三分のニを二回続けて選ぶ確率は九分の四であるように、多数派でずっと立ち続けることは立派な少数派であることに。


    とくに最後の多数派はそのうち少数派になるのだという一節はなぜか腑に落ちた。実体験なのだが、職場に同僚の悪口を周りに言いふらして、「仕事できる自分、できない同僚、そう思うよね?みんな!」みたいに同調求めてくる奴がいるんだけど、それが何回も重なるうちにソイツは周りから疎まれ、少数派になっていったように思う。
    マイノリティで生き辛さを感じるのは、性的マイノリティだけでない。社会でもマジョリティはマイノリティというスケープゴートがいないとマジョリティでいられない。学校でいうなれば、いじめがそれだ。
    これ、映像化してほしいなぁ。かなり現代人の本質を見抜いた作品な気がする。
    最後に…朝井リョウさん!やっちまったね!

  • 朝井リョウ作品を読んだ後はしばらく作品から抜け出したくなくなる。

    私のような点以下の存在でも、人間という生物の群衆で生きていくからには身に付けないといけない色んなことがあって、そこをピンポイントで指摘されるから辛い。

    辛いと分かっていても読んでしまう。
    朝井リョウ大好き(´・ ・`)

    正しい欲
    と書いて『正欲』

    『性』『多様性』に対してすごく真剣に考えさせられます。

    『多様性とは、都合よく使える美しい言葉ではない。
    時に吐き気を催し、時に目を瞑りたくなるほど、自分にとって都合の悪いものがすぐ傍で呼吸していることを思い知らされる言葉のはずだ。』

    正当化する為に使われる言葉でもない。
    人間は声を上げて言えない事を抱えているということを忘れてはいけない。

    もっと色々書きたいけど、それも違うと思った。
    他の読者が私と同じ事を感じると思わなかったから。

    他者の感想に引っ張られないで読んでほしい一冊。

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著者プロフィール

1989年岐阜県生まれ。2009年『桐島、部活やめるってよ』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。2011年『チア男子!!』で高校生が選ぶ天竜文学賞し、13年『何者』で直木賞、14年『世界地図の下書き』で坪田譲治文学賞を受賞した。

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