- Amazon.co.jp ・本 (222ページ)
- / ISBN・EAN: 9784103335610
作品紹介・あらすじ
「制約を自由に変える」仕事術とユニークな自伝的建築論がここに!東京、パリ、北京の各事務所を往復し、世界一周チケットを手に地球のいたる所で打ち合わせを重ねる生活。自らを「競走馬」に喩え、過去の悩みを糧にしながら挑戦し続ける生の姿が一冊に。
感想・レビュー・書評
-
『建築家、走る』は隈研吾氏に清野由美氏がインタビューして引き出した本だという。
『新・都市論TOKYO』『新・ムラ論TOKYO』の対話編の清野由美氏が聞き書きの手法で競走馬としての建築家の思いを書かせた。自分はなぜ走るのかちょっと振り返って見たという感じだ。
したがって、哲学書を読むような隈研吾の著作とは異なりジャーナリスティックだ。
例えば、中国の都市の環境問題の見方も日本のメディアと違う。
2000年以降、中国政府の開発許可の条件が厳しくなったことをビジネスを通じて建築家は識った。むしろ、中国政府の役人が、「環境」と「文化・歴史」の2大テーマに沿った開発にしか許可を下ろさないという。「サントリー美術館」や「根津美術館」を設計した建築家というブランドを利用して開発許可を引き出そうとする中国のデベロッパーのしたたかさを描き出す。
また、世相を反映する建築プロジェクトと建築家の世代論をいつものように出して、自分をイコンとして期待される存在と認識して走り続ける競走馬に例えている。
「弱い建築」と題した第6章で面白いことが書いてあった。
第5代の歌舞伎座の設計を通して、18代中村勘三郎と接したことで、役者も建築家と同じと共感している。
「自分のブランドを確立して、それを死ぬまでメンテナンスして、回し続けていこうとしたとき、その模範になる一つが歌舞伎役者のあり方じゃないでしょうか」。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
インタビューで出来た本、ライターの腕で上手に仕上がっている。
活躍の背景が手に取るように見れるのは、聞き方もいいのだろう。
中国とのつきあい方はおもしろい。もっと突っ込んで欲しかった。
完成間近な国立競技場の評判が、使い勝手含め内外ともに上々となりますように。
天神橋の事務所の時代、所員は賑やかだったがいつも留守だった。 -
2018年7月8日に紹介されました!
-
新国立競技場のデザインを任された隈氏の建築観に触れる事が出来る一冊。
世相と建築を読み解く批評家的思考に長けながら、どこまでも泥臭く、現場と向き合いながら、土地を活かしたオリジナリティのある建築を生み出すエグゼキューションが凄い。この高次のバランス感覚がとりわけ図抜けているのでしょう。この人なら政治も絡む国立競技場を安心して任せていいんじゃないでしょうか。(笑)
まだ売れっ子になる前、現在の「現場を感じる」「土地を活かす」「皆で創る」スタイルへと通ずるきっかけが、右手の大怪我にあるというのも興味深かった。よく盲目や聾唖の人はそれ以外の五感が研ぎ澄まされると言うが、それと同じようなことだろうか。ある種の諦念と、今ある中でやり繰りしようとする創意工夫が、本当に大切な感性を研ぎ澄ますことで、その後のキャリアが拓けていくというのは不思議。
"右手が不自由になって初めて、自分が能動的で、賢く、素早い主体から、環境に対して受動的な、ゆっくりとしたゆるい存在へと、カフカ的な「変身」を遂げたように感じられました。主体と身体が分離したことで、初めて身体を実感することができるようになったのです。" -
新国立競技場で話題になった隈研吾氏。
成功してる有名建築家ってちょっと人とは違う感性でやたらと俯瞰的に物事を述べるようなイメージがあったけど、この人の言葉を的を付いていてなかなか面白い。
アメリカ資本主義やら住宅ローンやら日本のサラリーマン社会とか、建築って社会そのものだな。
海外や日本でも詳しくはないけど有名建築はいくつか観にいったけど、観光資源としての建築とそこに日常に集う人を想定した建築とは違うよなとは感じてた。
何にせよ、この人に任せてよかったと後年の社会評価でなるんじゃないかと思える。 -
昔はこの人理屈っぽくて好きじゃなかったんだけど、この本は素直で正直でいい。ジャンルは違うがいろいろ刺激と参考になる。
-
・場所に自分をなじませる、そして素材が見えてくる
・場所に合わせた建築をするべき、中国の竹の家、後期インドにおけるコルビジェ
・アメリカ的建築観に対するアンチテーゼ…住宅地を切り開いて、所有するという価値観、住宅ローンとセット。欧州は借りるという価値観
・20世紀の建築は死を乗り越える考えに基づく、数少ないエイジングする建築を作ったのはライトとルイスカーン
・順調に進んでるときほど、このままではいかないと予感するし、その通りになる
・即日設計で能力を見極める -
建築家というひとを初めて知ったのだけれど、そのひとは異端児のようだった。隈さんは、建築の歴史や、多くの建築家から学んだことをきちんとふまえているので、じぶんの立ち位置ということをよく理解している。そういうひとが、未来を論じることができるのだと思う。
歌舞伎座を作ったことで有名だが、むしろ地方や中国での、制約のある仕事のほうが面白く読めた。ひとつのことに秀でているとは、すべてに通じる道を持ったひとということ。私のような門外漢でも共感できることが多くあって、思いのほか楽しめた。 -
日本を代表する建築家がどんな過程を描いて、今に至るのかがわかる本。時代によって建築に臨むものは変わってくる。
コンクリート構造もサラリーマン思考に縛られて独創的なものは制限されていく。そんな中で、オーナーが満足するものをいかに提供するか。営業兼建築家としての働き方を感じられた。