著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 1272
レビュー : 235
  • Amazon.co.jp ・本 (160ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103336426

作品紹介・あらすじ

奇妙な獣のあとを追ううちに、私は得体の知れない穴に落ちた――。仕事を辞め、夫の田舎に移り住んだ夏。見たことのない黒い獣の後を追ううちに、私は得体の知れない穴に落ちる。夫の家族や隣人たちも、何かがおかしい。平凡な日常の中にときおり顔を覗かせる異界。『工場』で新潮新人賞・織田作之助賞をダブル受賞した著者による待望の第二作品集。芥川賞候補となった表題作ほか二篇を収録。

感想・レビュー・書評

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  • 終始不穏な空気が漂う。うっすら、ところによって濃く……怖かった。
    主人公が田舎に越してからの奇妙なあれこれは現実か幻か。
    黒い謎の獣、水を撒く義祖父、いるはずのない義兄、川原の穴の数々。
    お日さまの下、川原で遊んでいる子どもたちでさえ不穏。

    虚実や結末がはっきりと描かれていないので、いろんな読み方と感想があると思うのだけれど、私はいくつかの事実(義母のうっかり不足金や義祖父の深夜の徘徊)はあるものの、不穏なそれらは主人公にとっての田舎の生活そのものが形を取ったものだったのではないかと思う。
    ラストで自転車を漕ぐ彼女の姿は「そこ」で根付き始めている。そんな彼女はこれからはもう黒い獣の姿を見ることはないのではないだろうか。

    収録された他2篇も不穏な空気を纏っているのは同じ。
    二組の夫婦を描いた2篇は続きもののようになっていて、1本目はわかりやすく怖いのだけど、どちらかというとつい深読みしそうになる「はじまったばかり」の2本目のほうが怖かった。

  • 「工場」を読み、手に取った小山田浩子さんの作品。
    わざわざこういうのを読みたい!とは思わない、よくわからない不穏さと不思議さが感じられる小説なのだが、読後感はいい。珍味を味わったような気分。たまにはこういうのも読むといいなと思う。
    穴は、ケモノは、義兄は、子どもたちは、ほんとのところどうだったんだろう。
    改行が少なく、文字をひたすら追えるので、私は彼女のスタイルが好き。

  • 不思議な話だった。文もいっぱい詰まってた。だけど読みやすかった。
    いったい義兄は何だったんだ・・・
    不思議だけど嫌いじゃない感じ。

  • ◆第150回芥川賞受賞作「穴」2013.9「いたちなく」2013.7「ゆきの宿」2014.1の3篇。
    ◆新しい。フラグたちまくり。なのにフラグは立つだけで物語は予想する方向に転がることはない。ザワザワする。噂話や悪口の一歩手前。「あ、これ、トラブルに発展しそうなヤな感じ」という言葉にする一歩手前のもやもやした感触を、言語化している。地上の蝉の死体の総数を視覚化するように。撒かれた水が地に浸み込まない量を想像するように。冒険は始まらない。無意識下の日常をあえて視覚化・数値化しているみたい。怖い、そして面白い。
    ◆女主人公は「冒険」に出ないこと・「流れ」に乗ることを選び取る。「冒険」に大切なことだけが言語化されない。それってやっぱり怖い(笑)
    ◆色々考えると、この作品の「穴」の深さは象徴的で絶妙。物語に逃亡せず、現実と添い遂げるには相応の覚悟がいる。現実は、小説よりも恐ろしい。私にはその覚悟があるかしら。
    ◆後半の「穴」の場面、BEATLESのイエローサブマリン(アニメーション)を思い出した。ジェレミーw

  • 芥川賞受賞作、文芸春秋で。

    さて、芥川賞ってことで・・・ん~。
    純文学は分からないって感じ以前のわからなさ。
    田舎の暮らし、姑との関係、義兄の存在、義祖父の死、
    そして意味不明の動物、穴。すべてがどうしてもわざわざ述べられるべきことなのかどうか。初めの方は非正規社員の愚痴も並べてあったりで(その辺がいちばん納得できたけど)
    夫の実家の田舎でで暮らすことで感じる日々、ホラーへと続く日常が書かれてゆくのではと一種ワクワク感でしたがとうとうホラーにもならずに。

    解説書として「文学界」買ってあるので読んでみます。
    「文芸春秋」諸先生方の評では手がかりがつかめなかったので。

  • 表題作「穴」の他、2編を収録した単行本です。
    イマドキの小説にしては珍しく、改行がほとんどない作品で、「」のセリフですら、改行なく続いていきます。
    読点(、)も1行近くないときもありました。
    けれど、不思議と読みにくさはなく、すーっと読み進めてしまうのです。

    ただ、どの話も奇妙と現実の境界が曖昧で、読んでいるうちにこれは現実の話なのか、よくわからなくなっていきます。
    物語のおわりも、3編とも奇妙なまま終わっていくので「いったい何を伝えたかったのだろう…」という感じでした。

    すーっと読めるのに、3編とも奇妙さばかりが心に残ってしまったので、☆1つにしました。

  • 現実を少し斜めに見つめたら、見つめ続けたら、当たり前だと思っていたものが急に怪しくなり、ずしりとした存在感のあったものの輪郭が急にぼやけだす。その瞬間、見知った筈の世界がくるっと一変し、何処でもない世界のど真ん中に放り出される。日常に潜む非日常というフレーズは使い古された感があるけれど、実は日常を成立させているものが、そんなに確かな手触りのするものばかりの積み重ねではなくて、非日常はすっと手を置いた壁の手応えがなくなるように目の前に顕れるものであるように思える。ただそのあやふやな境に目をつぶっているだけで。

    小山田浩子が物語るのは、そんな世の中のありふれた出来事。あるいは世の中に対するざらざらとした違和感が少しずつ鞣されていく話。違和感が少しずつ失われて行くことが、あたかも予定調和的な結末を導くようでいて、いつの間にか当たり前のことを当たり前だと思わなくなっている恐怖感も同時に喚起する。その部分が面白いと思う。

    しかし、非日常の入り口を探り当てる感性の鋭さには感心しつつ、どことなく批評家めいた立場から語られた物語をどのように受け止めたらよいのかを量りかねてもしまう。むしろ「工場」のように、黒いものの存在を炙り出すような勢いがこの「穴」にもあったら、もう少し頭の中をぐるぐるとかき回されるような感覚を楽しめたのかと思う。語られなかった話の中に込められた意図のようなものを、想像せよ、とのメッセージを受け取りたかったような気分で読み終える。

  • この作品もくせのある文体で、カギ括弧で括られた会話文が改行されずに一つの段落で延々と続いたりするのですが、慣れるとそれほど気にならずに読めます。女性が嫁ぐという経験が、女性ならではの視点で語られており、「ああ成る程、そりゃそう感じるんだろうな」とうなずかせる説得力がありました。

    読み終えて、どう咀嚼すればいいのかイマイチわからないところがあったので、芥川賞の選考員のコメントを調べてみました。腑に落ちるまではいかなくても、成る程こういう観点からプロは見ているんだなと、なんとなく得心するものはありました。

    特になるほどと思ったのは宮本輝氏のコメントで以下のとおりです。
    「平凡な一主婦がなべて抱くであろう心の穴を普遍化している。」「だがそれを幻想や非日常や、マジックリアリズムの手法で描きながら、突然あらわれた穴も、得体の知れない獣も、たくさんの子供たちなども、小説の最後ですべて消えてしまうことに、私は主題からの一種の逃げを感じて推さなかった。」

    同じく選考委員の村上龍氏は、
    「わたしは、『穴』を推したが、複雑な構造の作品ではなかったことにまず好感をもった。」「嫁として、知らない土地に引っ越すというどこにでもあるモチーフを通して、新しく出現してきたものと、失われたものが、一見無秩序に、実は高度な技術で巧みに構築されて提示される。」

    と絶賛していますが、まだそれほど読書力の伴わない私には、この作品がどのように高度な技術で巧みに構築されているのか、わかりませんでした。

    表題作以外の二編は、マジックリアリズムの手法を前面に出さずに描かれていますが、やさしい味わいのある作品で、好感度アップでした。

    オススメです。

  • 少しずつ少しずつ、異界に入り込んでいく感じが、しかし完全に現実から遊離していかないところがスリリング。
    例えば穴。アリスの穴は、底深く、ゆっくりと落ちていく。けれども本作の得体の知れない獣が掘った穴は、「底」が知れている。別世界に行きそうで行かない。ところが、別世界はすでに始まっている、「私」が、陶器の人形みたいな夫と結婚した時点で。

  • 義兄と対峙しあうあさちゃんに一番惹かれました。
    ストーリー運び、文体もドツボに好みです。

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著者プロフィール

1983年広島県生まれ。2010年「工場」で新潮新人賞、織田作之助賞、広島本大賞を受賞。14年「穴」で芥川賞を受賞。他の著書に『工場』、『穴』、『庭』がある。

「2020年 『小説版 韓国・フェミニズム・日本』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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