著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (160ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103336426

感想・レビュー・書評

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  • 少しずつ少しずつ、異界に入り込んでいく感じが、しかし完全に現実から遊離していかないところがスリリング。
    例えば穴。アリスの穴は、底深く、ゆっくりと落ちていく。けれども本作の得体の知れない獣が掘った穴は、「底」が知れている。別世界に行きそうで行かない。ところが、別世界はすでに始まっている、「私」が、陶器の人形みたいな夫と結婚した時点で。

  • 「穴」(小山田浩子)を読んだ。
    
「穴」
「いたちなく」
「ゆきの宿」
の三篇
    
「穴」
わぁーお!
このむずむず感。
穴に落ちて異世界へというと梨木香歩さんの「f植物園の巣穴」を思い出すけれど、ニュアンスが少し違うな。
"こちら側から向こう側への移動”ではなく"こちは側と向こう側の混淆”かな。
    
「いたちなく」と「ゆきの宿」は続きものですが、表題作の「穴」よりこちらの方が好きだな。
こういうの読むと《あぁ、上手いなあ!いいなあ!》と唸るのである。
    
「工場」を読んだ時、《小山田浩子という名前はしっかり覚えておかねば》なんて思ったにもかかわらず、あれからもう九年も経ってしまっていたよ。

  • シュール。不思議な余韻。トリップできる。

  • なんだろう…
    ずっとぬめっとした不気味さを感じる作品
    表題作の【穴】なんて…正直、全然意味がわからない。
    意味ありげな描写が…まったく伏線でもなんでもなくて…
    え?結局何だったの?
    なんだか分からない分それも不気味

  • 『穴』
    夫の実家の隣の家に越してきた私。近所にはスーパーとコンビニくらいしかない。仕事もやめてしまったから時間を持て余している。義祖父はずっと庭に水を撒いている。雨の日でも。名前の知らない動物も出没する。その動物は穴を掘り、穴を好むらしい。義兄が教えてくれた。夫にも夫の家族にも義兄の存在を聞いたことがなかった。義兄は近所の子どもたちと遊んでいる。
    義祖父が亡くなったあと、義兄も子どもたちも消えた。私はコンビニで働き始めた。

    『いたちなく』
    田舎のほうに家を買った友人、斉木夫妻。どうやら家にいたちが出るらしい。母親いたちを悲鳴を上げさせながら殺すと、いたちが出なくなるらしい。

    『ゆきの宿』
    子どもが生まれた斉木夫妻の家を訪ねたら、雪が積もったため、帰れなくなった。家に泊めてもらった夜、熱帯魚にのしかかられる悪夢を見た。

    ---------------------------------------

    『穴』について

    あさひさんは川沿いを歩いてコンビニへ行くとき、穴に落ちてしまったが、このときに別の世界に入り込んでしまったんじゃないだろうか。
    別の世界には義兄がいて、子どもたちもわんさかいる。謎の動物は穴を通って別の世界と元の世界を行き来している。義祖父が川のほうまで歩いて行ったとき、もう一度あさひさんが穴に入り、元の世界に戻ってこれた。元の世界には義兄も子どもたちの群れも存在していない。

    読み終わった後に考えてみると、こういうことだったんじゃないかと思えてくるけど、答えは全くわからない。
    妙な雰囲気を出し続けていた世羅さんや、姑の言動も夫の携帯電話も何を意味していたのかわからなかった。

    怪しげな空気感を感じ取れただけでも、良しとするべきだろうか。

  • 義兄と対峙しあうあさちゃんに一番惹かれました。
    ストーリー運び、文体もドツボに好みです。

  • 黒い獣の掘った穴。穴だらけの家に出るいたち。こういう、民話のような…田舎で起きるふしぎな現象…ファンタジーとまではいかないんだけど、田舎っていう、言い伝えやしきたりを当たり前のように守るお年寄りたちの中に、都会っ子がぽおんと紛れて非現実的体験をする、そんな異端な空気が好きです。

    解説も何もなくて、理由はよくわからないし、その後もよくわからないけれど、こんなことがありました。オワリ。っていう良い意味で読者に丸投げなオチは、変に現実に引っ張られずに済むので嫌いじゃないです。察してください、そう物語が言っている感じが何ともシュールです。ああ、そうなの、語らないのね、わかった。じゃあ勝手に解釈しておくね。という感じで。でも、不自然な感じはしないです。こう終わるべくして終わる物語ということで、完成されています。

    こういう物語って、主人公が語り過ぎないのが魅力なのかもしれません。基本的に冷めていて、淡々としていて、俯瞰していて、何にも興味がなさそうなのに、黒い獣がいる。とか言ってふらふらついて行っちゃう謎の好奇心。何なんでしょうね。何でそんなところだけ少女のようなんでしょうね。

    『穴』って聞くと、真っ暗がどこまでも続いていて、その先に何か恐ろしいものが蠢いているようなイメージで、全然アリスみたいな可愛らしい想像が出来ないんだけど、ここでの穴はどちらでもない気がする。水がとめどなく出てくるホースの穴。掛け違えた衣服のボタンの隙間の穴。日常のあちらこちらに空いている、覗き込むまではしないけれど、なんとなく見てしまう穴、そんな感じです。

  • 不穏で謎めいていて終始不気味なこの世界に引き込まれ、今も戻ってこれない。

    最近読んだ本はエンタメ系ミステリーばかりだったので、こういう雰囲気を楽しむ文学的な作品は久しぶりで、とても楽しかった。これぞ文学!という感じで、解釈は読者の人にお任せします〜みたいな。いいねぇ。
    田舎住みの30代くらいの主婦のリアルな気持ちが痛いほど伝わってきて、結局なんだかよくわからないのだけれど、すごくよくわかるような気もする。そんな作品。
    夏に読むとさらに戻ってこれなくなりそう。
    14/06/12

  • 面白かった。
    いわゆる純文学の、芥川賞取りそうな作品ではあるが、そこにはどの受賞作にもあるクオリティの高さが
    伴っている。言葉の一つ一つの選択、場面がたち現れたり登場人物の人間性を感じさせる表現力、生活のにおい、リアリティーは、それだけでページをめくらせるほどおれは共感できなかったが、力強いものを感じた。
    分からないのは、この話の面白さをどう表現したらいいのか。なぜかは分からないが何か起きそうな予感は漂うし、義兄についていくとドキドキするし、穴のなかに入るとダメだと思ってしまう。たぶん、先に作家の感覚があって、それを表現するためのツールとして、穴や黒い動物が使われるんだとおもった。
    女性らしい、観念的にまとめない、自分の予想を書かない、出来事の羅列で小説を形作ることができるのがうらやましい。
    面白さが言葉にならないのは当然で、この作品に使われた全ての言葉でそれが表現されているからだと思う。テーマがない、伝えたいこともない、ただ生々しい感覚、リアリティーがある、といったとこか。まぁ、もちろん主張を読み取ろうとすれば、読み取れなくもないんだけど、何かを選択するということはそういうこと。
    まぁ、でもともかく面白かった。文体なんか、なんでもいいんだな。はじめは気になったけど、気になるくらいの方が愛せるのかもしれない。
    雑誌で読んだので穴しか読んでない。

  • 色々面白いところはあるのだが、どこが一番面白いかって、旦那さんの描写。スマホをちゃかちゃかといじるその描写の迫り方がもう、なんていうか、秀逸すぎてそれだけで満足してしまった。あるかもしれない日常とそのゆらぎはわたしが小説を読む意味と直結している。きちんとした力を持つとても素敵な物語だとおもった。
    一つ感じたのは、いくら芥川賞の力があるとはいえ、キャッチーさなどがなければ話題にならないのか。中身ではないのだな、現代においては小説は外形がそんなに大事なのだな、という。地味だけれども、一瞬で人目を惹くようなキャッチーはないけれども、しっかりとした芯のある小説が読まれず沢山の書物の中に埋れていくというのはかなしいことだ。

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著者プロフィール

1983年広島県生まれ。2010年「工場」で新潮新人賞を受賞してデビュー。2013年、同作を収録した単行本『工場』が三島由紀夫賞候補となる。同書で織田作之助賞受賞。2014年「穴」で第150回芥川龍之介賞受賞。他の著書に『庭』『小島』、エッセイ集『パイプの中のかえる』がある。

「2023年 『パイプの中のかえる』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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