小島

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (345ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103336440

作品紹介・あらすじ

当たり前の風景、繰り返される日常の営み。それが世界をかすかに震わせる。豪雨災害に見舞われた農村にボランティアとして赴いた私がふと目にした、花の世話をする住人らしき女性。その周りだけ、違う時間が流れていて――被災地、自宅、保育園といったさまざまな場所で出会う何気ない出来事をつぶさに描いた中短篇の他、広島カープをめぐる奇談連作も収録。海外でも注目を集める作家の最新作品集。

感想・レビュー・書評

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  • 居酒屋の日替わり定食 | 小さい午餐 | 小山田浩子 | 連載 | 考える人 | 新潮社
    https://kangaeruhito.jp/article/5614

    小山田浩子 『小島』 | 新潮社
    https://www.shinchosha.co.jp/book/333644/

  • BGM 跳ねろ若鯉/広島東洋カープ

  • 表紙のドローイングはフィリップ・ワイズベッカー。装丁は新潮社装丁室の二宮由希子さん。
    読むのが楽しみ。

  • 新聞の書評で広島のことが書かれた短編集と紹介されていて、広島に興味があり読んだ。被災地のボランティアの短編から始まる14個の短編集。
    紙面にびっしり文字が並んでいるが、読みやすく日常の様々な場面が目に映るように描かれている。
    広島のカープ愛が半端じゃない連作短編が1番面白かった。

  • 小山田浩子の本読むの2冊目くらい。短編集。

    最後の方にまとまってあった野球についての何篇かが好き。
    カープファンというわけではないんだけど、野球ファン、どこも似てて面白い。
    「継承」で観戦する試合ぜんぶ負ける話とか、明るくはないんだけど、ジメジメした湿度がなくてあんまり悲壮感もないのが不思議だった。

    表題作の「小島」もやっぱり印象的で災害のあとのことを考えるなどする。
    生活が続くということ。その人のうしろにある感情についてなど。

  • 『穴』『工場』『庭』と小山田浩子を読んできたけれど、最新作のこちらの短編集では、作風にまた少し変化があったように思った。穴と工場くらいまでは、わりと労働者の話だったイメージだけど、本書の作品はほぼ子供がいる家庭を持つ人のお話。私小説ではないけれど、おそらく著者自身の経験が反映されているのだろう。

    小動物や虫、植物などがやたらと出てくる部分は変わらず、日常の中の細部の描写のリアリティも相変わらずだけれど、なんだろう、以前のようなわかりやすい不条理やホラー的なオチは鳴りを潜めて、ただただ日常、でも不穏、くらいのテイストのものが多かったかも。

    表題作は、被災地にボランティアに行く女性の話で、とても面白く読めるけれどまるでドキュメンタリーのよう。後半の「異郷」「継承」「点点」は広島カープにまつわる短編で、そうか広島出身、在住の作家さんだったのだなと今更。全体的にとても良かった。短編の巧さ、旨さがぎゅっとつまっている。ただ比べたら、初期作品のほうが好みだったかなあ。

    ※収録
    小島/ヒヨドリ/ねこねこ/けば/土手の実/おおかみいぬ/園の花/卵男/子猿/かたわら/異郷/継承/点点/はるのめ

  • 短編14作
    キッチンの隅に落ちてる生米、かぴかぴになった牛乳の置いた跡、すりガラスの拭き残し
    日常の、ちょっとまあ、またあとで、なんて濁してるとこ、見えそうで見ぬふりしてる隙間の暗闇にフューチャー
    滔々とまくし立てられてると追い詰められたみたいに逃げ場を失い、縦読みなのに目がウロウロしながらも、エヘヘと思いながらも読んでる

  • 小島 小山田浩子著 細部の描写 「世界」が変わる
    2021/6/19付日本経済新聞 朝刊
    私たちが「世界」として認識している日常は、実は小島にすぎないのではないか。だとすれば、それは何に取り囲まれているのか。小山田浩子の最新小説集『小島』には、そんな問いが詰まっている。


    前作『庭』でも、家族という集団をさまざまな角度から見つめるというこの作家の特質は見事に発揮されていた。そして本作では、それが人間という「群れ」の観察の次元にまで達している。

    被災地でのボランティアから子供の通う保育園、さらには韓国の市場まで、それぞれ異なる設定を貫いているのは、語り手の五感を通してじっくりと描写される日常の細部の緊迫感である。

    語り手の現在の生活だけでなく、ふと蘇(よみがえ)る子供時代の記憶や、鮮やかな夢まで、生きるとは意味も定かでない膨大な細部とともにある営みでもある。そして、本書に登場する語り手たちはしばしば、そうした細部をふるいにかけて有用なもののみを選別することができない。それがゆえに、ハトの羽毛の光沢やコスモス畑などが、拡大鏡が倍率を次第に上げていくような描写を通して、異様な姿をさらけ出してくる。

    そうして細部に迫っていく描写が生み出す緊張感と、それをときおり緩める卓抜な比喩の先に、ふと理解しがたい光景が刻み込まれるのも、この作品群の大きな魅力である。それは時として不思議な開放感を、時として異様な非現実の感覚を生んでいる。

    同様に、語り手の周囲を飛び交う声も、丁寧さを超えて執拗なまでに拾い上げられている。そこから見えてくるのは、家庭や職場など、場を共有している人間たちの「群れ」の様子である。人とは言葉が作る群れなのだ。男女間での不平等などの社会生活の歪(ゆが)みを抱えつつ、今日も無数の群れが動いている。

    これらの特徴が、広島東洋カープという主題と絡み合って変奏される終盤の3編からは、人の群れが外部からの影響でどう揺らぐのか、現実と虚構との境目はどこにあるのかといった問いが、登場人物に密着しつつもどこかドライな視点から描かれていく。

    そのユーモア感覚を味わいつつ、本書の最後の一文にたどり着いたとき、「世界」は別のなにかに変わっている。

    《評》翻訳家 藤井 光

    (新潮社・2090円)

    おやまだ・ひろこ 83年広島県生まれ。著書に『工場』(織田作之助賞)、『穴』(表題作で芥川賞)、『庭』。

  • あのパティ・スミスも読んでいるという小山田浩子の最新作品集。

    まるで望遠レンズを覗いて見ているような解像度の高い世界は健在。しかし作者は尖っているなあ。

    目に映るひとつひとつの物や人間や動物やを慈しむようにして描いている、わけではない。語り手の核心には必ずしも世界への肯定があるわけではないのが本書に底流する不穏さだ。
    逆に、なにか穏やかならざる感情を抱えているにもかかわらず、社会的にはわりとうまくやっている(ふりをしている)語り手たちばかりだ(他の登場人物たちも、ふと壊れた自動人形のように思える瞬間がある)。

    にもかかわらずこれほどまで執拗に世界をくわしく描写しようとするのはなぜか。そのわからなさが不気味で最高だ。

  • どこにでもいる(?)ような人々が描かれている。スケッチのような書きぶりで、とても観察眼が細やかだ。
    そのようなスケッチで終始するものと、そこに突然裂け目が生じて、といった2系統に分かれるかな。更に言えば先のスケッチには、広島ものが多く含まれ、さらにその中には広島カープとそのファンものがある。
    特にこの作品集にはカープ三部作とも言える短編3本があり、それぞれ違ったテイストで、広島カープを中心とする広島のありようが感じられる。
    わたしにとって広島というのは西の果てで遠いところという印象。いわば、転勤した夫についてきた「異郷」の主人公と同じくらいの知識で、彼女の不安な気持ちがよく分かった。しかも彼女には人間関係のトラウマがあり、それが繰り返される恐怖に怯える。これはある意味心理ホラーだ。でも地元の人達にさてみれば当たり前の日常だから説明さえもされないんだろうなあ。ケンミンショーとかでやればいいのに(笑)。「継承」の、広島市民球場の話もいい。主人公の母の頑なさはよくある迷信どころの話ではなかった件、「点点」の最後もよかった。野球というと男の物語になりがちだけれど、これは確実に女の物語になっている。大事なことは書かれない。覚えているから。

    日常の裂け目系の作品が注目されるのかな、という気がするけど、こういうスケッチの筆致にこの作家の真髄がある気がした。克明に何気ない生活の手順が記される。子供持つ母親がいかに忙しく、いくつもの作業を並行して進めているか。

    同じような設定でいくつもの違う作品を生み出す手腕が見られるのも短編集ならでは。なので、段々と連作のような、先の作品に交じるような感触もあり、そういう勘違いもまた面白い。地方都市の小さな子を持つ(もしくは持たない)専業(兼業)主婦、非正規雇用、高学歴女性。
    主人公は20代後半から30代の女性がほとんどなのだけれど、一番心理的にキタのは「園の花」かなあ。この人となり(園児だけれど)や人との接し方が「わたしか!」というほどそっくりで悶絶し、恥ずかしくて死にたくなった(褒めてます)。

    文庫化されるのを知り、ずっと次に読むリストに挙げ傍らに置いていた単行本を引っ張り出した次第。あちこちシミができてしまっているけど、ちゃんと読めてよかった。

    収録作
    「小島」
    「ヒヨドリ」
    「ねこねこ」
    「けば」
    「土手の実」
    「おおかみいぬ」
    「園の花」
    「卵男」
    「小猿」
    「かたわら」
    「異郷」
    「継承」
    「点点」
    「はるのめ」

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著者プロフィール

1983年広島県生まれ。2010年「工場」で新潮新人賞を受賞してデビュー。2013年、同作を収録した単行本『工場』が三島由紀夫賞候補となる。同書で織田作之助賞受賞。2014年「穴」で第150回芥川龍之介賞受賞。他の著書に『庭』『小島』、エッセイ集『パイプの中のかえる』がある。

「2023年 『パイプの中のかえる』 で使われていた紹介文から引用しています。」

小山田浩子の作品

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