ふたつめの庭

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (267ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103340515

作品紹介・あらすじ

そこは、かけがえのない場所。だから、あきらめない。裏鎌倉の保育園を舞台に新鋭が描く、家族と恋の物語。保育士になって五年の美南とシングルファーザー一年と二ヶ月目の志賀隆平。隆平は定時退社しやすい部署に異動し、子育てに奮闘するものの、保育園は予測不能のことばかり。園内の事件や行事を通して、美南と隆平は気づき、育んでゆく、本当に大切にしたいものを。湘南モノレールの走る街で紡がれる、愛しい時間を描く傑作長篇。

感想・レビュー・書評

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  • 今まで読んだ大崎梢さんの本の中で
    いちばん好きだったのは『クローバー・レイン』だったけど
    この『ふたつめの庭』はそれを超えた。
    何よりも、大崎作品でありがちな寸止め感やお預け感(爆)が今回はなくて
    美南と隆平の行く末を一つの結論が出た形で見せてくれたのがよかったんじゃないかと。

    保育士として働く主人公の美南が、周りの人たちと協力しながら
    保育園の園児(とその親)たちがそれぞれに抱える問題を解決していきつつも
    そこに園児の保護者である隆平との距離が縮んでいく過程を絡めて描くという
    話の進め方が巧いと思ったし、それに引き込まれて一気読みしてしまった。
    隆平も美南もガツガツしてなくて、自然に恋が育っていくのもいい感じ。

    とはいえ、読んでいて思ったのは
    噂を利用して周りを牽制し、既成事実に持ち込もうと画策するマリ子さんとか
    自分の都合だけで子供の行き先をどうこうしようとする隆平の元奥さんとか
    人の親になったからといって、必ずしも完璧な大人になれるものではないということが
    割と辛辣な筆致で描かれている、ということだった。
    一見理想的だと思われる隆平にしても、
    カツミの誘導に乗せられて機嫌を損ねたりしてて(笑)。
    それに加えてこの話では、ちょっとイヤだな、という人でも
    根っからの悪人には描かれてないところも好感を持てた。
    カツミにしたってもっとひどい嫌がらせをしようと思ったらできたわけだし。

    個人的には、謎解きの鍵になる絵本の中に
    『おしいれのぼうけん』が入ってたことが懐かしくも嬉しかった。

    小さい事件は起こりつつも、全体的に穏やかに時間が流れていく。
    忙しい気分になったときに読み返したい本だと思う。
    そして、今回は借りて読んだが、いつかは手元に置きたい本がまた増えた。

    関係ないけど隆平の名字は『志賀』なのに
    どうしても脳内で『丸山』と変換してしまう自分がいる(爆)。
    どーいうことだ(汗)。

    • vilureefさん
      こんにちは。

      大崎梢さんの作品は読んだことがありませんが、素敵なレビューを読んで読みたくなりました!

      ラブストーリー?
      ミステリー?
      保...
      こんにちは。

      大崎梢さんの作品は読んだことがありませんが、素敵なレビューを読んで読みたくなりました!

      ラブストーリー?
      ミステリー?
      保育園が舞台って珍しいですね(*^^*)
      2013/06/30
  • (No.13-35) ミステリです。本屋さんシリーズとは違うお話ですが、舞台が保育園なので絵本のことは出てきます。

    『小川美南(みなみ)は保育園の先生。兄は大学入学と同時に家を出たので、両親と同居しているのは美南だけ。
    赤ちゃんから年長児まで預かっている園だが、今年の美南の担当は4歳児だ。
    今日は受け持ちの子が、子供同士のいさかいのはずみで軽いとはいえ怪我をしてしまった。怪我をしたのは男の子・旬太で、させたのは女の子・千夏。迎えに来た旬太の父親・志賀隆平は、謝る美南に女の子を怪我させたのでなくて良かったとあっさり済ませてくれた。
    現在父子家庭の旬太だが、元は母親が仕事に出るためにこの園に旬太を預けたのだ。その後離婚して親権は父親の元に。すでに担任だった美南は、旬太のお迎えが遅くなったり発熱や情緒不安定などいろいろ大変だったが、最近隆平は定時退社しやすい部署に移ったようだ。子供のために出世街道からはずれたのだろうか。何となく隆平が気になる美南。

    千夏が旬太から取った絵本は何だったのか。その本が分かれば千夏の居所が分かるかもしれない。
    園の周りをうろつく不審人物は、卒園生だった。彼が探したい押入れって、園のどこにあるんだろう。
    なぜ園児たちにひよこブームが起きているの?
    など、保育園で起こる日常の謎系ミステリと美南の私生活が絡まる、連作風長篇小説。

    謎を解明することで、園児が助かったり幸せの糸口が見つかったり。
    そして解決するために奔走するのが美南で、助けてくれるのが隆平。バツイチ子持ちの隆平だが、子育てから逃げなかった男性として園児の母親たちの人気と信頼は高いのだ。
    美南は隆平に惹かれていることを自覚しながらも、園児の保護者と付きあうことは出来ないと自制。
    隆平に強烈にアタックをかけているシングルマザーもいるし、園に出入りしているプロの絵描きカツミは美南のことが好きらしい・・・。』

    美南はもう大人だし恋愛や結婚に親が口出しする時代でもありませんが、私がもし美南の親でバツイチ子持ちの男性と付き合いたいと知ったら、たぶん「もう一度よく考えてみて」くらいは言うでしょうね。
    自由業のカツミも結婚相手としては不安な部分もありますが、それでも私だったらカツミを押すなあ。
    美南が実家暮らしという以外は、実家でのことが全く書かれていないのがちょっと不満です。園のことを両親と話したりするシーンが読みたかったけれど、それをやるとただでさえややこしい美南の恋愛部分がさらにややこしくなるから書かなかったのでしょうか。

    子供たちにもいろいろ悩みがあることがリアルに描かれていました。この子達のこれからのことを思い、お父さんお母さんにエールを送りたい気持ちで読み終わりました。
    素敵な物語でした。

  • 保育園を舞台にした保育&ラブストーリー、かな。
    絵本がいろいろ出てくるのが、楽しい。

    保育園のあれこれ、共感するところもあれば、これはないのではと思うところもあり(特に恋愛がらみ)。うーん、保育園での恋愛沙汰なんて、聞いたことないなぁ。ここはやたらシングルの家庭が多いみたいだから、あるのかなぁ。

    最後卒園式の場面では、先日の我が子の卒園式を思って、若干うるっ。でも、「長い子で七年間」ってそんなことある?と、変なとこ気になってしまった。

  • 保育園。
    両親が働いていたり、介護をしたり、そのほか日中の保育に欠ける子供達を預かる厚生労働省主管の施設である。
    いわゆるママ友を作るいとまもなく、保護者たちは互いに簡単な挨拶だけで、朝も夕もせわしなく出たり入ったりしている。
    そんな場所を舞台にした日常生活における謎解き、ほのかな恋心、揺れ動く親子の心の物語だ。

    第4話の旬太の母親、隆平の元妻、の物語は心が痛む。
    この夫婦は、妻の「こんなはずじゃなかった」が離婚の原因だった。
    安売りスーパーで大根や長葱を買って、自転車で坂道を昇り降り。
    なんと言う生活感!
    それはそれで必要なことだ、だが、心の何処かで自分が丸くなって呟いている。
    「こんなことやったってなんになるの......」

    『一目見て「きれい」って言われるには、本人の頑張りが相当いる。』(138頁)
    理想と現実の狭間でいつかは折り合いをつけなければならない。
    母親だから、と。
    だからこそ悩む。
    母である自分と、そうでない自分とのあいだで。

    本書には多数の絵本が登場する。
    それを楽しむのも本書の楽しみ方の一つだ。

  • 湘南モノレールの表紙写真に惹かれ、図書館でジャケ借り。最近文庫が発売され、そちらは谷川史子さんのふんわりした絵柄の表紙で、すぐに同じ本とは気付かなかった!保育園が舞台だから文庫版の方が内容の雰囲気をうまく表してる気がするけど、個人的には物語にも頻繁に登場するモノレールをメインにした単行本版の表紙がツボです。
    西鎌倉にある保育園に勤務する美南、25歳。慌ただしい日々の中で遭遇する様々な出来事。子供達、その保護者との交流を通じて描かれる事件の謎解きの過程がなかなか面白い。保育園が舞台だからこそ、その謎解きに名作の絵本をたくさん登場させてくるのが、さすが!「ああ~こんな絵本読んだなぁ~」と懐かしくなった。
    「どんな絵本が好きでした?
    そう尋ねられたとき、世界が反転するような気持ちになりました。
    自分にも小さいときがあったんですね。
    忘れていました。そして、思い出しました。」
    このセリフが印象に残った。ハッとした読者も結構いるのではと思う。自分の子供がだいぶ大きくなったとはいえ、この感覚を忘れたくないと思った。
    いくつもの事件を通じて少しずつ距離を縮めていく、美南とシングルファザー・隆平の淡い恋の進展もまた気になるところ。
    読みやすいけれど登場人物が皆いい人ばかりというか…軽い意地悪はあってもほんとにかわいい程度なので、物足りないなとは思ったのだけど…それでも、保育の現場を丁寧に描写しているところに好感が持てた。美南は多少生真面目すぎるかもしれないけれど、保育士さんとしては信頼できるなぁ。かつて自分も子供を保育園に預けていたので、卒園式シーンは色々思い出しちゃって涙が止まらなかった。
    皆の幸せを願いたくなる、あったかい一冊。

  • 初の大崎梢はこの作品。本屋さんなんかを舞台にした本にまつわる作品がらしいが、この作品は絵本こそたくさん出てきて、重要な役割も果たすのだけど、絵本やミステリー要素はあくまで風味付けのもの。中身は良くできた恋愛小説である。

    うちは共働きなので、随分昔の話だが、娘も保育所には相当お世話になった。卒園して月日は流れ、娘が中学生ぐらいになったある日のこと。
    近所の焼肉屋で家族で飯食ってたら、隣のテーブル席に女性5名くらいのお客さんがやってきて、にぎやかに飲み食いし始めた。そのメンバーの一人に見覚えがあった嫁さん、娘に「なぁ、あのこっち向いてる方の左の人、○○先生ちゃうか?」と訊くと、娘もそっちを観て「ホンマや挨拶してこよっと」とその席に向かい、その女性に向かって「○○センセ」とまるで園児に戻ったような言い方で声をかける。
    女性は最初、ちょっと驚いたようだったけど、すぐに娘のことを思い出し、「あらぁ、どうしたの?元気?お肉ちゃんと食べてる?」とさっきまでとうってかわったセンセモードで娘に返事。
    その後、全く保育所時代と変わらない自然な動作で、娘をぎゅっとダッコして頭をなでつけられていた、娘もされるがまま自然な感じで気持ちよさそうにセンセの懐におさまっていた。
    俺は勿論のこと、嫁さんに頭なでられるのすらイヤがっていた、当時反抗期真っ盛りだった娘が、なんの抵抗もなく抱きしめられ頭をなでられて、居心地よさそうにしているのを見て、保育士さんの偉大さやすごさを感じ入り、改めて娘の成長を大きく支えてくれた保育所に対して感謝の気持ちがいっぱいになった。

    この本を読み終わって、真っ先に浮かんだ思い出である。

  • 絵本と保育園が出てくると教えてもらい、手に取ったのですが、司書と保育士の資格があり、本と子どもに関わる仕事をしている身としては、なんだか絵本と保育園が小説のダシにされている印象を受けてしまい、1話だけで読むのをやめました。『こんとあき』もすぐに思いついてしまったし、お仕事小説は大好きですが、個人的な理解を超えている職種がいいな、やっぱり。大崎さんは『配達あかずきん』以来よく読みましたが、坂木司さんや宮部みゆきさん同様、女性作家さんの推理は日常生活に絡めたものが多く、小ぶりで謎・解決ともに興味関心が湧かない事件ばかり。せめて小説の中でぐらい、現実では体験できない読書を願う私には物足りませんでした。大好きな絵本を冒涜?された気もして、正直いい気持ちはしませんでした。辛口でごめんね。

  • ラブストーリー。子供を保育所に預けて働いてることもあって、とても実感があった。保育士とシングルファザーの不器用な恋物語。そんなにある話ではないと思うけど、エピソードのひとつひとつが丁寧に描かれていて好感がもてた。

  • 保育士とシングルファーザーが園でのいろいろな出来事を経て近づいていく。
    良いお話でした。
    ただ、シングルファーザーのことを、保育士の気持ちを表してる地の文でも「隆平」と書いてるのがどうもしっくりこなかった。

  • 図書館より。
    読み終わったあと、ほっこりした気分になれるのは何故だろう?やっぱりこの作者の作風かな。
    これから幼稚園に入れる子供を持つ母親として、保育士さんが主人公のお話は興味深かった。
    この話の主人公のような保育士さんに当たるとありがたいな。

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著者プロフィール

大崎梢
東京都生まれ。書店勤務を経て、二〇〇六年『配達あかずきん』でデビュー。主な著書に『片耳うさぎ』『夏のくじら』『スノーフレーク』『プリティが多すぎる』『クローバー・レイン』『めぐりんと私。』『バスクル新宿』など。また編著書に『大崎梢リクエスト! 本屋さんのアンソロジー』がある。

「2022年 『ここだけのお金の使いかた』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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