- Amazon.co.jp ・本 (249ページ)
- / ISBN・EAN: 9784103342311
作品紹介・あらすじ
老いてなお、命を懸けねばならぬ時がある。侍の誇りを刻む本格時代小説誕生。幼馴染が殺された。伊賀を知らぬ伊賀者だった。大金を手に死んだ友に何があったのか。探るほどに見えてくる裏の隠密御用、伊賀衆再興の企て、危険な火縄の匂い。そしてまた一人旧友が斬殺された。サツキ栽培で活計を立てながらも、一刀流「浮き木」の極意を身に秘めた老練の武士が、友の無念をはらすべく、江戸の闇に鯉口を切る!
感想・レビュー・書評
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江戸中期頃、戦乱の世から百何十年が過ぎた時代、武士が武士として存続できる意味や矜持を自ら問うとなればややこしい問題とならざるを得なかったであろうと思う。実際、当時の武士がその辺をどう考えていたのか、浅学につき知らないし、調べてもほとんどわかりようもないのではと思うが、作者はそのことを軸に置いてストーリーを進める。それだけではなく、さらにその軸に絡めながら、そもそも人はその人生において何を成すべきであり、如何にその身を処すべきかまで掘り下げて話を綴っていく。
職も身分も親から子、孫へとただ無事に受け継がれることこそが尊ばれるようになった世において、登場する人物それぞれ、それをひたすら全うしようとしてきたはずが、ある時から本来目を向けてはいけないはずの、あるいは目を向ける必要もなかった、己の生き方と真正面から向かい合うことを強いられ、それぞれにその運命をたどっていく。そのきっかけとなった事件については、物語の最初からほとんど終わりの方になるまで動くことがなく、ずいぶん緩やかに話が進められるなとややもどかしい思いもしながら、読み進めることになる。最後に、畳み込むように話が進み、結末を迎えるが、振り返ってみると、しかし、もどかしく感じた部分も含めて、作者が読者に語りたかったこと全部が、この構成の中できちんと成立し、これでよかったのだな、とすっと腑に落ちた。面白かった。 -
かけおちる、に続く青山氏の江戸中期物、
この世は、誰もが何かを考えているようでいて、実は、誰も、何も考えていないのだ、
この世に、重い荷を抱えていないものなどいないのかもしれない、 -
普通の武士ではなく、伊賀の武士を題材に選んだのは、一味違いました。
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周五郎でもなく、州兵でもない時代劇の味を堪能させる。それこそ、江戸期の手仕事職人の様ないぶし銀の香り。
青山氏の作を読んでいくと、得も言えぬ馥郁とした香りを認める。
江戸中期であろう舞台。伊賀者の家に生まれつつ、父親の言葉にその血を思わせるのみで日ごろはさつき栽培に精魂を傾ける晋平。
62歳と言えば、この時期、すでに老境。「手足の筋はすっかり植木職のそれになって 何とか50本ふり終えると 両の腕が固くなる」はよく表れた情景。
一人娘千瀬と婿平太とたまに会う位のさつき栽培一筋の日々に起こった事件。
盟友3人の相次ぐ不審死・・本来は煙が立つはずのない伊賀者の矜持が覚醒してからのラストは筆が冴えた。
伊賀者とお庭番、幕小屋の美剣士など周囲の描き方は隅々まで細かく、実に学者的な検証が行われていてじっくり読ませる。
退屈と思う向きもあるだろうし、波がなさすぎる凡庸と語る方もいるだろう・・私には江戸期とはこういったことどもが泡のごとく怒り、消えて行った時間に間違いないと思わさせれた作品だった。 -
年老いて友がいなくなるのは、辛いな。積み重ねた日々の強さに力をもらえた。
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ミステリーの要素も強く感じた。
友を殺された男が、真実を探り、仇を討つ。
とはいえ、青山さんの作品なので、背景とか人物の想いとかが、丁寧に描かれていて読みごたえある。 -
山岡晋平は佐吉、太一、勘五郎と幼なじみだが伊賀者としての矜恃を隠し持っている.佐吉が惨殺され、それを探る中で太一も殺される.同郷の源三の子 征士郎の振る舞いが少し面白い.勘五郎が真相を突き止めるが、死んでしまう.最終的に晋平が娘婿の平太の的確な捜索によって、幼なじみの仇を取るが、彼自身の葛藤をじっくり描写しているラストが良い.やや難解な語彙が出てくるが面白く読めた.