- Amazon.co.jp ・本 (125ページ)
- / ISBN・EAN: 9784103345114
感想・レビュー・書評
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第149回芥川賞受賞作。
「あなた」は目が悪かったので父とは眼科で出会った。やがて「わたし」とも出会う。その前からずっと、「わたし」は「あなた」のすべてを見ている。史上もっとも饒舌な三歳児の「わたし」。選考会を震撼させた、純文学恐怖作、ホラー。
表題作『爪と目』と、『しょう子さんが忘れていること』『ちびっこ広場』の三篇が収録されています。
友人から借りて読了。正直言いますと私には合わないなと。
『爪と目』はあらすじを読んで興味をそそられていただけにちょっとがっかり。
「わたし」が語部で義母を「あなた」と呼び、父を「父」と呼ぶが、まずそこを理解するのにちょっと時間がかかり、変な言い回しに意識がそがれることしばしば。
けれどなぜか引き込まれる不思議。気づくともう読み終わっている。
頭の片隅に思い浮かんだのは森見さんの『きつねのはなし』で、同じような暗さがあるなと。幽霊のようなホラーではなく、後味が悪い気持ち悪さ。
「わたし」も「あなた」も「父」も「母」もみんな人形のよう。
さらさらっと流して読んでしまっていたのか、最後の意味は分からず・・・。
もう一度読み直せば分かるのかしら。
『しょう子さんが忘れていること』はさっぱり意味が分からんです。
ん?ん?なに心臓?え? 結局どういうことだったのでしょう。
『ちびっこ広場』は意外と面白かったです。
最後のオチは確信をもってこうだったんだろうとは言えませんが、あれ?それは幽霊の女の子がお母さんに、、あれ?こういうのは結構好きです。 -
起こったことをそのまま記録する記録係でありたいと思うとどこかのインタビューで語っていた通り、淡々と「わたし」から見た継母「あなた」の日常や「わたし」からだとわかりようもない視点の「あなた」のことが綴られていく。「パトロネ」でかなり藤野可織さんを好きになり、今作も「パトロネ」の怖さにはまった私を裏切らなかった。最後の一文が素晴らしい。それで気づかされるんだけど、「あなた」と「わたし」の実母は本妻、愛人というお互い面識はないライバル同士のような関係で、性格も好みも正反対で、もちろん「わたし」に対する熱の入れようや興味の持ち方も違うんだけど、言葉に対する姿勢だけはほとんどおなじ。本は物語ではなく実母にとってはインテリアでしかなく、「あなた」にとってはたまたま実母が折り曲げたままにしておいたページの都合の良い文章を引っ張り出してきて「わたし」に利用する単なる道具でしかない。置き去りにされた本文がまるで「わたし」のようだと感じた。
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選評で川上弘美さんが仰っていたように非常に「ていねい」な小説でした。
一見、得意な文体で書かれているように見えますが、読み終えてみると平明な美しさを湛えた文章だと気づかされます。二人称は実のところ三人称に置き換えても成立するように書かれていて、この二人称は「わたし」と、作中人物と読者という二人の「あなた」が同化し、迫り合うという企図でしょう。見事でした。
ただ、また借用ですが、タイトルの『爪と目』が作品の暗喩になりきれていないという宮本輝さんの指摘はもっともだと思いました。後半のメタファーを成立させるためのくだりはやや蛇足で、そこ以外はとても楽しく読めました。 -
「爪と目」考えさせられた。想像力を持たない大人の思考回路や行動ってこうなんだ、と逐一読まされた感じ。語り手の「わたし」を通して。内容よりも、こんなに想像力が欠けていても生活できる、またこういう大人が珍しくないであろう今が、怖い。自戒も含めて。
「ちびっこ広場」ラストの母と息子のやりとりに、これまた考えさせられた。私だったら、添い寝してあげて終わりにするけどな。そこは、母親が入り込んじゃいけないと思う。それに、真夜中の公園なんて、見えなくても絶対に何かいるでしょう。怖いよ。
他ももう少し読んでみよう。よい作家さんだと思いました。 -
また美人芥川賞作家かよ! とか思いながら読んだら、逆に、これは取るわ……と打ちのめされました。ものすごーく面白かったです。しかもぜんぶ。爪と目ももちろん、「しょう子さんが忘れていること」、「ちびっこ広場」、どれも「やられた……」と。
意見としては、古本屋に目をいじられる場面と、「わたし」が「あなた」の目をいじる場面と二回あるのだけれど、ラストシーンの強烈さが古本屋のせいで少し失われているのではとか思うものの、それはまあちょっとしたツッコミであり、文句なし。(偉そうだけど)
母親を殺したんじゃないか。母殺しの話じゃないかというのがいい。
しょう子さんの、あの正体不明の、夜に抱きついてくる存在も、その正体は薄々感づくものの、まさかそうじゃないんじゃないか? というのがいい。
そしてちびっこ広場。これもとてもよい。
クラスの子と大樹。結婚パーティーの面々とお母さん。その図式のなかに存在する「広場の幽霊」。それを二人で観に行くこと。す、素晴らしい……。とくにいいのは、その少女の幽霊がなんで少女なのかも、何なのかもまったくわからないということ。
藤野氏の小説は一番の中心がわからない不気味さをうまく書くのがすごい。だからホラー作家っぽくなるのだろう。
ベランダで死んだ母。自殺なのか、娘が殺したのか。なんで死んだのか。
毎夜抱かれるきょう子さん。抱いているのはいったい何なのか。なぜなのか。どうなるのか。
広場の幽霊。観に行って二人はどうするのか。
一番の中心が消えていて、それでいてそのまわりがぼやけていたりハッキリしていたり、実に丁寧にできているなという印象。
あー面白かった。 -
第149回芥川賞受賞『爪と目』。ざらついた気持ち、うまく言いあらわせないような違和感を、語り手の継母のハードコンタクトレンズの感触と、爪を噛むのが癖になっている語り手の幼い頃のギザギザした爪で表して、2人で過ごした日々を回想する。気分のいいお話ではないけどとても引き込まれました。『しょう子さんが忘れていること』脳梗塞のリハビリで病院に入院中のしょう子さんの元へ夜毎訪れる男は妄想、あるいは幻覚、あるいは怪奇現象…?性的な衝動に嫌悪感を抱きつつ翻弄される老齢の女性。なんだかじわじわと怖かったです。『ちびっ子広場』4時44分に「ちびっ子広場」に居たものは少女の霊に呪われる…子供たちが作り上げた怪談話を信じてしまって呪われると怯える息子を守ろうとする母。子供たちの罪悪感無しの遊びがこんなふうに一人の少年の心を追い詰める。怖いのは幽霊より子供たちのそういう無邪気さなのかも。
みんな読みやすくて面白かったです。わかりやすいながら含蓄があり深みが感じられるというのでしょうか。これからも藤野可織さんの作品を読んでみたいです。 -
わけのわからない作品に幾度当たっても懲りずに芥川賞を読み続けるのは、やはり結構な確率でこういう、舐め回したいほど何回も何回も読み続けたい文章に出会えるからだ。純文学ホラー、といえばそうなのだろう。ぴったりなキャッチフレーズでありつつ、純文学はどことなく全部ホラー的な要素があるのではないかと思う。
違和感、不快感、恐れ、衝撃、このすべてを本当に美しい筆質で書き上げ、理解を超越している部分を理解しようと何度も再度読ませるこの作品は、シュールレアリズム絵画的な美しさがあると私は思う。
表題作の爪と目
「あなた」という表現を使うことによって、いとも簡単に過去や現在を超えて、長く続く二人の関係を浮き彫りにする。少なくとも、隠喩する。この小説の成功は、この手法を見つけたときから確立していたのだろう。
天才的な独裁者であれば、見ないようにすれば痛みも傷つきからも逃れられる。でもそうでない以上、どんなに鈍感でも、どんなに見ないことから逃げていようと、痛みは追いついてくるのだ。浮遊する「わたし」は、そのことを知っているけれども、それでも見ないふりをし続けていたということでは、「あなた」と同じ。
「あなた」の悪意のない無関心と、本質的な愛情のない愛顧の描き方がとてもリアルながら、文学的。
しょう子さんが忘れていること
老女とセックスの欲望のお話。身体という荷物を脱ぎ去り捨てたいのに、その身体がつきまとう。でも、心臓の鼓動を感じ、また自分の心臓の鼓動を受け止める人をいつまでも求め続けるのは、本来受け入れてしまえばとても素敵な話なのに。
ちびっこ広場
人は現在の自分を完全に認めきれていない時に、何度も言葉で自分の満足と幸せを再確認する。一見、完璧な母親像を描いた本作だけれども、語り手である彼女は本当に信頼できる語り手なにかを読者は疑わなければならない。呪い、という言葉もなんとも象徴的だ。末尾の彼女は、そして子供は、呪いから無事でいられるのだろうか。
共通して描かれているテーマは、見ないようにしていること。共通して使われている手法は、信頼できない、あるいは揺らぎ続ける語り手。
三篇の短編を通じてのテーマ性もキュレーションも素晴らしい。 -
いわゆるエンターテインメントばかり読んでる自分のような読者にすれば、ああ、こういうのが「文学」(あえてカッコつき)なのだろうか...と思わせる作品でした。なんだかさっぱり意味は分からなかったし、面白かった、という読後感はまったくないです。ただ、三篇とも、著者の日常において著者が何にどういう風に目線を向け、どんな風に何かを感じ取ったりしているのか、というのを、ああ、著者はこういうところ(もの)をそういう風に見る人なんだろうな、と自分との(感性?の)違いを、折々文中に気づかされる箇所があって、まあ、そういう読み方もひとつの楽しみ方かな、と。そういった気づきが、なんだかさっぱり分からなかった三篇の小説に対しての記憶、おそらく少しの間は残り続ける余韻、みたいなものになり、それがこれら三篇の作品の「文学」らしさなのかなあ...と思っています。読んで損はなかったとは思います。芥川賞作品、読んだよって言えるし。超ひさびさだけど。
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