茄子の輝き

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 836
感想 : 73
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  • Amazon.co.jp ・本 (221ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103353133

作品紹介・あらすじ

輪郭を失いながら輝き続ける、記憶の中のいくつもの場面。芥川賞作家、待望の受賞後第一作。旅先の妻の表情。大地震後の不安な日々。職場の千絵ちゃんの愛らしさ――。次第に細部をすり減らしながらも、なお熱を発し続ける一つ一つの記憶の、かけがえのない輝き。覚えていることと忘れてしまったことをめぐる6篇の連作に、ある秋の休日の街と人々を鮮やかに切りとる「文化」を併録。芥川賞作家による会心の小説集。

感想・レビュー・書評

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  • ストーリーで何かを得るのではなく、読み進めていく過程で感じる感覚が面白かった。薄れていく記憶の脆さと、時に違う内容で上書きされていくいい加減さ、その中でなぜか残り続ける何でもない断片的な記憶のワンシーン。
    主人公の記憶を主人公視点でダラダラと思い出していく。

    かなり事細かに、ある意味しつこく、ここまで書く必要ある?と著者に対して思うほど、過度に具体的とさえ感じる文章。
    あれ、これさっきもあった、またこの話?とくどいくらい高頻度で登場するとりとめもないエピソードや人。

    ‥と、思っていたらしばらくして、朧げかつざっくりした情報でしか表現されなくなり、名前さえ登場しなくなるあの人。それはまさに今が過去になり記憶になり、遠ざかっていくから。

    うまく言えないが、
    【思い出す】という行為を体験する本は初めてでした。

    『自分に対して無責任なことなんて言えないような気もするが、本当に無責任なことを言える相手なんて自分しかいないのではないか。』

    物語の重要なセリフでもないのに、何故か心に残った。この感想も過去になり、ところであの茄子のなんとかって本てどんな話だったっけ?と、断片的に自分の記憶のように思い出してしまうかもしれない。

  • 好きだわ。なんてことない毎日のあれこれと離婚した妻のことをぐだぐたと頭の中で考え続ける。普通なら面白くもなんともない脳内ぐるぐるがとびきりの文章で読ませる物語になる、いいねぇ、好きだわ。三人の女たちとの距離感もこのぐるぐる主人公らしくてなんともかんとも。「好きだ」とか「愛してる」とは熱量のちがう何かをずっと保ち続けるこのオトコ、じつは僧なんじゃないか、心の僧。そして植物的な感じのする彼が匂いという動物的なものにこだわるのも異質な感じがしていい。

  • 自分の過去についてゆったりと回想するお話。とりとめもない思考がつらつらと描かれている。人の脳内を覗けるこういう感じのお話は結構好き。嫌な登場人物が出てこない。離婚や会社の倒産や決して明るくないイベントを経験しながらも、市瀬の記憶は人々の明るさと共に思い出される。彼はきっと大丈夫なんだろうなと思う。

  • 僕が今どこでどうしているのか、今はどうなったのか、不明のまま話は進む。
    不思議な本だったけど、“花束みたいな恋をした”の絹ちゃんが好きな理由はよくわかる。
    人の脳内を,全部言葉に出したような本。

  • 映画「花束みたいな恋をした」がきっかけで読んだ本。
    映画はめちゃくちゃ共感する部分があって、自分の学生時代を観ているようで、きっと登場する本も好きなはずだと思ったのだ。

    読後の感想としては、学生の自分だったらきっと好きだっただろうな、に尽きる。
    今の私は麦くんだ。この面白さにもう共感できない。

  • 言ってしまえば、語り手がくよくよと過去のことを思い出したり忘れたりするだけの小説が、なんでこんなにも愛おしいのか。いや、離婚した妻やかつての職場の同僚の女の子との日々に、くよくよと思いを馳せる、ただそれだけであるからこそ生まれる愛おしさなのかもしれない。読むとお酒が飲みたくなって、餃子が食べたくなって、今は忘れてしまっているいつかの誰かのことを思い出したくなった。「お茶の時間」以外は雑誌掲載時に読んでいたけれども、こうして連作として一冊にまとまったものを読むと、当時とはまた違った感じがするものだ、と、日記を見返すような心で。

  • うーん。読んじゃったけど。こういう感じなんだろうなあ。でもねえ。離婚したお連れ合いの気分が何となくわかるような気になるのがなんだかなあ。
    相性の問題かどうか。うーん。

  • 全部お前の話かよ!だらだら進むから短編かと思ったら

    え、花束みたいな恋をしたに出てたのか

    「会社で働いている時みたいに、いろんなリスクとか、効率とかを考えて、間違えないように進む道を決めるよりも、自分の毎日を生きるのは自分しかいない、自分たちの毎日は自分たちだけのものなのだから、そのなかで生まれた意志を、それがたとえ馬鹿げていて危険も、生まれた以上は大事にしたい」
    なるほど

    最後まで読んだ
    わかんねえて!

    もう少し前だったらこの本かなり共感したと思う
    暇すぎて昔出会った人のこと未練がましくずっと考え続けたり、ちょっと出会っただけの異性を貴重なものとして依存したり、1日の中で見かけた人のことずっと考えちゃったり、見かけた取るに足らないものを忘れちゃいけないような気がしたり
    ぜーんぶ人生暇すぎて
    誰かの言葉を求めてすがるようにしてた頃、手に取る本とか行った場所に運命的な、読んだ意味行った意味をとにかく求めていた頃、何にでも意味を持たせていた頃と今とずいぶん変わったなと思う
    暇じゃないわけじゃないけど
    大人にはなってないけど若かったのかもな〜だし多少歳をとったせいなのかなあ
    昔聞いた曲が昔ほど響かない
    やっぱり心が弱ってる時期はある意味感性が豊かになってるんだよなあ
    うーんいいのか悪いのか、しんどかったからいい訳ないんだけど

  • 実際に市瀬さんから話を聞いたら、この人未練がましいな、で終わってしまいそうやけど、読んでるとあ〜なんかわかるとこもあるなと思う。そういう言葉にされなさを人と話したいけどなかなか言葉にはできひん。やから小説を読むんかもしれへん、とか思う。餃子食べたい。

  • 主人公は離婚した20代の男性。短編連作で一編ごとに年齢を経ていく。

    最初は小さな会社の人間関係を描く会社小説なのかなと思ったが、男性は会社を辞め孤独感が強まる。

    最初の短編と最後ではまったく雰囲気が違うように思う。

    これちょっとどうなの?と思われる言動や行動もあるのだが、女性が読んだらどうなんだろう。

    男性で、柴崎友香や絲山秋子風な作風の人が出てきたなあという感じがした。

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著者プロフィール

滝口 悠生(たきぐち・ゆうしょう):小説家。1982年、東京都八丈島生まれ。埼玉県で育つ。2016年、「死んでいない者」で第154回芥川龍之介賞を受賞。主な著作に『寝相』『ジミ・ヘンドリクス・エクスペリエンス』『茄子の輝き』『高架線』『やがて忘れる過程の途中(アイオワ日記)』『長い一日』『水平線』などがある。

「2024年 『さびしさについて』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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