- Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
- / ISBN・EAN: 9784103353522
作品紹介・あらすじ
満18歳から満30歳までのすべての日本人男子に、性転換を義務付け出産を奨励する【徴産制】を施行する――。2092年。新型インフルエンザの蔓延により10代から20代女性の85%が喪われた日本では、深刻な人口問題を解決するため、国民投票により【徴産制】の施行が可決された。住む場所も立場も異なる五人の【産役男】たちが、産役によって見つけた「生きる意味」とは。前時代的な価値観を笑い飛ばし、未来に託すべき希望を描く感動作。
感想・レビュー・書評
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「スミダインフルエンザ」という若い女性しか発症しない病気が爆発的に拡大した未来の日本では、出産年齢にある女性の多くが死亡してしまいます。事態を憂いた日本政府は性転換技術を活用して男性を女性へと性転換させ、出生率を向上させることを決定、国民投票を通じて18歳から31歳の未婚の男子を女性へと転換させる「徴産制」を成立・施行させます。
この作品では、徴産制によって「産役」につくことを命じられた5人の元男性(性転換により女性(産役女と呼ばれる)になった)それぞれのエピソードが収められています。
基本的には1話完結型で、他のエピソードと関連して一つの大きな物語が展開している、という作品ではありません。
作品ではそれぞれの短編の登場人物の心理描写が綿密で、説得力のある文章が多かったです。
なぜ「産役」に就く決心をしたのか(招集だけでなく「志願」した主人公もいました)という点も納得がいきましたし、「ひとつの制度には”見えない闇”が存在している」ということも他人事ではなく理解することができたと思います。
「男性らしさ」「女性らしさ」だけでなく、それぞれの性を選択することが一般的になったときの社会の受け止め方としてどのような立場が「理想」なのか、という点も読者一人ひとりに考えるきっかけを与えてくれると思います。
小説作品としては十分に楽しむことができましたが、具体的な性体験や出産の描写はなく、一抹の「物足りなさ」も感じる読後感ではありました。 -
男も子供を産める時代が来たら、男女の性差というのは次第に無くなってくるんだろうなと思いましたが、この本読むと「元男」という新たな性(セクシャルマイノリティーではなくて性別的に完全に女性になった男性という意味で)が差別の対象になりえるんだなあと。
子供を産むという喜ばしい部分には全然触れていない所に全く触れていない事に何かの意図はあるのかなあ? -
2087年、日本で「スミダインフルエンザ」と呼ばれる新型インフルエンザが発症、女性のみに感染し若ければ若いほど致死率が上がるこの病により、日本の若い女性は壊滅状態に陥ってしまう。2年後ワクチンが開発され感染は収束するが、10~20代の女性は85%が死亡、当然出生率は下がる。このとき画期的な性転換技術が開発され、男性が女性になることが可能になった。出生率向上のため政府は徴兵制ならぬ「徴産制」を提案、国民投票で可決され2093年より施行されることに。
対象者は18歳から30歳の男性、既婚かつ子供がいる場合は免除されるが、子供のいない既婚者も対象(懲役逃れのための偽装結婚防止のため)子供がいても、志願者は対象となり、志願すればかなりの額の報奨金がもらえる。徴産された男性は性転換して2年間女性の体で生活し、パートナーをみつけ出産すればさらなる報奨金がもらえる。人工授精もあり。子供は自分で育ててもよし、産むだけで政府に引き渡してもよし、その後女性のまま生きることも、男性に戻ることもできる。もちろん出産は奨励されてはいるが、建前上義務ではないので、産まない選択もあり。
上記のような設定のもと、さまざまな事情と立場の男性が、徴産制を体験する連作短編となっています。東北の限界集落で農家を営むショウマ、野心家のエリート官僚ハルト、徴産逃れを幇助したため懲罰としての産役で女性にされた「逃産男」のタケル、妻子がいるがお金のため志願したキミユキ、裕福だが男性だったときの外見コンプレックスから整形美女となるイズミ。
疫病についての部分はコロナ禍の今読むと、ちょっと身につまされる。最初の感染者がコウモリに噛まれたことや、ある自治体では判断力のあるトップが移動を制限したため感染が広がらなかったとか、思い当たることがいくつかあったりして。まあそれはさておき。
よしながふみの『大奥』は、男性のみが感染する病気で男性の人口が激減してしまったせいで女性が男性の役割も果たすようになるわけですが、こちらはその逆バージョンで、女性のみが感染・死亡し女性人口が激減してしまったことで、本来女性の役目とされていた出産や男性の性欲処理(…)を男性が強制的に担わされることになる。
ディストピア小説が大好物なので、かなり期待して読み始めたのですが、正直なところちょっと掘り下げが甘かったような印象。せっかくの面白い設定を生かし切れていないようでもったいない。もちろんあれこれ広げすぎたら収集つかなくなってしまいそうだけど、痒いところに手が届かないもどかしさが個人的には少々残ってしまった。
もちろんさまざまな問題が織り込まれてはいる。ジェンダー、フェミニズム、LGBT、ルッキズム、etc...男女の比率がイビツになったことで、浮かび上がってくるそもそもの不平等。
いちばんハードだったのは第三章「タケルの場合」で、タケルは徴産制逃れで亡命しようとした教え子を助けた罪で、懲役としての性転換を受けさせられる。刑務所で手術を受け、短期間で出所後、核廃棄物の受け入れをしている田舎の町で産役についている男達の寮に入れられる。別の産役男に裏切られ陥れられたタケルは、核廃場で働く男たちのための売春宿に拉致され強制的に売春させられる。慰安婦、という言葉が出てくるが、某国とのいざこざはさておき、こういった性的搾取の仕組み自体はどの国のどの時代にもあることだ。
そこでタケルは気づく。政府は「徴産制の目的は子づくりだが、出産そのものは義務ではない」としているが、つまり若い男性に限り性転換させるその真の目的は、出生率増加ではなく、単純に他の男たちに性欲のはけ口を与えるためではなかったのか、と。
生き残った僅かな若い女性は、できるだけ隠れて過ごしている。四章のキミタカには妻がいるが、彼女はけしてスカートをはかないようにしている。生き残った引け目と書かれている部分もあるが、稀少な若い女性をめぐって起こるであろう犯罪抑止のほうがきっと大きいだろう。正直、そこももっと掘り下げてほしかったなあ。ふつうに男女比半々でも若い女性は日々性犯罪の被害にあっている。それがわずか15%になったらどういうことが起こるのか。もちろんその抑止として若い男性を女性化する法案ができたわけだけど、この制度で得をするのは、つまり31歳以上の男性だけだ。制度の対象となった若い男性たちは恋する相手の女性がいないばかりか、自身が年上の男たちに女性の代替物にされ、青春を奪われることになる。
タケルの章はヘヴィだけど読み応えがあって良かったが、最終章のイズミの話がややモヤる。性転換してやり手事業家となった彼女はテーマパーク『スミダリバーランド』の企画にかかわる。このスミダリバーランドのコンセプト、あり方がどうしても私には共感できなかった。生き残った女性や産役男だちが安心して働ける場所を作るのはいい、しかしそこに女性を眺めに男性客がやってくるというのは、いったいなんの解決になっているのだろう?共存の道を模索するポジティブな終わり方になっていたけれど、過激な設定のわりに、小綺麗なところに落とし込んじゃったのがなんだか惜しいと思ってしまった。
基本的には面白く読みました。同じ設定でもっとさまざまな角度から掘り下げられるような続編があったら読んでみたい。 -
設定は荒唐無稽なようだか、新型インフルエンザの発生は、有り得ないことではない。
様々なパターンの徴産制当事者たちについて語りながら、慰安婦問題やトランスジェンダー、DV、食料自給問題、核のゴミのことなど、目を背けてはいけない現代の問題までが語られていて、スゴイ。 -
ぶっとんだ設定なのね、と思いながら読みすすめました。
それぞれの章で(悲惨すぎて辛い章も有り。。)
様々な事を考えさせられた。
現代社会の問題。ジェンダーの問題。
様々な差別問題。
立場や性の違い等で起こる人間関係の問題。
この小説は読者に沢山の事を問いかけているんだと思った。 -
2093年。感染症により妊娠可能な若年層の女性の大半が死亡した日本で、国家の存亡をかけ、18歳から30歳までの男子全員に最大2年、性転換と妊娠活動を義務づける徴兵制ならぬ「徴産制」が施行される。
なかなか興味ある設定(感想は後日に書き足します)