- Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
- / ISBN・EAN: 9784103362135
作品紹介・あらすじ
耳を澄ませていよう。地球の奥底で、大切な何かが静かに降り積もる音に――。不愛想で手際が悪い――。コンビニのベトナム人店員グエンが、就活連敗中の理系大学生、堀川に見せた真の姿とは(「八月の銀の雪」)。会社を辞め、一人旅をしていた辰朗は、凧を揚げる初老の男に出会う。その父親が太平洋戦争に従軍した気象技術者だったことを知り……(「十万年の西風」)。科学の揺るぎない真実が、傷ついた心に希望の灯りをともす全5篇。
感想・レビュー・書評
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直木賞の候補作になったときに、選考委員の一人が「科学オタク」と揶揄したらしい。何を言ってるんだ!小説として面白ければいいんだぞ。詰まらん言葉を弄するなよ。
いろいろ屈託を抱えている人たちが、科学の神秘や驚異・面白さに触れ、何らかの光を見出すという短編集。地球のコアに降る雪、クジラの吟遊詩人、コンパスを持つ伝書バト、神秘的なガラス模様を持つ珪藻、凧による気象探査ーそれぞれとても興味深い話だった。それらに打ち込んでいる人たちの姿も美しい。話がもう少し長くて、それぞれもう少し先まで語られればなあとは思うが。 -
知らなかったな。地球の内核は地球の中にあるもう一つの星。その星の表面は、びっしりと全部銀色の森、その正体は樹枝状に伸びた鉄の結晶だということ。そしてその森には銀色の雪=鉄の結晶の小さなかけらが降っているかもしれないということ。科学ってロマンチックだね。
地球も人間も同じ。地球は地殻、マントル、コアの外核、コアの内核と層になっている。そして人間も外側が就活に失敗続けている大学生であっても、使えないコンビニ店員であっても、一皮めくった内側は子供のころからロボットを制作していたり、地球のことを研究する科学者の卵であったり、今すぐには社会で役立てなくても、いつか実になるようなキラキラしたものを内包しているのだ。そして一人一人の人間の内側もその人が今まで人生で出逢った人や出来事によって色んな気持ちや能力が層になっているのだ。(「八月の銀の雪」)
クジラの脳のニューロンの数は人間より凄いらしい。だけどそんな知性をどこで使ってきたのだろう。暗い海の中で、クジラたちは視覚よりも音で世界を構築してきた。クジラには彼らだけの美しい歌があり、その声は1800キロも届くらしい。道具や技術を使って「外向きの知性」を発展させてきた人間と対照的にクジラは深い海の中で「内向きの知性」や精神世界を発展させているのかもしれない。と自然史博物館の網野先生は言う。この世界は広いだけじゃない。深いんだね。
(「海へ還る日」)
渡り鳥やハトは体の中に方位磁石を内包しているらしい。だからどんなに遠くへ行ってもちゃんと帰るべきところへ帰れるらしい。すごいね。あんなちっちゃな体で。そんなちっちゃな生き物でも生きていけるように体の中に方位磁針を組み込ませた神様は恐るべし。でも人間も帰る方向を示してくれる方位磁針を心の中に持っているらしいよ。(「アルノーと檸檬」)
あと二編。精緻で深淵な科学の世界のことを知ると、ふと自分のことを「私なんかどうせダメだ。」と思うことがどれだけ傲慢なことかと思えてくる。神様は私たちの体の中にも頭の中にもそして私たちを囲む環境の中にも素晴らしいものを限りなく用意してくれている。そのことに思い当ってホロリとする小説たちだった。 -
オビには「科学の揺るぎない真実が、人知れず傷ついた心に希望の灯りをともす全5篇」とある。
「科学」が揺るぎない真実に辿り着くのはおそらくものすごく遠い未来だろうけど、現時点での最新の「真実らしきもの」に希望の灯りを感じる短編集。科学の力が主人公の内面に変化をもたらしていく。理系のようで文学的。
伊予原新さんの作品は初めて読んだけどメチャクチャ面白い。他の作品も読んでみたい。
2021年本屋大賞 第6位。
八月の銀の雪 評価4
地球の中心にあるもう一つの星に降る雪。
就活連敗中の大学生と地球の内核を研究するベトナム人留学生の出会いの物語。
海へ還る日 評価5
クジラの考えごとは一体なんだろう?
あるクジラには人間の倍以上のニューロンがある。
そして、宇宙まで届く声で歌う。
地上の我々は五感で世界を捉えるが、クジラたちは音で構築した豊かな精神世界を発達させている。
アルノーと檸檬 評価3
ハトや渡り鳥は磁場を視覚的に見ているのだそうだ。
玻璃を拾う 評価4
美しいガラス細工のような生物に魅了された偏屈なオタク男とサバサバ系女子の出会い。
十万年の西風 評価5
タイトルの「十万年」は発電後の放射性廃棄物の地層処分にかかる年月。ウラン鉱石と同程度に放射能レベルが下がるまでの時間。馬鹿馬鹿しく感じるが、原発の話をする時、決して避けてはとおれない事実だ。
自然の成り立ちを垣間見ると利用したくなってしまうのが人間。時に、非常に危険をともなう使い方や、邪悪な使い方をしてしまう。
迷うのはいつも、後世の人間。
考えさせられる。 -
人間って、大きな生命体の一部なんだ。
と、しみじみ感じさせてくれる作品。
伊予原氏は、地球惑星科学を専攻されていたとか。
作者の背景を読んで納得です。
五つの短編に登場する五人の語り手は
全員、何かしら屈折した思いを抱えている。
そして、それぞれ、自然の摂理に気づくにつれて
近視眼的に見ていた周りの世界から解き放たれる。
最初の短編『八月の銀の雪』に心をつかまれた。
「地球の内核は、銀色に輝く星になっていて
液体の外核に囲まれて浮かんでいる。
内核は樹枝状に伸びた鉄の結晶で覆われている。
それはまるで森のようで、鉄の結晶のかけらが
ゆっくり、静かに、雪みたいに降っている」
科学的な根拠に基づいていると思われる
美しく 幻想的な描写にうっとり。
ふと、ある画像を鮮明に思い出した。
月の地平線から、宝石のように輝く地球が
漆黒の宇宙を静かに昇っていくもの。
JAXAが公開した「かぐや」から撮影されたものだった。
当時、抱えきれないほどのものを背負っていたのだけど
その息を呑むような美しさに心がふっと救われた。
さぁ~っと別世界に連れていかれた気がして。
ちょっと話がそれるかもしれないけれど、
この作品にテーマソングをつけるとしたら
松田聖子さんの『瑠璃色の地球』かな? -
ふいに涙がこぼれる一冊。
自然科学の浪漫溢れる言葉が心にスッと入り込んでくる。全部理解できなくても感覚でわかる心地良さ。
そして幾重にも重なるような幾人もの現在進行形の人生と科学、人との出会いにふいに涙がこぼれる、この瞬間を何度も味わった。
今ある悲しみもつまずきも壮大な自然に重ね合わせたらなんてちっぽけな一つだろう。
でもそのちっぽけなありのままの自分を見つめ慈しむことが次へのステップへ繋がるんだろうな。
「玻璃を拾う」の繊細な時間、距離感、いざなう自然界の浪漫に伊与原さんらしさが一番溢れていてキュッ。-
地球っこさん、コメントありがとうございます♪
そうなんです〜、なんか理系の人って意外な視点からものごとを見るのか…それがロマンティックに繋...地球っこさん、コメントありがとうございます♪
そうなんです〜、なんか理系の人って意外な視点からものごとを見るのか…それがロマンティックに繋がるんですかね(≧︎ω≦︎*)
この作品も良かったし、月まで三キロも良かったです♬
私は池澤夏樹さん、恥ずかしながら未読です〜!確かめてみなければ!(≧︎ω≦︎*)
あ、准教授5巻出ましたね〜!
そちらにもドキドキしてます(*≧︎∇︎≦︎)2020/12/12 -
くるたんさん、「月まで三キロ」も気になってます♪
お正月休みはこの2冊読んでみようかしら。
物理とか、天文とか、全くわからないのにロマン...くるたんさん、「月まで三キロ」も気になってます♪
お正月休みはこの2冊読んでみようかしら。
物理とか、天文とか、全くわからないのにロマンティックさを感じるのですよね~
理系の人の視点!なるほどですね!
そうそう、准教授!
あー、もう読まなくては年を越せない本がたくさんありすぎ〰️笑2020/12/12 -
地球っこさん♪
ぜひぜひ〜、ロマンティックと温かさを静かに味わえる作品ですよ。
ほんと、読むペースが追いつかない!
これも幸せなことなんで...地球っこさん♪
ぜひぜひ〜、ロマンティックと温かさを静かに味わえる作品ですよ。
ほんと、読むペースが追いつかない!
これも幸せなことなんでしょうね(≧︎ω≦︎*)2020/12/12
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"年度末"…職場がトルネードみたいになる時期。
この時期を乗り越える為に癒しと笑いの本を一冊ずつ用意した。
そのうちの一冊が、『八月の銀の雪』。
ブク友のLeoさんの『自然の美しさが文章から溢れ出てるなぁ…』という感想にひかれたのと、
コメントのやり取りの中で『疲れた体に沁みて癒されました』との言葉に、これだ!と思った。
全5話からなり、それぞれの主人公の立場や状況や悩みの種類は違うけれど、みんな心に不安や葛藤を持ち行き詰まっている。
本の解説に『科学の揺るぎない真実が、傷ついた心に希望の灯りをともす。』とあり、どうやって励ますのかな?と思いながら読み進めた。
全然科学じゃない感想だけど…汗
『八月の銀の雪』では、地球の中にあるもう一つの星に降る銀色の雪景色の美しさが文章から伝わり癒される。
『海へ還る』では、聞いた事のないくじらの歌声を聞きながら一緒に泳ぐ場面を想像しながら楽しくなる。
アルノーと檸檬では、伝書バトの愛らしさとその優秀さに癒され、
玻璃を拾うでは、珪藻アートの美しさに感動。
(写真も一緒にアップしたーい!)
十万年の西風では、
自分の知らなかった戦時中の事実に驚き、
気象者の十万年単位で地球や様々な事象をとらえるスケールの大きさにじーんとする。
各話、主人公の状況が劇的に変わるわけでも、誰かが力強く助けてくれたり助言をしてくれるわけでもない。
自然や科学や歴史の真実に触れて、主人公の心のベクトルが静かに変わっていく。心が軽くなり、今の状況と向き合える主人公に変わっていく。
その様子と文章の美しさに、Leoちゃんが言ってた『疲れた体に沁みて癒される。』の言葉を思い出す。この事だったのね、Leoちゃん!(^^)
素敵な癒しタイムをありがとう!-
松子さんこんにちは!
読んでみたんですね!!
職場での疲れが少しでも癒されたなら良かったです〜!☻
松子さんこんにちは!
読んでみたんですね!!
職場での疲れが少しでも癒されたなら良かったです〜!☻
2022/04/02 -
Leoちゃん、ありがとう!
素敵なお話と文章が、じゅわっと沁みて
心が癒されました!(^^) 優しい世界だったぁ
素敵な時間をありがとう!Leoちゃん、ありがとう!
素敵なお話と文章が、じゅわっと沁みて
心が癒されました!(^^) 優しい世界だったぁ
素敵な時間をありがとう!2022/04/02
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皆さまのレビューで興味を持ち読むことに…
〜科学の揺るぎない事実が、傷ついた心に希望の灯りをともす〜
とあり、科学と小説をどう絡めるのか…という視点で読んでみた
相変わらず冷血な自分はどうしても科学的な内容ばかりに感嘆してしまうため、みなさまのようなレビューは書けないのでそこはお許しを…
敢えて書くまでもないかもだが、著者は地球物理学を専門とし、東京大学大学院で博士課程修了の経歴をお持ちである
「八月の銀の雪」
ベトナム人留学生のコンビニアルバイト店員
普段の仕事ぶりは、要領が悪くお客にストレスを与えてしまうできない店員なのだが…
彼女真の姿は地震研究所に所属するベトナム人留学生
彼女の研究への真摯な姿勢、熱い気持ちがカッコ良い
地球の中心のコアである「内核」は固体(まさに地球の芯である)
そして「外核」は液体
これは地震波のP波とS波の伝わり方の違いによりわかったのだ
そう彼女の強い熱い思いこそが「内核」にぎっしり詰まっているのを感じた
「海へ還る日」
〜鯨は歌う〜
ぜひぜひ聞いてみたい
広い広い海の中で聴いたら…
きっと大きな温かい壮大な何かに包まれる気がするだろう
想像するだけ何とも居心地が良い
お母さんのお腹にいる赤ちゃんもこんな感じなのだろうか…
~情報処理に特化し伝播能力に優れている脳内細胞からなる「ニューロン」
実は人よりクジラのが多い
人間は五感を駆使してインプットした情報を発達した脳で統合してアウトプットする 外向きの知性
クジラ 音で世界を構築し、理解しているのでは?
そして言語を持たない彼らは外に向かって生み出すことはない
内向きの知性や精神世界を発達させているのかも~…とある
クジラは深く広い海でひっそり何を考えているのだろう
神秘だ
俗っぽい子は「あそこの海洋に出るとエサがたくさんある!」って感じかな?
思慮深い子は最近海の汚染を嘆いたりや温暖化で将来が不安なのかもしれない…
きっと人と同じで個体差があるのだろうなぁ…
「アルノーと檸檬(レモン)」
伝承鳩が出てくる
鳩かぁ
鳥は大好きなのだが、鳩だけがどうも…
が、実に見る目が変わった!
何百キロも飛行できることは知っていた
初めての土地に放たれても帰巣本能で戻れる…これも知っていた
~太陽や天体の位置と体内時計を使って方位を導き出す
そして地磁気を見ている
網膜に光と磁場を受けて電子レベルで反応を起こすタンパク質があるらしい
空間情報の記憶力
一度飛べばそのルートの陸標を記憶する
地形、川、湖、木や岩、建物まで
さらに匂いや音まで~
す、すごい!
帰巣本能って凄いなぁ
私も若い頃はどれだけ酔っぱらって記憶を無くしてもきちんと家に帰れたものである(笑)
しかし帰る家があるって当り前じゃない!そんなことをしみじみ感じた
当たり前なことに感謝して幸せを実感していかなくては
「玻璃(はり)を拾う」
珪藻(ケイソウ)
水の中にいる植物プランクトン
0.1ミリもないものがほとんど
単細胞生物
(実は中学校で習っているっぽい…)
珪藻の「珪」は「ケイ素」である
ケイ酸塩はガラスの主成分
つまりこの生物はガラスの殻をまとっている
ちなみに珪藻土は珪藻の殻が堆積してできたもの…
珪藻土はちまたで問題となったアレだが、珪藻土が悪いわけではなくアスベスト(石綿)が混入していたことが問題なので、イメージが悪くなってしまったケイソウがちょっと気の毒である
そうこんな単細胞微生物が美しいガラス細工のような模様を持ち、私たちを楽しませてくれる
そして珪藻土でもコースターやバスマットなどお世話になっている…
ちなみにこのストーリーでは「おはぎ」の下りがとても好きだ
ふっくら煮た大豆の優しい甘さが伝わってくる
作った人の人柄がしっかり伝わってとても切なくなる部分だ
「十万年の西風」
〜科学者の自然の摂理を明らかにしたいという好奇心
残念ながら人はそれが何に利用できるか考え始め、思いついた以上、実現したいという好奇心を止めることは困難
それが核兵器や、原子力発電へとつながってしまう…
例えば、使用済み核燃料の放射レベルが、原料となったウラン鉱石と同程度に下がるまで、十万年かかる〜
そこまで誰が深く考え責任を持つのだろう…
難しい問題である
ここで初めて知ったのが以下(備忘録として)
~日本独自の爆弾開発
対アメリカ向け
風船爆弾(気球兵器)
和紙をこんにゃく糊で貼り合わせた生地
重さ、耐圧性、水素透過性が優れていた
偏西風に乗せてアメリカへ~
科学との出会い
個人的に好奇心が満たされてうれしい
いや、これを読んだ思った
人ってやはり好奇心さえ失わなければ結構前向きに生きていけるものじゃないのか
悶々とするより好奇心に従ってみるのも新しい何かが開花する気がする
それと…環境や過去のせいにしたところで結局自分で自分を縛ることになってがんじがらめだ
そんなことにとらわれてはいけない
そして人との関りを大切に積み重ねていけば自ずと未来が開ける
そんな人の底力を感じ、悪いことばかりじゃないぞ!と明るい未来とポジティブで健全な心を取り戻せそうなそんなストーリーであった
あとぜんぜん別のことも…
この世で人間の欲ほど環境に悪いものはないんじゃないか
そんな残念なことも頭をよぎる
傲慢になってはいけない
改めて… -
「月まで三キロ」を読んでから一年半になりますが、伊与原新さんの暖かく優しい作品に再度接することができてとても満足です。
小説という形式をとってはいますが、自然科学の話題はノンフィクションなので、ついストーリーを度外視してのめり込んでしまいます。
「海へ還る日」に登場する国立自然史博物館で83種のクジラのポスターを描いた宮下さん。
これは国立科学博物館の渡辺芳美さんのことだと認識し読み終えると、あとがきにちゃんと書いてありました。
「宮下和恵」の経歴やプロフィールは「渡辺芳美」氏とはいっさい関係ないという断り書きが必要だと思ったのでしょう。
「アルノーと檸檬」に出てくる伝書バト『毎日353号』もしかり、「十万年の西風」に出てくる風船爆弾の放球基地の場所も全て事実です。
伊与原新さんは地磁気の研究をしていたので、地球の内部構造に詳しいのは当然で本書のタイトルにもなっている「八月の銀の雪」で地球の殻がテーマになっているのは不思議ではありません。
そして伝書バトやクジラがテーマになったのも、地磁気を利用している生物である渡り鳥やクジラに興味があったからなんですね。
自然科学に関係する話は分かり易くて、文系・理系の区別なしに面白いのではないかと思います。
伊与原新さんの小説は、実話のように思えてしまいます。
「八月の銀の雪」のグエンさんも、実在する誰かがモデルになっているのかも知れません。
著者プロフィール
伊与原新の作品






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なんか希望に満ちた話ですよ。科学を真っすぐに信じている作者の思いが伝わってきます。
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