八月の銀の雪

  • 新潮社 (2020年10月20日発売)
3.74
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本棚登録 : 4639
感想 : 462
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  • 本 ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103362135

作品紹介・あらすじ

耳を澄ませていよう。地球の奥底で、大切な何かが静かに降り積もる音に――。不愛想で手際が悪い――。コンビニのベトナム人店員グエンが、就活連敗中の理系大学生、堀川に見せた真の姿とは(「八月の銀の雪」)。会社を辞め、一人旅をしていた辰朗は、凧を揚げる初老の男に出会う。その父親が太平洋戦争に従軍した気象技術者だったことを知り……(「十万年の西風」)。科学の揺るぎない真実が、傷ついた心に希望の灯りをともす全5篇。

感想・レビュー・書評

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  • 直木賞の候補作になったときに、選考委員の一人が「科学オタク」と揶揄したらしい。何を言ってるんだ!小説として面白ければいいんだぞ。詰まらん言葉を弄するなよ。
    いろいろ屈託を抱えている人たちが、科学の神秘や驚異・面白さに触れ、何らかの光を見出すという短編集。地球のコアに降る雪、クジラの吟遊詩人、コンパスを持つ伝書バト、神秘的なガラス模様を持つ珪藻、凧による気象探査ーそれぞれとても興味深い話だった。それらに打ち込んでいる人たちの姿も美しい。話がもう少し長くて、それぞれもう少し先まで語られればなあとは思うが。

    • 和坂林太郎さん
      いいね!
      いいね!
      2021/08/18
    • goya626さん
      和坂林太郎さん
      なんか希望に満ちた話ですよ。科学を真っすぐに信じている作者の思いが伝わってきます。
      和坂林太郎さん
      なんか希望に満ちた話ですよ。科学を真っすぐに信じている作者の思いが伝わってきます。
      2021/08/19
  • 3.8

    5篇から成る短編集。物語と科学的知識の融合。表題作(内核)、「海へ還る日」(鯨)、「アルノーと檸檬」(鳩)、「玻璃を拾う」(珪藻)、十万年の西風(気象、原子力、戦争)
    物語と科学的知識が無理なく繋がった、表題作、「玻璃を拾う」が印象に残りました。ネットで珪藻の画像を見て、その美しさに感激しました。

  •  知らなかったな。地球の内核は地球の中にあるもう一つの星。その星の表面は、びっしりと全部銀色の森、その正体は樹枝状に伸びた鉄の結晶だということ。そしてその森には銀色の雪=鉄の結晶の小さなかけらが降っているかもしれないということ。科学ってロマンチックだね。
     地球も人間も同じ。地球は地殻、マントル、コアの外核、コアの内核と層になっている。そして人間も外側が就活に失敗続けている大学生であっても、使えないコンビニ店員であっても、一皮めくった内側は子供のころからロボットを制作していたり、地球のことを研究する科学者の卵であったり、今すぐには社会で役立てなくても、いつか実になるようなキラキラしたものを内包しているのだ。そして一人一人の人間の内側もその人が今まで人生で出逢った人や出来事によって色んな気持ちや能力が層になっているのだ。(「八月の銀の雪」)
     クジラの脳のニューロンの数は人間より凄いらしい。だけどそんな知性をどこで使ってきたのだろう。暗い海の中で、クジラたちは視覚よりも音で世界を構築してきた。クジラには彼らだけの美しい歌があり、その声は1800キロも届くらしい。道具や技術を使って「外向きの知性」を発展させてきた人間と対照的にクジラは深い海の中で「内向きの知性」や精神世界を発展させているのかもしれない。と自然史博物館の網野先生は言う。この世界は広いだけじゃない。深いんだね。
    (「海へ還る日」)
     渡り鳥やハトは体の中に方位磁石を内包しているらしい。だからどんなに遠くへ行ってもちゃんと帰るべきところへ帰れるらしい。すごいね。あんなちっちゃな体で。そんなちっちゃな生き物でも生きていけるように体の中に方位磁針を組み込ませた神様は恐るべし。でも人間も帰る方向を示してくれる方位磁針を心の中に持っているらしいよ。(「アルノーと檸檬」)
     あと二編。精緻で深淵な科学の世界のことを知ると、ふと自分のことを「私なんかどうせダメだ。」と思うことがどれだけ傲慢なことかと思えてくる。神様は私たちの体の中にも頭の中にもそして私たちを囲む環境の中にも素晴らしいものを限りなく用意してくれている。そのことに思い当ってホロリとする小説たちだった。

  • 科学の真実と人間の想いが融合した短編集。

    地球の中心に積もる、鉄の雪。クジラの歌声。伝書バトの故郷。珪藻アート。十万年の西風。

    どのテーマも興味深かった。
    こんなにも素敵に科学を言葉で表現できるんだね。
    地球って神秘的だなぁ、自然って美しいなぁと胸を打たれた。

    それらと、人生や誇りといった、登場人物たちの物語が相まって、読み終えたとき、人間として、そして日本人として生まれたことに、少しの希望をもらえた。

    伊予原新さんの他の作品もぜひ読んでいきたい。

    • 土瓶さん
      ひろちゃん。こんばんは~^^
      伊与原新さんの「月まで三キロ」も科学をひっかけたじわっとくる短編集でしたよ。
      機会があったら読んでみて~。
      ひろちゃん。こんばんは~^^
      伊与原新さんの「月まで三キロ」も科学をひっかけたじわっとくる短編集でしたよ。
      機会があったら読んでみて~。
      2024/07/26
    • ひろさん
      どんちゃん、こんばんは~♪
      『月まで三キロ』もじわっとくるのですね~!!
      ありがとう!図書館の予約本ラッシュが落ち着いたら読んでみます(*´...
      どんちゃん、こんばんは~♪
      『月まで三キロ』もじわっとくるのですね~!!
      ありがとう!図書館の予約本ラッシュが落ち着いたら読んでみます(*´▽`*)ノ
      2024/07/26
  • 伊与原 新さんの5つの短編集
    『八月の銀の雪』

    収録作品は以下の通り
    「八月の銀の雪」
    「海へ還る日」
    「アルノーと檸檬」
    「玻璃を拾う」
    「十万年の西風」

    連作短波集ではないので、空いた時間にサクッと読めるのも良いところ。短編でもしっかりと科学の浪漫に魅せられた伊与原さんらしさを感じられる。

    私は特に「八月の銀の雪」「玻璃を拾う」「十万年の西風」が好みだった。
    いやいや、3つも挙げすぎだろ笑
    って、どの短編本当に全部良かったというのが本音。

    各話毎に全くテーマが異なる。
    地学や海洋学、地形の進化論や気象学などなど、様々な学問の分野を小説と融合させることで、壮大な世界に誘ってくれる。
    理系に疎い方でも読みやすくてサクッと読める。
    この伊与原さんの独特で神秘的で真っ直ぐな世界観が心地良くて、いつまでもその余韻に浸りたくなる。

    そして伊与原さんの作品を読むといつも感じる。
    この世に人間に生まれて来られて心から良かった。
    束の間のこの現世を思いっきり謳歌しよう!と。
    何だか小っ恥ずかしく壮大なことを言ってしまうが、平気でこんなことが言える位に、伊与原さんの作品はスケールが大きいのだ。

    余韻を美しく残す作風も思いっきり好み♪
    短編なので詳しい内容は割愛するとして、
    未読の方は、ラストにも注目して読んでみて欲しい。


  • オビには「科学の揺るぎない真実が、人知れず傷ついた心に希望の灯りをともす全5篇」とある。
    「科学」が揺るぎない真実に辿り着くのはおそらくものすごく遠い未来だろうけど、現時点での最新の「真実らしきもの」に希望の灯りを感じる短編集。科学の力が主人公の内面に変化をもたらしていく。理系のようで文学的。

    伊予原新さんの作品は初めて読んだけどメチャクチャ面白い。他の作品も読んでみたい。

    2021年本屋大賞 第6位。


    八月の銀の雪 評価4
    地球の中心にあるもう一つの星に降る雪。

    就活連敗中の大学生と地球の内核を研究するベトナム人留学生の出会いの物語。


    海へ還る日 評価5
    クジラの考えごとは一体なんだろう?
    あるクジラには人間の倍以上のニューロンがある。
    そして、宇宙まで届く声で歌う。
    地上の我々は五感で世界を捉えるが、クジラたちは音で構築した豊かな精神世界を発達させている。


    アルノーと檸檬 評価3
    ハトや渡り鳥は磁場を視覚的に見ているのだそうだ。


    玻璃を拾う 評価4
    美しいガラス細工のような生物に魅了された偏屈なオタク男とサバサバ系女子の出会い。


    十万年の西風 評価5
    タイトルの「十万年」は発電後の放射性廃棄物の地層処分にかかる年月。ウラン鉱石と同程度に放射能レベルが下がるまでの時間。馬鹿馬鹿しく感じるが、原発の話をする時、決して避けてはとおれない事実だ。

    自然の成り立ちを垣間見ると利用したくなってしまうのが人間。時に、非常に危険をともなう使い方や、邪悪な使い方をしてしまう。
    迷うのはいつも、後世の人間。

    考えさせられる。

  • 人間って、大きな生命体の一部なんだ。
    と、しみじみ感じさせてくれる作品。
    伊予原氏は、地球惑星科学を専攻されていたとか。
    作者の背景を読んで納得です。

    五つの短編に登場する五人の語り手は
    全員、何かしら屈折した思いを抱えている。
    そして、それぞれ、自然の摂理に気づくにつれて
    近視眼的に見ていた周りの世界から解き放たれる。

    最初の短編『八月の銀の雪』に心をつかまれた。

    「地球の内核は、銀色に輝く星になっていて
    液体の外核に囲まれて浮かんでいる。
    内核は樹枝状に伸びた鉄の結晶で覆われている。
    それはまるで森のようで、鉄の結晶のかけらが
    ゆっくり、静かに、雪みたいに降っている」

    科学的な根拠に基づいていると思われる
    美しく 幻想的な描写にうっとり。

    ふと、ある画像を鮮明に思い出した。
    月の地平線から、宝石のように輝く地球が
    漆黒の宇宙を静かに昇っていくもの。
    JAXAが公開した「かぐや」から撮影されたものだった。

    当時、抱えきれないほどのものを背負っていたのだけど
    その息を呑むような美しさに心がふっと救われた。
    さぁ~っと別世界に連れていかれた気がして。

    ちょっと話がそれるかもしれないけれど、
    この作品にテーマソングをつけるとしたら
    松田聖子さんの『瑠璃色の地球』かな?

    • ☆ベルガモット☆さん
      yyさん、こんにちは!
      理系が得意でなくても読めそうですか?
      yyさん、こんにちは!
      理系が得意でなくても読めそうですか?
      2024/04/16
    • yyさん
      ベルガモットさん、コメントありがとうございます。
      私、理系は全然ダメです。

      静かな短編5作だったように思います。
      でも、読んでいる...
      ベルガモットさん、コメントありがとうございます。
      私、理系は全然ダメです。

      静かな短編5作だったように思います。
      でも、読んでいると宇宙や自然を感じるような。
      読んでからずいぶん経つので、はっきり覚えていなくて…。
      すみません。
      2024/04/16
  • 伊与原さんの紡ぐ、科学と人間を絡ませた物語にはいつも癒やされる。
    母なる大地・地球。
    5つの短編を読みながら自然に浮かんでくるこの言葉の意味を、読了した今、しみじみ噛みしめる。
    そして地球上に棲む全ての生き物を愛しく思えた。
    地球上の自然を全身で感じ取り、自然と対峙することは本当に素晴らしい。

    数多いる地球上の生き物の中で、何故人間だけが些細なことに惑わされるのか。
    何故もっとおおらかにシンプルに生きられないのか。
    ちっぽけなことに悩む人間たちをそっと優しく包み込んでくれる母なる大地。
    私も静かに耳を澄ませ、大地の声を聴いてみたくなった。

  • ふいに涙がこぼれる一冊。

    自然科学の浪漫溢れる言葉が心にスッと入り込んでくる。全部理解できなくても感覚でわかる心地良さ。

    そして幾重にも重なるような幾人もの現在進行形の人生と科学、人との出会いにふいに涙がこぼれる、この瞬間を何度も味わった。

    今ある悲しみもつまずきも壮大な自然に重ね合わせたらなんてちっぽけな一つだろう。
    でもそのちっぽけなありのままの自分を見つめ慈しむことが次へのステップへ繋がるんだろうな。

    「玻璃を拾う」の繊細な時間、距離感、いざなう自然界の浪漫に伊与原さんらしさが一番溢れていてキュッ。

    • くるたんさん
      地球っこさん、コメントありがとうございます♪

      そうなんです〜、なんか理系の人って意外な視点からものごとを見るのか…それがロマンティックに繋...
      地球っこさん、コメントありがとうございます♪

      そうなんです〜、なんか理系の人って意外な視点からものごとを見るのか…それがロマンティックに繋がるんですかね(≧︎ω≦︎*)
      この作品も良かったし、月まで三キロも良かったです♬
      私は池澤夏樹さん、恥ずかしながら未読です〜!確かめてみなければ!(≧︎ω≦︎*)

      あ、准教授5巻出ましたね〜!
      そちらにもドキドキしてます(*≧︎∇︎≦︎)
      2020/12/12
    • 地球っこさん
      くるたんさん、「月まで三キロ」も気になってます♪
      お正月休みはこの2冊読んでみようかしら。
      物理とか、天文とか、全くわからないのにロマン...
      くるたんさん、「月まで三キロ」も気になってます♪
      お正月休みはこの2冊読んでみようかしら。
      物理とか、天文とか、全くわからないのにロマンティックさを感じるのですよね~
      理系の人の視点!なるほどですね!

      そうそう、准教授!
      あー、もう読まなくては年を越せない本がたくさんありすぎ〰️笑
      2020/12/12
    • くるたんさん
      地球っこさん♪
      ぜひぜひ〜、ロマンティックと温かさを静かに味わえる作品ですよ。

      ほんと、読むペースが追いつかない!
      これも幸せなことなんで...
      地球っこさん♪
      ぜひぜひ〜、ロマンティックと温かさを静かに味わえる作品ですよ。

      ほんと、読むペースが追いつかない!
      これも幸せなことなんでしょうね(≧︎ω≦︎*)
      2020/12/12
  • 【ネタバレ】6人の読友さんが読む人気本、さらにスゴイ評価が高い。久しぶりにハートをキックする箇所がほぼなかった。あったとしたら表題作の「八月の銀の雪」。コンビニの店員・グエンが妹を想うがために身分を偽って働く大学院生の逞しさ、同じ研究者として伝わった。それ以外は、クジラ、鳩と檸檬、珪藻、原発と凧が出てくるが、科学と人間の葛藤のようなものが共感できなかった。直木賞の選評で桐野夏生、「一般の人々が知らないことを書こうとする小説は、どうしてもレクチャーじみてしまう。そして、それはパターン化しやすい。」これだ!②

    https://prizesworld.com/naoki/senpyo/senpyo164.htm  西條奈加 『心淋し川』圧勝!!

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著者プロフィール

1972年、大阪府生まれ。神戸大学理学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科で地球惑星科学を専攻し、博士課程修了。2010年、『お台場アイランドベイビー』で第30回横溝正史ミステリ大賞を受賞し、デビュー。19年、『月まで三キロ』で第38回新田次郎文学賞を受賞。20年刊の『八月の銀の雪』が第164回直木三十五賞候補、第34回山本周五郎賞候補となり、2021年本屋大賞で6位に入賞する。近著に『オオルリ流星群』がある。

「2023年 『東大に名探偵はいない』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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