石の虚塔: 発見と捏造、考古学に憑かれた男たち

著者 :
  • 新潮社
3.51
  • (6)
  • (20)
  • (25)
  • (4)
  • (0)
本棚登録 : 162
感想 : 23
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (287ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103362517

作品紹介・あらすじ

岩宿遺跡から旧石器発掘捏造事件まで、石に魅せられた者たちの天国と地獄。「世紀の発見」と言われた岩宿遺跡を発掘した在野の研究家、相澤忠洋。「旧石器の神様」と呼ばれ、相澤を支えた気鋭の考古学者、芹沢長介。二人の歴史を塗り変える「新発見」に、巻き起こる学術論争、学閥抗争、誹謗中傷――彼らに続いた藤村新一の「神の手」は、学界を更なる迷宮に。日本のルーツを巡る考古学界の裏面史を壮大に描く。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 旧石器発掘捏造事件へ至る、人間模様を描く、ノンフィクション。
    序章 オレたちの神様  第一章 岩宿の発見
    第二章 人間・相澤忠洋  第三章 芹沢長介と登呂の鬼
    第四章 前期旧石器狂騒  第五章 孤立する芹沢
    第六章 暴かれる神の手  最終章 神々の黄昏
    参考文献一覧有り。
    何故、旧石器発掘捏造事件は起こったのか?
    岩宿遺跡から事件へ至るまでの、人間模様と、その闇を描く。
    一介のアマチュア発掘者から岩宿遺跡を発見した、相澤忠洋。
    相澤と共に岩宿遺跡の発掘に携わり、旧石器時代の
    研究を邁進した、芹沢長介。(父は芹沢銈介)
    そして、藤村新一による捏造事件。
    事件へ至るまでの日本の考古学の体質の闇深さといったら。
    これらが捏造事件へ至るまでへの影響となるようだ。
    在野の研究者の発見に慎重で懐疑的な、学者たち。
    閉鎖的な体質からの、発見後の、反発、批判、誹謗中傷。
    学閥の権威に、学歴至上主義。学者も在野の研究者も派閥争い。
    それが「神の手」で多くの石器が発見されたことで、一変!
    捏造の決定的な証拠が出るまで、信じきっていた。
    まるで「東日流外三郡誌」の事件の如く。
    ただ、遺跡が国の史跡になったことや教科書に載った経緯と
    実際の事件についての記述が少ないこと、文中に画像が無いこと、
    更に、著者の推測な感じの記述が多いのが、残念。

  • 人脈でもなくコネでもなく、実力だけがものをいう単純明快な世界がどこかに残っていてほしい、とぼくは思うのだが、科学の世界もそうではないらしい。特に考古学のように、実験による再現が難しい分野ではその傾向が強いのかもしれない。大昔の徒弟制度を見るようだ。

    ただ、本書の目指すところがよくわからない。
    捏造を行った「神の手」藤村新一は本書の冒頭と終盤に登場するだけ。藤村が捏造に手を染めた理由に踏み込むわけではない。捏造を見抜けなかった考古学界の構造的な問題を考えようというのであれば、本書の大部分を占める相澤忠洋や芹沢長介、杉原壮介といった考古学界の重鎮たちの来し方行く末はどのように読んでよいのかわからない。彼らの軋轢は興味深いけれど、部外者としては彼らのプライドやこだわりより、彼らの考古学上の発見のほうが興味深い。でもそれを解説するのは本筋ではない。

    何が書きたかったんだろう?

  • 戦後から本格的に研究が始まった日本の考古学界の混迷っぷりは分かったが、作品としてのまとまりは今ひとつ。
    考古学関係者の色んな主張に混じって著者の考えも混じってよく分からなくなってる。
    考古学界自体の混迷と、作品としての混迷とがごっちゃになって「まあ、とにかく混迷してる」と読後感だった。
    例えば「Aさんは◯◯だ」という認識を読者に植え付けておきながら「Aさんは××だという意見もあった」みたいな違う意見を後々になってぶち込んでくる。

  •  副題に「考古学に憑かれた男たち」とあるように、日本旧石器時代研究の嚆矢となった岩宿遺跡の「発見者」相沢忠洋と、相沢の庇護者にして、後に捏造事件を起こす藤村新一を重用して旧石器研究をリードした芹沢長介を中心に、いわば「日本旧石器考古学の青春」を形成した考古学者たちの、まさに「憑かれた」というほかない野心と狂気をパーソナル・ヒストリーによって生々しく描いたノンフィクション。

     芹沢の論敵であった杉原荘介の再評価を行った点や、失脚後の藤村への本格的インタビューに初めて成功した点で注目されるが、人間関係や学閥の醜悪な縄張り争いに問題を還元している傾向があり、旧石器捏造事件に至る学術上の必然性についての考察は薄く、竹岡俊樹『考古学崩壊』(勉誠出版、2014年)や岡村道雄『旧石器遺跡捏造事件』(山川出版社、2010年)などとの併読が望ましい。修士論文を「分割」して投稿したことを「狡猾」と評するなど学問に対する無知が散見されるのも気になる。

  • 筆者の描く考古学の状況が興味深かった
    科学的検証が不充分のままというのが信じられない

  •  戦後日本の考古学史における、著名な人物や事件の裏側を辿ったノンフィクション伝記。
     岩宿遺跡の発見者、相澤忠洋。
     彼を支援した考古学の大家、芹沢長介。
     そして、旧石器捏造事件を起こした、藤村新一。
     神と呼ばれた彼らの半生を追い、本人並びに関係者を訪ね歩き、著者が焙り出したのは、日本考古学界の閉鎖的体質と、研究者たちの渇望、確執。
     それらが綿々と続き、繋がり、絡み合う中で、約束されていたかのように暴発したカタストロフィが、前述の事件だったのではなかったか。
     あの事件は、藤村氏一人に帰結するものではなく、在野の研究者を取り巻く環境、ひいては日本のアカデミズム界の核心を抉る、悪しきエポックメイキングであったと思われる。
     そうした実態を追究した本書の読後は、哀切なまでの後味の悪さが残り、部外者ながら、現状の体制の改善を望んでやまない。
     そして、著者が当初、理想を見出した取材対象者の長短や変質までも、臆せず妥協せず書き記さなければならないルポライターとしての苦渋に、読者も唇を噛み締めながら、賛嘆を贈るのである。

  • ノンフィクションでは対象の人物、ないしは分野の成り立ちの説明から始まり、それに関して「そんなのいいから盛り上がるとこ早く読ませてくれよ~」と思う事が度々ある。本作もそう感じながら読み進め、早く神の手による偽装のとこ読ませて!と思っていたが今回ばかりは大反省。面白い部分はまさに最初に書いたとこから浮かび上がる人達がいかに剥き出しで昭和っぽさ丸出し感と偉くなると共に権力化していき他を認めようとしない人の業なようなものが描かれた部分にこそフォーカスしているからこそこんなに良くも悪くも魅力的な人間達によるドロドロしたドラマがここにはあった。

  • 「七帝柔道記」の増田俊成推薦本。例の旧石器時代ねつ造事件に至る考古学の裏表を綴った熱いノンフィクション。しかしこの本の主人公は世間を唖然とさせたあのゴッドハンドではない。芹沢長介である。芹沢は、若い頃は積極的にアマチュアと関わり、相澤の「岩宿」発見を支えた。ところが、老いとともに、見る目が曇り批判精神を失い、自己を批判する論文さえ識別できなくなる。以前は憎んだ学閥に捕らわれ、イエスマンしか置かなくくなり、晩年は信頼していた弟子の藤沢のねつ造事件に巻き込まれる。。。人類の起源を問うロマン、発掘に自己の存在意義をかける個性の強すぎる変人な男達、その権力・名誉欲。。読み応えのある本であった。

  •  相澤忠洋氏の岩宿遺跡の発見については、多分教科書で知ったと思う。彼の著書の装丁は、ぼんやり覚えている。歴史に対する興味は持っていても、石器時代の発掘にまつわることまでは、手を広げて読んでいませんでした。でも、藤原新一氏の捏造事件では、一気に嫌悪感を覚え、考古学の文献や書物は、一切読むことはなくなりました。あれから、十五年もたったのです。この本によって、事件の概要や、考古学の変遷をたどることができ、幾分かは嫌悪感も静まったと思います。

  • 事件に関わった人に焦点をあてたドキュメンタリー。考古学というより明治の学内政治のえげつなさが白い巨塔ならぬ石の巨塔。

全23件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1978年、大阪府生まれ。大阪体育大学卒業後、ノンフィクションの取材・執筆を始める。2010年、『日本の路地を歩く』(文藝春秋)で第41回大宅壮一ノンフィクション賞受賞。2012年、「『最も危険な政治家』橋本徹研究」(「新潮45」)の記事で第18回編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞大賞受賞。著書に『被差別のグルメ』、『被差別の食卓』(以上新潮新書)、『異邦人一世界の辺境を旅する』(文春文庫)、『私家版 差別語辞典』(新潮選書)など多数。

「2017年 『シリーズ紙礫6 路地』 で使われていた紹介文から引用しています。」

上原善広の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×