路地の子

著者 :
  • 新潮社
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感想 : 44
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103362524

作品紹介・あらすじ

大阪・更池に生まれ育ち、己の才覚だけを信じ、食肉業で伸し上がった「父」の怒濤の人生。「金さえあれば差別なんてされへんのや!」 昭和39年、大阪――「コッテ牛」と呼ばれた突破者、上原龍造は「天職」に巡りあう。一匹狼ながら、部落解放同盟、右翼、共産党、ヤクザと相まみえる日々。同和利権を取り巻く時代の波に翻弄されつつ、逞しく路地を生き抜いた男の壮絶な半生を、息子である著者が描く異色のノンフィクション。

感想・レビュー・書評

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  • 著者の、食肉業でのし上がった父の生きざまを綴った物語。
    エネルギッシュな主人公に引っ張られるかのように一気読み。
    屠殺の仕事、被差別部落、同和利権…と、知ることもなかった世界、考えたこともなかった世界、血と熱と金が溢れる世界を初めて知った。

    屠殺シーンは衝撃だったし、イメージしていた同和という言葉をひっくり返すような、お金が絡んだ裏の姿も衝撃的。
    おわりに綴られた著者の言葉がなんだか良かった。
    この作品、父を描くことであの時の父、自分を客観的に見つめ向き合えたのかも、そんなことを感じた。

  • 屠殺について知っておきたいと思って。
    ノンフィクション作家の上原善広さんが〝路地〟と呼ぶ大阪松原市・更池で、食肉仲卸会社を一代で築いた父親の半生について書いている。文章からはずっと湯気立つような熱気を感じる。
    そもそも食肉業という仕事が、かつての差別と大きく関わっていたということを初めて学んだ。
    昭和40年代まで、更池は住民の8割が食肉関係の仕事をする被差別部落で、部落解放運動が盛んだった頃の世風も詳しく言及されていた。激動の時代だ。

    部落問題は現代ではタブー視されていて、私たちは知る機会がほとんどない。
    どこが同和地区かを問い合わせることも人権侵害なんだそう。
    差別は絶対に許されないことで、今尚その土地の住人がいるのだから興味本位がいけないのは分かる。
    だから、もはや知らなくても良い過去になったのかもしれないけれど、ただ事実を隠すだけが、正しい流れなのかどうかには疑問が残る。
    出版においても、歴史の一つとして確かにあった言葉を、なんでもかんでも差別語として排除していく風潮はどうなんだろう。それこそが差別なんじゃないだろうか。

    〈書き終えてはっきり思ったのは、私たちは、どこに住もうが更池の子であるということだ。
     更池という地名はもう残っていない。かつて路地がなくなれば、人に蔑まれることもなくなると考えられた時代もあった。今もそう考える人は少なくない。しかし逆説的なようだが、更池の子らが故郷を誇りに思えば思うほど、路地は路地でなくなっていくのではないだろうか。〉

    これからも書き続けてほしい。他の著作も読んでみよう。

  • 梁石日さんの「血と骨」を思い出した。生きることに必死になるって、何かを犠牲にするのは必然なん?貧困、暴力、家庭崩壊。。。なんで共通するん?でも、力強いわ。ほんまに力強い。

  • 「ある精肉店のはなし」(映画)とセットで読むと、より深みが感じられそう。

    こういう仕事をしている人がいて、肉を食べることができる。
    そのことを知ることは、大事なことだと思う。

    今後、このような仕事はどのように変貌していくのか、気になったりもする。

    払ってもいい金額:900円

  • 筆者の父親の一代記なのだが、いやはや、凄まじい内容だ。

    あまりにも破天荒で、フィクションなのではないか、
    と疑いたくなるぐらい、現実離れしている。

    とても理解したとはいえないが、知らない世界を垣間見たような心地がした。

  • 東京生まれ東京育ちだと、部落差別に対してはリアリティーが無く、遠い世界の話のような気がします。特に世代を重ねた僕ら団塊ジュニアまで行くと話題になる事すらないです。学校で習った以降口にした事もないです。
    ところが関西の知人と話したりすると、結構カジュアルに差別発言が有ったりするので(あの地域はどうしたこうしたとか)、結構衝撃受けたりしました。
    食肉関係の仕事への蔑視や実際の仕事については、色々な本を読んだので勉強できている自負はありましたが、利権がらみの裏側の話はよく知りませんでした。
    この本は筆者の父親である上原龍造の一代記で、食肉産業の隆盛から利権の巨大化。狂牛病や震災での消費縮小迄を追いかけて書かれています。
    龍造のやくざ顔負けのいかつさは、文章で見ると勢いがありますが実際に目の前に居たら心が休まらないであろう、独善的を絵に描いたような父親です。梁 石日の「血と骨」の実録みたいな話です。
    すぐに包丁持って大暴れしてしまう血気盛んで直情径行な龍造。それでも商売の才覚は並外れていてその嗅覚で窮地を潜り抜け、部落解放同盟、右翼、共産党等の諸々と離散集合しながら発展していきます。まるで小説のように書いているので、次第にその一代記にのめり込んでしまっている自分に気がつきました。
    こういった差別と触れていない僕のような人間からすると、被差別部落の事は蒸し返さず静かに忘れていくべき事なのではないかと思ってしまいますが、忘れて蓋をするものでもないのかなと読んでいて思い直しました。部落(路地)を故郷としている人達にとっては大事な思い出の詰まった街なのですから。
    僕にとっては非常に興味深いアウトローなエンタ-テイメントでした。

  • 大阪・松原市更池の“路地(同和地区)”に生まれ育った著者が描く父・龍造の一代記。あまりの峻烈・激越な生き様に圧倒されっ放しのまま一気読み。今年文句なしのベスト1。

    さて、本論。のっけから紙面に引き込まれる。屠場で熟練の男たちが黙々と牛割り(屠る)シーンに息を飲む。屠られたばかりの肉や内臓の温かさ、1頭の牛が商品になるまでの各工程に息づく職人芸をドキュメンタルに活写。その熱気漂う現場に小競り合いが起こる。龍造が牛刀を持ちヤクザ者を執拗に追い回す。その蛮勇さから更池の「コッテ牛」と恐れられた型破りな少年は「金さえあれば差別されへん」の信念の元、まさしく徒手空拳で食肉業界に乗り込む。

    当時の食肉業界地図は社会党系の解放同盟が牛耳り、その牙城を切り崩そうとする共産党系の正常化連・全解連。自民党系では同和会、そこに右翼に極道が入り乱れ、三国志さながらの利権闘争が渦巻き、無学な龍造が頼りにするのは自身の感覚のみ。どこに与するのがプラスになるのか。その一点で次から次に降りかかる難局に対峙していく。

    巻末の「おわりに」には、年老いた父 龍造との現在の関係、著者の自殺未遂、そして路地との関わり…を綴る。これがまた切なく、この「おわり」の一章を書きたいがために、ノンフィクション作家になったのではないか。エレジー奏でる凄絶なノンフィクション。#路地の子 #上原善弘 #新潮社 #食肉業界 #同和問題 #おっさん近ごろ乱れ読み #おっさん読書

  • 「路地」という言葉のもう一つの意味。学校の歴史で軽くながすだけの被差別部落の、今も続く問題たち。普段何気なく食べている牛肉が、牛から肉になるまでにかかわる多くの人、絡まる利権、政治的思惑。いくつもの、知らない、というか見てこなかった話に驚くばかり。食肉偽装がここにつながっていたってことも驚いたし、右翼左翼共産極道の複雑な関係にも驚いたし。「橋のない川」は昔々の話じゃないのだな。

  • 著者の父の話。ノンフィクション。
    血と骨を思い出した。

    東京生まれ東京育ちで周りからこの界隈の話は出たことがなく教科書で習った程度。社会人になってから気になりはじめネットで調べたもののやはりリアルではなく未だに話題に出ない。


    数年たちまた興味が出て差別関連の本を読みここにたどり着いた。
    ヤクザ、利権、朝鮮、のワードはそうだよねと思ったけど共産党は知らなかった。

  • 自分とは環境が何もかも違う人の話。
    食肉業者が実際はヤクザと裏で繋がってたり右翼と繋がってたり、億単位のお金を持ち逃げしたりすることを知れた。
    全て本当ではないのら確かだが、ゼロから書けることではないから八割方は事実だと思っている。そう考えるととても怖い世界だなと実感する。そして失うものが何もない人が一番怖いのかもしれないと改めて思った。この本の主人公の人も失うものが何もないから常に人を殺す気で喧嘩をして、そして自殺してしまう人も孤独が原因だったりするし。

    私の周りにエタ、ヒニンなどと言った差別はないけどそういわれて差別されてる人もいるしそれを悪用する人もいる。自分が居るはずがない世界に少し飛び込めてとてもよかった。

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著者プロフィール

1978年、大阪府生まれ。大阪体育大学卒業後、ノンフィクションの取材・執筆を始める。2010年、『日本の路地を歩く』(文藝春秋)で第41回大宅壮一ノンフィクション賞受賞。2012年、「『最も危険な政治家』橋本徹研究」(「新潮45」)の記事で第18回編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞大賞受賞。著書に『被差別のグルメ』、『被差別の食卓』(以上新潮新書)、『異邦人一世界の辺境を旅する』(文春文庫)、『私家版 差別語辞典』(新潮選書)など多数。

「2017年 『シリーズ紙礫6 路地』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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