- Amazon.co.jp ・本 (139ページ)
- / ISBN・EAN: 9784103370734
作品紹介・あらすじ
母と私の間には何があったのか――。注目の新鋭が親と子の繊細な関係を描く二篇。父の不在。愛犬の死。不妊の疑い。実家の片付け。神社の縁日。そして謎のカセットテープ。離婚した母とその娘との、繊細で緊張感ある関係を丁寧に描き出した表題作。死の淵にいる娘を為すすべもなく見守る父の苦悩を描く第155回芥川賞候補作「短冊流し」を併録。圧倒的描写力と研ぎ澄まされた想像力で紡ぎ出す新鋭の飛翔作二篇。
感想・レビュー・書評
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芥川賞を取った高橋弘希さんの短編2本の一冊。先日の受賞記者会見のぶっきらぼうな様子からは繋がり難い文体で初めは女性が書いた本みたいな印象でした。不思議な癖になる文体ですね。「スイミングスクール」 「短冊流し」どちらも短いけど秀作です。彼の ほかの作品も読んでみたくなりました。
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淡々と語られるストーリーは実体験のごとく情景が浮かび上がり、筆者の描写力に感銘さえ覚える。タイトルや序章からほのぼのとした内容かと思いきや予想を裏切る展開に引き込まれた。
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うすら恐ろしい。
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愛犬の死後、スイミングスクールに通うと言い出した娘を持つ母の気持ち。
母となって、思い出される自分の母との記憶と幼少期。
日に日に泳ぎを覚えてくる娘の成長。
母と一緒に録音したカセットテープのこと。
他短編。
自分の不貞のせいで妻と別居している期間に
熱を出しそのまま意識が戻らなくなった幼い娘を見舞う日々。
2つの話も落ちはない。
著者の話は結末がどうとかじゃなくて、繊細で陰影のある文章や雰囲気を楽しむ感じ。
それが心地よい。
スイミングスクールのバスに乗り遅れた娘の悲壮感、
大人になれば大したことのないそんなことだけど、子供の時は確かにそうだった気持ちを思い出させてくれる。 -
高橋氏初の現代劇、親子の関係性を描いた二篇のその冷え冷えとした空気感に戸惑いを隠せない。夜驚症で泣き叫ぶ子供に「ざまぁみろ」と薄笑う母親にも驚くがそれを通り越して唖然としてしまうのは脳症で娘を失う瞬間にも傍観者然とした冷静すぎる父親の姿。その感情は「指の骨」にある死が恒常化する戦場での諦観や達観とまるで変わらないのではないか。
いったい何を伝えようとしているのか?少なくとも私の頭の引き出しの中にその鍵はなかった。
思いを巡らせるほどに深まる心の闇、これを単に世代の違いだからと済ませてよいわけではあるまい -
子どもと、昔子どもだった母。
淡々と日常が語られて、ちょっとひりつくような、危ういんだけど、何事もなく、そんな感じ。 -
表題作ではひなたとお母さんのやり取りが淡々と記載されており,特にイベントはないが,深谷の家を売却する場面が何故か気になった.「短冊流し」は綾音の闘病生活の話だが,お父さんの気持ちがうまく表現されていた.
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2017.10.28 図書館
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高橋弘希「スイミングスクール」読了。
図書館の新着図書の棚で心惹かれたので借りてみました。
うーん...ストーリー云々よりも主人公の娘の年齢設定9-10歳はミスじゃないかな。言動や出来事が幼すぎるのが気になって話に入れず。 -
「スイミングスクール」の、雨が近づいた空気の匂いが立ち込めると、みるみるうちにこの物語と自分の記憶の混じる世界の中に吸い込まれていった。
自分の物語ではないけど、自分が日常的に、無意識に感じ取っているものに気づかされる作品だった。
何となく思い出さないようにしている、大したことじゃないはすなのになんか辛い。
そんな罪悪感や憂いをずっと持て余している。
高橋さんの文章は一本の糸のような感じがする。
「短冊流し」は、娘が元気になることが家族の別れにつながるという、ちょっと異様な複雑さを感じた。 -
表題作、日本語として違和感ある文章がちらほら。 併録の芥川賞候補作はそうでもないのに。編集の手の入れ様の違い?
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あらすじを読んでみてすぐに気になった作品。
不穏な空気感、意味ありげな情景描写、緊張感のある文体、そういうのすべて好みでした。
ただ「スイミングスクール」と「短冊流し」の、どちらも上手く感想をまとめることが難しい。
自分がこの小説を読んで何を感じたのかが自分でもよく分からない。ただ心が確かにざわついた。
9歳の娘ひなたをスイミングスクールに通わせることにした早苗。
自分もかつてスイミングスクールに通っていたな、と早苗は自身の幼少時を回想していく。
母との確執、伯父との関係、まだ赤ん坊のひなたにぶつけた言葉、録音したカセットテープ。
どうにもならない過去があり、これからも続いてく日常がある。
夏空に高く放り投げたひなたの乳歯は、どこか分からないけれど今もどこかに落ちたままだ。
もう一編の「短冊流し」は、妻と別居中の父親が主人公。
上の子である5歳の綾音を引き取っての生活が軌道にのったと思ったが、突然の熱性けいれん。
意識がもどらない綾音をなすすべもなく見守るしかない無力感が、切ないほどひしひしと伝わってきた。
七夕の願い事が書かれた短冊を、流すということ。どんどん流されていく短冊を、ただ眺めていること。 -
「短冊流し」第155回芥川賞候補。
高橋さんは若手作家の中で数少ない注目株の一人で、この人の作品は追い続けようと思っている。
これまでの二作はいずれも時代設定がかなり前で、それが文体と相俟ってこの人独自の世界観を作っていたものの、だからこそこの人が現代を舞台にした作品が読みたいと思っていた。
そしてこの本に収められている表題作と「短冊流し」は、いずれも現代に近い時代が舞台となっている。
「文学とは何か」という問いに明確な答えを自分は持っていない。そしてこの作品集の作品たちは、どちらの作品も何か明確な主張があったり、劇的な展開があったり、高度な実験がされている訳ではない。しかしこれは文学だ、と強く感じた。
おそらくその理由は、圧倒的な描写力だと思う。前二作でも発揮されていたが、この人の作品は「書かれていること」それ自体が強い力を持っている。
正直、表題作は少し危うい橋を渡っていると感じた部分もあった。物語の引きになっているカセットテープの顛末や、その他の部分など、与えられた物語性が却って全体をチープにしかける場面もあった。
芥川賞の候補になった「短冊流し」は、島田雅彦氏も評していたが短すぎるというか、物語の導入部だけ読まされたという感覚になった(おそらくそれこそが作者の意図なのだろうと思うが)。
とまあ文句を言ったが、やはり若手では頭一つ抜けた実力の持ち主だと思う。現代を舞台にしたら瓦解するのではないかと思ったけれど、それに耐える筆力のある人だと分かった。
この人は多分どこかで大化けするのではないか。それを楽しみに待とうと思う。