- Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
- / ISBN・EAN: 9784103392019
感想・レビュー・書評
-
明治四十三年に沖縄に生まれた著者が、少年期の記憶などをもとに大正時代を中心とした戦前の沖縄の庶民生活を描いた、著者自身が「文字による風俗画」と定義するエッセイで、昭和五十二年から翌年にかけて琉球新報に連載されたものから抜粋、集成したのが本書です。当時の雰囲気を伝えるための工夫として、沖縄言葉を標準語になおさずに収録すると同時に、ページ下部に沖縄言葉の注釈を置き、読み手が参照しやすいよう配慮がなされています。エッセイとしての記述自体は、出版から四十年近くが経過した現在でも読みやすく洗練されながらも、のどかな雰囲気を併せもつ文章で綴られており、日本エッセイストクラブ賞の受賞が頷けます。ちなみに著者は初代ベストドレッサー賞受賞者でもあるそうです。
本書は全三部に分かれています。以下、興味深かった点などの一部を抜粋して列挙します。
----------
【第一部 「「うちなあ」風貧乏物語」】
少年期の記憶から大正時代の沖縄庶民生活において、「貧乏暮らしであったとしても、悠々と時間を過ぎ去るがままに」過ごす様子を描く。
・いくつかの職業について(運搬人、人力車、豚の種付け、鋳かけ)
・貧しくても食を美味しくすることに対する工夫
・著者が落とした「マブイ(魂のようなもの)」を呼び戻す儀式のエピソード
・那覇と首里の地域差
・跋扈する虫たち(蚊、蠅、蟻など)と、「殺すには及ばない」人生哲学
【第二部 「うちなあ女」の肖像】
かつての沖縄女性たちの社会における在りかたについて。
・農村部では性生活に対して開放的な面があった
・対照的に首里や那覇のような都会地は倫理的束縛が厳しかった
・「辻」という色町と、そこで働く「ずり」と呼ばれた女たち
・「辻」「ずり」と一般社会との結びつきについて
・いい妻の条件は働き者
【第三部 「うちなあぐち」の黄昏時】
「うちなあぐち(沖縄言葉)」と「やまとぐち(標準語)」をめぐる変遷を中心に、「うちなあんちゅ」の性格にも多く言及している。
・気を利かせることが不得手で、直接的な表現をする「うちなあんちゅ」
・学校教育と「やまとぐち」
・人殺しはほとんどおこらない
・徹底されている年長者を立てる美徳(長寿地域の秘訣)
・上下関係が明確な沖縄言葉と、フラットに使える日本語
・「墓>畑>屋敷」の価値観と、現世と死後の区分が薄い独特の死生観
・戦争を経由することで一気に埋没した「うちなあぐち」
【あとがき】
「うちなあんちゅ」の性格:南島人ならではの「てえげえ(大概)」の気風について
・さっさと立ちあがろうとしない、完璧にやろうとしない、ほどほどにする
・貧しさにさえ楽しめる要素を見つけて楽しむほどノドカな性格
・争いも徹底せず、「てえげえ」は紳士的美徳
----------
現在にもつながるであろう、戦前の沖縄庶民の考え方や風習を伝えてくれる貴重さとともに、現代社会についても再考させられる部分もあります。そのうえで、現在においても十分にリーダブルで魅力的な本書が絶版となっていることを、惜しく感じます。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
著者が病気になった妹のために書いた本。
浜比嘉島の本屋の一角にあった古本コーナーで発見。
戦前の沖縄の暮らしが、当時の言葉とともに綴られている。とても活気があって、当時の日差しや湿度、町並み、道なりまでが思い浮かぶ。
ウチナーグチが無くなることによって、見えなくなっていく世俗文化。書かれた時から既に40年。金太郎飴のような国になっていないか、多様性の意味を履き違えていないか。沖縄本島でも多様な文化を有し、そこに各島々の文化が重なり合う。
『沖縄の民』を先に読んでて良かった。