影の中の影

著者 :
  • 新潮社
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感想 : 48
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  • Amazon.co.jp ・本 (347ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103395317

作品紹介・あらすじ

猛き男たちよ、中国の暴虐から罪なき民を守り抜け! 人民解放軍による悪魔の所業から逃れ、日本潜伏中のウイグル人亡命団と、事件を追う女性ジャーナリストが襲われた。 証拠隠滅をはかるべく送り込まれた中国の刺客。 それを黙認する弱腰の日本政府と警察。 絶体絶命の亡命団に、謎の男が救いの手をさしのべた。 頭脳明晰、身体屈強。ロシア武術を極め、情報機関にも裏社会にも怖れられる存在――。 こいつは一体何者なのか? その手がかりは、謎の言葉「カーガー」 最注目作家の最強ヒーロー誕生!

感想・レビュー・書評

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  • 野心に燃えるジャーナリスト仁科曜子は、ネタとして追っていたウィグル族に関する情報提供者を目の前で殺されてしまう。
    やがて曜子に接触してきた亡命者グループの人々は、中国がウィグル族の人々に対して行った数々の非道な民族浄化と人体実験の生き証人だった。

    彼らを抹殺するために日本に潜入した中国の暗殺者たちから曜子たちを助け出したのは、『カーガー』と呼ばれる謎の男・景村。
    そして、曜子を守るために送り込まれた武闘派暴力団『菊原組』の新藤をはじめとする男たち。

    警察も、外交上の理由から彼らを守ってはくれない。
    明日の朝6時までを生き延び、アメリカ政府の保護下に入ることができるのか。


    …と書いてみると、なんてヤボなあらすじ。
    ごめんなさい。

    強大で理不尽な力に抗う亡命者たちのため、命を賭して闘う男達の血の熱さに、ヒリヒリしながら走り抜ければそれでいい!という感じ。

    いくらでも非情になれる政治や暴力の世界に生きる男たちが、ときに抑えきれない人としての情のために、公には出来ない立場で誰かを救い出したい時、「影の中の影」である「カーガー」に全てを託す。
    「人は裏切るものだ」と知りながらも、「決して裏切らない」と信じることができる相手を得た喜びは、汚い世界に生きているからこそ、得難いもの。

    殺人に快楽をおぼえる異常者・樋口の中にさえ、感謝や思いやりの心があることにも、ぐっとくる。


    こうしてみると、月村さんの作品が好きなのは、戦闘シーンを華麗に描きながらただの暴力礼賛にならず、女性や子供の陵辱をやたらと描かず、かといってただ弱いだけや色っぽいだけ、優しいだけの都合のいい存在として済まさないところかな。
    いわゆる「ハードボイルドアクション」を読んでちっともスッキリしない時は、たいていこのあたりがダメで、勝手にやってろ!という気分になるんだけど、どうやらその匙加減がイイのです。

  • 2020/06/23読了
    #このミス作品29冊目

    元警視で婚約者を殺された主人公が
    正義のヤクザとタッグを組み、
    中国組織とそれに加担する悪徳警備局長と
    戦う構図が面白い。
    戦闘シーンも迫力満点のハードボイルド小説。

    しかし中国共産党の新疆ウイグルに対する
    陰謀パートについてはすごく生々しい。

  • ウィグル人亡命者を中国の暗殺集団から守るために壮絶な闘いを繰り広げるアクションサスペンス。とにかくスリリングで息もつかせぬ展開です。
    謎の男「カーガー」が主役なので、彼が強くてかっこいいのは当たり前なのですが。むしろかっこよくて凄いと思えてしまうのは、菊原組の面々ですね。見せ場とか凄すぎ。超絶殺人鬼までがかっこよく思えてしまうのはかなり凄いと思いました。あんな人本当にいたら大変すぎるのに!(笑)
    曜子のジャーナリストとしての葛藤も読みどころです。真実を追究することとジャーナリズムの存在意義には、考えさせられることが多そうです。

  • 面白い。タイトル通りの作品だと思った。
    主人公が形成されていく過程や迫りくる罠と暗殺部隊との戦闘シーン、ヤクザとウイグル人との友情などを現実の国際問題に上手く絡めていて濃密な内容だった。
    あの国ならやりかねないな。

  • 月村小説を読むと、ぞわぞわする。これは、大昔、私たちのずっとずっと祖先が狩りをしていたころのDNAなのかな。闘う本能、とでもいおうか。
    何のために誰と闘うのか、はヒトそれぞれだし、そこに正義とか大義とかがあるかどうははわからないけど、それでも闘わざるを得ない人間たちの強さと弱さが混じり合いうねりとなって突き抜けていく。
    民族の問題、国同士の外交問題、その大きく根の深い闇の部分、うかつに触れると火の粉をかぶる、けれど知らない顔して通り過ぎることはもうできないところまで来ている。
    多分、私たちはこの小説から、その一歩先へ進む時を迎えているのかもしれない。
    それにしても、カッコいいオトコたちよ。このカッコよさを別の世界で発揮できたら…と思ってしまった。

  • 国際的な問題をテーマに、ひたすらのエンタメに徹する筆致は相変わらず見事。今回はウイグルを巡る中国の陰謀。ただ、いくつもの不満もあった。
    まず、とびきりの謎であるはずの「カーガー」の秘密と素性があっけなく明らかになってしまうこと。新藤をはじめとする任侠の味方の人数が多すぎ、その各々のエピソードが冗長に過ぎるということ。(新藤の単細胞キャラは邪魔だったし、殺人鬼の味方はいらなかった。)中国の蝙蝠軍団たるものがあまりに弱すぎるということ。国際社会、警察組織の闇のいちいちにジャーナリストたる曜子が過剰に驚きすぎるということ。曾埜田の悪役ぶりがステレオタイプ過ぎるということ。なにより、同じような戦闘シーンが長すぎて冗長過ぎた。
    ストーリーの骨子は面白く、ラストシーンの余韻も好きだが、途中の戦闘シーンの中弛み感が半端なく、期待はずれだった感は否めない。

  • 月村了衛さん、「ガンルージュ」「槐(エンジュ)」面白かったです。この2冊は武闘派女性の息をつかせぬアクションでした。「影の中の影」(2015.9)も一息に読了しました。とにかくテンポがいいです。仁科曜子というジャーナリスト31歳とウィグル族を中国の特殊部隊から守ろうとするヤクザと「カーガー(沖縄の方言で影法師)」たる元警察庁キャリア。タイトルにあるように「影」たるカーガーが主役ですが、私としては随分「ヤクザ」に魅せられました!

  • 良くも悪くも映画的な話。それにしても最近のこういったポリティカルなフィクションの悪玉の定番として中国が定着してきたが、中国だから特殊部隊が中国拳法とか中華式武器というのもどうかなという感があるし、やくざがここまで根性が座っているというのも古き良き時代への憧憬の様で、現実感を欠いている。ただし、話としては十分に面白く、アクション映画の脚本としては必要十分であろう。

  • 残念。期待が大きすぎた。
    中国がウイグル自治区で行っている民族浄化の被害者であるウイグル民たち。中国の非道な人体実験の生き証人でもあるため在日アメリカ大使館を目指すがそれを阻止しようとする中国特殊部隊。証人達を守ることになったルポライターと彼女を護衛する武闘派ヤクザ&伝説の傭兵。掴みは面白いのだけど、話が練りこみ過ぎと言うか、各々のキャラをドラマティックに描き過ぎ。
    最後はペントハウスでの死闘が延々と描かれるのだけど、そこを盛り上げるために小さなドラマをいくら盛り込んでも、どれも今まで読んだような(見たような)話が多く、幕の内的なイメージがつきまとううえ、その描写がアクション描写のテンポをそいでしまっている。
    全体的に話のリズムが今一つ乗り切れなく感じたのも月刊誌の連載と知って納得。
    これだけの書き手だからこそ、もっと高いレベルの作品を期待してしまった。
    月村氏の作品は(特に現代を舞台にした場合)、必ずサブテーマがあって、今回はウイグル自治区に対する中国の弾圧。それはわかるのだけど、この構図、そしてその後の追撃戦の話の展開が「土漠の花」と重なってしまったのも残念。
    これが他の作者であれば文句ない出来なのかもしれないが、月村氏だとつい期待も大きくなってしまった。
    この作品も他の作品の例にもれず多分に視覚的なので、映画化するとずっと分かりやすくテンポの良い作品になりそう。

  • ちょっと人が死にすぎるので面白いというと語弊があるが、ヒーロー物はエンタメとして面白い。少数民族問題には暗澹たる気持ちになるのでただ面白いとは言えないが、ヤクザ達のキャラが立っていてその組み合わせが絶妙。絶望的状況からの脱出、危機一髪のヒーロー、その中での人の覚悟。。ハリウッド的分かりやすいエンタメ好きなもので途中から一気に進みました。

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著者プロフィール

1963年、大阪府生まれ。早稲田大学第一文学部文芸学科卒。2010年『機龍警察』で小説家デビュー。12年『機龍警察 自爆条項』で第33回日本SF大賞、13年『機龍警察 暗黒市場』で第34回吉川英治文学新人賞、15年『コルトM1851残月』で第17回大藪春彦賞、『土漠の花』で第68回日本推理作家協会賞、19年『欺す衆生』で第10回山田風太郎賞を受賞。近著に『暗鬼夜行』『奈落で踊れ』『白日』『非弁護人』『機龍警察 白骨街道』などがある。

「2021年 『ビタートラップ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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