負け逃げ

  • 新潮社
3.25
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感想 : 16
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  • Amazon.co.jp ・本 (262ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103395515

作品紹介・あらすじ

逃げたい、逃げなきゃ。でも、どこへ? 野口は、この村いちばんのヤリマンだ。けれど僕は、野口とセックスしたことがない―― 大型スーパーと国道沿いのラブホが夜を照らす小さな町で、息苦しさを抱えて暮らす高校生と大人たち。もはや人生詰んでるけど、この外でならば、なんとかなる、かも、しれない。あきらめと若さが交差する、疾走感に満ちたデビュー作。

感想・レビュー・書評

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  • 0132
    2019/08/20読了
    田舎の村で暮らす人たちの話。
    こういう町での暮らしは本当にこんな感じなのかな。閉塞感を感じているのかなあ。
    どの話も好き。
    全ての話にちょこちょこ出てきてその後が知れるというか。
    みんなそれぞれ幸せになってほしい…。

  • 甘美なはずの「故郷」「家族」は、かくも閉そく感が漂い、逃げ場も救いもないものか。こんなに辛く、淋しいのに、人たちは不道徳な行為でしか自分を保つことが出来ない。家族のための自分か、自分のための家族かの両立はとても難しい。家族の囚われの身となり、泥にはまり込んでしまった「ろくでなし」の登場人物たちはまさに私自身。私は奨学金を貰い東京に逃げて、大学を出た。家族という轍に身動きができない人たちの息苦しさが筆になる。変わらない、変われない。選べない。決められない。R-18受賞作の中で私の一番かな。表題も好き。l

  • 「R-18文学賞」受賞作家らしい濃厚な空気感と全体を覆うやるせなさがすごく印象的な連作短編集だった。章毎に語り手を替えながら綴られる、登場人物達の倦んだ日々。体にまとわりつくような閉塞感が何とも息苦しいのだけど、何故だかそんな現状から目がそらせない。
    どの章も印象的だったが、年齢的に共感できたのは、くたびれかけた中年の、高校教師のヒデジと志村先生の章。悩み、嘆き、もがき、諦め…そんな感情の揺れの描写が秀逸で、意外な展開にも驚かされた。
    結構ほろ苦いストーリーではあるけれど(その後がどうなったのか気になる人物はいるけれど)読後感はそう悪くはなかった。思った以上に余韻を引きずる作品だなぁと自分でもびっくり。何が「勝ち」で「負け」なのかなんてわからないまま日々は続くわけだけど、惑いつつも今の自分を受け止めながら生きていく彼ら、彼女らのこれからの幸せを願いたくなる。余韻を引きずるのはそれが理由だからだろうか。

  • 文学

  • R-18文学賞受賞作をふくむ短編集。
    ど田舎の村を舞台に、そこに住む高校生や大人たちの生きづらさを描いています。
    ここまで力強い筆致のデビュー作というと、窪美澄さんの「ふがいない僕は空を見た」が思い出されました。

    「僕の災い」
    受賞作。教室内では優等生の野口さんの本当の姿を知ってしまった田上。
    特別なことなんて起きない退屈な退屈な村で、出会ってしまった僕だけの厄災。
    誰とでもセックスする野口とどうして自分だけはやれないのか、もどかしさと苦しさがないまぜになった田上の心理描写はこちらまで心臓がひりついた。

    「美しく、輝く」
    カースト最下層の美輝ちゃんと真理子は、漫画家になりたいという夢を共有している。
    鈍臭くて不器用で、人をイラつかせる才能をもつ美輝ちゃんのくせに、自分より先にこの四角く閉じ込められた村を出て行ってしまうかもしれないことへの焦りは私も分かる。
    これは朝井リョウみたいな話だった。

    「蠅」
    村の高校に勤める中年教師、秀雄の不倫話。
    村を出て行こうとして、結局出て行けなかった大人のあきらめと現実感にここで打ちのめされた。
    ここで死んでいく。そう再確認するのはなんて恐ろしいことなんだろう。

    「兄帰らず」
    小林は、家を出てったっきり帰らない兄の部屋で、彼女を無理やり犯す妄想でしかオナニーできない。
    家族とのわだかまりや彼女とのすれ違い、小さな村で家業を継ぐこと。
    ある意味では健全な男子高校生らしい悩みや葛藤が描かれているような気もする。

    「けもの道」
    この話が一番好き。
    秀雄の不倫相手、同じ高校の教師で家庭もある妙子の話です。
    夫とは冷え切って娘は反抗期、行き場のない鬱憤やストレスを浮気することで発散するしかない妙子が気の毒だった。相手がよりにもよって秀雄ってところもやるせない。
    村も、家族も、仕事も、すべてを捨てて出て行けたらどれほど清々するのか。

    「ふるさとの春はいつも少しおそい」
    ヤリマン野口さんの話。
    誰もが知り合いのような小さな村で、右脚に障害を抱えて生きることの重さ。
    どこにも行けないと思っていたのは自分だけで、本当はどこにだって行けるんだ。
    子供が思ってるより大人は子供のことを分かっている、という事実の重みを感じた。
    春のやわらかさあふれる希望に満ちたラストでした。

  • 高校時代がかすんでしまうほど遠くなってしまった今の私にも
    この物語はヒリヒリとした痛みとやるせなさ、
    そしてほんの少しの懐かしさを胸に刻んでくれました。
    退屈と倦怠と噂話ばかりが蔓延する村社会で、
    自分の足で歩いて行く目的地すら自由に選べない
    高校生の彼や彼女たち。
    親の望み通りじゃなくたっていい、
    びっこをひいて不器用に歩いて行ったっていいじゃないか。
    彼らの行く末に光がありますようにと
    祈るように本を閉じたのでした。

  • あまりエロくなかった。

  • 初めての作家さんでこれが処女作。ちょっとこじつけめいているけど、しっかりご自分の言葉で書かれている。
    僕の災い…突然噴火する火山のように、足の不自由な女の子への想いが噴出する。
    美しく、輝く…これが女の嫉妬なんだろうか。友情よりも嫉妬の方が勝る。
    蠅…確かな手ごたえがなく意志も薄弱な男。半乾きのシャツを着て外出する気分。
    兄帰らず…お母さんは自身の深い悲しみに負けず、家と子を守るため自分を犠牲にしている。蛍が出てくる所でほろっときた。
    けもの道…よくあるパターンだけど、結末は予想外。まさか自転車がトリガーになるとは。
    ふるさとの春はいつも少し遅い…ひとつ成長した少女のすがすがしいエンディングに共感。爽やかな風が淀んだ部屋の空気を一掃した気分。

  • ど田舎を舞台にした人生詰んでる高校生や大人を描いた連作短編。閉塞感溢れる田舎で繰り広げられるお話は誰もが何かを諦め何かを求めている。登場人物は皆不恰好でそれが何とも愛しい。ラストが清々しく読後感もいい。映像化して欲しい。

  • 想像以上によかったので驚いた。
    R18文学賞は選考委員が変わって、また賞自体の雰囲気もがらりと変わってしまってから、わたしの肌に合わず敬遠していたのですが、なんとなくきになりこちら手に取ったところ、ずっとずっと良かったので驚いています。
    たとえるなら山内マリコさん+窪美澄さん。「ここは退屈迎えに来て」+「ふがいない僕は空を見た」って感じ。つまりいいとこどりです。
    町というのも恐れ多いくらいの田舎町に住んでいる高校生とその周りの保護者を視点に動く連作短編小説。
    デビュー作の第一章:僕の災いから始まるのだが、この章はまぁわりと普通。秀でたものはとくにないのだが、第二章以降から秀逸。とくに第二章:美しく、輝く、第四章:兄帰らずがなかでも素晴らしかった。
    第二章の漫画家志望の真理子と同じく漫画家志望のクラスで端っこにいる美輝とのやりとりは、うわーーーーーと叫びたくなるなにかと、心臓をぎゅっとひねられる痛みがあった。ラストが意地悪すぎて、悲しすぎて、その後の美輝がすごく気になる。(真理子はほかの人の章でもちらりとでてきたのだが)
    ※特設サイトで第二章読めます。(2015年10月現在)
    https://www.shinchosha.co.jp/wadainohon/339551/
    また第四章は高校2年生男子の葛藤を描いているんだけど、ほんとギリギリ。SMだとか、妄想の中だけで好きな人にひどいこと、犯したりなぐったりして射精するとか、それ以外にも家族間がギリギリすぎて切なかった。目頭熱くなった。

    閉鎖的な村と呼べるような町のなかでの人間関係がとにかく生々しい。わたしは東京都で生まれ育ったので想像の範囲でしかないが、2種類に分けられるのだろう。ここから出たいと切望する人間と、出ないと決めた、あるいは出れない人間とに。

    唯一残念だなと思うのは本のタイトルセンス。個人的には“負け逃げ”は全然しっくりしないし、タイトルで幾分損してる感、否めないな。
    今後このままの作風で勝負してくるのかわからないけど、二番煎じ感ぬぐえてないし、センスは山内マリコさん、筆力は窪美澄さんのが格段上なので、次回作どう出てくるのか楽しみです。

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著者プロフィール

1986年、福島県生まれ。2012年「僕の災い」で第11回「女による女のためのR‐18文学賞」読者賞を受賞。同作を収録した『負け逃げ』でデビュー。著書に『仕事は2番』。本作は結婚を考えていた元恋人へ、自分とは正反対の親友へ、母の再婚相手へ……大切な人に伝えられなかった本音や秘密を、瑞々しく綴った短編集。

「2022年 『君には、言えない』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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