ヒトごろし

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 546
レビュー : 86
  • Amazon.co.jp ・本 (1088ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103396123

作品紹介・あらすじ

殺す。殺す殺す。ころしてやる――。新選組の闇に切り込む禁断の真説! 人々に鬼と恐れられた新選組の副長・土方歳三。幼き日、目にしたある光景がその後の運命を大きく狂わせる。胸に蠢く黒い衝動に駆られ、孤高の剣士の犯した数多の罪とは――? 激動の幕末で暗躍し、血に塗れた最凶の男の真実が今蘇る。京極夏彦史上、衝撃度No.1! 大ボリュームで贈る、圧巻の本格歴史小説の誕生。

感想・レビュー・書評

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  • とりあえず、すげーお・も・い(物理)。

    土方歳三を中心に、独特な切り口で新撰組の栄枯盛衰が描かれてます。
    新撰組ファンの方には怒られそうですが、土方と沖田がサイコパスっつーかシリアルキラーっつーか、いわゆる社会病質者であるという解釈なんですな。
    おおうそうきたか! と、びっくりはするけど、何かしっくりきたりして。
    ぶっちゃけ新撰組ってめっちゃ迷走してるじゃないですか。教科書的な解釈じゃ、イマイチ理解できなかったんだよ。そのあたりも、この切り口だと納得できたり。

  • 今までにないような新選組が描かれているので賛否両論あると思うが、私はめちゃくちゃ好きだ。
    この作品は土方歳三という「ひとごろし」について書きながら、人を殺すことの重みを説いていたように思う。
    なにがあろうとも人を殺してはいけない。
    人殺しを美化しちゃいけない。
    それらが、土方の頭の切れの良さと相性抜群の論理的な文章で書かれている。

    今までにないような新選組なのだが、物語は史実に沿って展開していく。ただ、輪郭は同じでも中身が全く違うのがおもしろい。
    他の多くの作品と一貫しているのは、土方は頭が切れるというイメージ。性質だ。
    物語が進むにつれて土方の価値観のようなものの輪郭もだんだんと形成されてく。
    「ひとごろし」の鬼の副長が誕生する過程は、他の作品では味わえないものがある。

    人は、性質と役目が合わないと役に立たないらしい。
    土方には頭が切れるなどの性質以外に「ひとごろし」という性質もある。
    では、役目は。鬼の副長だけだろうか。
    やはり「ひとごろし」なのだろうか。
    土方の最期からは、もっと他の何かが感じられたような気がした。

    まだまだ理解したとは言えないし、お気に入りの台詞もたくさんあるので何度も読みたいと思うのだが、いかんせん重すぎる。
    この本はそういう性質で、役目なのだろう。
    そこがいいのだから。

  • きょ、京極先生が新撰組ーーー?!
    予想外の組み合わせにワクワクしながら開いてみると、やはり一筋縄ではいかなかった。
    最初の方は土方と沖田のあまりの人でなしぶり&同じことをずっとぐるぐる考えているのにちょっと疲れてしまったが、京に着いた辺りから京極新解釈がバシバシ入って面白くなった。
    そう来るか、というところがたくさんあって新鮮。
    1000ページ超えだがあっさり読み終えた(行変えが頻繁だからもあるのだけど…。ページを文が跨がないようにという先生のこだわりのためでもあるんだろうか…個人的にはもうちょっと段落がまとまっていた方が読みやすい)。
    京極夏彦が描く女性は好きなことが多く、今回もお涼さんに惹かれた。
    山崎、齋藤が魅力的だったのもありがとうございます先生…。

  • 読む鈍器。それこそ刀のように研ぎ澄まされた静謐さと硬質さを持った土方歳三像に痺れる。とっくに時代遅れだと知りながらもヒトごろしのヒトでなしであるが故に武士という立場にあり続けた生き方がひたすらにカッコいい。完全に個人的な感想なんですが、土方歳三って強くて自立してるのにも関わらずどこか危うそうな感じがして異性を「私が支えてあげなきゃ(使命感)」と勘違いさせるような雰囲気を持っているような気がする。本当に個人的な感想。あと沖田くんと土方さんの仲が最悪にギスギスしてたのも嬉しかった。たまにはこういう2人も悪くないよね。沖田くんの美少年路線も後年の創作だし...新撰組に対する先入観をとっぱらって楽しめる良作でした。

  • 相変わらずなんとも物騒なタイトルの京極夏彦最新作。ブックカバーなしに人前で若干読みづらい。そしてこの本自体が人殺しとして鈍器に使えそうな結構な重量です。
    内容は土方歳三を語り手にした新撰組のお話。京極夏彦がそのような史実を下敷きにした小説を書くのって珍しいなあ、とちょっとびっくり。人を殺すことにたいして執着しつつもいろいろと考える土方像というのもなかなかに新鮮ではありました。他者に対して「ごちゃごちゃ考えるのはくだらない」くらいの態度であるのに本人はやたらとごちゃごちゃ考えるのがなんかちぐはぐな印象でもありましたが。
    歴史小説として、あるいは史実としての新撰組に興味が深い方からしたらいろいろ別の感想もあるのかと思いますが、そこまで詳しくない自分は「なるほど、こういうことがあったんだな」といろいろ興味深く楽しめました。もちろん人物像とかはフィクションだと認識したうえで。

  • 流石に、1000ページ超の本はなかなかボリュームがありました。
    主人公は土方歳三ですが、司馬遼太郎の『燃えよ剣』などに代表されるような、ある種「理想的」な人としてはまったく描かれていません。
    歳三は「ひとごろし」に憧れて、合法的に人を殺めることができる立場を得るためだけに新選組をつくり、自身の欲を満たしていきます。

    沖田もサイコパスで歳三と同じく殺人に取り憑かれた男として描かれ、京極夏彦の解釈もおもしろいと感じました。

    なにより、人外の化け物である歳三が、幕末の武士たちよりも世の中をある意味冷静に見つめていて、人の生き死にについてもしっかりと考えていることが印象的でしたし(自身の手にかけて人のために命を奪う、ということに執着しているので、具体的に感じられない「戦」を忌み嫌っていました)、確固たるビジョンをもたずに、その場の流れに諾々と従う多くの人々の姿に、現代への批判も感じることができました。

    個人的には楽しく読みましたし、京極夏彦の新選組の人物像にも納得行く部分も多くありましたが、いわゆる「新選組ファン」には納得できない表現も多いかもしれません。

  • 主人公は土方歳三。新撰組副長である。その子ども時代から、死ぬまでを歳三の一人称限定視点で描いている。だから、歳三の眼から見た幕末史でもある。だが、通常のそれとは趣がちがう。新撰組隊士の中で土方が脚光を浴びるようになったのは、司馬遼太郎の『燃えよ剣』あたりからだったろうか。連続TVドラマにもなり、新撰組を陰で動かしていたのは副長の土方だったという見方が定着した。

    それは、この京極の土方も踏襲している。ちがうのは、土方が近藤をみこしに担ぐ理由である。この男は「ヒトごろし」がしたいのだ。それも汚い殺し方ではなく、刀で切り殺し、鮮血が迸るところが見たい。小さい頃に不義者が惨殺されるところを見て以来、自分も殺したくてたまらない。実家が火事に遭った際、どさくさに紛れて祖母ともう一人を手にかける。まだ悪童時代のことだ。それからも、生家の薬を売りながら関東一円の道場を覗いては木刀で闇討ちをしかける悪さを繰り返していた。強いことは強いのだ。

    子どもの頃から知っていた勝太が、近藤家の養子になり、名を勇と変え、道場をやるようになる。そこに食客として来ていた山南敬助に三人の暴漢を切り殺すところを見られたのをきっかけに、近藤の道場に集まる一人になる。その頃、幕府から身分、前科の有無を問わず召し抱えるという知らせが入る。道場に集まる浪士と行動を共にして、京に上ることを決めたのは、士分になれば、上の命令によって堂々と人が殺せるからだ。元より群れるのは嫌いだが、近藤を担ぐことでそれが可能になると踏んだのだ。

    人の命を奪うことについての哲学的(?)考察のようなものが、何度もくり返し出てくる。歳三一人のモノローグもあれば、相手を変えてのダイアローグもある。歳三は自分を人外(にんがい)だと思っている。人を殺すことは単にそうしたいからするだけで、殺したからといって楽しくもなんともない。親兄弟でも、仲間でも殺すと思ったらためらわず殺せる。そこに、主義主張もなければ感情もない。一種のバケモノである。

    芹沢鴨暗殺も池田屋事件も仕組んだのは歳三だ、ということになる。佐幕も討幕も関係ない。ただ、人殺しがしたいだけだ。前半は一種のピカレスクロマンとして読める。しかし、形勢逆転して、幕府の旗色が悪くなってくると雰囲気が変わる。前半は歳三の寡黙のせいで一文で改行するのが目立つ。スカスカなのだ。それがページが字で埋まってくる。史実との兼ね合わせもあるし、歳三が自分の考えを饒舌に語るようになる。内的独白が増えるのだ。

    なにより、剣で人を切る時代ではなくなっている。人殺し専門の集団が、兵となって戦(いくさ)に出るようになる。これでは話がちがう。第一、爆死は美しくない。歳三に疑問が生じる。人一人殺せば犯罪だが、千人万人殺す戦争は良いのか、という例の命題である。それを行う武士という階級の存在の是非である。死ぬ直前の山南敬助との対話には、時代の変化についていけない侍に対する批判が披瀝されている。大きく時代が動いている時に、いつまでも武士などという階級の倫理が通用するものか、と山南の思想は揺れている。

    めでたいことに明治150年だそうだが、黒船に脅されて日本中が大騒ぎになっていた時代とミサイルに脅される今の時代がどうやら重なって見えているようだ。武士も百姓もどちらが偉いというものではない。みな役割なのだ。みこしとして担がれる方には担がれるだけの意味がある。それをふだんは上から目線で威張り散らしておきながら、大事な時に責任を取ろうとしないから。みこしの役がつとまらない。

    歳三は理屈ばかりを言い、理想を語る人間を好まない。その割には、よく考える。よく物を見ているし、人の動きも見ているから、次にどう動くかが読める。理屈を語る人間は世界を理屈に合わせようとする。世界は理屈では動かない。行動しなければ何も動かないのだ。早い話が今の日本だ。理屈の上ではとっくに詰んでいる。担ぐみこしを間違えて、ここまできたが、どう考えてもここまでだろう。それなのに、みこしが降りようとしない。引きずり下ろすことができなければ民主主義など絵に描いた餅だ。

    志士などではない、ただの人殺しを自認する主人公が、時代の転換期に遭遇することで、闇雲に突っ走るうちに次第に世界が見えてくる。自分一人が「人外」と思っていたのに、どうやらまともだと思っていた多くの人間の方がおかしいことが分かってくる。そうなると、やっていることは変わらないのに、「ヒトごろし」が、人を助ける側に回ってしまっていることに気づかされる。真剣に考え、果敢に動いたことが歳三を変化させてしまったのだ。世界を変えることはできずとも、人は自分を変えることはできる。

    新撰組隊士のキャラクターの描き分けが面白い。斎藤一は、いかにも斎藤一だし、吉村貫一郎の金の亡者ぶりも『壬生義士伝』そのままだ。ただし金は国元に送っていないただの守銭奴だが。その訛りを聞いていると、中井貴一の顔が浮かんでくるのには参った。歳三はオリジナルのキャラなので、栗塚旭の顔にはならない。沖田総司も歳三と同じ人殺しに飢えたバケモノなので、島田順司の顔ではない。史実にフィクションを取り交ぜて、話はうまく収めている。厚く重いので、寝ながら読むのは難しいが、一気に読める。

  • この本の土方歳三はヒトでなしすぎてあんまり好きになれないけれど、それでもとてもかっこよかった。
    狂っているようで誰よりもまとも。
    最後まで生きる気満々で転戦していくのはこれまでになかった描き方で新鮮。
    ラストは涙涙でした。

  • 舞台は幕末。混乱した時代。その不安のせいか、熱病にうなされたか、大なり小なり大義名分があれば、個人の裁量で殺人が許されてしまう社会。
    そんなものはおかしいんだ。いい人殺しなんてもんはありえない。とぶったぎるのは新選組副長・土方歳三。
    ただ、彼自身は殺人衝動をもっているサイコパスなんです。

    ぶっ飛んでいるのは、沖田の方ですけどね。快楽殺人犯。
    同じ性質を持つ土方と沖田。衝動のまま殺すことに抵抗のない沖田と違って、土方は殺しのライセンスを作り上げようとします。公に殺しを行ってもいい状態。そのための新選組です。

    私情が天誅と名を変えて、正当化される殺人。
    戦争の中で、一人の人間としてでなく、一兵士という戦闘単位失われていく命。

    どちらにも、人を殺すことは大罪だ、と断言。一刀両断です。
    ただ、そういう土方自身が殺人衝動を抱え込んで、何度も殺人を実行しているという人間。

    『一人殺せば殺人者。百人殺せば英雄』とはよく言ったものですが、人殺しはどれだけかっこつけても大罪人だと突きつけられてます。
    古今東西の英雄譚に突きつけてますね。

    しっかし、相変わらず分厚いです。

  • 分厚い。圧倒された。
    「壬生義士伝」で号泣した口だが、この土方歳三像はかなり気に入ったし、こんな沖田総司は世の新選組感をひっくり返したのではないか。私的には斎藤一への興味が増した。

    この作者にしかできないでしょう、1083頁のハードカバーを手に取って読もうと思わせることは。読み終えて、平成最後の夏にひとつやりきったという達成感が味わえた。

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著者プロフィール

’94年『姑獲鳥の夏』でデビュー。’96年『魍魎の匣』で日本推理作家協会賞受賞。この二作を含む「百鬼夜行シリーズ」で人気を博す。’97年『嗤う伊右衛門』で泉鏡花文学賞、2003年『覘き小平次』で山本周五郎賞、’04年『後巷説百物語』で直木賞、’11年『西巷説百物語』で柴田錬三郎賞を受賞。’16年遠野文化賞、’19年埼玉文化賞受賞。

「2020年 『文庫版 今昔百鬼拾遺 月』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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