空から降ってきた男:アフリカ「奴隷社会」の悲劇

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103500612

作品紹介・あらすじ

彼はなぜ命を懸けて欧州を目指したのか? 難民問題が生んだ愛と悲しみの実話。ロンドン郊外の住宅地の路上で、ひとりの黒人青年がB777から墜落し息絶えていた。彼の持ち物はわずかな現金と携帯電話だけ。ジュネーブ、ケープタウン、アンゴラ、モザンビーク―― SIMカードに残されたデータを頼りに事件の謎を追い、真相に迫るなかで見えてきたのは、現代の奴隷社会と言うべき過酷な現実だった。

感想・レビュー・書評

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  • 考えさせられる本

  • 飛行機から墜落して亡くなったモザンビーク人の人生をインタビューで辿る。テーマは面白いけど、ただのインタビューと旅行記で浅い。副題をもっと追うべきだったのでは。

  • 「貧困は相対的なものである」この意味を正しく認識し直した。比較対象を認識しなければ、貧富の差に気付くこともなく、貧しさに悩むこともない。生きてていくのがやっとであったとしても、生まれ育ったコミュニティで生活していく、それが幸せだったのかもしれない。1日あたり何ドル以下の極貧生活という表現に意味はない。
    物質的豊かさを求めて、故郷を捨てて国外まで出稼ぎに行く。グローバリゼーションの影の部分がこの事件なのであろう。
    しかし、もう過去には戻れない。

  • なんとも切ない。貧困から脱したかった、賄賂が蔓延る国から出たかった、等々理由はあるだろうけれど、やっぱり彼女の元に行きたいというのが大きかったんだろうなあ。ロマンティック過ぎるかな。

  • ☆なぜアフリカ人男性は飛行機に密航してロンドンに向かおうとして、墜落死したのか。

  • 航空機の主脚格納庫に潜んで密航しようとして、墜落し、息絶えた青年の話。恋愛とその結末(失恋)の話でもある。

  •  これは貧困と搾取が生み出した、一人の男の悲劇的な恋の末路だ。

     ロンドン、ヒースロー空港近郊の道に頭から血を流した男が横たわっていた。
     近所の住人は朝、外で大きな音がするのを聞いた。
     現場検証に来た警察官は、ヒースロー空港へ着陸していく飛行機を見上げていた。

     男の名はジョゼ・マタダ。
     アンゴラ発ヒースロー行の飛行機の車輪格納庫に忍び込んで密航しようとしたが、高度一万メートル、マイナス60℃の酸素の薄い空気で体力を消耗し、着陸時に扉が開いたときに落下して時速200kmで地面に叩きつけられて墜落死した。
     
     奴隷社会の絶望と、一人の女性に希望を賭けた。
     アフリカ社会の現代を追うノンフィクション。

  • ・アイデンティティを保つムスリム
    様々な国の血が混じり、アフリカなど色々な国を渡り歩き、数カ国語を操れるジェシカは自分が何者であるか分からなかった。しかし最初の夫の影響でムスリムになり、イスラム教徒というアイデンティティを保つことができた。キリスト教徒だった頃は宗教的な自覚をあまり持たなかったようだ。イスラームの何が人々をそこまで信仰深くさせるのか、まだ私にはまだわからない。

    ・差別する側とされる側
    モザンビークがポルトガル植民地だった時にそこへ渡った人はポルトガル人の中でも裕福ではない人達だった。だからこそ植民地において富への執着がすごかった、という旨の記述がある。これがアフリカ全体に共通することならば、黒人差別はそのような貧しい白人の余裕の無さから生まれたのではないか。
    植民地時代は白人が黒人を奴隷としていた。時代が変化した今は黒人が黒人を奴隷としている。ジェシカはメイドさんを人として扱いたかったが、大富豪の黒人一家はそうは考えていなかった。ジェシカはそこに大きな違和感を感じている。

    ・裕福を知ったマタダ
    村にいた頃は大人しく良い子だった。しかし都心に出稼ぎに行き、世の中には富める人がいる事を知ってしまった。そして身近にジェシカが居るからこそ、尚更自分の境遇に嫌気が刺してしまった。最後の方ではイマームに家族はいないと言っている。貧乏社会と縁を切りたかったのだろう。

    ・汚職文化のモザンビーク
    いくら役人に金を払っても出生証明書やパスポートが出来上がらない。富めるものは富み、貧しい者は貧しいまま。

    ・独立後の混乱
    植民地から独立してもその後に待つのは内戦。独裁政権を転覆してから国内が収集つかなくなるのと同じ。

    ・法に守られる社会
    アフリカは賄賂社会であり、金さえあれば警察だって何だって操ることができる。そしてムスリム文化も手伝って、夫婦の揉め事に警察は口を挟まない。家族、親戚間で解決すべき事柄だからだ。
    しかし欧州では家庭内問題に法の力を及ばせることができる。人は家族単位でなく個人単位で見られるのだ。

    ・筆者のイスラーム理解について
    筆者は終始ジェシカとマタダに性的関係があったのに、ジェシカは否定しているのではないかと疑っている。しかしムスリムに相当強く影響されていた2人が婚前交渉に及ぶ事は例えひとつ屋根の下にいた事実があっても考えられない。本来であれば同室に寝ることすら神に反している上に婚前交渉を冒すことは、当時究極に追い詰められ、神にすがるしかない2人には起こりえないと私は思う。
    私の仲の良い敬虔なムスリムの友達は「イスラムでは正式に夫婦間以外の性交渉を認めていない点で非常に優れている。神に反することはできないから。」と言っていた。

  • 豊かさを求めて無謀な密航を試み、非業の死を遂げた男。彼の死を通して植民地支配の歴史や人種間格差、「病めるアフリカ」について説き明かす…。
    というような内容かと思って手に取ったが、まるで違った。主題は道ならぬ恋と、「ファム・ファタール」に運命を狂わされた男の悲劇である。

    他レビューにもあるように、「空から降ってきた男」ジョゼが生命を懸けて愛した「ファム・ファタール」ジェシカにはまるで共感できない。トリリンガルの語学力とそこから来る稼得能力、そして何よりヨーロッパの国籍と白い肌を持っているならば、もっとずっとうまい立ち回りようがあったはずなのだ。彼女がもう少し賢明であれば、ジョゼも彼女自身の父親も、きちんと救いえただろう――いや。
    彼女がもう少し賢明であったなら、ジョゼや彼女の父親は、愚かな彼女の愚かな行動に巻き込まれて、あたら不幸になることもなかった。

    と、対ジョゼの点ではまるで同情できないジェシカだが、対前夫の点で彼女を貶す意見には、これまたとうてい賛同できない。「一方の言い分しか聞かないで…」と、前夫のDVをあたかもジェシカのでっちあげ、虚言のように言い立てる向きは何なのだろうか。噴飯ものの痴漢「冤罪」もそうだが、そんなことをして女性に何の得があるというのだ――DVをしでかそうが性犯罪を犯そうが、そんなもので男はけして破滅などせず、依然としてこの超男尊女卑社会で我が世の春を謳歌し続けるという「不都合な真実」は、とっくに明らかになっているというのに。ことさらに「前夫推定無罪論」を言い立てる一部の人々からは、抑圧されつつも懸命に口を開いた女性の証言を矮小化し、無効化しようとする男性社会の圧力を強く感じた。

    人種において白人は、男女において男は、夫婦において夫は、貧富において金持ちは、たとえ判断を誤り、道を外れて愚行をなそうとも、いくらでもリカバリーが可能である。その一方で貧しいマイノリティは、いかに真面目に正直に生きようとも、踏みつけられ続けるよりない。
    本書はそんな冷厳な現実と、重苦しい絶望をつきつけられる本である。紙面の埋め草のような小さな記事からそこまでの話を引き出した点において、秀逸なルポルタージュだと言えるだろう。

    2017/11/15読了

  • ロンドン五輪に引き続いて行われたパラリンピック閉会式の日。ロンドン
    郊外の住宅地。通行人からの通報で駆け付けたスコットランド・ヤードの
    捜査員たちは、路上に倒れている黒人男性を発見する。

    周辺住民の話では警察が到着する前に「どすん」という何かが落ちる
    ような音が聞こえたと言う。捜査員たちは空を見上げる。上空には
    ヒースロー空港へ向かう旅客機がひっきりなしに通過していた。

    頭部の激しい損傷、耳に詰められた丸めたティッシュペーパー。警察
    は男性が何らかの理由で航空機の主脚格納庫に潜んで密航しよう
    として格納庫が開いた際に墜落したとの結論に至った。

    持ち物はアンゴラ紙幣2枚とボツワナ硬貨1枚に携帯電話。他に男性の
    身元が確認できる持ち物はなかったのだが、携帯電話とは別にポケット
    に入っていたSIMカードの通話記録からスイスに住む白人イスラム教徒
    の女性と連絡が取れ、遺体の身元が判明する。

    路上で亡くなっていたのはモザンピーク出身のジョゼ・マタダ。彼の身元
    を確認した女性はジェシカ・ハント。本書はこのジェシカへのインタビュー
    が大半を占めている。

    以前のジェシカの結婚相手はカメルーンの大富豪一族の一員。その家で
    使用人として働いていたのがマタダだ。

    当初は平穏な結婚生活ではあったが、夫の家族から財産目当てだと疑わ
    れ、使用人から監視される生活のなかで孤独感を募らせたジェシカが心の
    安らぎを求めたのが物静かな青年であったマタダだ。

    これがマタダがロンドン郊外で墜落死する遠因になる。前夫の支配から
    逃れる為のふたりの逃避行。しかし、離婚も成立しておらず職もない
    白人女性と貧しい黒人青年との放浪は時を置かずに破たんする。

    ジェシカは母の助けを借りてヨーロッパに戻る。必ずマタダを呼び寄せる
    との約束をして。

    私はこのジェシカの気持ちがまったく分からない。抑圧された結婚生活
    のなかでマタダに救いを求め、手を取り合って逃げ、マタダがヨーロッパ
    に渡れるようにすると約束までしたのに、前夫との離婚成立後に別の
    男性と結婚している。

    「弟に注ぐような愛情」だとジェシカは言う。だが、マタダにしたらどうだった
    のだろう。ジェシカとの結婚を夢見ていたのではないだろうか。

    本書はサブ・タイトルに「奴隷社会」との言葉が入っている。アフリカのなか
    でも、同じ黒人の社会の中でも貧富の差は明確だ。モザンピークは国全体
    が貧しい。だから、マタダは故郷を離れ出稼ぎに行っていた。

    出稼ぎ先で豊かな暮らしに触れた。貧困からの脱出を夢見たこともある
    のだろう。その夢を実現できるかもしれないとの希望をマタダに与えた
    のもまた、ジェシカではなかったか。

    だから、少しでもジェシカへの近くへと危険を冒して旅客機での密航を
    決行したのではないだろうか。気温は氷点下に下がり、酸素の薄くなる
    主脚格納庫に身を潜め、マタダは何を思ったのだろうか。切ないわ。

    著者はマタダの故郷であるモザンピークの村を訪ね、思ってもみなかった
    貧困の現実に直面している。これは私にも衝撃だった。マタダの死によって
    残された家族・親戚も辛い現実に直面していた。

    昨今の移民問題の影も部分も理解出来る良書。著者がマタダを描く時の
    優しさが余計に悲しみを感じさせる。

    それにしてもジェシカなんだ。彼女へのインタビュー部分を何度か読み返し
    たけれど、結局は自分のことしか考えていないんじゃないか?と言ったら
    酷だろうか。

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著者プロフィール

1964年滋賀県生まれ。88年毎日新聞社入社。カイロ、ニューヨーク両支局長、欧州総局(ロンドン)長、外信部長、編集編成局次長を経て論説委員。2014年、日本人として初めて英国外国特派員協会賞受賞。『柔の恩人 「女子柔道の母」ラスティ・カノコギが夢見た世界』(小学館)で第18回小学館ノンフィクション大賞、第23回ミズノスポーツライター賞最優秀賞をダブル受賞。著書に『十六歳のモーツァルト 天才作曲家・加藤旭が遺したもの』(KADOKAWA)『踊る菩薩 ストリッパー・一条さゆりとその時代』(講談社)など。

「2023年 『中世ラテン語の辞書を編む 100年かけてやる仕事』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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