最後の秘境 東京藝大:天才たちのカオスな日常

著者 :
  • 新潮社
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レビュー : 407
  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103502913

作品紹介・あらすじ

入試倍率は東大の3倍! 卒業後は行方不明多数!! 「芸術界の東大」の型破りな日常。才能勝負の難関入試を突破した天才たちは、やはり只者ではなかった。口笛で合格した世界チャンプがいるかと思えば、ブラジャーを仮面に、ハートのニップレス姿で究極の美を追究する者あり。お隣の上野動物園からペンギンを釣り上げたという伝説の猛者は実在するのか? 「芸術家の卵」たちの楽園に潜入した前人未到の探検記。

感想・レビュー・書評

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  • 異世界です。ジャンルを『異世界ファンタジー』にして登録したいくらいの異世界です。題名の『最後の秘境』はダテじゃない。
    副題の『天才たちのカオスな日常』もそのまんま(でもカオスなのは主に美校側かも…笑)。

    筆者の奥さんが現役の東京藝大生(彫刻科)で、冬の深夜に半紙を顔に貼り付けていたり、亀の椅子を作り出したり、テーブルに藝大の生協で買ったというガスマスクが無造作に置かれていたりするあまりの面白生態ぶりに、自ら東京藝大に乗り込んでインタビューしまくったルポ。読み進めていくと、感覚が変になってきて、テーブルにガスマスクなんて普通かもと思ってしまう。
    全編がほぼ藝大生のインタビューで成っているのだけど、どこを切り取っても面白い。音校側と美校側が全く違う雰囲気なのに、全体として見事に融合している異空間なのだ。
    一部の匿名の人を除いては、実名と専攻が挙げられているので、気になる人を検索すると作品や演奏が出てきて、面白さが倍増する。
    特にお勧めなのは青柳呂武さんの口笛によるチャルダッシュ。何も知らないで聴き出した夫が「何これ?」と手を止めて、一緒に最後まで聴き入ってしまいましたよ…。神業です。

    そもそも、藝大の入試の実技試験問題からして斜め上。斜め上の問題に立ち向かった合格者の逸話もどれもこれも斜め上。凡人には一生かかっても思いつかないようなことを、数時間でやり遂げてしまうのです。恐るべき発想力、創造力、実行力。
    藝大の試験問題はインターネット上でも見れる。
    例えばデザイン科の実技試験では、3つのモチーフ(ブロッコリーとチェーンと任意の形体)からバランスをテーマに美しい立体を完成させなさい、とか。ブロッコリーとチェーン?バランスをテーマに?美しい立体?…でも参考作品見たら確かにブロッコリーとチェーンがバランスをとって美しい立体になってるの、みんな天才か(あ、本当に天才なんやけども。)。デザイン科の過去問と参考作品はどれもこれもめっちゃ面白いです。時間忘れて見てしまいます。

    ちなみに、令和2年度の絵画科油画専攻の実技試験問題は、『絵を描きなさい』だった。問題考える時間なかったの?それとも毎年問題考えるの面倒になっちゃった?(笑)
    「こんなのはどうです?」「うーん…過去問に似たようなのありますなぁ…」
    「ではこんなのは?」「うーん…ちょっとつまらんですなぁ…」
    「いっそのこと、『絵を描きなさい』では?」「ふむ…シンプルですな」「もうそれでいいかもしれませんな」「まぁ、いいんじゃないですかそれで」「はい決まり決まり」
    …的なやり取りを勝手に妄想する。いずれにしても教授陣、フリーダムにも程がある。

    そして、東京藝大の学園祭、藝祭の楽しそうなこと!!朝から晩まで6箇所のコンサート会場で行われる演奏会、自分の作品を出品するアートマーケット、所狭しと並ぶ彫刻・日本画・工芸品・インスタレーション・現代アート・アニメに映画の展示物、変化球だけのミスコン、夜更けのサンバ…。
    藝大の神輿で調べたら出てくる出てくる、超ハイクオリティでハイテンションな神輿たち。
    時間と若さと情熱と。ただ圧倒されるだけの熱量だ。いつか行きたい。 

    ★4.5

  • 読んでみて初めて東京藝術大学の面白さというか凄さがわかりました。
    東京藝大ってこんなところだったんだー!

    「普通の」学問や技術を身につける大学とは趣が随分と異なっていて、「芸術」を身につける大学ってやはり一味も違う「天才」たちの集団なんですね!(笑)
    しかも少数精鋭で、「大学」というよりも徒弟制度の集団がいくつも集まって構成されている組織みたいな感じになっていて、「芸術」とは古来より現代に至るまで少数相伝で担われてきたということがよくわかりました。
    文中に「東京藝大は芸術界の「東大」なのではなく、東大が学問界の「東京藝大」なのだ」という話がありましたが、古来の「芸」という観点からするとむしろこういう話もなるほどなあと。(笑)
    日本の「芸術」ってこういう人たちに担われていたんですね。学長が絶叫するのもよくわかります!(笑)
    とりあえず、大学祭には物凄く行ってみたい気になりましたよ。

    さて、本書の構成は、藝大生である著者の妻の行動が奇異であることに興味を持ち、藝大生に対して次々とインタビューをして得た奇天烈な思考や言動を載せるという形式でしたが、最初は面白いと思いながら読んではいたものの、結局、最後までこのスタイルのままだったので途中からこのスタイル自体に飽きがきてしまって、単調さが際立つ結果となってしまったのは残念この上ないです。
    素材が変わっていただけに、いっそさらに発展させて小説にしてしまった方が面白かったかもしれない。

    個人的な感じとしては、音大よりも美大の方に変人が揃っているのではないかな?(失礼!)

  • 学生時代の井口さん(King Gnu)が載ってると知り手に取った。

    確かに「秘境」だった。
    日本の、そして有名な大学なのに
    まだまだ知らない世界が溢れてるんだなあと思った。

    音楽学部と美術学部で全然雰囲気や人の系統が違って
    考えていることも経歴もさまざまで特殊で
    だけど1人1人ちゃんとした人生のヒストリーと今後の方針の軸をしっかりもっていて。
    面白いなあと思った。全員、青春してるなあ。

    そして後半に井口さん登場。
    一番チャラいと言われている声楽科。
    恋愛を歌うオペラで、気持ちをいかに声で伝えるか。そして何ヶ国語をあやつり表現するか。
    ポップス方面で活動したいなとすでに言いつつ、「声楽科の人がJ-POPを歌うとやっぱり変です」って言っちゃっている…
    (あと声楽科のチャラさについても。笑)

    当然かもしれないけれど、やっぱり人を魅了する人ってすごい努力をしてきたんだなあと。
    かっこいいなあ。

  • 藝大生の妻をもつ著者の東京藝大潜入レポート。
    ネタ本かと思っていたら、取材やインタビューに基づき、藝大生のリアルな姿を教えてくれる1冊でした。

    多彩な専攻があることにびっくり。
    作曲、音響心理、アートマネジメント、舞台芸術…など何でもありの音楽環境創造科。
    言葉で音楽を表現するための知識を身につける楽理科。
    「芸術大学」という言葉から想像していた以上に、さまざまなジャンルを学ぶことができる場であることを知りました。

    印象的だったのはインタビューに答えている学生さんたち。
    目標に向けて邁進する人もいれば、将来に対して悩みを抱えている人もいる。
    ものづくりや音楽の才能がある人は特別だ、と思いがちだからこそ、本書に描かれていた「普通の若者」の一面に親しみを感じました。

  • 世界最高水準・日本最高峰の芸術専門大学である「東京藝術大学」に通う学生たちとの対談をまとめたもの。

    普段はなかなか知りえない藝大の内側を垣間見ることができて素直に面白かったです。自由な校風と恵まれた環境、限られた時間とお金を存分に駆使して、全力で何かを表現しようとする学生たちの姿がそこにありました。本書では確かにななめ上の行動も多々紹介されているのですが、それぞれ自己実現に向かって真摯に取り組む真面目な人が多い、という印象です。

    奇人変人当たり前、非凡な学生たちをドーンと懐で抱える藝大。支えはするが後押しするわけでもなく、全力で向かってくる者を全力で受け入れ、指導するというよりは背中で魅せる鬼才溢れる教授たち。そして音校と美校、個々で並外れた技量を持ちながら互いに個性を認め合う学生たち。
    ゆるく正しく構成されたこの世界から秀でた才能が生まれ、それを今後も各分野で遺憾なく放出してくれると思うと、なんとなく日本の芸術分野は安泰だなと思ってしまうのです。

    来年は学祭にお邪魔してみようかな。半分は純粋な魅力と、半分は怖いもの見たさで。

  • 芸事(音楽・美術・表現その他を広く含んで)やってる人ってこうよね…分かる分かると頷きながら一気に読んだ。日本のように、実学優先主義で、これはこのように使える勉強です。お金になるよ、ってのでないと、「それで、それは何に使うの?」「それ勉強して何になるの?」しか言われない国だと、変人で括られて終わりだと思う。だがしかし、二宮さんの語り口は温かい。ご本人は一橋の経済卒、まあ手堅い人をいっぱい見てきて、藝大を見て…どっちも悪いものではないとご存知だからだろう。

    この大学で扱うことは、芸術を享受する側のひとに響かねば、どんなに良いものでも価値は発生しない。つまりあなたなり私が、ある作品やあるパフォーマンスを見ても、今日は「よくわからない」と首を傾げて素通りするかもしれない。しかし半年後に、全く同じものに触れたら、琴線に触れるかもしれない。読み直した本に感銘を受けたり、ふと目にした作品や音楽に感動したり…受け手の中で、心が動くきっかけが育って初めて、輝きがわかるものがある。そういうものだ。だから、「いついつこれに役立つ」と内容証明されていなくても、敷地内に転がる作品群が、無意識に学生諸氏の感覚を磨いているように、芸術って、一般の人がふと触れてみたくなった時、質の高い、美しいものが、無造作に楽しめないといけないのだ。

    誰だって、一曲の音楽に、コミックの感動に…彫刻の迫力に…映画や舞台に感動して、悩みから解き放たれたり、人生のあるきかたが変わった事があると思う。そういう、私達の隣りにある、非日常を創造してくれるのが、藝大の人々や色んな芸事に携わる、多くの人々。そう考えたら、彼らだけを奇人変人扱いは、ちょっと可愛そうかなと思う。私達と何が違うかって言えば、「やってる対象に、ぎゅっと人生を掴まれて、やらずにいられない」人だと言うだけのこと。数字や都合や常識でだけ割り切れない、飛び込むのは選ばれなければならない場所だけれど、そういう場所が世の中にあっても、私は良いんじゃないかと思う。突飛なことをしているように見える(ブラジャーウーマンのあたり)学生さんも、素顔は明晰で、決してイッちゃってる人ではない。危ないと言うなら、学外で事件を起こす人のほうがよほど怖い。単に、驚くべき行動の下の、思考がちゃんと理解できれば、彼らも私やあなたと同じ社会のひとりであると、ご理解頂けると思う。

    藝祭に行くも良いし、学生主催のコンサートや、大学附属の美術館やアートセンターに行くのもいい。無駄なものとか遠いものとか言っていないで、少しそこで生み出されるものに触れて、あなたが興味を持ったり、笑顔になったり…自分なりに挑戦して楽しんだら、それでいい。興味が湧かない?うん。別にいいのではなかろうか。あなたはまた別のことにご興味があるのかもしれない。それはそれで、素敵なことだ。

    何にせよ、藝大の扱う領域を目指したい人、どんなところなんだろうと興味がある方、ただ気になって読んだ…。どなたにも楽しめる聞き書きルポである。秋だし、お手に取られてはいかが?

  • 以前所属していたオーケストラでは指揮者が代々藝大の学生で
    彼らが友達でソリストを呼んで来たりしていたのでなじみ深い。
    音校生のエピソードは「うんうん」と何事も頷いてしまう。

    美校生のエピソードはどれも尖った話で面白い。日々アートですね(笑)

    藝大は定員も枠が小さいので東大よりはるかに難しいですよね。
    そういう意味では秘境と呼べるかもしれません。

    そんな藝大ですが就職は一握りで残りは留学や行方不明ってのが壮絶です。
    皆さん溢れるぐらいの才能あるのに勿体ない世の中だなあ。。。

  • 藝大出て直ぐに就職するのは1割らしい。就職するのは落伍者?芸術をあきらめ就職するしかなかったという理由で。
    確かに定年まで勤め上げるのが幸せという『常識』とは別の価値観なのだろう。
    考えていることがバカ過ぎて(しかも実際にやってしまう)ついていけないヤツが沢山いるみたいですね。
    充分異質なブラジャー・ウーマンはまだマシなほうなのか?
    入試問題「鉛筆、消しゴム、紙を使って好きなことをしなさい」で、合格を勝ち取った人の自画像の作り方。発想と実行力が天才!
    今年の春に金沢21世紀美術館に行ったが、意味不明な作品ばかりで「???」だった。
    美校の藝大生曰く「アートとは、知覚できる幅を広げ分かり合おうとすること。」らしいが、分かり合えそうにないと改めて思う。
    音校の藝大生曰く「音楽って生きるためにはなくてもいいもの。だけど、なくてはならないように発展してきた。」は分かる。
    9月初旬の藝祭。今年はチョットしたイザコザがあって警察が来たみたいですが、勇気を出して一度行ってみようかな。

  • 東京藝大生の妻をもつ著者が、妻を通して知った、上野公園の森の向こうの不思議の国・東京藝大に入国し、そこの学生たちにインタビューをする。いや、ほんとうに国境をまたいだくらいの非日常空間なんですよ、藝大。

    インタビュー集としては、あまり出来はよくないように思う。
    藝大生たちの天才・狂人ぶりを強調するために、そして、なるべく全学部全学科バランスよく描写するために、著者の影はずいぶん薄くなってしまっていて、物足りない。インタビュアーがすぐに「すごい」って言ったらもったいないよ~。話終わっちゃうじゃんね。もっと深い話を聞いてみたいひとが何人か。
    文章を追いながら映像を頭の中に浮かべるんだけれど、ホームビデオで撮られたような映像になってしまう……。ほら、あれあれ、「おしゃれイズム」でお家に潜入するやつあるでしょう、あんな感じ。
    それでもこの本が面白いのは登場する藝大生たちのパワーですね。

    著者とともに藝大のキャンパスをうろうろしながら、アートって何だろう、と考えてしまう。
    「私、初めてカラーコーンをちゃんと見た瞬間、があったんです。工事現場とかにある、赤いカラーコーンです。何だろう、あの赤い三角形のもの、みたいな。その色とか、くたびれ具合とかが、びっくりするくらい素敵に思えて。あれ、私は今までカラーコーンの何を見ていたんだろう、って。そういうものを見つけて、共感してもらうために作品を作るっていうか……? む、難しいですねー!」
    これは、先端芸術表現科のある女の子のアート観。
    ぼくはけっこうここに真実がある気がしたりする。
    「感動」を自分の手、自分の身体で再現したい、他人に伝えたいとシンプルに思い続けられるかどうか。それができる自分を信じ続けられるかどうか。
    東京藝大という難関校に、超絶狭い門をくぐり抜けて入ったひとたちの言葉から、この思いの強さをぼくは感じ取りました。ここが実は、彼らの一番「ふつうじゃない」ところでは。どうでしょう。

    夢をあきらめそうなときに読むといいかもしれない。踏ん張ってみる気にも、逆にすっぱりあきらめる気にも、なれそう。

  • めちゃくちゃ面白かったです❕
    芸術に疎い私ですが、「芸大生の人間性」にひかれました。
    キングヌーの井口さんも出てましたね!すごい!
    芸大には多様性があって、、とてもカオスで、、面白そう(笑)
    ぜひぜひ、読んでみてください❗

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著者プロフィール

一九八五年東京都生まれ。一橋大学経済学部卒業。二〇〇九年に『!(ビックリマーク)』でデビュー後、『一番線に謎が到着します』『裏世界旅行』『最後の医者は桜を見上げて君を想う』など、癒し系ミステリーからホラーまで幅広く小説を執筆。一方で、初ノンフィクション作品『最後の秘境 東京藝大 天才たちのカオスな日常』 がベストセラーとなり、以後、本書や『紳士と淑女のコロシアム 「競技ダンス」へようこそ』などでも評判に。

「2021年 『世にも美しき数学者たちの日常』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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