バブル:日本迷走の原点

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103505211

作品紹介・あらすじ

あれは「第二の敗戦」だった――バブルの最深部を知る記者が放つ警世の書。奇跡の復興と高度成長を成し遂げた日本だが、70年代以降、世界経済の仕組みは急速に変化する。グローバル化・金融自由化が進む世界と、変われないままの日本。その亀裂はやがてバブルを生み出し、全てを飲み込んでいった――。日本が壊れていく様を最前線で取材した「伝説の記者」が当事者たちの肉声をもとに迫るバブルの真実。

感想・レビュー・書評

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  • 1980年後半から1990年までに発生した日本のバブル。本書は、バブル期の前後を通じて多くの関係者に取材した著者が、主な登場人物と事件についてあらためて自らの見解を交えて振り返ったものである。日経の記者であった著者は、そのときのバブルを国民ぐるみのユーフォリア(熱狂)と呼ぶ。

    自分にとっては、バブルは大学生の時にその絶頂を迎え、そして崩壊していったものである。そのときには、ここで書かれたような裏の事情はもちろん表の事情もほとんどわからなかったし、おおよそ興味もなかった。しかし、そのときにこそもっと知っておくべき事柄であったと思う。もちろん、今でも知るべきことであることは変わっていないのかもしれない。「バブルの時代を知ることなしに、現在の日本を理解することはできない」という著者の主張が読み終わった後にはっきりとそうだとわかるだろう。

    振り返ると著者が挙げるようにそれぞれのプレイヤーに次のようなミスや瑕疵があった。
    ・上げるべきところで金利を上げなかった日銀の罪
    ・機関投資家に株を買うように誘導した大蔵省の罪
    ・不動産融資にのめり込んだ銀行の罪
    ・特金・ファンドラをリスクなき財テクのように扱った事業会社の罪
    ・会社の価値を収益ではなく含み資産で計算した証券会社の罪

    そうした中にあって著者は「誰が何にチャレンジしていたのか、そして何に敗れ、何を否定されたのか。バブルの時代という大きなうねりのなかで、敗れて行った人たちや、否定された人たちの行動の中にこそ、変革への正しい道筋が埋もれているのではないか」という。そうした問題意識の中で著者が堀り起こすこととなった人と出来事は多岐にわたる。

    三光汽船によるジャパンライン株の買占め、プラザ合意、ブラックマンデー、レーガノミクス、サッチャリズム、NTT株公開、リクルート事件、山一証券破綻、そごう問題、興銀・長銀破綻、阪和興業、秀和事件、特金・ファンドラ、株式損失補填、イトマン事件、イ・アイ・イ事件、公的資金投入など。

    バブルを彩った政治家、経営者も数多い。児玉誉士夫(右翼)、高橋高見(ミネベア)、磯田一郎(住友銀行頭取)、成田芳穂(山一証券)、竹下登(大蔵大臣、総理大臣)、渡辺喜太郎(麻布土地グループ)、高橋治則(イ・アイ・イ)、佐藤行雄(第一不動産グループ)、江副浩正(リクルート)、是川銀蔵(伝説の相場師)、加藤暠(誠備グループ)、小谷光浩(光進)、小林茂(秀和)、尾上縫(投資家)、橋本龍太郎(大蔵大臣、総理大臣)、三重野康(日銀総裁)、宮沢喜一(大蔵大臣、総理大臣) 、そして著者の父でもある永野健(日経連会長)。

    色々な要因があったが、日本のバブルを特異なものにしたのは土地神話であった。実家の大阪辺りでもマンションを買って大儲けをしている人が身近いるという話を聞いていた。「バブル崩壊後の「失われた20年」と呼ばれる日本経済の長期低迷と、銀行の経営危機の大きな原因が、1986年から89年にかけての土地をめぐる取引にあったことは間違いない。...銀行の節度を越えた土地融資への傾斜だった。最終局面の日本のバブルを、他の外国のバブルと分かつ重要なポイントである」ー 1989年末に史上最高値を付けた株価は90年に入ると急落したが、土地価格はその1年半後まで維持され、その後急落することとなった。

    東京23区の地価がアメリカ全体の時価総額を上回る。1株50万円弱と評価したNTT株が119万7000円で売り出され、上場後には318万円を付ける。大手都市銀行の一行あたりの時価総額が、世界最強と言われた米国のシティバンクの時価総額の5倍となる。小金井カントリー倶楽部の一口あたりの会員権が3億円を超える。これでバブルの兆候が見えなかったのは今から思えば不思議だが、バブルとはそういうものなのだ。「バブルは同じ顔をしてやってこない。しかし、われわれは生きている時代に真摯に向き合わなければならない。だからこそ、日本のバブルの歴史を今一度学び直す必要があると思う」

    著者は安倍政権に「謙虚さ」が足りないと指摘する。どこかバブルのときと似ているという。そして、最後に問う「安倍総理に、黒田日銀総裁に、かつて公的資金を投入しようとした宮沢喜一と三重野康のような洞察と責任感は果たしてあるのだろうか。自省の心が欠けていると思うのは私だけだろうか」
    このことが著者がこの本を世に問うこととなった最大の理由なのかもしれない。


    多くの登場人物がここ数年のうちに鬼籍に入った。その今だからこそ書けるものもあるのかもしれない。具体的に没年を明示されているのは次のような方々だ。

    2013年 大蔵省 窪田弘
    2013年 リクルート 江副浩
    2013年 トヨタ 豊田英二
    2014年 秀和 小林茂
    2015年 裁判官 滝井繁男
    そして、この本をちょうど読み終わった2016年12月加藤暠が亡くなったというニュースが入ってきた。

    歴史となりつつあり自らも同じ時間を生きていた時代を描いていて、とにかく非常に面白い。お勧め。

  • 「市場は(長期的には)コントロールできない」。

    経済記者として日本がバブルの熱狂にあった80年代後半の経済事件を取材した記者による実録ともいえる本です。

    ユーフォリアの狂騒に踊った、または巻き込まれた人たちの群像が活写されています。政治家、官僚、金融機関、大企業、仕手筋、アングラ勢力。。それぞれの思惑がぶつかり合い、日本経済が迷走の度合いを強めていく時代の空気がありありと眼前に浮かんでくるようです。

    バブル崩壊により日本の社会システムは相当のダメージを受け、失われた20年と呼ばれる長期停滞をもたらしました。一方、別の見方をすれば急速に経済規模が拡大し国際化した日本経済と日本国内の固有の仕組みとのギャップが、解消していく過程でもあった、とも言えるでしょうか。その程度がうまく抑制できなかった点は反省されてしかるべきでしょうが。

  • 不動産デベロッパーに勤めています。
    コロナが世界経済に影響を与え始めた昨今。
    不動産価格はどうなるのか。かつてのバブル崩壊のように大暴落の道を再び辿るのか。改めて今バブルとその崩壊の歴史について学ぼうと思い、手に取りました。

    著者の永野さんは日経新聞の証券部の元記者。バブルのリアルを追い続けてきた張本人です。

    結論を言うと、バブルの本質は土地本位制の担保融資の過熱と、にぎりと言われる利回り保証を謳った信託投資の営業特金などに代表される銀行経営の歪みといえる。

    そこにプラザ合意による円高、それに対しての日銀が過激な金融緩和に舵を切り、それを受けた銀行は不動産投資への融資にはまり込んでいった…。
    そうして不動産にマネーが流れ込み、土地価格が暴騰。そして総量規制をきっかけに冷え込み『失われた20年」を迎えることになる。

    ここに今のコロナ不況を照らし合わせると、共通点と相違点が見えてくる。
    まず共通点としては、国が歴史的低金利ーなど、強力な金融緩和をしている点。不動産にマネーが流入している点があげられる。

    一方でかつてのバブルのような銀行経営はなくなっていることがあるため、その点は違いと考える。

    結論としては、コロナの影響により物理的な経済状況な悪化によって、不動産市況が一時的な冷え込みを迎える可能性は高いものの、実経済が回復すれば比較的早く落ち着くのではないだろうか。具体的には、一度かなり冷え込んだ後、数年かけて2012年くらいの水準に戻ると予測する。

    ただし、実経済が悪化した時に企業が大量に倒産し、結果として連鎖的に銀行が破たんした場合は事態はさらに悪化する可能性が高い。
    政府としては、この経済悪化に対しては金融政策より財政政策で対応することが大事になってくると考えた。

    勉強になりました。
    あと、お話したことがある人が出てきていて衝撃でした(笑)

  • 136まで

  • 1980年から1989年までのバブル経済をマクロで語るというよりかは、当時、日経新聞証券部であった筆者が取材過程の中で遭遇した事案とともにどちらかというとミクロで具体的に見つめなおす本。経済原理ではなく生々しさで迫ってくるのでおもしろく、一気に読めた。

    すべては85年のプラザ合意から始める。恒常的な円高に対して筆者の言葉を借りれば「日本のリーダーたちは、円高にも耐えうる日本の経済構造の変革を選ばずに、日銀は低金利政策を、政府は為替政策を、そして民間の企業や銀行は財テク収益拡大の道を選んだ。そして、異常な株価高政策が導入され、土地高も加速した」ことがその構造的要因となってバブルは膨らみ、弾け、そしてその後は”失われた20年”と言われる長いデフレ期間が続くに至る。

    それにしても、バブル時代の土地高、株高を背景としたマネーゲームの象徴として”バブルのAIDS”という言葉があるのはこの本を通じて初めて知った。曰く、麻布自動車(A)、イ・アイ・イーインターナショナル(I)、第一不動産(D)、秀和(S)だそうだが、これらに加え、この本には河本敏夫、高橋高見、加藤暠、江副浩正、尾上縫などのバブル時代の象徴的な怪人物たちがもちろん登場してくるが、筆者の視点の面白さは、それらのバブル紳士たちを単純に批判するのではなく、彼、彼女らの思想はその後のグローバルな金融経済(いわゆるカジノ経済)の先駆たる先進性が一部には確実にあったことと、これらの人物に"成り上がりで強欲な人々"というレッテル張りをしてバブルの罪を負わせて、自分たちはその影に隠れて責任逃れを行おうとする、銀行、証券、大蔵省のエリート層への批判の怠らない点にあると思う。

    それにしても、東京23区の土地代がアメリカ全土の土地よりも高く、NTT上場時の時価総額は25兆、株購入の申し込みは1000万人を超えたとか、もはやおとぎ話にしか思えないが、すべての原点はやはりプラザ合意でアメリカに頭を下げられていい気になった日本のエリート層の慢心に(あと知恵で振り返れば)原因の確信があったように思う。やはり驕れる平家は久しからず、というところか。そしてその驕りが同時に訪れてもおかしくないドイツは実はちゃんと回避していた(要するにアメリカの意向無視して利上げをちゃとやっていた)というのをこの本を通じてこれまた初めて知って、やはり日本は極東の人の好い田舎者集団だったんだなーと思わざるを得なかった。

    日本人、もっともっと経験豊かになっていこう!と思える本でした。

  • 実態は曖昧模糊としながらも、その独特の文化だけが後世に語り継がれる、あのバブルについて体系的に書かれた本作。

    バブルがなぜ発生したのかについて、多角的に分析されているが、物語は1970年代に起こった三光汽船によるジャパンラインの買収事件から始まる。日本興業銀行が日本のVCとして企業の集約を進める中で、三光汽船はそれに反発してジャパンラインの株を自ら買い占めた。この問題の解決に、興銀は日本の黒幕児玉誉士夫を担ぎ上げる。政府の息のかかった銀行がアングラ社会と関わる第一歩はここから始まった。

    バブルは、1970年代にこれまで世界経済を支えてきた米国が、日本やドイツの台頭により貿易赤字が拡大する中で、オイルショック、そしてニクソン・ショックへと繋がった為替の変動相場制への移行が影響している。

    変動相場に移行したものの、アメリカの経済は回復せず、レーガン時代にレーガノミクスという金融自由主義が普及し、レーガンとの密接な関係にあった中曽根氏によって日本にも導入された。最終的にはプラザ合意として、強いアメリカを維持する国際協調として、円高が作り出された。また日銀の政策金利も一気に減少し、金融緩和へと突き進む。グローバリデーションの幕開けである。

    日本では不動産価格は上がり続けるという不動産神話により、企業が保有する資産の含み益が増え続けた。証券会社はその含み益を加味して株価予想を吊り上げ、銀行は含み益を担保に融資を繰り返し、特金やファントラという利回りを確約した金融商品まで開発され、事業会社は本業そっちのけで財テクに走り、バブル経済に燃料を投下し続ける。

    89年から日銀は金融引締に入り、政策金利を上げ、また90年には総量規制も導入した。その結果、まず株価が下落し始めたが、依然として人々は不動産神話にかられ、土地の値段は下がらないと信じていたが、結果的に土地価格も下落の一途を辿った。この影で、住友銀行は小谷問題・イトマン事件を起こし、興銀は尾上縫という料亭の女将に多額の資金を貸し付けていたことが分かり、住友銀行は合併へ、興銀は倒産へと進んでいく。

    その後、大蔵省は営業特金(証券会社)は問題であり、ファンドトラスト(信託銀行)は問題ではないといったダブルスタンダードを示し、バブル後始末のために宮沢内閣時に金融機関への公的資金注入が検討されるが、世論の反発が強く、また金融機関サイドも反対し、資金注入は見送られた。その結果、日本経済は長く続くデフレへと突入し、失われた20年に突入してしまう。最終的に住専に対する公的資金注入が行われたが世論の反発は凄まじかった。

    上記以外にも、下記は欠かすことができない。
    野村モルガン信託構想
    三菱重工CB事件
    NTT株上場
    リクルート事件
    AIDS(麻布土地グループ、イ・アイ・イグループ、第一不動産グループ、秀和)
    豊田自動織機買い占め肩代わり問題→小糸製作所買い占め問題

    凄まじい熱量を持った時代であったことが想像できる。

  • バブル崩壊、まさに第二の敗戦
    1.奇跡の復興と高度成長 政・官・財が一体となったシステム
      戦後システムのようで、1940年体制野口悠紀雄
    2.1970年代一変 グローバル化と金融自由化
      1985年プラザ合意 超低金利・金融緩和とリスク感覚の喪失
    3.バブルの時代と崩壊
      日本人の価値観が壊れ、日本社会が壊れ、日本システムが壊れた

  • 漠然としか理解していなかったバブルについて、詳しく学ぶことができた。
    最後、作者の家族に触れた話があり、なるほどと思った。
    欲望渦巻く、人の醜さも垣間見ることができた。

  • 3年ぐらい前だったかなぁ、バブル時を振り返る本が相次いで出版されたんですよね。自分もバブル時は学生だったので、世間のことはよく知らなかったから勉強させてもらった本です。

  • ●バブルとはグローバル化による世界システムの一体化のうねりに対して、それぞれの国や地域が固有の文化や制度、人間の価値観を維持しようとしたときに生じる矛盾と乖離があり、それが生み出す物語である。
    ●興銀は役所公認の経済のコンサルタントであり、日本全体のベンチャーキャピタルだった。
    ●60〜70年代、海運業の集約体制に真っ向から刃向かったのが三光汽船である。便宜置籍船を作って、外国人船員中心の運行体制を作った。
    興銀を中心とした長期借り入れで経営を回してきた会社が、株価に関心を注ぎ込む成り上がりの三光汽船に企業価値で逆転された。直接金融によって銀行からの自立を図った会社。結局ジャパンLINEとの和解を成功させたのは興銀の力だが、それは児玉誉士夫と言うアングラ社会の力を含んだものであった。
    ●結局オイルショックの時に、タンカーから撤退した日本郵船の決断は正しく、ジャパンLINEは別の会社に吸収されることとなった。もちろん興銀は大きな損失を被った。

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