ビニール傘

著者 :
  • 新潮社
3.40
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本棚登録 : 671
レビュー : 61
  • Amazon.co.jp ・本 (124ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103507215

作品紹介・あらすじ

共鳴する街の声――。気鋭の社会学者による、初の小説集! 侘しさ、人恋しさ、明日をも知れぬ不安感。大阪の片隅で暮らす、若く貧しい〝俺〞と〝私〞(「ビニール傘」)。誰にでも脳のなかに小さな部屋があって、なにかつらいことがあるとそこに閉じこもる。巨大な喪失を抱えた男の痛切な心象風景(「背中の月」)。絶望と向き合い、それでも生きようとする人に静かに寄り添う、二つの物語。

感想・レビュー・書評

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  • 「ビニール傘」と「背中の月」2編。
    とても読みやすい。写真もあって。
    大阪が舞台だし、なんだろう2編ともとてもリアル。
    若い子が田舎から出てきて、寂れた街で人間関係に悩みながら1人暮らしていく。

    突然伴侶を失い、妻の存在を思いながら毎日淡々と暮らし・・・

    ちょうどいい厚みでサクッと読めるけど、結構心にずっしりくるかも。

  • 『断片的なものの社会学』が結構よかったのでこの本も予約してみた。あの本の中で……とある町の夫婦が小旅行に出かけて、防犯のために日常の音声を録音し、それを流したまま出発し、そのまま事故に会い二人とも亡くなってしまい、事故のその瞬間も二人が発見されて身元が判明するまでも、その町の二人の家の周囲の日常や風景は普段と変わりない………というエピソードがあって、それがすごく好きだった。そんな雰囲気の小説でした。純文学っぽいような……。このなんともいえない雰囲気がいい。

    短編が二つあるけど、どちらも大阪が舞台。関西系の言葉に馴染めなかった。『ビニール傘』は、女のブログのような日記のような回想ぽい感じ。『背中の月』は男が心の中でひとりごとを言っているような物語。『背中の月』に共感した。ところどころリンクしていてさらに日常なのか夢なのか過去なのか想像なのかわからなくなる部分があって少しこわい。

    “誰にでも脳のなかに小さな部屋があって、なにかつらいことがあるとそこに閉じこもる。”=92ページ=

    こういうところが、ふわっと柔らかくて優しいな…と思った。

  • 「背中の月」の方が好きでしたね。
    でも「ビニール傘」の世界を読んだから、そちらの方が好きと感じたのかも。
    …いかにも芥川賞候補という作品でした。
    作中に何度も出てくるカップ麺のゴミが二つの話を繋げ、静かなやりきれなさどうにもならなさ、虚しさを顕在化させているかのよう。

    (引用)「妙な話だが、幸せなとき、楽しいとき、遊びにいっているときよりも、急な葬式が入ったとき、人間関係でめんどくさいことがあったとき、仕事上のトラブルに巻き込まれたとき、ああ俺たちはふたりなんだなと思う。」というセンテンスに泣きそうになりましたね。
    その時二人だった、今はどうしょうもなく一人だということの孤絶感。

    「不在」というのは「今ない」、というだけでなくて、あり得たかもしれない希望に侵食する空虚なんだとつくづく感じさせられます。

  • どんな人物にも背景があり、とりまく状況は自分の意思に反して、又は沿って、変わっていくものなんだなぁ。

    他者と自分との境界が曖昧な文体。冷たいようで優しい眼差しを感じました。

  • 大阪の中心街から少し離れると感じる物悲しさとか、淀川を見るたびに感じる、悲しみをすべて包み込んでいる感じとかを思い出した。

  • コンビニで売ってる五百円のビニール傘。
    アナタが手にしたその傘は、誰のもの?
    何処で買ったの?
    どこにでもある、誰もがひとつは持っている、小さな透明のビニール傘。
    同じ街、似たような「俺」たち「私」たち。「彼女」に「彼」。俺は彼だし、彼女だし、私は俺だし彼でもあって彼女でもある。
    誰が誰の傘を差していたとしても「透明な膜が俺たちを包む」。
    安っぽい傘で自分の人生を守っているの?

    本当はあの犬のように何かに守られながら、囲まれながら死にたかったのに、彼女はひとりで死んだ。
    とりとめもなく続く私たちの人生。
    一体、本当は誰のもの?

    松田青子『スタッキング可能』をシビアでダークにした感じに思えた。鬱屈とした息苦しい感じ。
    併録の『背中の月』もモヤモヤ、ムズムズ感が残るというか。社会学者の著者ならではの視点なのかな。

    みんなのココロにビニール傘なんていらない日が来ることを願うばかりだ。

  • 大阪で生きる若者の姿を描いた作品。
    何かでっかいことをやり遂げるわけでもなく、だからといって感動的な何かがあるわけではない。
    そんな暮らしを描いた作品だったように思う。
    人生とはなんぞやと考えさせられる作品だった。

  • 帯の文に惹かれて購入。すごく不思議な小説だった。著者の本業が社会学者だというのも、関係あるのだろうか。
    「パッチワークを作る時、普通は柄の違いに気を取られるが、岸さんは縫い代を見ている」という小川洋子さんによる帯の一文がとてもしっくり来る。
    表題作には、名前のない男と女が複数登場する。1人でいたり、カップルでいたり。その人物(たち)がパッチワークを作る1枚の布だとしたら、たくさんの布によって構成されるパッチワークの、まさしく縫い代の部分を描いているように感じる。
    人は濃かったり薄かったりする人間関係をたくさん持っていて、その中で予想外の人同士が繋がっていたりする。たくさんの組み合わせの布で作られるパッチワーク。現実の人間模様も、そのように構成されていると思う。

    これは実際読んでみないと分からない感覚かも。毎度レビューは書いているけれど、言葉で説明するのがこれほど難しい小説と久々に出逢った。
    ストーリーがどうとかで語れる類ではないのは確か。
    表題作ともうひとつの「背中の月」にもよく読むと繋がっている部分があることに気づく。
    短い2作のみの薄い小説だけど不思議な感触が印象に残った。

  • 全体的に寂しさが漂う小説。あっという間に読めるページ数なのだけど、ところどころで状況がよくわからなくなります。脈絡なく変わる状況に私の頭はついていけない箇所も多々あった。あれ?これはさっきの人と違うの?全く違う話?繋がってる?でもちょっと違う?と混乱。

    この本はきっと詳細を読み込むよりも、全体に流れる寂しさを感じとるもの、そんな風に思います。

  • 芥川賞候補作、(受賞したのは、山下澄人の『しんせかい』)

    『ビニール傘』と『背中の月』の短編2作が、連作短編とまではいかないがほんの少し交差している。

    只々、何気無い会社勤めの若者が大阪という地方で生きていくさまが描かれている。
    読みモノとしてみれば考え抜かれた文章で、読み易く、面白い部類だと思うが、この120頁の中で何を描きたかったのかが伝わって来なかった。
    今の時代の標準偏差的な生活を並べたうえでの絶望や悲惨さだったのか、はたまた希望だったのか。
    その辺が『ビニール傘』から見る景色のようにボヤけていたように思う。

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著者プロフィール

社会学者、立命館大学大学院教授。1967年生まれ。社会学者。専門は沖縄、生活史、社会調査方法論。著書に『同化と他者化――戦後沖縄の本土就職者たち』(ナカニシヤ出版)、『街の人生』(勁草書房)、『断片的なものの社会学』(朝日出版社)、『はじめての沖縄』(新曜社よりみちパン!セ)、『マンゴーと手榴弾――生活史の理論』(勁草書房)など。近年は小説の執筆にも取り組んでおり、「ビニール傘」が芥川賞・三島賞候補、「図書室」が三島賞候補となった。

「2020年 『ブルデュー『ディスタンクシオン』 2020年12月』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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