- 本 ・本 (208ページ)
- / ISBN・EAN: 9784103509516
作品紹介・あらすじ
一番会いたい人に会いに行く。こんな当たり前のことが、なんでできへんかったんやろな。演劇を通して世界に立ち向かう永田と、その恋人の沙希。夢を抱いてやってきた東京で、ふたりは出会った――。『火花』より先に書き始めていた又吉直樹の作家としての原点にして、書かずにはいられなかった、たったひとつの不器用な恋。夢と現実のはざまでもがきながら、かけがえのない大切な誰かを想う、切なくも胸にせまる恋愛小説。
感想・レビュー・書評
-
沙希は女神かってくらい優しくて、こんな子は絶対いないだろうとおもうのだが、下北沢周辺とかにはいそうな気もする 永田はクズでなんてヒドイヤツだとおもう反面、じぶんの中にも永田のようなヤツがいるような気がして、他人事だと完全におもいきることができないのが絶妙に上手い
詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
又吉の小説2作目。
今度はお笑いではなく、演劇の世界で芽を出そうともがく若者の恋と葛藤を描いてあります。
お笑いのほうが、体験も滲んでいて、ユニークと言えばユニーク。
個性的な表現を追求する気持ちには、演劇のほうが感情移入しやすかったです。
永田は、友達と上京、小劇場で活動していました。
たまたま画廊で一緒になった感じのいい女性・沙希に声をかけます。この人ならわかってくれるだろうと。
永田の方はともかく、紗希がよく付き合う気になったな~という出会いですが。
沙希もじつは演劇が好きで上京したので、何かを感じ取ったのでしょう。
暗くて不器用な、演劇に取り憑かれている永田。
それでも二人は暮らし始め、楽しいひとときを経験し、微笑ましくいたわりあいます。
芝居はうまくいかないほうが多く、永田は沙希が関わる他の人達に嫉妬するようにも。
後半は、好きな女性にしてはいけないことのオンパレード。
何度かやり直そうとするのですが‥
真剣に仕事に集中して、やっと少し成功し始めても、取り返しがつかない。
最後に懸命に愛を伝えようとするのが切ない。
そんなに好きなら、互いに気持ちが残っているのなら。
とも思うけど‥
紗希はぼろぼろですよね。この後も苦労をかけられそうだということを考えると、こんないい子はもっと平和な環境で暮らしたほうがいいのかもしれない。
そんなことを思いながら読了。
「出会わなければもっと早く東京に負けていた」という沙希の言葉に説得力がありました。
ただ苦しんだだけではない、必然的な出会いだったのでしょう。 -
ダメ男はダメだからこそ、女子を惹きつける
ということが自然にアーティスティックな又吉さんだからこそ描ける。
主人公たちの出会いと付き合うことになる経緯など、ほぼ幻想文学のようなファンタジー感、何か結界を超えたところで起こった出来事のような。
そんなフィクション感が満載な中、現実はパラレルワールドのように流れているわけで、常にダメ男の主観の奥には見たくないリアルな現実が通底音のように流れている。
又吉さんは当然そういうシビアな現実の中戦ってきているわけだからリアルな社会もよく理解した上での構成をしているのだと思う。
主人公たちカップルにとって、演劇という、フィクションそれは東京ともニアリーイコールで、何かを信じ、共有しそこに居場所を確保するのだけど、妄信的に信じる主人公とは別に離れざるを得ない恋人の生命力の切れたような部分にせつなさが感じられる。
別れる最後まで演劇になってしまう、主人公の痛さが、それだからこそ切実に純粋なものとして放り出される。
ただ、純粋なだけでは、不器用で、ある意味外から見た客観的な視点が芸術表現にも必要だということが暗に示されているような。そんな重層的な作品だとも感じた。 -
一読しただけでは感想を書けるほど作品を理解はできないし、全体像もつかめていない。それでもこういう小説が私は好き。いや、こういう文体が好き、と言ったほうが正確か。
高校の頃、三島の文体に憧れて彼の小説をノートに写した(たぶん『仮面の告白』)ことを思い出した。この小説の文章も写してみようかな……読みながらそんなことを思っていた。
星5つは評価が甘すぎるかも知れない。でもいつか読み返す。必ず。その気持ちを忘れないための目印としての星5つ。 -
すっっっごく良かった。好き。
「報われない人間は永遠に報われない」とほんのり似てた。
それにしてもデビュー作とくらべると気持ちのいいほど肩の力がぬけている。
ちゃんと書きたいことを冷静にとらえて、話題性とか批評とか、そういう煩悩に惑わされることなく書き上げたんだろうなと思う(わたし誰目線なんだ)。
小説そのものもとても好感がもてるし、これを彼が書いたのだという事実もぐっとくる。
本当にさりげなくそっとはさまれるジョークが絶妙にシュールで、芸人としての矜持も感じた。
東京で劇団を立ち上げ脚本や演出をするも一向に売れない永田と、それを献身的にささえる天真爛漫な彼女の沙希ちゃん。
永田の脳内をのぞいているような奇妙な生々しさが文章から滲み出ており、独特の世界観を纏って話はすすむ。
永田は自意識過剰で卑屈でどうしようもない男だ。明るくて優しい沙希ちゃんがとにかく不憫でならない。
だけど永田が感じている劣等感や焦燥も、読み手の私にはどうしようもなく伝わってきてしまって、素直になれない彼が滑稽で、可哀想で、情けなくて、不甲斐なくて仕方ないのだ。
ただひとつ空気に触れるべき言葉が永田の口からでてこないもどかしさがまた切ない。
ラストシーンはそういうあれこれ全てが苦しく押し寄せてきて涙がとまらなかったです。
現実だって、どんなセリフを吐き、どんな演技をするか、すべて思いのまま。ここは劇場だ。 -
針先くらいの大きさしかない、つまらない、大したことない自己顕示欲にがんじがらめになっている主人公が大っ嫌い。
今まで読んだどの本の主人公より、「こいつ嫌いだわ」って思った。
心の狭さ、器の小ささ。
逃げることでしか保てない自分の軸。
でも、その人間臭さに惹きつけられた。
うだつの上がらない毎日を、
丁寧にしたいのにどうしたらいいかわからない恋人との日々を、
自分で自分の首を締めながら生きてる様は、
たとえ悪あがきだろうと、
演劇という拠り所を通して「生きてる」そのものだったんだろうな。
終盤の畳み掛けの熱量がすごい。
登場人物たちの人となりはしんどいけど、結果、すごく良本。 -
「火花」で又吉は本物だと思って次作も絶対読もうと思ってやっと読んだところ。
in one sittingで読みました。珍しいんだよね、一気読みできる本ってそうそうない。
太宰感がプンプンするけど私はそれは大好物なので快感しか覚えず、精緻な描写からは主人公のねっとりした自意識が読者に読みながらにして空気を通して入ってくる。いい。
人間凸凹で寄りかかり過ぎるともうどこまでが自分でどこまでが相手なのかわからなくなって、自己と他者が恋愛によって結合すると切り離すのはレゴブロックのように簡単にはいかず。
昔子供の頃粘土細工した時に、胴体先に作って手足を後からつけたら接着が難しくて、なんとか水つけながらつけて、もう一度手を作り直したいと思って取ろうとしてもその時にはもううまく取れなくなって諦めて粘土ぐしゃって潰すはめになる、みたいな感じ。
テレビで、火花の時読みにくいという読者の声をたくさんもらったから読みやすくしたって言ってて不安になったけど、全く又吉節は消えておらずなんやねんって思った。テーマはただし身近になったかな。 -
冒頭の技巧的な装飾的心理表現は辟易としたが、ストーリーが転がりだしてからの展開は凄くいい。主人公の彼女への想いを語るところはグッとくる。全体的にはよくあるストーリーで、そう思わせるのは作者の力量を感じた。
著者プロフィール
又吉直樹の作品





