著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103509561

作品紹介・あらすじ

人が占いの果てに見つけるもの、それは自分自身かもしれない。男の本心が知りたくて始めた占い師巡りを止められない翻訳家。恋愛相談に適当に答えるうち人気の「千里眼」になってしまったカフェーの会計係。優越感を味わうため近所の家庭事情を双六盤に仕立てる主婦。自分の姿すら見えない暗闇の中で、一筋の希望を求める女たちの姿を「占い」によって鮮やかに照らし出す七つの名短篇。

感想・レビュー・書評

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  •  人生や恋に迷い、占いに関わってゆく女たちを描く連作短編集。
              ◇
     4年前に父を亡くしてから独り暮らしだが、別だん淋しさや孤独に苛まれたりしない。学生時代から得意だった英語を活かして翻訳業で身を立てられているので生活には困らないし、独りを楽しんでいる。そう思っていた。

     桐子の日々に変化が訪れたのは、瓦屋根の修繕のため大工に来てもらったときだ。
     修繕は半日ほどで終わり、大工たちが引き上げたあと少し経ってから弟子の若い男が戻ってきた。訝しく思う桐子を前に玄関のたたきで工具を広げた男は、やにわに下駄箱の引き戸を外したかと思うとその一辺を鉋で削り始めた。

     やがて男は鉋がけを終え、下駄箱側の溝に蝋を塗り引き戸をはめ込んだ。そして、戸が滑るように動き隙間なく閉まったのを見た男は、桐子を振り返りニコリと笑ったのだった。
     その笑顔に桐子は……。
      (第1話「時追町の卜い屋」) 全7話。

          * * * * *

     本作で占いに関わっていく主人公は、7話とも女性です。

     時代は大正。「大正デモクラシー」だ、「大正ロマン」だと言っても、女性にとって制約が多いことには変わりなかったでしょう。恋愛だけでなく人生そのものに、自分を抑えなくてはならない局面が少なくなかったことは、想像に難くありません。
     そういう意味で、主人公が女性だからと言って全員を恋愛絡みの話にしなかったところに好感が持てました。

     恋に身を焦がし占い師にすがってしまう女性が主人公の話は、第1話と最終話「北聖町の読心術」の2話だけで、その他は話自体に恋愛がまったく絡んできません。
     例えば恋愛を占う側を主人公にしたのが第2話「山伏村の千里眼」で、主人公の杣子は恋愛とは無縁でしたし、第5話「宵待祠の喰い師」は大工の棟梁だった父親の跡を継いだ女性の成長物語で、恋愛の「れ」の字も出てきません。

     また、占い師ばかりが出てくるわけでもありません。
     第3話「頓田町の聞奇館」に登場するのは聞奇(霊媒師)ですし、第6話「鷺行町の朝生屋」に登場するのは遺影専門の絵師、第4話「深山町の双六堂」にはただの主婦しか出てきませんでした。

     というふうに設定も展開もバラエティに富んだ7つの話。最後まで楽しめました。
     
     どの話もおもしろかったのですが特に気に入ったのは、第2話「山伏村の千里眼」と第6話「鷺行町の朝生屋」でした。

     第2話「山伏村の千里眼」は杣子という山奥育ちの若い女性の人生訓です。

     山伏村を出て都会で独り暮らしの大叔母の家の居候となった杣子。カフェで女給をしながらワケアリそうな客の様子をなんとなく眺め、会話を聞くともなく聞いているうちに人間観察になっていたのか、杣子に不思議な能力がついていきます。

     ある夜、1人の女性が大叔母に夫の浮気について愚痴を交えつつ相談事を持ちかけていました。いつもは話に根気よくつき合ってやる大叔母ですが、このときは疲れていたらしく、帰宅したばかりの杣子に代わりを命じて引っ込んでしまいます。

     最初は戸惑っていたものの、話の概要をすでに立ち聞きしていた杣子は、頭の中に浮かんできた情景を見て助言を与え始めました。しばらくすると、助言のポイントとなることばが耳元に聞こえてくるようになってきたのです。
     それに伴い、杣子の助言は説得力を増していきます。最初は半信半疑だったもののいつしか杣子の話に聞き入る女性。そして帰るときにはスッキリした顔をしていました。

     杣子の助言に従うことでこの女性の問題は解決し、それ以後、杣子は「犬伏山の千里眼」としてもてはやされるようになったのですが……。

    ☆杣子は千里眼を使って女性たちの悩みをバンバン解決!というふうにいかないところに人間の滑稽さを感じました。
     結局、信じたいものしか信じないのですね、人間って。信じたくないものは頑なに認めようとしない。
     当たるも八卦、当たらぬも八卦。そこまで入れ込むモノじゃないと思うのですが。


     第6話「鷺行町の朝生屋」は子に恵まれずにいた女性が体験した怪異譚です。
     
     敷地が狭いものの当時としては珍しい2階建ての借家に住む夫婦がいました。
     ある日の午後、猫を追って幼い男の子が庭に飛び込んできます。2階の物干し台にいた恵子は、勝手に入ってきてはだめよと呼びかけますが、恵子を見上げた男の子は目を輝かせます。2階の物干しに興味津々です。

     恵子は庭まで降りてきて、男の子にどこの子か尋ねますが要領を得ません。やむなく恵子は男の子を家に上げてやることにしました。
     最初は戸惑ったものの人懐っこい男の子に恵子の心はほぐれ楽しいひとときを過ごします。子どもというものの可愛さや愛しさに直に触れた恵子は、子に恵まれない自分たち夫婦に思いを馳せ、複雑な気持ちになるのでした。

     結局、祖父らしき年寄りが訪ねてきて男の子を連れ帰りますが、男の子のことが忘れられない恵子は悶々とした毎日を過ごしていました。そんなある日、何気なく目にした新聞記事であの男の子が死んだことを知った恵子は……。

    ☆精密な肖像画に魂や精気が宿るという話はよく耳にします。この第6話に登場するのが、朝生屋という遺影専門の若い絵師です。
     朝生屋の描く遺影は写真と見紛うばかりに精密で、故人が生きているかのような出来栄えだと評判です。しかし若さゆえなのか、彼の絵は成仏すべき死者の魂をこの世に繋ぎ止める力を宿してしまうのです。
     このオカルトホラーの世界。なかなかに不気味でした。


     現代でも続く占いブーム。ファンは圧倒的に女性に多いようです。男性が少ないのは占いに興味がないというより面倒くさがりが多いからだと思います。女性でも面倒くさがりな人はさほど占いに凝ったりしないのではないでしょうか。

     ただ、怪しげな新興宗教にのめり込み、「幸運の◯◯」とばかりに壺やらパワーストーンやらを購入させられるのはほとんど女性であると聞くと、何やら薄ら寒い気がします。

     初読みの作家さんですが、この雰囲気は好みに合います。気に入りました。

  • 恋も仕事も占いで楽になる
    そう思っていたのに…
    女たちの迷いと希望を鮮やかに描く七つの短編


    すべてが占いの話ではなかったけど
    なかなか面白かったです♪

    最初はちょっとした気持ちから占ってもらおうか…
    思いどうりに行かないからもう一度…
    なんかこの占い師は信用できない…
    別の占い師ならどうだろう…

    「占いジプシー」なんて言葉があるんだ笑

    自分に自信がない、自分を誰も認めてくれない、人が幸せに見える、人の言葉が信じられない…

    女心がわかってる一冊ですね笑
    確かに占ってもらうのは楽しい
    わたしも最近タロット占いしてきました。

    悩みがちなあなた…
    振り回されないようにね!

    • ひまわりめろんさん
      Σ(゚Д゚)
      ぺ、ペルセポネ?!
      Σ(゚Д゚)
      ぺ、ペルセポネ?!
      2023/11/19
    • おびのりさん
      まさか、神話系も読んでるの?
      ゲーム?
      早く寝なさいね。
      まさか、神話系も読んでるの?
      ゲーム?
      早く寝なさいね。
      2023/11/20
    • みんみんさん
      お母さん(●︎´艸`)ムフフ
      お母さん(●︎´艸`)ムフフ
      2023/11/20
  • 占いにまつわる連作短編、7編。

    時の頃はおそらく昭和初期くらいでしょうか。

    「時追町の卜い家」
    一人暮らしの翻訳家の桐子が、一時同居していた伊助のことを占いに何度もトい家に通ってしまうようになる話。
    占い師によって言うことが違い振り回されます。
    自立した女性でも、男性のことは気になるんですね。

    「山伏村の千里眼」
    カフェーの女給の岩下杣子は千里眼を買われて大叔母の家で、鑑定を始めます。
    千里眼とはいえ半分以上はあてずっぽうで適当なことを言っているだけで、大繁盛し、占いの舞台裏がみえて面白かったです。

    他にも、イタコあり、似顔絵や読唇術など占いからちょっとはずれている物語もありますが、読ませる話が多く楽しめました。
    小説家の方が占いを描いたら、こんな風に描くんだなあと思いました。
    小説家と占い師ってどこか共通の要素がある気がするし、本気で作り話をすれば本物の占い師よりも面白い話をでっちあげる才能のある方が他にもたくさんいらっしゃる気がしました。

  • 迷える女性達を巡る短編集。
    恋や仕事、家庭の不安。抱える悩みも人それぞれ。
    何の根拠もないただの「占い」ではないか。当たる訳ない、と思いつつも鑑定結果がいつまでも心の内をぐるぐるかき乱す。
    この心理は男性には理解されないかもしれない。
    女性はおそらく多くの人から共感を得られそう。
    今回の木内節も冴えていて好きだ。

    「人の心はどうにもならなくて、そのどうにもならなさには、さまざまなことが絡んでいます。生い立ちや、性格、今まで経てきた体験や。ですから時には、不可解をやり過ごす、ということがあってもいいように思うのです」

    占いは単なる「助言」に過ぎない。
    結局進む道は、心のままに自分で選ぶほかない。
    あなたは誰に認められなくても「あなた」なのだから…とは言うけれど、やはり頼ってしまうのが人の弱さ。
    私ならカフェーの会計係・杣子に鑑定してもらいたい。
    「稚拙な嫉妬なんて間違っても受け取ってはいけない。するりとかわして、ドブに流してしまえばいいのだ」
    「このくだらない執着を手放せば、誰しも簡単に幸せになれる」
    私にも心が軽やかになれるハッキリした「答え」を導き出してほしい。

  • 悩み迷う女性たち、の一冊。

    いつの時代も女性に悩みはつきもの。

    そんな女性たちの悩み迷う心を描いた作品。

    木内さんの、揺れる心の機微を言葉にのせていく巧みさを堪能した。

    思わず読み手も一緒に心が揺れてしまう感覚に陥る。

    占いにしばし心を預けては一喜一憂。
    新たな迷いに右往左往。
    そう、迷う心は無限だ。

    時にはお金をかけてまでも迷ったって良い。たとえそれが望む結果に繋がらなくても迷って自分の心を見つめた時間は貴重。
    それが新たな一歩へとなれば良い。
    そしてその経験は必ずいつかどこかでプラスの光に変わっているに違いない。

  • 占いに走ってしまう女性たち。
    時代は今より少し前、大正あたり。
    恋愛や家族のこと近所関係のこと、仕事のこと。。悩みに悩んで皆んな占いに駆け込む。
    占い師の目線から、もしくは占いに行かずにはいられない人の目線から、描かれた7つの話。

    この本には、未来が見えるわけでもないのに、なんとなく相談に乗ってたら占い師みたいな事になってた人から、恋人の本心が知りたくて自分が納得する答えを出してくれる占い師が見つかるまで彷徨う人まで、色々な視点からの占いが書かれている。

    占いに見てもらおうかなって思う時、大抵は迷いがある時で、その中で何か自分の意見に背中を押してもらいたい時なのだと思うけど、ハマりすぎると怖いというのが、占いに対する私の印象。
    それはこの本を読んでも変わりはなく、でも、占いに惹かれてしまう人の心情、迷いに迷ってる人の心情が手に取るように分かって、思わず「うんうん、気持ち分かるよ」と思ってしまう。
    対して、占い師というか愚痴聞き師みたいな人は、人の心を穏やかにする話術に長けているのだろうと、それはそれで感心する。すごいなぁと。

    占い師になりたくはないけど、友達や家族の話を聞いて、話した相手が気持ち良くなってくれるような聞き役が時に出来たら良いなと思った。

  • あまりに 素晴らしかったので
    読み終えるのが 惜しいぐらいでした
    と 思える作品はそうありません

    行きつけの図書館に
    先週返却したのが
    「鬼棲むところ」朱川湊人さん
    だったのですが
    「あっ じゃあ これも ぜひ!」
    と 司書さんに薦められたのが
    この一冊

    そのまま 置いていて
    何気なく 今週手に取ったのですが
    いゃあ これが
    冒頭の言葉につながっていくのです

    短編小説群です
    何れも
    静かに物語は始まるのですが
    物語がすすむにつれて
    それはそれは
    いつのまにか
    魅入られてしまうのです

    女人であるがゆえの
    人情の機微 
    心の奥深く棲んでいる気持ち
    それらが
    見事に描かれて
    一編一編が終わるたびに
    ほーっ
    と してしまう
    この余韻が
    たまらなく 心地よい

    朱川湊人さんのあとに
    これを
    薦めてくださった
    図書館司書さんの慧眼にも
    感謝 感謝

    • ひとみんさん
      素敵な司書さんですね。
      うらやましい!
      『鬼棲むところ』読んでみます
      素敵な司書さんですね。
      うらやましい!
      『鬼棲むところ』読んでみます
      2022/10/23
    • kaze229さん
      おそらく 活字中毒者の方はたいがい
      偏っておられますよね
      むろん、私も そうです
      それだけに
      「ほらっ こんなのも」
      と 差し出し...
      おそらく 活字中毒者の方はたいがい
      偏っておられますよね
      むろん、私も そうです
      それだけに
      「ほらっ こんなのも」
      と 差し出していただける「書友」が
      すぐ近くにいてくださるのは
      ほんとうに ありがたいことです

      2022/10/26
  • 純文学かつ昭和の香りのする言葉の選び取り方が、古いのではなく、懐かしい匂いのする家感を漂わせてくれる作家、木内昇。

    あの、褒め言葉です。

    文庫まで待たなくて良かったと思わされるくらい、私の思う木内昇感が漂う短編でした。

    「時追町の卜い家」では、若い男に恋をする翻訳家が登場するのですが、自分との恋よりも身内を案じる彼に、次第に心が荒んでいきます。
    そこで、「自分に都合の良い」占いを求めて、何度も屋敷に通うようになる。

    願掛けにも通じるような、叶うことへの必死さが、やがて己自身を潰していく。

    なのに、満たされない。

    「山伏村の千里眼」では、そんな満たされない女性たちを観る側へとシフトします。
    杣子という主人公は、誰の印象にも残らない自分から、千里眼で村の女性たちの悩みを解決する立場へと変わります。
    誰かに必要とされる存在でありながら、結局、女性たちが求めているのは真実ではなかった。

    いや、作品中にも書かれているのですが、真実とは占いを基に自分がどう認識して行動したかの結果でしかない。

    でも、私たちが望んでいるのは、現実を外したような、そんな理想的な結末だけなのかもしれません。

    個人的に一番好きだったのは「宵待祠の喰い師」というお話です。
    このお話には占い師は登場しません。
    喰い師とは愚痴や悪口を食べ、スッキリさせてくれる人のことです。
    父の跡を継ぎ、大工一家の組長を務めることになった綾子は、前職で女のくせに可愛げがないと言われたことを引きずりながらも、男衆をまとめていきます。

    そこで、とある男の仕事ぶりに腹が立ち、喰い師の元を訪れる。

    「人にはそれぞれ、大事にしているやり方がございます。その是非を論じるのは私の役目ではございません。ただ、人が人に対して憤りを感じるとき、個々が大切にしているものの相違が原因となっていることがおおかたなのです」

    この言葉に、自分が引きずっていたものの一端を見せられたように思った。
    綾子は、喰い師によって楽になることから離れ、最後は自身の仕事に対する信念をぶつけます。

    それは父のやり方とは違い、正しいかどうか分からないものだけど、私も、きっと綾子のようにしか生きられないだろうなと思うのでした。

    単に呪いめいた気持ちを抱えるよりは、そこに、なるほどなと思わせてくれる一言があるだけで、また気持ち新たに進むことが出来るのかもしれません。
    後味の良い結末ばかりではないのだけど、気持ちに残る読書になりました。

  • 悩める女性達を描いた短編集七話。

    タイトルの通り“占い”をテーマに書かれたものと、占いとは異なるけれど、それっぽいものを書いたもの等、舞台は大正から昭和初期頃で、この時代の雰囲気が手に取るように伝わってきます。何となく同著者の「よこまち余話」を彷彿とさせるものがあります。
    各話すべて秀逸で(勝手に“木内クオリティ”と呼ばせて頂いております)微妙なリンク具合も心憎く、上手いなぁと唸らせる構成です。
    個人的には第二話「山伏村の千里眼」と第七話「北聖町の読心術」が好きでした。この二つの話に登場する、杣子さんの人間観察力とそれに導かれる結論が適格すぎて、占いというよりカウンセリング、はたまたプロファイリングか?というレベルです。
    そりゃ、相談者も納得だわね・・と、なりそうなのですが、いくら筋が通っていても“自分の希望している回答ではない→納得できない”という事で、何度もやってくる相談者がいるのが面倒ですね。
    そう、本書に登場する悩める女性達に共通しているのは“執着”にとらわれているという事。
    なので自分で適格な判断ができず、占いだったり、それのようなものに依存してしまう・・・という心理過程の描き方がまたお上手で、感心しながら読みました。
    因みに、「宵町祠の喰い師」に出てきた森崎みたいな人って、会社にも普通にいますよね。こういう困ったヤツにつける薬はないものですかねー・・。

  • どれも、悩みを抱えた女性が主人公。
    細やかな心理描写に、知らず知らず引き摺り込まれる。

    年下の男の心が自分にあるのかないのか信じられない女。
    占いの結果に納得できなくて何度でも通い詰める女。
    そんな客が大きなストレスになる占い師。
    口寄せ師から夫婦それぞれの思わぬ本音を聞いて、見合いへの取り組み方を考え直す若い女性。
    隣の芝生の青さが気になり過ぎて、ご近所の家庭を採点し始める主婦。
    まだ明治の末、男社会への抵抗と挑戦に悩む才女。
    結婚7年、「赤ちゃんまだ?」の問いに苦しみ続ける心優しき主婦。
    相手を疑い、不安を膨らませ過ぎて、自分の中に鬼を生み出してしまった少女。


    ・時追町の卜い屋(ときおいちょうのうらないや)
     翻訳で身を立てる桐子(とうこ)は、30代の一人暮らし。
    家の修繕に来た若い職人と男女の関係になるが、彼が一番大切に思うのは、生き別れの妹だった。

    ・山伏町の千里眼(やまぶしむらのせんりがん)
     カフェーのレジに立つ岩下杣子(いわしたそまこ)19歳。存在感がないのを幸い、人間観察が鋭い。
    占い師から見た勘弁客とは。

    ・屯田町の聞奇館(とんだちょうのぶんきかん)
     知枝(ともえ)18歳。この時代(大正の末)では適齢期も末。
    父が見合いを勧めてうるさいが、知枝は英語の先生である桐子の家の仏壇に飾ってある、ダンディなおじいさまの写真に淡い恋心を抱いている

    ・深山町の双六堂(みやまちょうのすごろくどう)
     平穏な家庭に物足りなさを感じている政子。
    自分が直接に査定されることの無い主婦は、周りの家庭とのランク付に目を血走らせる。俗っぽさと皮肉にブラックな可笑しみを感じる。

    ・宵町祠の喰い師(よいまちほこらのくいし)
     才色兼備の綾子は、大きな製薬会社に、紅一点の薬剤師として就職した。
    最初は女性が入った、と喜んだ男性社員たちだったが、綾子の仕事が出来れば出来るほど、煙たがられるようになり、父の死を機に退職して、実家の工務店を継ぐ。
    ここでも、いい加減な仕事をする若い職人に悩ませられる。
    彼の処分をどうするか。

    ・鷺行町の朝生屋(さぎゆきまちのともうや)
     恵子は結婚して7年、子供に恵まれない。
    写真よりも生き生きした遺影を描く画家・朝生(ともう)に興味を抱く。
    (この話は他と毛色が違う。角川の、黒い背表紙のあの文庫に収録すべきやつ)

    ・北聖町の読心術(ほくせいちょうのどくしんじゅつ)
     佐代(さよ)20歳。容姿も含めて自分に自信が持てない。
    島岡富久子(しまおかとくこ)の絵画教室で、画材を納めに来ていた老舗画材屋の三代目の青年と知り合った。初めて「両想い」というものを知り喜びを覚えた矢先、彼の過去に関する噂を聞く。

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
    結局、恋愛に振り回され過ぎないこと、没頭できる仕事や生き方を持つことだろう。
    そして、占いやまじないは相談程度にとどめ、最後の決断は自分で下すことである。
    ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
    最後の、杣子と佐代の関わりが良かった。
    杣子自身も、悔いが残った鑑定の残した澱のようなものをさらえたのではないだろうか。

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著者プロフィール

1967年生まれ。出版社勤務を経て、2004年『新選組 幕末の青嵐』で小説家デビュー。08年『茗荷谷の猫』が話題となり、09年回早稲田大学坪内逍遙大賞奨励賞、11年『漂砂のうたう』で直木賞、14年『櫛挽道守』で中央公論文芸賞、柴田錬三郎賞、親鸞賞を受賞。他の小説作品に『浮世女房洒落日記』『笑い三年、泣き三月。』『ある男』『よこまち余話』、エッセイに『みちくさ道中』などがある。

「2019年 『光炎の人 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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