息子と狩猟に

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 155
感想 : 19
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  • Amazon.co.jp ・本 (173ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103510215

作品紹介・あらすじ

サバイバル登山家だからこそ書ける「生の根源」に迫る文学が誕生した! 探す、追う、狙う、撃つ――。死体を抱えた振り込め詐欺集団のボスと、息子を連れて鹿狩りに来たハンターが山中で遭遇した。狩られるのはどっちだ!? 圧倒的なリアリティと息を呑む展開に震える表題作と、最も危険な山での極限下の出来事を描く「K2」の2篇を収録。人間の倫理を問い、命の意味に迫る衝撃の文学が誕生した。

感想・レビュー・書評

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  • サバイバル登山家の服部文祥の初の小説です。
    そもそも本読んでいても思考ルートが常人と違っていて、自分で決めたルールの中で冒険するので世間一般の価値観なんて知るか。というタイプです。なので記録よりもいかに自分ルールの中で生き抜けるかを重視しているので、ある意味「白線の上から外れたらガケから落ちて死ぬ!」と言いながら道路で遊んでいる小学生に近いような気がしています。

    そんなはぐれもの冒険家が独特の倫理観を開帳する2編です。あらすじとか気にしないで読んでいたので、題名からの想像で、父から息子への知識技術継承の男臭いハートフルなものを期待していました。ところが読んでびっくり。2編ともとんでもなく違和感のある話で胸にざらざらした感覚が残りました。これは物語の出来とかいい悪いではなくまさに命に対する思想の問題だろうと思いました。
    命に差は無い、という意味には2方向の意味があると初めて考えました。
    一つは、「命は同じだけ価値が有って皆大事」という考え方。これは一般的だし分かりやすい。ただその中にきれいごとや欺瞞の臭いがプンプンするのも確か。
    もう一つは「どの命だって価値は同じだから人間でも動物でも殺すという行為に変わりは無い」というまさにディストピア的な思考。語感の拒否感は凄いけれど命を同価として評価するという事では、何故か同じことを言っています。
    襲いかかってきたものが大型肉食獣と人間だった時に、人間を殺すと罰せられるのは「自然の法」ではなく「人間の法」で、「自然の法」の中で生きていく時に何が許されて何が許されないのかはまた別である。服部文祥は「自然の法」の中に置いた時の倫理で行動するのだという決意表明にも感じられる本でした。
    個人的には違和感は拭い去れませんが・・・。

  • 初めて幼い息子を連れて狩りに出かけた猟師と、トラブルに巻き込まれたテレアポ詐欺集団の番頭が山奥で危険な邂逅をする表題作と、世界最難関とも言われるK2に挑んだ登山家の選択を描いた「K2」の2編。
    著者自身が狩猟により食料を現地調達するサバイバル登山の第一人者なだけあって、狩猟や登山の描写が凄まじい。表題作は千松信也の狩猟エッセイにギャングースがブチ込まれたような狩猟ハードボイルド、「K2」は圧倒的自然に人間の生命や倫理が磨り潰されていくタイプの話が好きな人におすすめです

  •  ここで俺は死ぬ。
     その一線を越えた探検家や登山家の死生観は文明の庇護下で生きる一般人のそれとは異なっていることが多い。

     先日読んだ角幡唯介の本では「男にとっては、自らの命を代償にして自然へと分け入っていかなくては生死を感じることができない」と書かれていた。
     
     命の大切さが叫ばれるが、世の中は命の軽さが目立つ事故、事件ばかりだ。
     それは、命を考えることに蓋をして、綺麗な世界しか見ていない故の結果ではないか。

     サバイバル登山家を自称する筆者は、猟銃を手に山に分け入り、食料は現地調達という方向に突き詰めた登山家だ。

     人間とケモノの命に違いはあるのか。

    「バカな人間でも撃ち殺したら警察に捕まる。賢くてもケモノならいい。なんでだ?」
    「本当はケモノを撃つように人間を撃つことだってできる」
    「引き金を引くのは自由だ。それが自然のルール。でも警察に捕まる。それは人間のルール」

     狩猟に入った山奥で、人間の死体を処理する犯人に遭遇して、息子の首筋にはナイフが当てられている。
     対して、父親は猟銃を持っている。

     八千メートルを越え、登山の死亡率は三割を超えるK2で、登頂直後の悪天候に巻き込まれた二人。
     目の前には先日、遭難して死んだばかりの死体がある。

     どうするか。

     極限の一線を越えた本物で無いと書けない世界がある。
     たった170ページの二編で、その世界を垣間見る。

    「我々が死んで、死がいは水に溶け、やがて海に入り、魚を肥やし、又人の体を作る。個人は仮の姿、ぐるぐるまわる」

     ぐるぐるまわる。文明化した人類は自然の輪からずれている。

  • 後半の話にあまりにも驚いた。まさかカニバル的なものが始まるとおもってなかった。ぐるぐるまわる
    と命というものは。きちんと表現さえしてないもののきっと小説内ででていた彼も食べていたであろう。
    前半の父と息子の話の件は、あまり個人的にはなんともおもわなかった。きっと男性が読めばなにかしらの心にくるものがあるのではないかと思った。

  • 凄い。今迄に読んだ事のない作品。もっと何かあるはず、と思ったところで唐突に終わる。生命に対峙する覚悟とモラルの外でしか生きれないモノとの対立が良かった。

  • タイトルから想像していた内容と違っていたのが良かった。表題作も良かったが、K2の方がさらに良かった。

  • ちょっとしんどかったなあ。

  • 「え?」ってなって、「ほぇ?」ってなって、「ギョッ」ってなって、「マジかっ!」で終わる作品(笑)全然、予想と違った内容だった!生きる為に・・・ちゃう!生き残る為に選んだ手段にビックリでした。2つの話の最後の台詞が・・・何とも言えず

  • サバイバル登山家服部文祥の小説、山に関するものの二本立てで凄くリアルで描写が衝撃的。映画化はされないだろうな。一気に読めた。

  • 「ケモノは人間が思うほどバカじゃない。人間は自分で思っているほど利口じゃない。ケモノを追いかけていると、人間とケモノの違いがわからなくなる。わがまま勝手な人間がバカに思えてくる。」「バカな人間でも撃ち殺したら警察に捕まる。賢くてもケモノならいい。なんでだ?」(P59)
    善悪という概念はケモノにはないだろうけど、邪なケモノというものは存在しない。ただそれぞれの自然の欲求に従っているだけ。邪な生き物は人間以外にはなく、明らかに害をなす人間の命を奪うのは罪で、純粋に生きているだけのケモノの命を奪うのは問題ないというのは、どういうことだ、という思いはきっと多くの人が抱いている。もちろん社会を維持するためにはルールが必要で、人間が生きるためにはケモノの肉が必要だ。ケモノの命も人間の命も等しく尊いということにはできない。そんなことはわかっている。それでも湧いてくる思いを小説にしたという印象。また、狩りをして、他の生き物の肉を食べるという根元的な興奮と悦びは、人間にもケモノにも備わった自然なのだということ。
    小説としてはまだ未熟な部分もあるように感じたが、実際にサバイバル登山をしている著者だからこそ書ける小説だと思う。
    「K2」も極限の状態で生きることはどういうことなのかを、「食べる」という視点で描いている。
    「植村直己は、人肉なんか食ってない」「そうだ。でもこの状況なら、食う。」(P164)
    遠藤周作の『沈黙』のイエスも転んだ、みたいだな、と。こちらは「ぐるぐるまわる」ことも描きたかったわけだけど。

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著者プロフィール

登山家

「2023年 『ベスト・エッセイ2023』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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