夜空に泳ぐチョコレートグラミー

著者 :
  • 新潮社
3.85
  • (124)
  • (213)
  • (144)
  • (18)
  • (6)
本棚登録 : 1574
感想 : 172
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103510819

作品紹介・あらすじ

世界が変わるほどの恋、すべてが反転する秘密。大胆な仕掛けに満ちた、選考委員激賞のデビュー作! とれた差し歯が思い起こさせるのは、一生に一度の恋。もう共には生きられない、あの人のこと――。選考委員の三浦しをん、辻村深月両氏が共に大絶賛! 第15回「女による女のためのR-18文学賞」大賞受賞作をはじめ、どんな場所でも必死に泳いでいこうとする5匹の魚たちを、とびきり鮮やかな仕掛けで描いたデビュー作。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 『死にたかった私と、生き残って吐息をつく私が存在している。でも、生き残った意味も分からない。苦しみ抜いてまで、生きなきゃいけない意味って何なの』

    19,959人。統計開始以来初めて2万人を下回った2019年の全国の自殺者数の速報値。しかし、自殺率はG7の中で以前トップのままというその数字。家庭の問題、経済的な問題、そして男女の問題とその理由は様々です。しかし、今こうしている間にも、『いつにしようかと考えていた、この世から去る日。それはきっと今日をおいて他にあるまい』と決意する人たちがこの国のどこかにいることは確かです。

    そんな死をも考えるくらいに思い悩み、苦しむ主人公たちの姿を見るこの作品。それぞれに抱える事情の重さに圧倒されるこの作品。『生きる』ことの意味を考えながらも、絶望に苛まれる彼女たち。しかし一方で、そんな彼女たちに様々な形で手を差し伸べる人たちがいます。そんな人たちと出会い『これからも、もがきながら泳いで行くしかない』、『世界中に繫がっ』た果てなどない海へと泳いでいくしかない、そんな気持ちの高みへと泳ぎ向かう主人公たち。そんな瞬間を垣間見る「夜空に泳ぐチョコレートグラミー」と名付けられたこの物語。町田そのこさんの重厚なまでのデビュー作です。

    『大きなみたらし団子にかぶりついたら、差し歯がとれた』主人公のサキコ。『もちもちして美味しいと評判のみたらし団子。最初の一口目で、歯がとれた』という衝撃。『正面で団子を頬張っていた啓太に見せ』ると『ちょう歯抜けじゃん、何やってんの!』、『さっちゃんの前歯、偽物だったんだね』と笑う啓太に『昔ね、殴られて折れたんだよね』と言うサキコ。『ヤンキーの喧嘩に飛び込んで殴られた』と語るサキコに『さっちゃんってヤンキーだったの?』と返す啓太。『一緒にいた人がヤンキーみたいな人だっただけ』、『ふたつ上の、幼馴染』と答えるサキコ。『このままちょびっと遊びに出かけるわ』と言う啓太を見送るサキコは『冬の澄んだ青空』を見上げながら『あの日』を振り返ります。『馬鹿じゃねえの、なんでサキコが間に入って来るんだよ』と怒鳴る りゅうちゃんの隣には『息も絶え絶えで、血と泡を吹いて』横たわる人。『これは絶対死んじゃうと思っ』て『二人の間に割って入った』サキコ。『まさか、自分が殴られるとは思ってもみなかった』という展開。『それから私の前では喧嘩をしなくなった』りゅうちゃんは『私がいたら手が動かなくなるから』という理由で『距離を置くようにな』りました。家に着き玄関戸を開けるサキコは『この戸の調子を整えたのは、りゅうちゃん』とまた彼のことを思い出します。『中学を卒業してから』、『左官屋さんに弟子入り』した りゅうちゃん。しかし左官屋さんが亡くなった後、姿を消した りゅうちゃん。『やくざの組のお金を持ち逃げして追われているとか。人を、殺した』という噂が流れる日々。そして二人暮らしだった祖母が亡くなった『お通夜の晩、りゅうちゃんが』突然現れます。『キラキラの金髪をオールバックにして、すごく高そうな仕立ての良い真っ黒のスーツを着ている』りゅうちゃん。『玄関先で、祖母にお参りをすることもなく私の服を脱がせ』、『私の中で果てたりゅうちゃん』。祖母にお参りした後『薄っぺらい布団の上でもう一度体を重ねた』二人。そして『翌朝、起きるとりゅうちゃんはいなくなっていた』という枕元には『茶色い封筒、中には『びっくりするくらいの大金』が残されていました。『連れて行ってくれないんだなあと思った』というサキコのそれからの日常が描かれていく〈カメルーンの青い魚〉という最初の短編。貧困の中で、人生に迷いながらも必死に生きる サキコのひたむきさを感じる好編でした。

    五つの短編から構成されるこの作品。特に一、二、五編目は登場人物が意味深く重なり、緩やかな繋がりを見せる連作短編の形式をとっています。そんなこの作品の一番の共通点は、それぞれに登場する主人公女性の”生きづらさ”と、それを乗り越えていくその様が描かれていくというところだと思います。それぞれの主人公は、貧困、シングルマザー、不妊、DVなどの渦中にあり、読んでいて息苦しさを感じるほどに、その情景描写はリアルです。

    そんな息苦しさを極めるのが五編目の〈海になる〉です。『今日は私の誕生日で、とてもいいお天気の日曜日だから、死ぬにはぴったりの日だなと思った』という衝撃的な一文から始まるこの短編。『今日は私の誕生日』、『いいお天気の日曜日』という晴れやかな印象を読者が抱いた次の瞬間、『死ぬにはぴったりの日』と読者を一気に緊張感の中に追いやります。『いつにしようかと考えていた、この世から去る日』と悩んできた日を振り返る主人公。『それはきっと今日をおいて他にあるまい。私は今日、死のう。なに、不安に思うことはない』と、心安らかな心境は、続く『明日の朝この窓辺に立つ女がこの世から消え失せていても、世界は豊かに回っているのだから』という表現からも伺えます。こんな気持ちに至るまで彼女を追い詰めたもの、それは『夫の怒りのスイッチが分からなくなって、もうどれくらい経つだろう』という、まさかのDVの存在でした。DVという問題に光が当たりだしてかなりの年月が経つと思います。ニュース等でも様々な内情が報道されますが、町田さんはここでそのきっかけを『スイッチ』という言葉を使って説明します。『彼の拳が私に向かうためのスイッチがある』と感じている主人公。そして、それを『私という存在自体が、スイッチなのかもしれない』と自身で分析してみせます。自身が苦しめられているDVは自分の存在自体がその『スイッチ』だという絶望感。そして、流石に『私にも限界はある』と感じ、『もう持ちこたえられそうにない』と死を決意する主人公。一方で『みっともない死に姿は恥ずかしいのできちんと化粧をして、お気に入りのサマーニットのワンピースを着た』と最後の気持ちを振り絞り、そのことで『もういつ振りか分からないくらい、心が弾む』といっ時の気持ちの高揚を迎えるも『それでは、さようなら』と家を出る主人公。あまりに重く、あまりに切ない展開に激しい息苦しさを覚える物語は、DVの原因、きっかけ、もしくはその始まりを生々しいまでに描いていきます。それは、女性ならさらに胸を締め付けられずにはいられないであろう壮絶な内容。こんなにもリアルな女性の苦しみをデビュー作で描いてしまう町田さん。凄い!と思う一方で、読者にも覚悟を求められる、そんな作品だとも思いました。そして、この短編は結末の段になって、はっとさせられる展開で二編目の〈夜空に泳ぐチョコレートグラミー〉と繋がりを見せます。まさに、はっとするような展開。不安定さを残した〈夜空に〉の絶妙な伏線回収がなされるこの作品。それまでのどん底感の漂う展開が、大河小説を思わせるような圧倒的な人生の高みを見せ、清々しさに包まれながら幕を閉じる素晴らしい作品でした。

    そんな壮絶さを見せるこの作品でもう一つ象徴的に描かれるのが、書名にも登場する『チョコレートグラミー』などの魚たちです。それぞれの短編には『アフリカン・ランプアイ』や『ブルーリボン』などの熱帯魚や海の生き物が象徴的に登場します。そんな中でも文章表現含めて一番ストーリーとの一体化を感じたのが表題作の〈夜空に泳ぐチョコレートグラミー〉という短編でした。冒頭、『夏休みに入るちょっと前、近松晴子が孵化した』という一瞬、”?”と感じる表現から始まるこの短編。登場人物の一人、『こぢんまりとした、とても大人しい子』という晴子が『正しいいじめの回避』を見せた日のことをこう表現します。そんな短編ではその後も晴子と『チョコレートグラミー』を重ねて表現していきます。『焦らなくっていいんだよ。あんたのペースでいい』と晴子を見守る祖母。『いつか自分で旅立てると思えるその日まで、私の中にいたらいいんだよ』という一文は一見普通の描写にも見えます。しかし、実はこの熱帯魚は親が卵を口腔内で保護して育てる『マウスブルーダー』でもあります。『あたしはこれから、おばあちゃんの口の中から出て、ちゃんと生きて行く』という表現でそのことを思わせるかのように表現を重ねます。『生きて行くって、難しいよ』と語る晴子をまさにこれから保護されてきた口の中から大海へと出て行く心境に重ねます。『生きるとか生きて行けないとか、大人でも考えて苦しむもの』という私たちの人生。でも『そういうものであるなら、仕方ないよな。これからも、もがきながら泳いで行くしかない』という人生。『チョコレートグラミー』の生態を重ね、非常に上手く練られた作品だと思いました。そして、前述の通り、この物語は、大河小説のように、最後の短編〈海になる〉へと繋がっていきます。小さな熱帯魚の口の中にあった卵が、広大な『海』を見やるその結末へと接続する物語は、読者に深い余韻を残してくれるものでした。

    “生きづらさ”を感じる主人公女性たちが、何度も挫けそうになりながらもひたむきに生きていく姿を描いたこの作品。彼女たちが向き合うリアルな苦しみの深さ、辛さ、そして厳しさに、読者の心も激しく揺さぶられるこの作品。

    『わたしのことを好きだって言ってくれる人がいるだけで、頑張れる』。他者の存在を意識すること、そして意識されること。私たちの世界はそんな風にお互いが支え合いながら成り立っています。そんな人と人との繋がりを改めて感じさせる結末に、青く、広く、そして深い海の優しさへと泳ぎ向かう主人公たちの心の穏やかさを垣間見ることのできた、そんな作品でした。

    • ほたるぶくろさん
      突然のコメント、失礼します!
      いつも「いいね」をありがとうございます!
      嬉しいです。
      突然のコメント、失礼します!
      いつも「いいね」をありがとうございます!
      嬉しいです。
      2021/05/25
    • さてさてさん
      ほたるぶくろさん、こんにちは。
      こちらこそありがとうございます。
      この作品、何度も読み返していらっしゃるというレビューを見せていただいて、改...
      ほたるぶくろさん、こんにちは。
      こちらこそありがとうございます。
      この作品、何度も読み返していらっしゃるというレビューを見せていただいて、改めて私も自分のレビューを見て思い返しました。
      町田さんの作品というと直近では「52ヘルツ」が圧倒的に有名ですがこの作品もいいですよね。
      今後ともよろしくお願いします!
      2021/05/25
  • なんだかすっかり連作短編集好きになってしまった

    一年くらい前に町田そのこさんとか青山美智子さんとか読み始めた頃は、ホントは連作短編集嫌いなんだよな〜とか言うてたのに
    そして気付けば町田そのこさんも『コンビニ兄弟』を残すのみ
    嫌いどころかむしろ大好きやないか!
    思春期か!

    はい、『夜空に泳ぐチョコレートグラミー』です
    ちょっと隙があるな
    良かったけど隙がある
    隙って何よ?と問われれば、そんなん知らんけど(無責任か!)
    最後のほうちょっと無理くりくっつけた感あるのよね(説明できたじゃん)

    『波間に浮かぶイエロー』(5話のうちの3話目)くらいまでは凄く良かったんだけどね
    社会問題的なことをそこまで押し出さずに内包してるのも良かったです
    それでいてしっかり残ってるし

    • ひまわりめろんさん
      ( ̄ー ̄)ニヤリ
      ( ̄ー ̄)ニヤリ
      2023/07/23
    • 土瓶さん
      ( ̄▽ ̄)ニンマリ
      え? ひとつも読んでませんけど。
      ( ̄▽ ̄)ニンマリ
      え? ひとつも読んでませんけど。
      2023/07/23
    • ひまわりめろんさん
      土瓶さんは涙腺ないので町田そのこさん読んでないのは正しい対応です
      さすがですさすがの猿飛です
      土瓶さんは涙腺ないので町田そのこさん読んでないのは正しい対応です
      さすがですさすがの猿飛です
      2023/07/23
  • はぁ‥‥心が震えるお話たちでした。
    五つの物語それぞれがとても苦しくて、胸がギュッとなって、息苦しささえ感じて、読むのが辛かった。
    やっと分かり合える人に出会えてもどうして幸せになれないの?と読んでいて辛くて辛くて‥‥
    でも、最後まで読んでやっと眉間の皺が緩んで、口角も上がりました。フッと心が暖かくなりました。
    「流した涙は、いつか誰かに優しく辿り着く。ひとは誰かを育むものになれる。」
    『52ヘルツのクジラたち』もそうだったけど、町田そのこさんの作品は感想が短くなってしまう。心を鷲掴みされ過ぎて。

  • 初めましての町田そのこさん。
    連作短編集で5話から成っている。
    全体的に、切なさを感じる話だった。
    皆さんのレビューを読ませて頂いているけれど、私は涙などでなかった。
    冷血人間とは、どんな人のことを言うのだろう?私は、まだ「52ヘルツのクジラたち」を読んでいない。その本はどんな
    思いを、私に与えるだろう?

    チョコレートグラミー、カメルーンが
    故郷の熱帯魚。
    2話に出てくる晴子の家の玄関には、
    畳半畳くらいの水槽がある。鮮やかな
    緑色の水草がライトを受け、白い縞模様の熱帯魚が、泳いでいる。
    居心地はどうだろう?

    人間社会の水槽は、どんな水槽があるだろう?
    私が今まで生きてきた中で、そのいくつかの水槽は、どんな水が張られていた?
    いつもいつも、泳ぎ心地が良かったとは
    言えないかなぁ。
    この本を読みながら、そんなことを感じ
    ていた。水槽に例えるなんて、お魚に
    例えるなんて。

    この先、ネタバレになるが、晴子は2話で親元を離れる。
    そして、5話で祖母の妹の家に行く。歓迎されているようなので、良かった。
    ・・・・自殺しないで良かった・・・・祖母の妹がもしこの世にいなかったら、晴子は
    何処へ行けば良かったのか。晴子の父親は、自分の思いを叶えるために娘を手元にはおかない、という選択をした。再婚のほうが大事なのか!

    2021、6、13 読了

    • ポプラ並木さん
      ゆうママさん、感想読みましたよ!町田さんの本は子どもの不条理を描くのが多いのかな?自分が水に適応するべきなのか?周りの大人が子どもに適した水...
      ゆうママさん、感想読みましたよ!町田さんの本は子どもの不条理を描くのが多いのかな?自分が水に適応するべきなのか?周りの大人が子どもに適した水を提供するべきなのか。勿論後者だと思います。それゆえに、気持ちよく泳ぐことができると思います。
      2021/06/14
    • 衣紅*海外在住さん
      ゆうママさんこんにちは☺︎
      わたしも最近読了したので親近感わきました!笑
      クジラはだいぶ前に読んで記憶が薄れているというのもありますが、個人...
      ゆうママさんこんにちは☺︎
      わたしも最近読了したので親近感わきました!笑
      クジラはだいぶ前に読んで記憶が薄れているというのもありますが、個人的にはチョコレートグラミーのほうが好みです。どちらも内容的に読むのちょっと辛い部分はありますが、救われる気持ちにもなります。

      そして、もしかしてゆうママさんいま元彼の遺言状を読んでいらっしゃるのでしょうか?
      面白いと思った本なので、こちらも感想を楽しみにしています(*^^*)
      2021/06/15
    • ポプラ並木さん
      ゆうママさん、共読嬉しいです。☆3でしたか。。。自分は☆5でした。重い、重い、重い、と思いながらも最後には光明が見えました。全て話しがつなが...
      ゆうママさん、共読嬉しいです。☆3でしたか。。。自分は☆5でした。重い、重い、重い、と思いながらも最後には光明が見えました。全て話しがつながって、心地よかったです。
      2021/10/22
  • 町田さん2冊目、これがデビュー作とは凄い力量。シングルマザー、DV、施設の子ども、ジェンダーなど複雑な人間を集めた短編5作。女性目線で描かれたのは「男性への強い想いそしてカタルシス」。この想いが5話全てにリンクしていく。一番強烈だったのは「海になる」という話。夫からのDV(過去の本の中でも最恐のDV)を受け続ける桜子。理由は3度の死産。生きた子どもを産めない桜子の苦悩。そこで自殺を考えるが、ふと現れる1人の長髪男性の清音と出会う。桜子が助産師となって1人の中学生を預かる。町田さんの本は重いけど、光明も。

    『今日は私の誕生日で、とてもいいお天気の日曜日だから、死ぬにはぴったりの日だなと思った。』BY 桜子

    • アールグレイさん
      東北地方?
      それって・・・・?住んでいるところ?
      東北地方?
      それって・・・・?住んでいるところ?
      2021/10/22
    • ポプラ並木さん
      そうそう!
      そうそう!
      2021/10/22
    • アールグレイさん
      住んでいるところを言わせるつもりはなかったんですが、少しびっくりしました。
      ごめんなさい(>_<)
      関東だと思っていました。
      ∈^0^∋ g...
      住んでいるところを言わせるつもりはなかったんですが、少しびっくりしました。
      ごめんなさい(>_<)
      関東だと思っていました。
      ∈^0^∋ good night★
      2021/10/22
  • きっと誰の心の中にもある、他人に安易に触れてほしくない柔らかな部分に、優しくそっと触れて、ふんわりと包んでくれるような、そんな作品だった。

    生きることに正解なんて何ひとつ存在しない。
    私たちはみなチョコレートグラミーだ。
    誰かによって守られ、狭い水槽の中でもがき、そしていつか、広い海へとひとり泳いでいく。


    52ヘルツのクジラたちで感銘を受けた町田そのこさんの作品。
    これがデビュー作だなんてすごすぎる…。
    どんな人生の人でも優しく寄り添ってくれる作品だった。
    昼より夜に読みたいし、冬より夏に読みたい1冊。

    どの短編も魚をモチーフにしていた。
    題材はヘビーなのに不思議と清涼感があった。
    優しくて穏やかで、読みながら凪いだ夜の海にいるようだった。

    町田そのこさん、いい作家さんだな…すき…

    • ありが亭めんべいさん
      フォローバックありがとうございます。
      皆さんの評価やコメントを参考にしながらぼちぼち読み進めています。
      この作品もぜひ読んでみたいです...
      フォローバックありがとうございます。
      皆さんの評価やコメントを参考にしながらぼちぼち読み進めています。
      この作品もぜひ読んでみたいです♪
      2021/06/12
    • 衣紅*海外在住さん
      こんにちは。こちらこそありがとうございます☺︎
      52ヘルツもよかったですが、こちらも本当によい作品でした。おすすめです!
      こんにちは。こちらこそありがとうございます☺︎
      52ヘルツもよかったですが、こちらも本当によい作品でした。おすすめです!
      2021/06/12
  • なんと表現したらいいのか…。
    作品の力強さに、言葉が見つからないくらいの衝撃を受けた。 
                                                                     
    まず、5つの物語のはじめの一文それぞれに すっかり魅了された。
    まるで 水中に ぽとん と石が投げ込まれるような感じ。
    そして、どの石も不思議な光を放つ。
    [幸喜子の語り] みたらし団子にかぶりついたら差し歯が取れた。
    [啓太の語り]  夏休み前に、近松晴子が孵化した。
    [沙世の語り]  恋人は死んだ。
    [唯子の語り]  名の知らぬ小さな駅で、父と別れた。
    [桜子の語り] 今日は私の誕生日だから、死ぬにはぴったりの日だと思った。
                                                                                                                                                                                                                                                                                 
    えっ?と思いながら読み進めると
    魅力的でキラリと光る表現の数々と、巧みなストーリー展開に圧倒される。
    ひとつ読み終えると、余韻を感じる時間が必要で
    つい、ページを進める手が止まってしまう。
                                 
    5つの短編集だと思って読み始めたのだけれど
    全部が まるで海の水のように繋がっている。
    5人の目線でストーリーを繋げていくことで
    物語は、厚みを増して 多面的に膨らんでいく。
                                                                                        
    町田そのこさん、素晴らしい!

  • それぞれとてもいい作品なのだが、

    生きづらさ、息苦しさ、

    が幼い頃の自分の身にしみるようで、読み終えたとき、消耗してしまった。

    苛烈な人生を経て、その先に一筋の光が射しているのが救い。

    【冒頭のみ】
    ①カメルーンの青い魚
    団子にかぶり付き、差し歯(前歯2本)が取れた、とそれを向かいに座る啓太に見せ、笑って写真に撮られてしまうさっちゃん•••。

    ②夜空に泳ぐチョコレートグラミー
    祖母の陰に隠れ、いつも泣いてるだけだった晴子が、ある日、自分をいつもいじめてくる田岡に馬乗りになり、ボコボコに殴りつけた•••。

    ③波間に浮かぶイエロー
    沙世が働くカフェ、「ブルーリボン」で、賄い料理の味がまずいとケチをつける、ただの居候の環と、店主である芙美とが騒がしい口ゲンカ。元男性の芙美は、環に「重史」と本名で罵られ、ますますヒートアップしてしまうのだが•••。

    ④溺れるスイミー
    唯子は母に手を引かれて小さな駅で父親を見送った。「お父さんみたいになるな」怖い顔で言う母に、必死に頷きながら。今は、工事現場で声を掛けられた強面の宇崎のダンプの助手席に、男女の関係もなく、唯子が気が向いたときに乗せてもらっている•••。

    ⑤海になる
    桜子は今日、晴れたとてもいい日、自分の誕生日を死ぬ日と決めて家を出た。暴力夫との生活は限界で、流産、死産を重ねた自分にはこれ以上生きる意味を見出せなかった。そんなとき、また、あの男にばったり会った。嫌悪感しかない、長髪のだらしない男。桜子の人生がどん底に堕ちたその瞬間に、なぜかいつも目の前に現れるのだ•••。

    ③は文句なしの絶品。

    そして、表題作の②もとてもいい。

    虐げられていたものがそれを跳ね返す壮快感と、勇気をもらえる。

  • 1.この本を選んだ理由 
    毎度のことながら、なにかおもしろそーな小説ないかなーと探してブクログ評価高かったので選びました。
    ただ、これも毎度のことで、短編集だったことに、がっくりと、思ったら、お話につながりがあって、不思議な世界観に感じました。

     
    2.あらすじ 
    ①カメルーンの青い魚
    両親のいない、せつこと、りゅうちゃんのお話。

    ②夜空に泳ぐチョコレートグラミー
    母親だけの啓太と、母のいない晴子のお話。

    ③波間に浮かぶイエロー
    旦那が自殺した人、友人が早くに亡くなった人、そんな人たちが集まるお話。

    ④溺れるスイミー
    普通に一つの場所に留まることのできない人のお話。

    ⑤海になる
    流産とDV、それでも生きる人の強さを感じるお話。


    3.感想
    惹かれる言葉が多いと感じました。「力を尽くして得たものだけが、新しい力をくれるんだよ」とか、ふわっとした、小説の世界観に吸い込まれていくような気がしました。
    全体的に悲しいお話。それぞれのお話に少しのつながりがあって、なんとなく、小説の世界を俯瞰した感じになって、より一層不思議な世界観に吸い込まれていく。


    ①カメルーンの青い魚
    せつない。

    ②夜空に泳ぐチョコレートグラミー
    せつない。

    ③波間に浮かぶイエロー
    これも悲しい話。

    ④溺れるスイミー
    なんか面白い世界観。
    自分にはない感覚。

    ⑤海になる
    これも悲しい話。
    DVも絡んできて、なんか辛い気持ちになる。


    4.心に残ったこと
    なんか、不思議な感覚だけが残ったような感じ。


    5.登場人物  

    ①カメルーンの青い魚
    幸喜子(さきこ) さっちゃん
    啓太 さっちゃんの子ども
    りゅうちゃん
    たなべ 左官屋

    ②夜空に泳ぐチョコレートグラミー
    啓太
    さっちゃん 啓太母

    近松春子
    烈子 晴子祖母

    巌 いわお
    田岡
    洋平

    ③波間に浮かぶイエロー

    沙世
    芙美 
    しーちゃん(高橋重史)

    遠藤環

    幸喜子

    ④溺れるスイミー

    島田唯子

    宇崎 りゅうちゃんがさっちゃんの歯を折るときの喧嘩相手

    立野 製造部課長
    キミちゃん
    村迫

    ⑤海になる
    桜子 烈子妹
    清音 きよね

    由里
    晴子

  • 2021/07/13読了
    #町田そのこ作品

    恋愛もの連作短編。
    DV、ジェンダーレス、自殺といった
    現代が抱えるテーマとなっている。
    やや重めの作品。
    どんな人も誰かと繋がって
    成り立っているんだと感じさせる。

全172件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

町田そのこ
一九八〇年生まれ。福岡県在住。
「カメルーンの青い魚」で、第15回「女による女のためのR-18文学賞」大賞を受賞。二〇一七年に同作を含む『夜空に泳ぐチョコレートグラミー』でデビュー。他の著作に「コンビニ兄弟―テンダネス門司港こがね村店―」シリーズ(新潮社)、『うつくしが丘の不幸の家』(東京創元社)などがある。本作で二〇二一年本屋大賞を受賞。
近著に『星を掬う』(中央公論新社)、『宙ごはん』 (小学館)、『あなたはここにいなくとも』(新潮社)。

「2023年 『52ヘルツのクジラたち』 で使われていた紹介文から引用しています。」

町田そのこの作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×