この空を飛べたら

著者 :
  • 新潮社
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感想 : 5
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  • Amazon.co.jp ・本 (181ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103511045

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  • 『五時になると、道の向かいにあるPARCOのビルの壁いっぱいに、イルミネーションが点くんだ』―『鴉』

    ああ、この世界に描かれているのは札幌だな、と気付いてしまう。それは決して五月の雪解けと供に全てが許される季節の札幌ではなく、梅雨とは無縁の爽やかなリラ冷え後の札幌でもない。まして観光客がとうきびを頬張る晴れた大通り公園の札幌でもない。それは、曇天の、街灯の少ない、人との関係性を切り離されたように感じる夜の人混みの中の札幌なのだ。

    そんな場所にいると、どこまでも自分を悲劇の主人公に追いやり、ナルシシズムに浸って憂いてみせる世界の入り口が開いてしまう。それは解り過ぎるくらいに分かってしまう。本当は、少しばかりの勇気を振り絞って現実の世界へ視点を移すことも出来るのに。今日もまた「夜会」の如く悲劇を語り続ける。

    店の名はライフ。そんなフレーズが一過性の郷愁感を伴って記憶の中から蘇る。あやしげな運命論の行き止まり。その自己憐憫は何処にも辿り着けないことは百も承知。けれど札幌駅の北口と南口を唯一繋いでいた細い地下歩道の薄暗さが、何処か全く知らない世界へ自分を連れて行ってくれないかと思わせたあの頃の札幌。今、正門近くにそんな店もなく、北口と南口は高架によって互いを解放した。自己憐憫に耽る暗がりは既に霧散してしまったのかも知れない。けれどやはり思うのだ。短い札幌の夏の青空はどこまでも高い。その高さに比例して青が薄い。その薄い青を眺めていると長い冬の重苦しい空が透けて見えてしまうのだ、と。

    弾き語りの続きが夜会であるなら、これは夜会の延長の長い長い弾き語り。歌のように物語のように、切り取られた人生の破片がそこら中に散らばる。破片は風に煽られて右へ左へ動くけれど、吹き溜まりに捕まればもう何処へも辿り着けない。本の中に閉じ込められそうな恐怖感と、もう何処へも行かなくていいのだという安心感と、不思議な郷愁が綯交ぜになる。中島みゆきの世界に聴き入る。

  • 人の心のいくつかを綴った短編集。中島みゆきが世界を見るときの視点の在り場所がよくわかり、それぞれの小説の完成度よりも、むしろそのこと自体に深い感銘を覚える。こういう視点から彼女の歌は生み出され、そして何より、そこには圧倒的な「共感」がある。
    ポケットの白鳥 と 寒雀 にやられた。

  • 過去に読んだ本。

    中島みゆきさんの連作短編集。
    都会の孤独を描いた作品である。

    女子高生の一人称文体が新鮮。

  • 短編集だけど、微妙に人物が繋がる。歌のイメージとは全く違って重苦しい。まぁ、「問う女」「2/2」もそうだったし、小説家中島みゆきとしては、歌手中島みゆきと別な物を見ているのだろう。きっと、夜会に膨らませてるんだろうなぁ。
    出来たら、曲のイメージで甘い切ない恋愛物を書いて欲しいと思うのは・・贅沢なんでしょうね・・
    内容としては、作者が中島みゆきでなければ、読み捨て(笑)一人称の呟きで、主人公の愚痴っぽさにうんざりする部分も多い。

  • 【目次】
    1鴉
    2COO,COO
    3ポケットの白鳥
    4チャボを飼ってみな
    5寒雀
    6かささぎ橋
    7この空を飛べたら

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著者プロフィール

中島みゆき
1952年札幌市生まれ。藤女子大学文学部国文学科卒。75年「アザミ嬢のララバイ」でデビュー。同年、世界歌謡祭「時代」でグランプリを受賞。76年ファーストアルバム「私の声が聞こえますか」をリリース。アルバム、ビデオ、コンサート、夜会、ラジオパーソナリティ、TV・映画のテーマソング、楽曲提供、小説・詩・エッセイなどの執筆と幅広く活動。

「2020年 『中島みゆき第二詩集 四十行のひとりごと』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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