全部ゆるせたらいいのに

著者 :
  • 新潮社
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感想 : 69
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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103514428

作品紹介・あらすじ

不安で叫びそう。安心が欲しい。なのに、願いはいつも叶わない――。『1ミリの後悔もない、はずがない』で大注目作家の心揺さぶる最新長篇! その頃見る夢は、いつも決まっていた。誰かに追いかけられる夢。もう終わりだ。自分の叫び声で目が覚める。私は安心が欲しいだけ。なのに夫は酔わずにいられない。父親の行動は破滅的。けれど、いつも愛していた。どうしたら信じ合って生きていくことが出来るのだろう――。痛みを直視して人間を描き、強く心に突き刺さる圧倒的引力の傑作!

感想・レビュー・書評

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  • 千映のワンオペ育児から始まるのだが、読み進めるうちに娘の恵が将来の自分になっては…という思いが見えてきた。
    読み進めるにつれて、壮絶な思いが伝わってくる。
    これでもか…と続くうちに疲弊するのは自分だけなのか。
    それでも投げ出さずに向き合っていくしかないのか…
    許せることなどできるものか…と思い、だが捨てることはできないのだ。
    愛とはいったい何なのか。
    こんなにも苦しくて憎しみさえ感じてしまうものなのか。

  • アルコールに溺れ、ついには暴力まで振るうようになってしまった父親。
    一升瓶を抱えて酒屋からでてくる、主人公の千映。
    高校時代から付き合い始めた、宇太郎との間に娘の恵も授かったが、近ごろ宇太郎の酒の飲み方が酷くなって来ている。
    浴びるように飲む。吐く。寝る。紛失する。

    私の父もよく酒を飲む人間だった。
    暴力などは一切無いが、私が幼い頃は、午前様で部下を連れて帰り、翌日に知らぬ大人と朝食をとり、幼稚園に行く、なんてこともよくあった。
    大人になり、実家に帰省した際も、深酒した父にうざ絡みされ、立てなくなる程酔った父を姉達と布団まで引きずったこともある。
    母は「あんた達の顔見れて、嬉しくて飲み過ぎてるのよ!」と笑っていたが、子供の頃は日曜日など、寝不足の母の怒りが爆発し、二日酔いの父親と家を追い出され三人でラーメンを食べによく行ったのを忘れているのか?(笑)

    一木さん作品は3冊目だが、いつも女性の細やかな感情を余すことなく表現されているなぁと思う。
    例えばそれが、女子高生であっても、子育て中の母親であっても、孫をみる高齢の女性であってもだ。

    「全部ゆるせたらいいのに」こう思っても、出来ない事の方が多い。
    私のような未熟な人間性の持ち主には、特に厳しい。
    現に絶対に全部ゆるせない相手がいる(笑)
    短編集かと思って読み始めたら、主人公千映の子育て中の話から始まり、母の新婚時代、父からの目線、宇太郎との出会い、そして最後はまた現在へと繋がっていて、アルコール依存症の父を抱えた娘の葛藤の移り変わりが良く伝わってきた。
    読み進めるのも辛いページもあったが、最後のザクロの木の話は、ささやかな幸せを感じられて良かった。

  • 精神疾患に分類される種々の「依存症」はその人の持つ脆弱性が成せるだらしなさと世間一般は理解する。

    「ちゃんとすれば、しっかりすれば、そんなものは止められる。」
    精神論大好き文化だから、作者一木さんが勇気を持ち、亡くなったご自身の父上の「アルコール依存症」に正面から向き合おうとした覚悟は伝わる。

    特に終盤、医療機関での医者との意思疎通の難しさや、当該患者の支離滅裂であり、家族・周囲の人々を摩耗させる言動が詳細に描かれる。
    私も精神疾患の実家家族を持つ一人として、様々な思い出すことも憚られる出来事が走馬灯のように、頭を駆け巡る。

    世間(他人)は、「本当は優しい人、可哀想な人」と当該患者を「弱者」のカテゴリーに入れて理解しようとするが、親族にとって問題はさほど簡単ではない。

    読後残念だったのは、文芸作品というよりは、婦人公論の寄稿のような印象を受けたこと。体験を文芸に昇華しきれていない感。

    同様に厳しい生い立ちを持つ、宮本輝さんや窪美澄さんの作品のような、登場人物と書き手の距離や、出来事の描写への渇き具合が欲しい。

    気になったところ:

    ①文尾の常体「◯◯だった」の羅列が随所にあり、単調に感じられる。
    体言止め、隠喩、直喩等を織り交ぜて、状況や心情の描き方の工夫がないと一本調子に感じる。

    ②会話文の展開が冗長に感じられる。
    状況や心情を説明しよう、物語を展開させようという作者の意図が透けてしまう。

    ③アルコール依存症である父の暴言、暴力、認知のゆがみ等によって感じる恐怖や得体のしれない不安と、ごくたまに見せる父の脆さや弱さ、温かさのバランスにもう一工夫欲しい。

    すべてを言語による状況説明によって理解させようとしすぎるあまり、娘の心のなかにある困惑、不安、恐怖、逡巡、躊躇、諦め等々の刻々と変わっていく機微が伝わりづらい。

    一木さんが取り上げる作品のテーマには興味があるのだけれど、私の文章の好みが違うのだな。

  • 読んでいて悲しく、つらかった。
    アルコール依存症の父と、その父を心から愛する母。そんな両親の娘である「千映」。
    千映が結婚して、娘「恵」が生まれたが、夫の宇太郎は酒に飲まれる日々を過ごしている。

    恵が赤ちゃんのとき、家で恵と二人きりのときに千映が感じる孤独。
    「諦めるのではなく、許せたらいいのに」と、千映は思う。
    私はこれまで、「諦めること」と「許すこと」を比べたことはなかった。でも、この本を読んで、その違いと類似性に、ハッとさせられた。
    諦めることと、許すことは、受け取る側にとってはさほど違いはないのかもしれない(どちらも、口うるさく言われなくなる、という点が)。でも、それを与える側、決めた側の人の心は全く違うんだ。

    父がアルコール依存症になる前、幸せだったときのことですら、私は読むのがつらかった。だって、千映は、それを覚えていないから。
    お互い幸せな時間もあったのに、忘れちゃう。覚えていられない。
    幼かった子どもが覚えていないのは仕方ないと思うが、親である父ですら、別人のように変貌してしまう。依存症の恐ろしさだ。

    ただ、最後まで読んで「やはり子どもは希望だ」とも思った。
    千映自身も、誰かの希望だった時間があったこと、知ってほしい。
    千映が思うように、私も、恵には千映のような子供時代を送ってほしくないと思った。幸せであってほしい。
    千映の父もまた、誰かの希望だったのだ。しかし、千映の祖母(父の母親)は、優秀であること、いい学校に入ること、など、「条件付きの愛」しか与えてこなかったのだと、千映は思う。悲しいけれど、これは世の中のこどもの多くが味わってることだと思う。私も、親が望む姿でなければ自分は愛されないと思い、親に嫌われたくなくて、失望されたくなくて、不登校になる勇気すらなかった。
    千映の父親も、もしかしたら、そういう息苦しさを感じ続けながら、大人になってまで親に与えられた職場ですり減り、行きつくところまで行ってしまったのかもしれない。
    大人になってから、親のこと批判するなんてって憚られるけど。でも、大人だからこそ、もはや耐えられないことってあるんだと思う。

    親子、夫婦・・・家族だからこそ、許すこと、諦めることが、難しい。
    どんなひどいことされてても、相手が死んでしまえば、「もっと話しておけば、会っておけばよかった」と、残された者は後悔する。
    死ぬことでしか、許してもらえないことってきっとある。千映の父は、死んだことで千映に後悔を残した。
    私は常々、死んだから美化されるなんておかしい、と思っている。私は自分の意志で遠ざけている人がいるが、その人が死んでも、もっと会えばよかったなんて思わないだろうし、そう思っているからこそ、遠ざけている。
    そんな私でも、その人が死んだとき、やはり、もっと親切にすべきだった、もっと会っておくべきだったと、自分を責めるのだろうか。
    この本を読んで、現在の自分の判断に、少し自信がなくなってしまった。

  • アルコール依存症の父とその娘のエピソードがメインストーリーとなっているが、それぞれの章では、父、娘、娘の夫がそれぞれ主人公となっている。各章でそれぞれの立場が描かれており、それを読むことで、人にはそれぞれの立場や思いがあり、それが「現状」を生み出しているのだとそんな当たり前のことを気づかされる。他人を見るとき、私たちはつい自分から見えている部分だけでその人を判断してしまいがちだ。しかし、自分自身にも色々な事情があるように、他人にも、その人なりのその人にしか分からない苦しみや困難を抱えているものなのだ。
    そんな困難でどうしようもない状況でも、家族の愛だけは信じてみたくなる、そんな温かくも切ない作品。
    後悔しない生き方なんてないのだろう。だけど人は皆、その時できる選択をしながら必死で生きているのだと感じた。

  • 父が酒に飲まれるタイプ。
    元彼が暴力的な酒乱。

    そんな私から見たら千映も母親も
    もはや『愛』ではなくて、共依存だと思います。

    母親がなかなか別れないことを
    『ある意味そんなに愛した人と羨ましい』と言っていたけど

    許し受け入れることばかりが愛ではないです。
    相手の為にいち早く突き放してあげることも愛情ですから。

    多くは相手の為というより
    自分の寂しさや罪悪感、周囲の評価の為に突き放せません。

  • 全部諦めて全て捨ててしまえば、と思ってしまうような環境だが主人公が諦めずにもがく様子を見ているとこんな選択肢もあったんだよな、と思った
    向き合ったり手放したり後悔したり、逃げずに自分の人生と向き合って生きている主人公がとてもよかった

  • 千映の父親は弱い人間だった。
    もともと酒を飲むことを好んだが、妻と娘のために会社勤めするようになり、心労のせいか逃げるように酒を飲み、酒に溺れ、酒に人生を呑まれてしまった。

    千映は酒を飲んで暴力を振るう父親を嫌った。大学進学で実家を離れたあとも、父親の存在は彼女を不安にさせた。

    千映の結婚相手、宇太郎も仕事のストレスから逃げるように溺れるように酒を飲み出し、父親の姿と重なって見えたが、宇太郎はよくない飲み方をやめることができた。

    散々迷惑をかけた父親は酒を飲んで風呂で死んだ。
    父親のことをどう想うべきなのか、千映は考える。そんなとき、千映と宇太郎の娘は無邪気におじいちゃんのことを話す。

    -----------------------------------------------

    「あなたは病気です」とTOKIOの松岡さんが、アルコール依存を疑われたメンバーに言ったときのことを思い出した。
    千映さんの父親も間違いなく病気だったし、症状としてはかなり重症だったと思う。宇太郎さんだって軽度かもしれないけれど、病気だったんじゃないだろうか。
    アルコール依存症は病気だ。

    自分の父親も酒を飲んで暴れるひとだった。
    仕事も続かず、親のスネをかじるような生き方は彼の自尊心を傷つけ続けたのだろう。彼は酒を飲んでは暴力を振るい、物を投げて壊した。依存するほど、飲酒量だったのかは記憶にないが、酒に逃げていたことは確かだ。

    なぜ酒に逃げてしまうのか。
    なぜ酔って暴力を振るってしまうのか。

    いまは答えがわかる気がする。
    千映さんの父親も、自分の父親も弱い人間で、自分の弱さを認められなかったからだ。自分の弱さを受け入れることができれば、別の生き方だってあったんじゃないだろうか。

    家族だから見捨てられない。諦められない。けれど、許すことも受け入れることもできない。
    惰性のような家族愛はまるで呪いみたいだ。

  • 図書館にて。
    Twitterで紹介されていて予約。

    ゆるせないだろう、と思う。
    父ちゃんが酒乱で、という話。
    子供は逃げられない。
    危害を加えられる前に、母ちゃん助けろよと思う。夫婦の間の愛などはその後だろう。
    冒頭の章、子育ての過酷さも自分のことがフラッシュバックのように思い出された。

    全部ゆるせたらいいのに、は全部ゆるせなかったらいいのに、と自分なら思ってしまいそうだ。
    どちらにも振りきれないからつらい。

    反面、私も酒飲みだ。
    楽しいときはいいけど、辛いときに飲んで何かしてしまうかもしれない。
    どうであれ、娘を傷つけることはあってはならない。
    酒に逃げる気持ちもわかりつつ、言い訳には出来ないし、許されたいだろうが許されないだろうなと思ったりした。

  • アルコール依存症は聞いたことあるが
    こんなに辛く怖いものなんだと思った。
    自分の親がお酒に呑まれていく様…
    それが日常の出来事だから、他の家との違いが
    余計に辛く悲しい。
    彼女には幸せになって欲しいと思いながら読みました

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著者プロフィール

1979年福岡県生まれ。東京都立大学卒。2016年「西国疾走少女」で第15回「女による女のためのR-18文学賞」読者賞を受賞。2018年、受賞作を収録した『1ミリの後悔もない、はずがない』(新潮文庫)でデビュー。他の著書に『愛を知らない』『全部ゆるせたらいいのに』『9月9日9時9分』がある。

「2022年 『悪と無垢』 で使われていた紹介文から引用しています。」

一木けいの作品

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