トモスイ

著者 :
  • 新潮社
3.08
  • (0)
  • (12)
  • (17)
  • (7)
  • (1)
本棚登録 : 110
感想 : 29
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (188ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103516088

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 「トモスイ」って何?と思って手に取った1冊。冒頭に据えられているが、不思議で官能的な作品。川端康成文学賞受賞というのも頷ける。
    アジア10か国を訪ねた際に書かれた10編の作品集。あとがきにも書いてあるが、重いどろどろしたものと突き抜けた境地の作風とが半々。命の狭間でのできごとが綴ってある。

  • 恋愛小説を得意とする作家だけあって、なんでもない描写が妙になまめかしい。

  • (2011.03.31読了)(2011.03.09借入)
    2006年から2010年の間に書かれた10篇を収めた短編集です。
    「5年間にアジア10カ国の文学者を訪ねてその作品を日本に紹介し、作品が生まれた背景の情報を様々なメディアに発信すると同時に、私も触発されて短篇を書くというプロジェクト「Soaked in Asia = アジアに浸る」を終えて、今こうして私の短編集が本になることは、とても感慨深い。」(あとがきより)
    収められている作品名は、以下の通りです。
    「トモスイ」「四時五分の天気図」「天の穴」「どしゃぶり麻玲」「唐辛子姉妹」「投」「モンゴリアン飛行」「ジャスミンホテル」「ニーム」「芳香日記」
    この中の「トモスイ」で、川端康成文学賞を受賞したとのことです。

    あとがきに、それぞれの作品についての思い出が綴ってあります。アジア10カ国を訪れながら、そのたびに作品を仕上げるというのは、大変であるとともに、楽しいことでもあったのでしょう。
    ・「トモスイ」はタイ訪問から生まれた。タイは第三の性に寛容な仏教国で、旧い教典には人類には四つのジェンダーがあると記されている。
    ・「四時五分の天気図」は、台湾の離島で実際に起きたことだ。
    ・「天の穴」は一回目のフィリッピン編で書いた。
    ・「どしゃぶり麻玲」。マレーシアのクアラルンプールの高速道路で暴力的な豪雨に遭い、五感が潰されて奇妙な浮遊感がやってきた。一瞬、命が宙に舞った。
    ・「唐辛子姉妹」は、韓国の「恨とは何か」というテーマと格闘したあと、その重さに耐えきれずにちょっと遊んだ。
    ・「投」は上海で宿泊したホテルの窓から見た光景に、朱色の一点を加えた。
    ・「モンゴリアン飛行」。子供のころ祖父から聞かされたモンゴルの大地の雄大さに、実際の紀行が結びついて、さらに児童文学者ダシドンドグさんが書き下ろしてくださった詩が加わり、奇妙な一編になった。
    ・「ジャスミンホテル」は二回目のベトナム編で書いた。ベトナムといえば私の世代ではベトナム戦争に直結する。ベトナム戦争を日々意識した二十代に直結する。
    ・「ニーム」はインドで、女性保護施設を訪問したときに見かけた、無言の女性からの発想だった。人も樹木も牛も象も、すべて白く覆い尽くす埃の凄まじさ。
    ・「芳香日記」は、最後の訪問国インドネシアのバリ島が舞台だ。白銀色の芳香に酔いつつ短篇日記を綴った。

    訪れた国と紹介する作家からの刺激を受けながら綴った作品なので、ある意味実験小説的な印象もあり、これから書く高樹さんの作品への反映が楽しみと言えるかと思います。

    ・「トモスイ」
    トモスイは、「魚でも海藻でもなくて、赤ん坊ほどの大きさの、貝の剥き身みたいなものだった。」(19頁)タマリンドの実を餌にして釣る。
    食べるのではなくとことん吸い尽くすのだそうです。身体の突起物と穴から吸うのだそうです。「腹のように膨らんでいる端のところに、体内から飛び出したものがあり、もう一方の端には、縦長に割れた臍のような穴が開いている。」(19頁)
    味は「こんな旨いもんを吸ったら、死んでもいいと思います。」(20頁)
    (トモスイは架空の生き物だそうです。タイへ行っても決してトモスイを注文しないように!)

    ☆高樹のぶ子の本(既読)
    「光抱く友よ」高樹のぶ子著、新潮文庫、1987.05.25
    「サザンスコール」高樹のぶ子著、日本経済新聞・夕刊、1991.06.
    「甘苦上海」高樹のぶ子著、日本経済新聞・朝刊、2009.10.31
    「ショパン奇蹟の一瞬」高樹のぶ子著、PHP研究所、2010.05.10
    (2011年4月3日・記)

  • アジアに係わる10編の短編。
    共通するのは少し日常から隔たった世界。不思議な皮膚感覚の小説。
    作品の中では「トモスイ」が一番良かった。

  • アジア各地を舞台にした読み切りの短編小説10編を収録。まさに自在なまでの書きっぷり。著者は、九州大学アジア総合政策センター主宰で行われた「SIA」(Soaked in Asia=アジアに浸る)というプロジェクトに参加する形で、この作品を仕上げていった。五年に渡りアジア十ヶ国を訪ね、その国の文学作品を日本に紹介しがてら、その作品の背景をメディアに発信しながらの創作だったという。いかにもこのプロジェクトらしい作品は、モンゴルを舞台とした「モンゴリアン飛行」だろうか。草原に昇る満月の描写が美しい。南の島の夜の海が舞台となった表題作の「トモスイ」は、官能的でなんとも怪しい気配に満ちている。視覚だけでなく、聴覚、触覚そして舌で味わう味覚までを駆使して、身が震えるようなエロスを表現する。

  • アジア特有の生暖かい湿気を帯びた風の臭いがする 雑多な中に宗教的な調和のとれたある種の絆があり いかなる時代の社会的背景に抑圧を強いられていても アジアはアジアンであり続けようとする 各国の同時代の文学に偉大なるアジアンパワーを感じ その美しさと儚さに日本人の無常観に通づるモノを垣間見る

    フィリピン・ベトナム・台湾・マレーシア・上海・モンゴル・タイ・韓国・インド・インドネシア

    その国々を旅し 人や空気との触れあいに著者の受けたインスパイアがそのまま梱包されているかのようで 身体的肉体的なトリップ感に酔う

    死者が自然の力を借りてユラユラと人の目の前に出現する時 人は内にほとばしる情念を感じ取り 生の味をかみしめる

    それは祝祭という様式を借りて廻る季節に合わせて周期的に執り行われる儀式の源となるであろう心の動きに思われる

    仏は常に在ませども 現ならぬぞあはれなる 人の音せぬ暁に 仄に夢に見えたまふ

    遠き人のうたがきこえる

全29件中 21 - 29件を表示

著者プロフィール

小説家

「2022年 『ベスト・エッセイ2022』 で使われていた紹介文から引用しています。」

高樹のぶ子の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×