一発屋芸人列伝

  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103519218

作品紹介・あらすじ

世の中から「消えていった」芸人たちのその後の人生を、自らも「一発屋」を名乘る著者が追跡取材。これまで誰も書いたことがなかった彼らの現在は、ブレイクした“あの時"より面白かった?!涙あり笑いあり、そしてなぜか生きる勇気が湧いてくる。時代に翻弄されつつも必死に芸に生きる、どうしようもなく不器用な人間たちに捧げるノンフィクション!

感想・レビュー・書評

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  • 【感想】
    一発屋の芸は、ほぼ例外なく「わかりやすい」笑いだ。子どもからお年寄りまで巻き込めるキャッチーな笑いだからこそ、時の大ブームを巻き起こす。本書に出てきたテツandトモや波田陽区などは、まさにキャッチーな動きとコミカルな歌によって栄光を掴んだ芸人の代名詞である。そう考えると、一発屋芸人とは、多様な人々の心を掴むことに成功した「エンタメ界の日本代表」と言えるのかもしれない。

    しかしながら、彼らが活躍したタイミングは、人々がまだテレビを「第一メディア」として活用していた時代だ。そして、SNSの発展やテレビ離れが加速し、エンタメコンテンツ自体の消費速度が上がっている今、「一発屋芸人」という言葉すら無くなりかけている。テレビをつけてみてもベテランと中堅芸人が画面を占め、若手芸人のお披露目の場であった「お笑い番組」は跡形もない。あらためてテレビの影響力の衰退は激しく、彼らは今や絶滅危惧種なのかもしれないと感じた。

    ―――――――――――――――――――
    【まとめ】
    0 まえがき
    一発屋は、本当に消えてしまった人間なのだろうか。
    否である。
    彼らは今この瞬間も、もがき、苦しみ、精一杯足掻きながら、生き続けている。 本書は、自らも一発屋である筆者の目を通して、彼らの生き様を描いていく試み。


    1 レイザーラモンHG
    もともとは漫才の賞レースを優勝して華々しい経歴だったレイザーラモンコンビ。HGは、ある日出会った「ハードゲイ」という芸風のポテンシャルに強く惹かれ、5年もの歳月をかけて本格的に研究、ヒットを果たした。HGへの笑いへの向き合い方は、非常に真摯なものであった。

    HG「僕達って、飽きたとか、面白くなくなったとか言われるけど、その言い方は合ってないと思う。やってることはずっと面白い。ただ、皆が知り過ぎてしまっただけ。そもそも、面白 いものを提供したからこそブレイクしたんやから!」


    2 テツandトモ
    テツトモは、営業という、ともすれば蔑まれがちな仕事に光を当て、メディア仕事に劣らぬエンターテインメントであることを実証した稀有な一発屋だ。
    なんでだろうの流行から15年ほど経った今でも、彼らは年間で180本ほどの営業をこなす。また、数だけではなく質も高いとの評判だ。テツトモは事前に、地元民に裏取りをして「地元あるある」を作って営業に臨んでいる。
    「例えば、僕は山形出身。地元に来た芸能人が、『僕の田舎のことを何でこんなに知っているの?』となると嬉しい。そういう空間を創るのが大切。企業さんでの営業なら、会社のHPにあるような情報を聞かされるより、『営業部の○○さんが△△なの、なんでだろう♪』の方が断然嬉しい。勿論、その方の了解を得てやりますけど」

    二人の言動に付き纏う匂いは、演歌界の方々と酷似している。子供から、お年寄りまで楽しめるものを……という信念に基づく「わかりやすい」笑いの真骨頂である。


    3 ジョイマン
    一見、安易で稚拙と思われがちな彼らの芸だが、全く脈絡の無い二つの言葉を並べ、韻を踏み、かつ笑いも取るこの大喜利の難易度は高い。何故なら少しでも「意味」が生じた瞬間、 ただの駄洒落と化すリスクを常に孕んでいるからだ。そもそも、意味を見出し思考の拠り所とするのが人間の本能。それを避けて通る彼らの押韻スタイルは、誰にでも真似出来る代物ではない。

    そんなジョイマンは、ブームが過ぎ去ったころ、「サイン会0人」という衝撃の現状をTwitterに投稿したところ、これが逆にウケ、ネタにされる。マイナスを見事にプラスに昇華させた例だった。
    ジョイマンは、小島よしおやHGと違って一発屋ですらない0.8発屋だ。一度大きく売れながら、拭えぬ小物感……それが功を奏し、「誰からも公平に小馬鹿にされ る人達」という、芸人として喜ばしい特権を得た。

    まさにジョイマンは、「ここにいる」だけでいいのである。


    4 波田陽区
    「なんか、 エンタっぽいなー……」
    と揶揄され、エンタ芸人などと一括りに呼ばれることになる元凶、もとい大本が、 波田陽区だった。波田陽区が出てきてから、ネタのフォーマットが波田に酷似したピン芸人が溢れかえったのだ。賞レースのチャンピオンでもない芸人が、一つの番組内と限定的ではあったが、多くの人間に影響を及ぼした。言ってみれば、「時代の芸を創った」。これは偉業である。大袈裟かもしれぬが、波田陽区は文字通り「エンタの神様」だったのである。

    しかし、波田陽区は売れたがゆえに消えてしまった。そもそも毒舌というのは、芸能界から遠く離れた者が負け犬の遠吠え的に無責任に罵声を浴びせるからこそ、人は皆許容し思わず笑ってしまう。しかし、金と名声を手に入れ、芸能人の仲間入りを果たした波田の毒舌は、その拠り所を失った。
    となれば、今度は的確な技術に裏打ちされた、絶対的な説得力が求められる。しかし、波田にはそれが無かった……残念なことに。

    波田は今、地元に戻って地方営業やラジオのレギュラーで生計を立てている。ただし、相変わらずお笑いの方は滑りまくっているという。


    5 髭男爵
    延々と鳴かず飛ばずだった髭男爵。転機は笑いの金メダルJr.という番組でのくりぃむしちゅー上田の一言だった。
    「お前ら、髭男爵なのに、髭でも男爵でもねーじゃねーか!」
    ここから風貌を貴族にすることを思いつく。芸名も山田ルイ53世とひぐち君に改名し、ワイングラスを持ち出す。これが功を奏し、M-1グランプリの準決勝まで進んだり、エンタの神様からオファーがあったりと軌道に乗り始めた。
    転機は爆笑レッドカーペットであった。それまでやっていたショートコントスタイルから、乾杯を連発する漫才スタイルへと進化させ、見事ブレイクを果たす。

    今は地方営業の傍ら、山田はラジオや書き物の仕事をし、樋口はワインエキスパートの資格を取得しワインの仕事を行っている。

  • 髭男爵の山田ルイ53世が、一発屋としてブレイクした芸人たちにおこなったインタビュー集。髭男爵自体も一発屋として認知されているが、冒頭でも書かれている通り、そのブレイク度具合の差は大きい。しかし、このインタビューは、ほぼその後どうしたか話に焦点があてられている。
    「人生は続く。本書で描かれるのは、サクセスストーリーではない。一度掴んだ栄光を手放した人間の、“その後”の物語である」
    冒頭で書かれるている通り、売れたときの話があっても、その後の人生も続く。そして、その姿をリスペクトしながら書いている…とは思う。
    インタビューとしては、フラットではなく、それぞれの人への想いというか気持ちがストレートに出たものである。波田陽区に対しては、山田ルイ53世らしい負のツッコミで、ホントに嫌そうな感じであり、テツ&トモにはストイックさへの畏怖と呆れがあり、ムーディー勝山と天心木村の話では、呆れつつも、芸人の姿勢として最後にうまく落とす。
    時折、おもしろいフレーズが出てくるのは、さすがだし、テンポよく読み進められる。人生にあがく姿とは言えるものの、どこかしらユーモアが漂うのは、実際の芸人達の生き方もあり、筆者の筆致によるものもありで、その結果、軽い感じながらも生きていくってことを考えさせるとこがあると思う。

  • 一発屋芸人だって生きている!

    自らも一発屋である髭男爵の山田ルイ53世が、その昔一世を風靡した芸人さん達にインタビューしたノンフィクション。
    知っている人も知らない人もいたが、いろんな人の人生を知ることができて興味深い。
    山田さんの文章は好み。
    教養とお笑いセンスがにじみ出てて笑うと同時に感嘆。
    でもやたら筆者は~筆者が~とご本人がしゃしゃりでてきていたな。読者の「うるさいよ!」のツッコミ待ちと見た。
    読了後は芸人さん達に親愛と敬意を覚えた。
    それでもなんとか生きている人々への人間賛歌だと思う。

  • お笑いの一発屋の面々を、お笑いコンビ「髭男爵」の山田ルイ53世がインタビュー、紹介する。

    一発芸人って、一般的には面白くなかった人のように扱われるけど、かなりの努力をしたうえで、ビックウェイブを手にいれた人達で、アスリート並みの偉人だと思う。

    ただ、一般常識的には、はみ出ている人達、会社務めしていたらダメと見なされるような人達でもあることは確か。
    だけど、芸人ってそれくらじゃないと務まらないし、そもそも面白くないだろう。

    その中で、波田陽区、コウメ大夫の計算外のあたりぶり、天然ぶりこそが、ある意味すさまじいのではないかと思った。

    筆者はさすが現役の芸人だけあって、一発芸人たちのインタビューに絶妙なツッコミをいれる。
    これが面白い。

    プロの目線でクールに批評しつつ、きちんと読者についてこれるように。
    まさにお笑いで培った技なんでしょう。

    そして、同業者に対して、ほとんど成功する方が珍しいお笑いの中で頑張っている、同志たちへの愛を感じらえるところが良かったです。

  • ネタ見せ番組というのはなんというか、
    バラエティが行き詰まった時に代わりの突破口として現れ
    一発屋芸人はそれとともに社会に溢れ出た。

    売れるべくして売れたというよりは
    売るものがない中で、探し当てた一つの水脈が噴出したという形で
    社会構造というか、マーケティング的な情勢の中で巻き起こった現象に思える。

    この本は、著者自身一発屋芸人として、一発屋芸人にインタビューしている。
    こういう形での語りと聴き取りはほっておけば消えてしまっただろうから
    とてもよい企画だと思う。

    本人の努力もなければそもそも板の上に立てないのだから、
    みんな頑張っている。それでも、前述の通りの印象から
    社会現象に巻き込まれてしまった人のようにも見える。

    それが、このミクロな聴き取りでは非常に多様で自由なあり方が見える。
    最終的にはやはり翻弄されてはいるんだけれど、
    どっこいそれでも生きている、という感じのするこの
    一冊はとても民衆的な芸能風俗を描いている。

    少々ベタなツッコミも多いが、その辺も含めて、
    軽さが翻弄される僕ら自信を少し楽にしてくれる気がする。


    >>
    「一発屋の人なら分かると思うんですけど……」
    道連れにしたいのか、会話の合間に時折差し込む波田。
    (共感したら終わりだ!)(p.139)
    <<

    ギター侍とのサスペンス溢れる会話。

    >>
    「失敗して、『見えてしまった!あちゃー』……やるのは簡単ですけど、それをやると僕の場合、先がない気がする。どれだけ見せずに色々遊べるか……そこを突き詰めたい」
    頑固な職人、あるいはアスリートと話しているような錯覚を覚え、無意識に背筋が伸びる。(p.184)
    <<

    とにかく明るい安村の話だが、全般的にそれぞれのプロ意識が垣間見える。
    お仕事本としては外せないやつです。

  • 誰もが知る一発ギャグを発案し、世間に浸透させたあと、2発目を出すことなく、世間から見なくなった芸人。彼らは一発屋と呼ばれ、笑いものにされる。なぜか、その見下し方は一発も当てていないゼロ発芸人よりも低い。一発当てて、流行語大賞も取った。それで充分だと当人が思っていても、そんな理不尽な見方をされてしまう。それでも、彼らの芸人としての人生はまだまだ続く。

    そんな不当な評価にさらされながらも、芸能界にしがみついている一発屋芸人たちを同じく一発屋芸人である著者がインタビューする本書。登場する芸人たちはレイザーラモンHG、コウメ太夫、ムーディ勝山などの誰もが知る一発屋たち。

    そんな芸人たちにとって、一発屋であった過去の自分が今の最大の持ちネタ。そんな強力なネタにプラスできる何かを探して日々、格闘している。その姿こそが、一発屋芸人のアイデンティティだ。

    そして、一発屋芸人「髭男爵、山田ルイ53世」である著者は本書を通して、自らの文章力をこれでもかと見せつける。これぞ、一発屋芸人の求めるプラスアルファだ。

  • 名前どおりの本です。本人インタビュー、一発前後のエピソード、著者目線での冷静な分析で構成されてます。
    一発で終わってない実力派が多い印象。
    ところどころ登場する芸人さんたちのリラックスした表情の写真がいい。

  • 山田ルイ53世さんのラジオを聴いていました。
    話がとても上手く、話芸だけでもいつか再ブレイクするのではと思っていました。
    伊集院さんもそうですがラジオで話すのが上手い人は文章を書くのも上手いんですね。
    自身が一発屋芸人であるからこそ、取材対象を落とすでも上げるでもない良い心地良いバランスで書き上げています。
    一発屋芸人への愛に溢れた作品です。
    山田ルイ53世さんにしかこの本は書けないですね。
    あと、オチが異様にうまい。

  • ノンフィクション、ではなくエッセイ。レイザーラモンHG、コウメ太夫、波田陽区、テツandトモ、そして自ら髭男爵、インタビューをもとに構成されている。けれど、全体の印象は、彼らをネタに書かれた、山田ルイ53世の「執筆芸」的なもの。読後感で残るのは、山田さんの文章力。文章力というかコメント力かなぁ。ひな壇でうまいこと言いそうな。ネット社会では、芸人は消えない。ずっと残る。なので、“一発芸人”というカテゴリーは絶好の食い扶持であり、それこそ消えていってほしくないもの、なのかもしれないなぁ。

  • 賞賛と自信と敗北と屈辱と誇り。
    一発屋芸人と言われる人々を紹介する、一発屋芸人の書。
    売れた期間の短さに注目されがちだけれども、誰もが知り、笑ったり笑顔になったりすることを成し遂げたのはとんでもなくすごいことだと思う。
    著者の「ヒキコモリ漂流記」も面白く読んだけれど、その人それぞれが持つ才能を、喜ばれるかたちで発揮するのは大切なことだなと思う。山田ルイ53世さんの文章は、読みやすいしおもしろいし楽しいし、心に残る。
    多くの、チャレンジするひとたちに、こころから乾杯。もちろん言葉は「ルネッサーンス!!」
    自分もその一人でありたい。

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著者プロフィール

山田/ルイ53世本名・山田順三(やまだ・じゅんぞう)。お笑いコンビ・髭男爵のツッコミ担当。兵庫県出身。地元の名門・六甲学院中学に進学するも、中学2年に引きこもりになり中退。大検合格を経て、愛媛大学法文学部に入学も、その後中退し上京、芸人の道へ。「新潮45」で連載した「一発屋芸人列伝」が、「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」作品賞を受賞し話題となる。

「2018年 『ヒキコモリ漂流記  完全版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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