星夜航行 上巻

著者 :
  • 新潮社
3.64
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本棚登録 : 200
レビュー : 21
  • Amazon.co.jp ・本 (533ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103519416

作品紹介・あらすじ

その男は決して屈しなかった。人が一生に一度出会えるかどうかの大傑作。徳川家に取り立てられるも、罪なくして徳川家を追われた沢瀬甚五郎は堺、薩摩、博多、呂宋の地を転々とする。海外交易の隆盛、秀吉の天下統一の激動の時代の波に飲まれ、やがて朝鮮出兵の暴挙が甚五郎の身にも襲いかかる。史料の中に埋もれていた実在の人物を掘り起こし、刊行までに九年の歳月を費やした著者最高傑作の誕生。

感想・レビュー・書評

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  • 歴史は勝者の視点で語られがちであり、大河ドラマやゲームだけで歴史を知ったつもりになってはいけない。謀反を企てたとして死んだ家康の嫡男に仕えていた主人公の甚五郎から見た、歴史の勝者による愚挙の数々がこの小説からは語られる。特に第二部での朝鮮出兵のきっかけからの下りには、こんなことでいいのかと頭を抱えたくなる。ボリュームのある物語の半分が終わったばかりで、この後は一体何が語られるというのか。頑張って読もう。

  • 著者インタビューによると、主人公の沢瀬甚五郎は実在の人物らしい。信康切腹を機に出奔した男が、20年後に再び、重要な使者として堂々と家康の前に現れ、駿府の人びとを大いに驚かせたという記述を資料から見つけ、今回の小説のイメージを膨らませたのだろう。「是非、この時代を追体験してほしい」と語る通り、構築された物語世界は細部にわたって精緻を極め、主人公の目に映る光景がリアリティを伴ってまざまざと蘇るようだ。戦国における様々な史実も、通史的な理解を超えた意外な解釈が加えられているので、歴史家の感想を聞きたいところだ。

    信康切腹にからんで武田家滅亡の過程の記述は外せないが、勝頼の能力を超えたところで、謙信急死に伴う上杉家の内紛が遠因としてあったこと、さらには信康による武田家仲介疑惑についても、義兄である織田信忠への嫉妬や焦燥が引き金になっていたことなど、著者の硬質な文体で淡々と記され、なかなかに説得力がある。実は双方とも、狭い視野では大義があり合理的な選択を下しているのだが、大きな視野ではその正反対の結果になるという点が共通していて面白い。

    武田勝頼にしてみれば、上杉景虎を支援しないのは北条氏の影響力が越後にまで及ぶことを警戒したためだし、徳川信康にしてみれば、勝頼と信長の間を仲介するのも、それが一人の将兵を失うことなく武田を屈服させる好機と考えたからであった。しかし後代の人間が、彼らの決断を愚かだと断じるのも如何なものか。本書でも、秀吉の朝鮮出兵について、交渉役の小西行長や対島藩だけでなく、主人公の甚五郎を含む回船業に携わる商人まで、この戦いは無謀だと戦前から分かっていた風に書かれているが、本当だろうか?

    本書はこれまでとかく悪評の多かった小西行長の汚名をそそぐことも意図して書かれているが、共感が集まったかどうか疑わしい。出兵が無謀であると直接進言することなしに、小手先で秀吉を欺き続けることがこれまでの大恩に報いることだと心情を吐露させているが、倒錯し過ぎだ。漢城撤退を拒み、平壌死守を声高に主張した背景については、この選択が講和の早期妥結につながると彼が信じたからだとしているが、それならもっと手前のところで秀吉に出陣を要請し戦禍の現状を知らしめ戦の無益を悟らせることの方が合理的だ。

    下巻への不安は、主人公の甚五郎があまりにスーパースターすぎること。一介の馬飼いが、信康の小姓として取り立てられ、剣術や算術を徹底的に仕込まれ、出奔する頃には追手を何人も倒すほどの使い手に成長し、廻船業では商才を発揮して名士に認められ、朝鮮との交渉にも着いて来てほしいと頼まれるほど。さらには、重病人に医師負けの漢方の処方を行なったりと出来過ぎ君だ。その割に逐電理由がよくわからず、大恩のある主人の死を契機として何もかも嫌になり、無限地獄の鐘をもつ寺に身を寄せる。賊徒の遺児として苦楽を共にした母親はどうした?

    徳川家内に新しく生まれた「吏僚」として、本多正信が本書でも切れ者として登場するが、さしもの彼も、信康切腹に絡んで小姓の自死までは予期していなかったとあって、ずっこけた。そりゃ最後まで帯同させておいて、「これまでの主君はさきほど自死した」と告げられた小姓たちが、追い腹もせず「はいそうですか」と納得して帰参するはずもあるまいに。

    暴徒と化し蜂起した民衆の襲来を、急遽雇い入れた地元の若者たちと撃退したあとの描写が著者らしいと思った。普通なら自信をつけた若衆の高揚感が描かれそうだが、著者は「これで彼らも帰る場所を失った」と人を殺し地元でこれまでの生活を営めなくなった若衆の今後を思いやる。一人の会話が時にものすごく長くなるのも著者の特徴か。不自然な感じを読者に抱かせないように工夫はしてあるが、ナレーションのように説明的で、繰り返しの表現も多くなる。寡作ながら良作を連発する割に映像化された作品が少ないのも、こうした点が瑕疵になってるのかも。

  • 2019.4 冗長すぎる。最後は斜め読みではなく5段飛ばしで読了。まぁ秀吉の朝鮮出兵の酷さははじめて読みましたが、これだけくどいと半減ですね。

  • 上巻は戦国時代から秀吉の朝鮮出兵まで。物語の目線は、秀吉や家康ではなく、戦国武将でもなく、元信康に仕えた一介の男なので、時代のうねりに巻き込まれる側の歴史を知ることができます。また、朝鮮出兵の内実も知れました。俺が俺がの戦いぶりは酷いし、韓国人はみんな逃げちゃうんですね。戦線が伸びきって補給がヤバイというのはデジャヴか?下巻に向かいます。

  • 徳川家康の長男・徳川三郎信康の小姓 沢瀬甚五郎。彼の波乱の人生を通して語られる信長・秀吉・家康。それらはあまり語られていないイメージでそこにも引き込まれるが、最大の首根っこひっつかまれポイントは学校でも教えてくれない、司馬遼太郎も大河ドラマも避けて通った【文禄慶長の役】をこれでもか!って...いや、もう読んで!知らなきゃいけない歴史の真実は司馬史観のミッシングリンクを補完してくれる。

    あと、大日本帝国参謀本部は学習してないのかよ!ってくらい秀吉軍と日本軍が同じテツ踏みまくり!児玉源太郎なにしてんねん!みたいな。

  • <広>
    数多ある歴史小説の中で幾度も幾度も読んできた筈の物語なのだけれどいちいち知らないことばかりで驚く。そういう小説です。ただ云えるのは少しでも気を抜くと字面を追いかけるだけになってしまうって事。読んんでみよう!という方はくれぐれも準備を整えてからが良いでしょう。そして当然下巻へつづく,のです!

  • 3.2

    後半がちょっと教科書的

  • 戦国時代の末期、織田信長が本能寺の変で斃れ、豊臣秀吉が天下統一を果たし、朝鮮出兵で厳しい戦いをしている時代の歴史小説。岡崎三郎信康が徳川家康の嫡男だったころに仕えていた小姓の沢瀬甚五郎を軸としている。

    三郎信康は父家康から切腹を命ぜられ、甚五郎は主を失う。それから様々なことがあり海商人として活躍をする。ところが、朝鮮出兵に巻き込まれ、日本と朝鮮の民や兵士を苦しむ現実に直面する。

    時代が大きく動く中で、有名武将ではなく、少し離れた視点での歴史を語られる。そのため、民の苦しみや心情が甚五郎を通じて浮かび上がってくる。非常に長い物語であり、読むのに少し時間がかかった。しかし、これでもまだ半分。下巻ではどのような物語が待っているのだろうか。期待しながら下巻に進む。

  • 内容は沢瀬甚五郎が信康の小姓から逃げ出して堺のお店で働き出したことをきっかけに薩摩の店、博多の店に移り住み、とうとう秀吉の朝鮮出兵に巻き込まれるところで終わる。
    しかしこの話は中が細かくて内容がトロの様に重くて良く味わうと美味いと言うか、良いんだけど速読は厳しい。
    でも内容的に面白いので下巻にも行くぞ! エイエイオオ!

  • 2018.10.15

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著者プロフィール

小説家。1952年山形県生まれ。1983年「プロミスト・ランド」で小説現代新人賞を受賞しデビュー。88年「汝ふたたび故郷へ帰れず」で文藝賞受賞。(上記の二作は小学館文庫版『汝ふたたび故郷へ帰れず』に収録)2008年に刊行した単行本『出星前夜』は、同年のキノベス1位と、第35回大佛次郎賞を受賞している。この他、94年『雷電本紀』、97年『神無き月十番目の夜』、2000年『始祖鳥記』、04年『黄金旅風』(いずれも小学館文庫)がある。寡作で知られるが、傑作揃いの作家として評価はきわめて高い。

「2013年 『STORY BOX 44』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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