- Amazon.co.jp ・本 (572ページ)
- / ISBN・EAN: 9784103519423
作品紹介・あらすじ
その男は決して屈しなかった。人が一生に一度出会えるかどうかの大傑作。徳川家に取り立てられるも、罪なくして徳川家を追われた沢瀬甚五郎は堺、薩摩、博多、呂宋の地を転々とする。海外交易の隆盛、秀吉の天下統一の激動の時代の波に飲まれ、やがて朝鮮出兵の暴挙が甚五郎の身にも襲いかかる。史料の中に埋もれていた実在の人物を掘り起こし、刊行までに九年の歳月を費やした著者最高傑作の誕生。
感想・レビュー・書評
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甚五郎は博多商人として小西行長や宗義智らと関わりつつ、時代の荒波に流されていきます。下巻では秀吉の死と戦役の終了、そして甚五郎のその後の姿までが描かれていきます。
この小説は、とてつもない大作にして力作です。秀吉の朝鮮侵略をここまで精緻に描き切った小説は、寡聞にして知りません。それだけでも読む価値があります。ただ、他の方の感想にもあるように、ここまでの長編。読み通す体力•気力が必要なのは事実です。
読み終わって感じたのは、司馬遼太郎の「韃靼疾風録」との違いです。司馬遼太郎は、特に後年の作品には、常に"メタ"な視点が織り込まれます。その為、「この出来事が後々のあのエピソードと関連していくんだな…」という事が、それとなく分かるように描かれています。「韃靼疾風録」は江戸初期の長崎から物語が始まるものの、やがて大陸に舞台を移し、明朝の滅亡•清朝の成立までが描かれています。そしてクライマックスになだれ込む戦闘場面の迫力。一人一人が口にする言葉までが、まるですぐ隣りで語られているような生々しさで、さすがに国民的な作家と呼ばれるだけあってその筆致が読む者を圧倒します。
飯嶋和一さんは一人の主人公の人生を描き切るのではなく、あくまでも"主軸"としてその"時代"を描いているのだと思います。いずれにしても、私達は「秀吉の時代には何があったのか」も、知っておくべきではないでしょうか。そういう意味でも、お薦めできる本です。
追記:…もう一言。足りないとしたら"色っぽさ"ですかね。登場人物はほぼ男性オンリーです。司馬遼太郎の初期作品は掲載誌のカラーも反映してますから比較するのは野暮って感じですが…。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
飯嶋和一の「星夜航行」を読み終えました。
ハードカバーの本をベッドで読むのは難しいですね。
でも、読み進めるうち、そんなこと言ってられないくらいひきづりこまれました。
会話部分も極端に少なく、硬い文章で森鷗外の読んでいるような気がしました。
舞台は戦国、徳川家康の長男・信康の小姓として側そばに仕えた沢瀬甚五郎は
罪無くして故郷を追われ、堺、薩摩、博多、呂宋の地を転々とする。
海商人として一家を成した頃、秀吉の朝鮮・明国への無謀な侵略に否応なく巻き込まれる。
この本ではかなりの部分をさいて小西行長、加藤清正ら秀吉軍の
傍若無人な侵略も様子が丁寧に描かれている。
『この戦乱で最も苦しんでいるのは、衆生、下々の民である。この朝鮮でも、日本でも、
恐らく明国でも、最も厄災をこうむるのは、いずこによらず民草なのだ。
この秀吉が起こした戦乱によって、親兄弟を殺され、夫や妻や子をうしない、
疫病は蔓延して皆飢餓に瀕している。』
九年の歳月を費やして書かれたこの小説は飯嶋和一の代表作になったことに間違いない。
近年の作家の中では出色の作家だと思う。 -
甚五郎は時々出てくるが、要は秀吉の朝鮮戦役の結末までの話が詳細に書かれている。あまりに細かく書かれているため。読む速度が非常に遅くなってしまう。内容は濃いが読むのに非常に力がかかってしまう。でも読後は爽やかな気持ちになるかなあ。
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圧倒的な詳しさで秀吉の朝鮮出兵を語る.ここまで詳しくなくてもと少し煩わしくなるほどの記述.欠点は添付されていた地図がとても見にくく,分かりづらかったこと.また,小西行長の正義は手前勝手な正義で,そのために死屍累々の荒野が残されたと言っても過言ではない.それに比べて甚五郎の清々しさが光る.元三郎信康の小姓衆がどの人物を取っても素晴らしく,もし信康が生きていたらどうだったのかと想像してしまう.装丁も良かったです.
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冒頭の衝撃ボディブローがじわじわ攻め立て、自分の読解力と処理能力をはるかに超える情報量の波に溺れそうになりながら追い立てられるように読み進む。
圧巻はその浸透度。ずんずん侵食され心は遠き彼の地へ。
読み終えて覚える安堵感は言わずものがな。 -
長い長い物語、1100ページを一気に読み通してしまった。飯島氏の小説はいつもと感心しながらその世界に浸りながら読み終えてしまう。
秀吉の朝鮮出兵の出来事を物語の中心に据え、その周辺に登場する様々な群像を冷徹な目を思って眺めていく。人はその時代その状況の中で生きていき、死んでいく以外に方法は無い。これは現代に置き換えてみても、私たちの生活状況に置き換えてみても、何も違わないのかもしれない。
降倭軍通して秀吉軍と戦う人々は、何を思い、何を目指して、何のために戦うのであろうか?人はいつの時代も戦争を止める事はできない、殺し合うことをを続けなければいけない、 -
いただきもののプルーフ読んでました。飯嶋和一、オモロいよ、それは知ってんねん。ただ、雷電にせよ始祖鳥にせよ、ヒーローがかっこ良過ぎ、話全体のトーンが明る過ぎてちょっとね。神無き月の後半、絶望的な結末へ一直線なんだけど読むの止められないあの昏さが好きなんよね、Qとかにもつながるか。
と思って読むとなぁ、権力の暗い圧迫みたいな面はあるけど、やっぱり主人公がかっこ良過ぎてひねくれものには眩しいのよ。 -
処分
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時代小説を初めて読んだ。どんどん視点が変わるため飽きることなく読み進めることが出来る。
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激化し泥沼と化す朝鮮の役は、商人をしていた甚五郎も巻き込む。秀吉の死で役が終わるかと思いきや、思いがけない方向に進んでしまう。李舜臣も登場し、これまで知ることのなかった朝鮮出兵の顛末を読めたのはいいが、情報量と文章のボリュームがありすぎて読み進めるのには難儀した。時代小説を読み慣れていない故なのかもしれないが、人間の運命の不思議さや愚かさ、戦国時代のアジア情勢を知ることができるなど、この長編小説から得られたものは多かったから読んでよかった。