聖者のかけら

著者 :
  • 新潮社
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感想 : 22
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  • Amazon.co.jp ・本 (523ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103528913

作品紹介・あらすじ

奇蹟を起こす「聖なる力」の正体を探れ。気鋭の言語学者が挑む『薔薇の名前』と並び立つ歴史ミステリ。ベネディクト会系の修道院に届いた出所不明の聖遺物が次々と奇蹟を起こした。調査を命じられた若き修道士は村の助祭とアッシジに向かうと、聖フランチェスコの遺体に異変が起きていた。十三世紀のイタリアで実際にあった事件を踏まえ、最新の研究をもとに奇蹟と聖フランチェスコ大聖堂の謎に迫る世界文学級の長篇小説。

感想・レビュー・書評

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  • 十三世紀のイタリア、アッシジを舞台にした聖遺物をめぐる歴史ミステリ。
    修道士ベネディクトが属する修道院に、ドミニコ会修道士を名乗る男から聖遺物が贈られた。数々の奇跡を起こして噂になるのだが、当のドミニコ会から聖遺物を贈った事実はないと言われる。
    一体この聖遺物は何なのか、誰がなぜそのようなものを贈ったのか。

    調査に赴くベネディクトは、真面目で世間知らず。協力者のピエトロは、教会の助祭でありながらお金が大好き。
    最初はピエトロのことを聖職者にあるまじきと思っているのだが、彼を知るにつれ考えが変わっていく。
    また清貧を貫くレオーネと出会い、より深い教えへと導かれていく。

    キリスト教に造詣が深くない私の感覚として、聖人や聖遺物、特に聖痕って本当に不思議だ。
    奇跡と言われたって、そんなこと偶然とか捉え方の問題とかじゃないのと思うけれど、当時の人は奇跡を願望でなく信じていたわけだし、そう信じるだけのことがあったのは全部が誇張や勘違いだとは思わない。
    私には分からないことだし、遠くから見ているからこそ、どちらでも受け入れられる。
    ともかく、そういうことを前提とした思考で進む物語は、動機や行動の予想がつかず面白かった。

  • 楽しい時間だった。

    次々に奇蹟を起こす身元不明の聖遺物。主人公の修道士がその聖遺物の正体を探るという歴史ミステリ。

    宗教と信仰、全く知識もない世界の不安感も何のその、瞬く間に謎めいた世界へといざなわれた。
    聖遺物の謎、聖堂内の構造、探索とページを捲るのが楽しい時間が持続する。
    これがこの物語の最大の魅力だと思う。
    そしてその時間を共にするベネディクトとピエトロ。この二人の深まる関係も読んでいて気持ちが良い。
    遺物を“かけら”と表現しているところも神秘的で心をくすぐられる。壮大な物語、面白かった。

  • 13世紀のキリスト教内部の宗派争い、奇蹟を起こす聖遺物、と魅力的なモチーフにひかれて手に取ってみた。主人公2人は、かたや自信はないのに頭はかたいイケメン修道士、かたや酸いも甘いもかみ分けたような食えない助祭。水と油に見えた2人が聖遺物の謎を解く間にじわじわと互いの心に染み込んでいく流れに、たくさんの登場人物たちが色を添え、信仰のあり方、心の持ち方へつながっていく。宗教の現実的な面にファンタジックな要素が加わり、最後は奇蹟にややお腹いっぱい感はあったものの、面白く読めた。ただ、気になるのは彼の特異体質の設定だな。あの人に過剰反応した描写はなかったような……それが謎だ。

  • 中世イタリアを舞台にしたミステリー。修道士と聖体を巡る凄い作品。これを日本人が書いたのも凄いと思った。薔薇の名前と共にもう一度読み返したい作品だった。

  • 中世(13世紀)のイタリアを舞台に、修道僧と助祭が聖者(あの聖フランチェスコ!)の遺体が消えた謎を追うミステリー。カトリックの歴史的・宗教的な事象を背景としていて、日本人の著者がよく取り組んだなぁと感心した。私はカトリックの歴史は一般的な知識しか持っていないし、著者の意図などをちゃんと汲み取れたのかはわからないのだけれど、重い話ではないし、たいへん面白く読めた。(欧州に行くと、カトリックをもう少し勉強しておいた方が楽しめるなといつも反省するのだけれど、帰国するとそのままうやむやに日常に紛れてしまうのだ…)
    きっと大多数の日本人にとっては宗教や信仰は霞がかった異世界の話という感じだと思うのだけれど、この小説にも出てくる、聖フランチェスコに共感し行動を共にした老修道僧が、生涯をかけて神と向き合い考えていきついた「答え」はすごく腑に落ちるというか… こういう、人生を信仰に捧げて考え続けた人達の哲学の積み重ねというのは、やはり、尊いものだと感じた。
    布石があちこちに置かれていたし、これはシリーズ化するつもりなのかなと思った。続編が出たらまた是非読みたい。
    あと、アッシジにもいつか行ってみたい。

  • 1252年,アッシジを舞台に繰り広げられる聖遺物の謎.聖フランチェスコの遺体はどこにあるのか.という謎解きの醍醐味がたまらない.また,融通の効かない修道士ベネディクトと金儲けはするが頼りになる助祭ピエトロのちぐはぐな協力関係が確かな信頼に育っていくところがいい.登場人物も脇役でありながらそれぞれの枢機卿が色々な味わいがあり,敵であるニコラですら作者の愛が感じられる.皇帝と教皇の争いや教会内部の権力抗争などもわかりやすく描かれて本当に重厚でありながら楽しい物語だった.

  • 著者の本は好きなので特に何も考えず本書も手に取りました。本書は小説形式ですが、これまでの小説ように、言語理論を小説仕立てにしているわけではなく(例:白と黒のとびら)、中世イタリアを舞台にした純粋小説のように見受けられました。ここで「見受けられた」と書いているのは、もしかすると1度読んだだけではなかなかわからない著者の真意があって、それは言語学とも関係しているのかな?と深読みしてしまいました。

    ネタバレになりますのであまり書きませんが、本書の舞台は13世紀イタリアのキリスト教会にもかかわらず、私は本書の各所から何か日本的、仏教的なエッセンスを感じました。仏教においても仏舎利なるものがありますし、本書の各所に示される、「いま=ここ」を重視するような記述です(これは禅などに典型的に見られる特徴です)。本書を全て読み終わった後に、なにか仏教とキリスト教の融合的なイメージが頭の中に浮かび不思議な気持ちになりました(これは一般的な感想ではないと思いますが私はそう感じました)。また本書では、言語ではなくイメージ(映像)が非常に重要な役割を果たします。言語は所詮断片的な情報しか運んでおらず、イメージ(映像)は大量の情報を含んでいるわけですが、これも私の妄想でしかありませんが、言語コミュニケーションの次のテレパシーコミュニケーションのようなものを想像しました。

    つまり本書の著者が言語学者である、ということを前提に読み進めると、ストーリー展開においていろいろな想像が湧いてくるわけです。なぜ言語学者が言語的な暗号ではなくイメージ(映像)を重要なモチーフにしているのか、といった具合です。そういった意味でも本書はミステリーな本でした。面白かったです。

    • naosunayaさん
      素晴らしいレビューと思いました、私も川添愛さんの著作は好きですがこれは未読でした。ありがとうございます!
      素晴らしいレビューと思いました、私も川添愛さんの著作は好きですがこれは未読でした。ありがとうございます!
      2023/10/22
  • キリスト教とローマ、このモチーフだけで本を手にしてしまう性格はなんとかしないとだなぁw
    もう純粋すぎるくらいに純粋な主人公と世の中の清濁を飲んで生きるもののコンビが事件解決に向けて活動するって展開が面白い。ぶっちゃけ、教皇位がどうだとか宗派抗争だとかに興味なければ眠たいだけの話だけど、しいて言えばダン・ブラウンの小説のような感じで好きな人にはたまらないかも。
    でも、まぁそんな自分でも読むのに4日かかっちゃったから退屈シーンは山盛りだったかもですw

  • 著者新境地の歴史ミステリながら、底にある伝えたい思いはこれまでの(数学や言語やAIをあつかった)作品に通じるものを感じる。ミステリの謎解きに負けないくらい主人公たちの心情や考え方の変化にひきこまれた。
    タイトルも装本もちょっととっつきにくいかもしれないけれど、若い人におすすめしたい、ぜひ読んでみてほしい作品だと思った。世界史やキリスト教の知識があるに越したことはないけれど(わかるひとにはわかるごほうびもなくはない)、あまりなくてもだいじょうぶだから。

    主人公は、与えられた戒律をきっちり守ることを至上として、失敗することを恐れる、平凡だがまじめな(融通が利かない)若者ベネディクト(現代っ子なら共感するところ多いはず)。修道院から下界に降りてその複雑さにとまどいながら謎の聖遺物をめぐる調査の旅や出会いの中で少しずつ成長していく。
    そしてもうひとり、知識豊富かつ冷静で自分を客観視でき、聖職者でありながら神ではなく自分だけを頼みとする若者ピエトロ。この二人が出会い、友情を育み、別れてゆくのと重ね合わせるように描かれるさまざまな人間関係が物語に奥行きをあたえている。

    宗教のみならず、政治、思想、あらゆる世界における、過剰な潔癖さや単純な二元論にこだわる危うさに対する「清濁併せ呑む」寛容の意義について、考えさせられた。そして、自分の「正しさ」を常に確認せずにはいられない、そしてたしかな未来を信じて安心していたい。そんなわたしたちの弱さをもう一度見つめ直させてくれる物語だった。
    あいにく『薔薇の名前(出版社の宣伝で「並び立つ」とうたっている)』は未読なのだけれど、途中のわくわくする感じはずっと前に読んだトーマス・マン『魔の山』に似ているような気がした。

    2023年12月、新潮文庫入り(もちろん買う)

  • 13世紀のヨーロッパ。聖者の骨や愛用品が聖遺物として大切にされていた時代。純真無垢に戒律を守ろうとする修道士ベネディクトと、物事を功利的に考える助祭ピエトロの二人が中心となって、消えた聖人の遺体を探すことになる。聖人が身近だった時代。奇蹟が目撃され、信じられていた時代。宗教の派閥争いも背景にして、ミステリとしても面白かった。

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著者プロフィール

川添 愛(かわぞえ・あい):1973年生まれ。九州大学文学部卒業、同大大学院にて博士号(文学)取得。2008年、津田塾大学女性研究者支援センター特任准教授、12年から16年まで国立情報学研究所社会共有知研究センター特任准教授。専門は言語学、自然言語処理。現在は大学に所属せずに、言語学者、作家として活躍する。 実績 著書に『白と黒のとびら』『自動人形の城』『言語学バーリ・トゥード』(東京大学出版会)、『働きたくないイタチと言葉がわかるロボット』朝日出版社、『コンピュータ、どうやってつくったんですか?』(東京書籍)『ふだん使いの言語学』(新潮選書)など。

「2023年 『世にもあいまいなことばの秘密』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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