デッドライン

著者 :
  • 新潮社
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感想 : 73
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  • Amazon.co.jp ・本 (168ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103529712

感想・レビュー・書評

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  • 刻々と迫る修論、という恐ろしさと呆気なさはよくわかる。線の前で、ゆらゆらと泳いでいても、線は規則正しく迫ってくる。基本的にはキチンと線を跨いできた人生だけど、スレスレになるときの、無駄に眩しい朝の気分の悪さは、よくよくわかる。

    本気で構造主義、ポスト構造主義やるか。。

  • 「アメリカ紀行」でも感じたことだが、場面が突然に、違和感なく自然に切り替わる。

  • 修士論文を書きながら,発展場で相手を探しながら,自分とは何かという理由を求めて足掻いている.構造主義からデリダ,ドゥルーズといった哲学が物語の展開の中でわかりやすく述べられていて,東洋哲学の先生の人柄お話とともに面白かった.ただ不思議なのは親が自己破産するくらい追い詰められているのに,アルバイトもせず東京で車も持ち広いマンションに住んでいること.ありえないでしょ.

  • 修士論文のデッドラインが迫る中、街を回遊するゲイの大学院生。

  • ぐるぐる廻る流れのなかにいる。それは私もおんなじだ。ぐるぐる流れてタイミングを測り、逃し見失い、再び流れに身を委ねてそれでもなお不安を抱えたまんままたぐるぐると廻り、逃し、ため息をついてなお、真実に目を向けることもなくただ流れに戻る。くりかえす。哲学はよくわからない。ゲイではないしLTBGでもない。それでも性欲にまみれた青春はあったし、その苦悩もわかる。ちいさな世界で悩みもがいている姿は誰しも同じなのかも。

  • 色々と書きたいことはあるんだけど、とりあえず「僕」とKの関係最高では…「僕」がKの家に行ったとき、テレビばかり観て構ってくれないKに寂しさが募って「僕」が泣き出してしまった、っていうシーン。たぶん4行くらいの描写だったと思うけど、とてもきゅんとした。。

    ****************
    ゲイであるということを切り取った、それを特殊なこととして主題化する小説ではなくて。ゲイであることは「僕」という人間の構成要素の一つとして描かれていて、そしてそれは重要な構成要素ではあるのだけど、あくまでも小説に描かれているのは「僕」という人間の目を通した日常、考えの累積であると感じた。既存のカテゴリーやマジョリティの価値観、何らかの大きな「くくり」の中からこぼれ落ちてしまう、すっぽりと同化することができない、と感じている/感じたことがある人にとっては共感するポイントが色々あったのかな、と思う。

    部分部分ではいいな、と気になるところが色々あったんだけど、全体を通して見た時に「結局それで?」というか…この小説は何を伝えたいのだろう、と考えた時に上手く言語化できない感がある。断片が上手く繋がらない感じ。これはわたしがさーっと読んでしまったから?あととても面白かったんだけど、どこか薄いというか、希釈液のような印象がある。よく言うと、もっと元を辿っていきたいと思わせるような感じ。

    主人公がドゥルーズを通して「何を言祝ぐのか」考えていこうとしているように、自分自身の在り様を掘り下げるものとして思想は必要だし、今回この本を読んだことをきっかけにドゥルーズの本や同著者の本もちゃんと読んでみたいなと思った。

  • 哲学ってつかめそうでつかめない。
    静止してるようで流動的な事象を、言語にしているようなものなのかと思った。
    壮子の鯉の話で、主観/客観の説明は面白かった。
    「動きすぎてはいけない」はこうして生まれていくの?

  • 自分の話だ!!!
    くるぐる回るその流れの中にいる、という話だったが最終的にはその流れも終わる。それは文中にあった「時間が引き裂く」ということなんだと思う。円環の中で漂い続けることはありえない。1Q87みたいにどこかのタイミングで世界が変わる。親の自己破産など。職人が砧公園で見たホモ狩りも引き裂くもの。ホモ狩りを止めさせた職人もまた引き裂くもの。

    「でも、人間には絶対なんてありえない。他の男とやる可能性だって完全には排除できないのだから、嘘の約束はできないと思った。僕は約束するということの意味がわかっていなかった。だから、そういう約束はできないよ、と正直に言った。」
    →その後、肉体の約束が後に精神の約束に変わるかもしれなかった、という心境の変化がある。

    大学の入試で読んだ文章で歴史はらせん階段のようでおなじことの繰り返しのように見えるが実際は少しずつ移ろいでいるものであると書いてあった。この小説もそういう趣旨なのではないかと思った。


    好きなフレーズ
    「恐ろしかったのは、もう生でやっちゃえ、と一線を越えることだ。あってはならないが、そうなったらサイコーだ。」
    →自己矛盾。
    「通常フェラチオでHIVをもらうことはまずない。が、口に傷がある場合は別だろう。舌や唇を噛むということは、傷が塞がるまで男遊びができないということを意味する。」
    →このように先々のことを考える一方で、そうなったらサイコーと思うことはよくわかる。けど、そういう発想を他人の書いたものから見つけられてとても嬉しかった。

    「『神は、すべてに染み渡っています。』」


    「少女としての僕が身体を盗まれている」
    「回遊する魚のように導き合う男たちが、夜の底で、明日になればもう半分も覚えていない事実を共有する。」
    →挿入=相手になるということ
    共有するというのは相手の一部になるということ。

    俯瞰して見れば、という○○くんへの純平くんの「君も一人の人間だろ?」はしびれる。大学時代に言われてたらその言葉の破壊力に死んでたかも。

    ○○くんの自意識とスノッブさ。退廃的。リバーズエッジやなんとなくクリスタルに雰囲気が似ている
    →「僕は、すべてをやり直さなければならない。僕は何かを誤っていたのだろうか。何が僕をここまで連れてきたのか。」

  • 期待していなかったが思いのほか引き込まれた。

  • 修論の締め切りが文字通りのデッドラインで、そこに至るまで、語り手は永久に(または、「普通の男性」よりはかなり遅い速度でしか)逃走線の引かれることのない人生を送っていた、そのことに気がついた、ということなのだろうと思う。
    ドゥルーズや荘子の思想と、語り手自らのゲイであるという在り方を重ねて、論文を執筆する過程と自分自身への問いとを同じ時系列で表現しているのは面白い。また、著者は初の小説ということだが、構成も単線的ではなく、語り手の生活を多層的に描いていると感じた。
    ただ、極めて個人的な感想になるけれど、大学院生を何の経済的不安もなくやれていてそのことに自覚的でなく(最終局面でとうとう父親の会社の倒産という現実に直面するけれど)、それで自分が男性なのか女性なのかというのも何だか非常に贅沢な悩みだなと思ってしまう。それはつまり、自分自身のあり方を問うている時に、その切実さに共感することが難しかったのかもしれない(ただもちろん同性愛者の人にとってはそうでないかもしれない)。

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著者プロフィール

1978年生まれ。立命館大学大学院先端総合学術研究科准教授。
著書に『意味がない無意味』(河出書房新社、2018)、『思弁的実在論と現代について 千葉雅也対談集』(青土社、2018)他

「2019年 『談 no.115』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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