希望のゆくえ

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 264
レビュー : 42
  • Amazon.co.jp ・本 (204ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103531913

作品紹介・あらすじ

突然、失踪した弟。あいつの真実の姿に、僕は辿り着くことができるのだろうか……。弟が放火犯の疑いがある女と姿を消したらしいと、母から連絡があった。僕は彼と交流があった人物に会いに行ったが、弟の印象はそれぞれまるで異なっていた―。弟はどういう人間だったのか。誰のために生きてきたのか。僕たちの声は、弟に届くのだろうか。人生の「希望」とは何かを問う、話題の作家が拓く新境地。

感想・レビュー・書評

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  • 最近、寺地はるなさんにハマって次々と読んでいる中、新刊発売。期待して読みました。
    今までの寺地さんの作品とはちょっと手触りのようなものが違うな、というのが第一印象です。
    でも、寺地作品に繰り返し出てくる、親から抑圧されて育った子ども、というモチーフは、今回もパターンを変えながら幾人もが登場します。

    かつて私に、過去はフィクションだ、と言った人がいました。
    過去にあった出来事は一つでも、その記憶は体験した人の思いによって、それぞれ全く別々の意味を持つ物語として記憶されることがあると。

    読んでいて、そんな話が思い出されました。
    親子、恋人、夫婦。それぞれにとっての過去が、相手の印象が、自分にとって都合よく作り変えられていく。
    「すごいなあ」の一言が、賞賛の意味で発せられても、皮肉として受け取られることもある。

    わかりやすく救いのある物語とは言えませんが、それでも最後にかすかな希望があるので、読後感は決して悪くないです。

    『自己肯定できない人にとって 僕はかっこうの生贄だったの?』という帯文が、物語の中軸をみごとに捉えていると思います。

  • 寺地はるなさんの作品を読むのは、アンソロジーの短編を除いて2作目、装丁のトーンがそのまま生きている感じの物語だった。

    ある日突然失踪した弟の希望(のぞむ)を、母の求めに応じて探すことになった兄の誠実(まさみ)。
    6つ離れた弟とは、さして仲が良かったわけではなく、弟がどんな人間だったかわからず、愕然とする誠実。

    弟を探すために、記憶にある弟と関わりのあった人物を訪ね歩く。そこで聞いた希望の人柄はそれぞれ違い、ますます混乱する誠実…。
    誠実がたどり着く前に姿をくらます希望。
    しかし、誠実もまた希望によって新しい人生の一歩を踏み出すきっかけを得る。

    誠実自身と、彼が出会った人々の中にある家族との軋轢を、姿の見えない希望(のぞむ)を通して描き出している。
    2020.7.23

  • 堪能。

    デビュー作『ビオレタ』以来、追いかけてきた寺地さんの作品だが、正直ここのところ、「ほっこり」や「不器用な主人公が…」的な(笑)既定路線に入ってしまったような、物足りなさで、少しばかり離れていたので、充ち足りて頁を閉じることができて、満足。

    マンション管理会社社員の弟が突然の失踪をしたところから物語が始まる。
    その弟・実母とも、亡くなってしまっている父とも「家族」という枠の中で、踏み越えられない溝を抱えていた兄である男性が、母に嘆願され弟の行方を捜す。

    実在のない登場人物(弟)について、周囲の人々が関わりの中で、その人物の輪郭を示していく。
    ただ、弟と兄という厄介な兄弟関係だけではなく、失踪した弟に関係する周囲の人々もそれぞれ群像劇スタイルで、家族や周りの人たちとの紙やすりで擦れた痛みを抱えながら生きている姿が、とても細やかに呈される。

    家族や生い立ちのなかで抱え込んできた、劣等感、不全感、きょうだい格差、親の価値観の押し付けへの怒り、憤り、絶望感の繊細な描き方が巧みだ。

    良し悪しでも善悪でもなく、ジャッジメント(価値の判断)を伴わない感覚の表現で、寸止め。

    本文154頁より:
    「嫌いな人でも、よい助言をくれることはあります」中略

    「悪い人も良いことをする時はあるし、良い人の頭の中にもずるい考えはあるし、強い人も傷つくし、弱い人がその弱さを盾に他人を攻撃することもあります」

    母が嫌いだ。大嫌いだ。でもそんなふうに感じる自分はきっと心がおそろしく狭量な人間なのだと思いながら今日まで生きてきた。

    じゃあどうして(母と)一緒に暮らしているのか。そんなに嫌いなら離れればいいのに、と頭の中で誰かが実花子を嗤う(わらう)。それもできないくせに、文句ばかり並べたてて、と。
    まとまらない感情のあれやこれやを、なぜか希望君にだけは話すことができる。
    「好きだから一緒にいるとか、嫌いだから離れるとか、そんなにシンプルな理屈で片付けられるものじゃないでしょう」
    以上抜粋。
    -----------------------------------------------

    そうそう、物事さほど簡単ではない。善悪の単純な二極化は危険だ。愛があるから憎しみに代わる。期待するから落ち込み、悩む。
    混然一体であり、表裏一体。

    「頑張れば必ず報われる」とか「正直者は必ず幸せになれる」とか、前提条件ではあるが、絶対ではない。
    物事はグラデーション。

    分かりやすさや単純さのなかに安心を得られるかのごとき錯覚が蔓延するが、寺地さんの本作が一矢を放ってくれたのかな?

    終盤少しまとめや結論に入りかけているので、もっと突き放す結論のほうが、私は好み。ジャッジメントを手放して。

    親がどうであれ、きょうだいがどうであれ、自分の感覚にしっかりと耳を傾けて、自分のいくつかの選択肢のなかから、自分で選び、判断して生きる。

    親や兄弟に「死んでほしい」と思うほどの唾棄の念を抱く登場人物 重田くみ子に私の心も共鳴する。私は私の人生を生きていきたい。もうあら還なんだから。

  • 寺地さんの温かなお話、をイメージしていたら違った。
    爽やかだったり思わず微笑んだりすることない話で、
    サンドペーパーでゆっくり心を撫ぜられているような
    話だった。

    そして、人は見る人によって違う人物像を持つ。
    それは家族の中においてもだった。

    最後はちょっと寺地さんらしいというか
    私の知ってるこれまでの寺地さんが見えた気がした。

    振り幅が広がったぞ。

  • 突然失踪した弟を探す兄。元々弟のことは苦手だったが、色々な人に弟について聞いてまわるうちに弟の人物像が一貫していなくて、ますます弟のことが分からなくなる。

    「どんな人間かって、そんなに大切なことなんでしょうか?」
    「そもそも、いい人とか悪い人ってそんなにきっちり色分けできるものなんでしょうか」

    耳障りのいいことを言ってくれる人が「いい人」になってしまいますからね。

    寺地はるなさんの本だから、ほっこりできるぞ!と思って読むと痛い目に合います。

  • 初めての作家さん。
    不思議な本でした。
    読者は段々と弟・希望の姿が明らかになるとともに、段々と弟が良くわからなくなっていく、兄・誠実の気持ちが分かるようになります。
    見て知っていることが分かることではないのですね。

    だんだんと弟に迫っていく、だけど最後の最後で弟に会えるのか、そんなミステリアスな面も備えています。
    自分探しはよく聞くが、この本は物理的には弟探しだが、内容的には自分探しの本かもしれないと思いました。

  • 読み終えてもなお、もやが晴れきらない感じは、今の時代の生きづらさそのものを表しているように思えました。

    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
    弟の希望(のぞむ)が、失踪したらしい。

    母は、こう言う。
    「桃を届けてくれるはずだったのに、おかしいわ」
    「希望さんはそんな子じゃない」
    「会社に電話をかけたの。当たり前でしょう、母親だもの」
    28歳にもなる弟を、母はそんな風に心配する。

    弟は、一体どんな人間だったのか…?
    輪郭がぼやけて、よく見えない。
    兄の誠実(まさみ)とは違う、でも捉えどころのない弟…

    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
    タイトルの「希望(きぼう)のゆくえ」は、「いなくなってしまった希望(のぞむ)の居場所はどこか」というストレートな意味にもとれますが、その一方で「希望とはどんな人間なのか」「ねじれた親子関係・家族関係で形成されてしまった人の、本当の姿は」「未来への望みはどこにあるのか」など、読む人によって、いろんな意味にとれるすごいタイトルです。

    誠実と希望の母親、希望が通っていた保育園の園長の価値観は、“子どものため”という大義名分を振りかざし、子どもは自分の付属物として扱っていること、自分の意のままに子どもを操ろうとしており、しかも母親にはその自覚がないところがとても恐ろしく感じました。
    おそらく母親と子どもの関係性についての部分は、読み手の精神状態によっては病んでしまうかもしれないので、受けとめるだけの力があるときに読むことをオススメします。

    物語全体が終始ひどく淀んだ空気で包まれていて、最後にすこし“希望”は見えるものの、やはり霞がかかったような気持ちは、読み終わっても拭えませんでした。
    章タイトルも、今ひとつしっくりとこず、なんだかバラバラな感じを受けました。

    テーマはわかるけども、読み終えたあとのスッキリ感はかなり少ないです。
    おそらく、寺地さんの「本屋さんのダイアナ」「月のぶどう」「ミッドナイトホテルの裏庭には」「大人は泣かないと思っていた」を読まれてから「希望のゆくえ」を読まれた方は、少なからず違和感があるかと思います。

    ただ、そうしたスッキリしない読後感、もやが晴れきれない感じは、今の時代の生きづらさそのものを表しているように思えました。

  • 希望は消え、誠実が残った。

    マンションの管理会社に勤める弟がある日さえない住人女性と一緒に消えた。母親に頼まれて弟の行方を捜す兄。知らなかった弟の人生、そして素顔。弟に何があったのか。なぜ突然失踪したのか。
    と、あらすじだけ書くとなんとなくもう詳しく読まなくていいやという気になる。「なにか消えたくなるようなことがあったんだろうね、きっと」とうわべの共感で流せそうなくらいの。
    でも、このあらすじの行間に、そしてあらすじから透けて見える向こう側に、自分の今までの人生それぞれに残っているちいさな不安の影がちらちらと見える。
    どうしようもないくらい追い詰められている人生と、ある日突然消し去りたくなる人生。そして消したいけど消す勇気のない人生。それぞれの根本にあるのは家族という名の足かせ。
    兄の名前は誠実。弟の名前は希望。もしかすると希望なんて最初からいなかったのかもしれない。すべて誠実の中に取り込まれていたひとつの影なのかも…そんな気になってぞわりとした。

  • 行方不明になった希望という弟を探す兄。
    この兄、そして希望に関わった人達が自分は何者なのかと自信を振り返る。
    希望の実のない優しさに振れ、自分自身の望みは何なのか、希望のゆくえを模索する。
    タイトルの”ゆくえ”は模索なのだと納得する。

  • タイトルがうまいなぁ
    希望は失踪した弟の名前
    希望の周りの人物と主人公(?)の兄がそれぞれの状況と希望について語るような構成
    人間の多面性と愛は時に暴力になり、愛情のゆき先を縛り上げる、がテーマかな?

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著者プロフィール

寺地 はるな(てらち はるな)
1977年佐賀県生まれ。大阪府在住。2014年『ビオレタ』で第四回ポプラ社小説新人賞を受賞。
著書に『ミナトホテルの裏庭には』『月のぶどう』『今日のハチミツ、あしたの私』『みちづれはいても、ひとり』『架空の犬と嘘をつく猫』『大人は泣かないと思っていた』『正しい愛と理想の息子』がある。

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