世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (618ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103534174

感想・レビュー・書評

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  • ストーリー云々以前に、やはり表現の一つ一つがいちいち面白い。
    余りある表現の中から自分の好きな表現をいくつかでも心に留めておけば、それだけで村上春樹の小説を読んだ意味があるんじゃないかと思う。

    個人的には〈世界の終わり〉の僕が心の存在や影の意味を知り始めてからの話や〈ハードボイルドワンダーランド〉の私が自分の生の終わりを意識して最後の1日を過ごすシーンが素敵だった。
    2人の主人公が自分の殻を突き破って世界の美しさをしっかり見つけている様子がよく描かれていて、そうなる前と後で世界は変わっていないのに見え方がこんなにも違うのかと考えさせられた。
    世界が変わらなくても自分の考え1つで捉え方がこんなにも変わる、というのは現実でも案外そうなのかもしれない。

    また、〈ハードボイルドワンダーランド〉の地下で繰り広げられる場面などは、暗闇という他の情報がなく表現が難しいだろう状況をよくもまあここまで文章で伝えることができるなあと感嘆としてしまう。
    どんなに突拍子のないシーンでも表現の多様さでありありとシーンが思い浮かべられる凄さが村上春樹がファンを熱狂させる理由の1つだと思う。

  • 新作「街とその不確かな壁」を読んでしまったので、まだ読み残していた姉妹作とも言える本作も読まざるを得ないだろう。世界の終りの街の設定は両作とも一緒だが、物語は違う、本作では相容れない物語が進行して行き交わることもなくその終焉は絶望に満ちている、本作でも影が現実世界に戻り生活して行くと解釈して良いのだろうか。小説的には新作の方が面白いと言って良いだろうが、本作は形而上学的小説とも言えるのだろうか、しかし最後読ませる力は流石だと思った。

  • 「街とその不確かな壁」を読んで、再読せざるを得なかった一冊。数十年前に読んだ時より楽しめたと思うのは、おそらく誰もがそうであるように、長い間には個人的に私も自分の意識とか心の在りようとかを考えざるを得ない状況というのが、何度もあったからだろうと思う。

    弱い人間だから、環境とか周囲の意見、雰囲気に流されることも少なくないけれど、それでも「心の持ちよう」や自分なりの確固たる考え方を、面倒を避けるために無視しないこと、自由であるために背負わねばならない重荷や苦痛を受け入れること、など、初読の時よりはるかに明確に、自分の経験に照らして考えさせられることが多かった。

    「街とその不確かな…」に比べてスピード感がある。二作を読み比べると、著者が歳を重ねたことも何となく感じられて面白い。


  • とりあえず、思いのほか博士の話や主人公の物事の考え方が論理的かつしっかりとしていて面白かった☆

    いろいろと回収されていない伏線(僕が理解出来なかっただけ??)もたくさんあったし、登場人物の背景がほとんど説明無いので登場人物自体にも余り共感は出来ないんだけど、逆にそれは読んでいる人が自由に想像してくれれば良いのかな☆しっかり説明してくれて伏線回収してくれる本じゃないとダメな人には余りおススメしませんが、作中に出てくるいろいろな言葉が印象的かつ引っかかるところがあるので、受け身ではなく能動的に読書したい人にはおススメ。

    個人的には、いろいろな事に対して反省はするんだけど、でも後悔はしていないところがすごく良かった♪あと、「公正さは愛情に似ている」「与えようとするものが求められているものと合致しない」ってところも結構良かった☆あと、何と言うか、人肌が恋しくなると言うか、その辺りの描写もすごく良かった♪それと、スカした感じの主人公が途中から自分の人生の些細な日常を愛おしむようになっていくところとかも良かったです。

    村上春樹さんの本はどの本もなかなかのページ数なので気楽に読める感じではありませんが(笑)、またちょくちょく読んでみたいと思います☆

  • ・ハードボイルド・ワンダーランド
    博士が「私」の頭のなかに仕掛けを施したせいで、組織にも工場にも第三の勢力にも追われることになってしまった。地底の世界ではやみくろに襲われる恐怖も味わった(博士の有能な太った孫娘に助けられた)。
    「私」は博士の仕掛けた時限爆弾で終わりを迎えることになる。それは死のようであり、永遠の生でもあるらしい。「私」はそれを受け入れ、図書館の女性と食事を楽しみ、交わり、わずかな余生を味わう。

    ・世界の終り
    壁に囲まれた街で、自分の影と切り離されて暮らし始めた「僕」。
    図書館の女の子を好きになり、大佐との交流で色んなことを学び、夢読みの仕事もこなして、心のない世界での営みに馴染む「僕」に、影はこの世界からの脱出を持ちかける。
    影と一緒に逃げることにした「僕」だったが、この世界はすべて自分だということを認め、責任をもって残ることにした。影だけが世界の終りを脱出した。

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    「私」の頭のなかにある世界が”世界の終り”で、そこで心(影)のない状態で暮らすと哀しみもなければ喜びもないような永遠の静けさのなかにいられる、ということだったのかな。
    読みながら、ドラクエ6みたいな世界観だな、と思った。

    「ハードボイルド・ワンダーランド編」のやみくろって一体なんだったんだろう。字面から汚れた「のらくろ」みたいな姿をイメージしたけどもっと邪悪な感じなんだろうな。のらくろはかわいい。

    勝手に自分の頭をいじくった博士を許し、自分を好いてくれる女性とまた会えるかのように別れ、自分の存在の消滅を受け入れる「私」。
    自分ならもっとジタバタするだろうし、間違いなく感情的になってしまうと思う。自分が世界から消滅する時、かっこつけていられることがハードボイルドなのかな。だとしたら自分にハードボイルドは到底無理だなあ。

    「世界の終り編」の心のない人たち、彼らの暮らす街は無意識の「私」が作り出したユートピアだったのだろうか。はたまたディストピアか。
    どちらにせよ、影と別れて街に残った「僕」は苦労するだろうな。もちろん、影もまた然り。

    「ハードボイルド・ワンダーランド編」でやみくろの国から地下鉄へ抜け出す直前に「私」が見た古い革の靴。あれは影の履いていた靴だったのかな、”世界の終り”を出られてすぐに電車に轢かれたか、やみくろに襲われたのかな、と思った。
    もしくは靴は何かの暗喩だったのか。よくわかんないぜ。

    話のなかにはいくつもの暗喩があったんだろうけど、何もわからずに素通りしてしまった。そんな自分を悲しく思いつつも、悲しいということは心がある、ということで、つまり自分には影がいるということなのだと実感する。

  • ハルキ氏4作目の長編となる・・あるところでは自身の自叙伝とも語っているとの事。
    確かに・・強い自我意識を持つ都会人の僕
    【ハードボイルド】固い殻に包まれ、モットーは強くなければ生きていけない、優しくなければ生きる資格はない。。

    エレべーターから降りたところから始まっていく世界 ・・ワンダーランド は些か異なりゆっくり穏やかな深層心理が広いがっていく。
    【私】と【僕】の歩みは最初、戸惑ったけれど、並行して流れているのではないかと感じさせられた。

    【私】が歩んでいく世界には博士が。そしてその孫の17歳の少女。記号士、やみくも、一角獣、頭骨・・展開が極めて視覚的。読みながらだれず継続できたのは、子の「ヴィジュアル世界観」の片隅で自分の一緒に彷徨し、眺めていく感覚になれたせいが大きいかも。

    奇数が「終わりの世界」、偶数は「ワンダーランド」の構成がなかなか慣れなかったこともあって、当初はかなり疲れたが半分も過ぎたころには共に架空の世界であることの意味、そして死生観が感覚的に受け止められるようになってきた。

    『やれやれ』のつぶやきもあちこちに発せられ、【僕】も【私】も性的感覚は豊穣。博士の孫娘の陽気なキャラは輝くばかり「ピンクの服が好きで肥満気味」はそのイメージをよく感じさせる。
    対して図書館のリファレンスのバツイチ女性はほっそり華奢ながら、胃拡張気味なんで、エネルギーを感じさせる。
    日本より海外で大人気ということは耳にしてきたが、再読の今回は、そこのところがよくわかる~架空、非現実、複層的な世界を同時進行でプレゼンさせ、しかも一つの人格の中で結集させていくのは日本の作品群では理解し辛い感じになるのだろう。
    しかも何が悲劇?何が苦しみ?どのようにして乗り越えていくかのプロセスが現実的な時系列では描いていない点などもね。

    ハルキ氏、そしてその熱烈フアン曰く、アメリカ文学のエッセンスを結集させた作品、まさにハルキ世界というのがよっく分かる。
    どっちも私には分からないけれど、世界観、人生観、そして・・・
    1984年に構想を練り執筆したというにも拘らず・・・
    計算士・組織VS記号士・工場という観点から見るダイナリズムは今読んでも古色微塵もない。
    相変わらず比喩が溢れんばかり、あちこちに音楽は流れ最後に2つの世界に流れる【ダニーボーイ】の演出は素敵。
    そして一角獣が多数死に、翌年に新たな生命が多数生まれるという話。世界の終わりでは影を殺しきれない人が多数住み、心が一角獣によって運び出される(かい出す)そして死ぬと門番により、頭骨は切り落とされ、嫁読みの手によって大気の中へ古い夢が放出されていく・・という話がラストで「世界の終わりとワンダーランド」の二つの世界で光がともった風景に転じたシーンは素晴らしい映像に映った。

    初読は1995年、子育ての合間に読んだこともあり、(単なるファンタジー)・・それもとてつもないボリュームもあって、何が言いたいのか、まったくわからず、今回読んでいても記憶が蘇ってこなかった。
    今回の再読で隅々まで堪能できた10日間は、いい時間の夢見になった。

  • 昔から好きで、何度か読み返している作品。
    ピンクの服を着た太った女の子、というキャラが印象的。
    2つの別々なストーリーがリンクしていくところがワクワクします。 
    ラストは、あれっ、こんな感じだったっけ、、、。
    でもこれが、村上春樹っぽいのかなー。

  • 面白かったのだけど、読んだ後に何も残らず、3日も経てばどんな話だったのか忘れてしまう。
    日常のすぐそばで不思議なことが起こって、2つの世界の話が並行して進んでいって、やがてつながっていく感じだったかな。
    内容を忘れてしまうから何度でも読める。

  • 読書というのには、自己の内面と向き合う作業が含まれてると思うんですね。自分が死を恐れているということを、改めて感じました。

    ラストのネタバレになるけれど、ハードボイルドの世界の主人公は、今生きている世界から消滅してしまうのです。
    それは、死ぬということ。
    少なくとも、彼は便宜的にそう捉えることにしたのであるから、死ぬということなのでしょう。
    主人公が死んじゃう話は苦手です。死ぬのが、怖い。……という、自分の中の蓋をしてる感情に向き合うことになります。このお話も、後半になるにつれて読むのがしんどくなってきました。(お話が面白くないということでは無いです)
    でも、読まないと終わらないし。とちゅうでやめるなんてもってのほかだし。
    とにかく、心の蓋を厚く重くして、ストーリーだけを追うようにして読んだのですが。
    読み終わって。
    やっぱり、本当に、私という人間は、死ぬということが恐ろしいのだな……と、つくづく思いました。でも、生まれてきた以上、死というものを避けることは出来ないし、恐いからこそ目を離すことが出来ないのだなと思ったのです。
    目に見えない雨が誰にも誰にも公正に降りそそぐというのは、時間の流れのことでしょうか。
    メメントモリ。というメッセージなのかもしれません。

    主人公が、せめて、自ら望んだ陽光の元で意識を手放せたのが救いでした。そうです、彼は、死が目前に迫ってから初めて、自分の意思で積極的に望むものを手に入れるために戦ったのですね。与えられたものを淡々とこなして、訪れるかどうか定かではない未来の余生を夢見ていた彼が、初めて強い意思でもって、芝生に寝転んでビールを飲むのだ!と、立ち上がったのです。そして、それは得られた。得ることは出来るのです、強く思って行動すれば、困難はこえられる。
    それから、ピンクのスーツの女の子が、『怖がらないで。私は死ぬまであなたを覚えている』と、最後に言ってくれて、彼女はまるでお母さんのようだと思いました。彼女にまかせておけば、全て上手くいくのです。地下の大冒険の時もいつも励ましてくれました。『信じるのよ!』と、強い言葉で。
    他にも女の子が登場してきますが、私はこのピンクのスーツの女の子が一番好きです。

    あぁ。読後すぐなので、とりとめのない感想ですが。胸のざわめきと涙がおさまらないのです。

著者プロフィール

1949年京都府生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。79年『風の歌を聴け』で「群像新人文学賞」を受賞し、デビュー。82年『羊をめぐる冒険』で、「野間文芸新人賞」受賞する。87年に刊行した『ノルウェイの森』が、累計1000万部超えのベストセラーとなる。海外でも高く評価され、06年「フランツ・カフカ賞」、09年「エルサレム賞」、11年「カタルーニャ国際賞」等を受賞する。その他長編作に、『ねじまき鳥クロニクル』『海辺のカフカ』『1Q84』『騎士団長殺し』『街とその不確かな壁』、短編小説集に、『神の子どもたちはみな踊る』『東京奇譚集』『一人称単数』、訳書に、『キャッチャー・イン・ザ・ライ』『フラニーとズーイ』『ティファニーで朝食を』『バット・ビューティフル』等がある。

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