小澤征爾さんと、音楽について話をする

  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (375ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103534280

作品紹介・あらすじ

小説家はマエストロを聴き尽くす。東京で、世界の様々な場所で、時間を忘れ自由に語り合った一年に及ぶ日々。不世出の指揮者、その煌めく魂に触れる迫真のロング・インタビュー。

感想・レビュー・書評

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  • 小澤征爾さんが亡くなられた時の、村上春樹さんの寄稿文。親友というより家族、いや自分の一部を無くしてしまったような哀しみが伝わってきた。

    インタビューと言うより二人のクラシック音楽を仲立ちにした音楽&人生談義である。
    村上春樹さんはジャズおたくだと思っていた。それは間違いだった。クラシックを含む音楽おたくだった。おたくは適切ではない。音楽は、村上さんの身体、生活の一部であり、理解も限りなく深い。たぶん、リズムとメロディが染み込んでいるのだろう。
    文章を書くうえで、音楽からリズムを学んだという村上さん。そういえば、長編もリズミカルな文章と独特な比喩にひきこまれ、あっという間に最後まで読んでしまっでいる。
    小澤さんの演奏に対する感想も、素人のそれではない。系統的に注意深く聴き込み、味わったものの感想だ。村上春樹、恐るべし。
    小澤さんに影響を与えた「カラヤン先生」とバーンスタイン。そして齋藤秀雄先生。小澤さんの骨格は齋藤先生からできている。
    スイスで若手音楽家にセミナーを開き、ロバート・マンさんと指導する章が圧巻だ。
    「ネジを締める」という追悼文の言葉も出てきた。小澤さんのマジックと若手音楽家のスパークで、弦楽四重奏が変容していく。そのさまを村上さんが、如実に文章で描いていく。
    二人の天才のスパーク、面白い!

  • 小澤征爾さんとの対談を春樹さんがまとめたもの。一流の音楽家と小説家が対談して、音楽という掴みどころのないものをどう言葉に置き換えるのか、とても興味深く読んだ。

    グールドに関しての話から始まり、小澤さんのバーンスタインやカラヤンといった指揮者との思い出、指揮したベートーベンやマーラー、あとはオペラについても語る。スコアを読みふけることや、楽団との関わり方など、指揮者がどうやって音楽を立ち上げていくのか、その世界を垣間見れた気がした。

    小澤さんの知識も記憶力もすごいのだが、それに食らいつく春樹さんもすごい。基本的には春樹さんが小澤さんに質問するような形で対談は進むが、その逆に春樹さんが会話をリードして小澤さんがそれに合わせるような場面もあり、即興的なジャズセッションを見ているような感覚になった。この二人の組み合わせって本当に貴重なものだと思うし、個人的にはクラシックに関して知らないことがたくさんでとても勉強になった。

  • 「アンダーグラウンド」と比べていいのか
    分かりませんが、村上さんは人の話を聞くのが
    すごく上手いなぁと感じました。
     音楽については、自分のペースで聴けたらいいです。

  • 村上春樹さんがこんなに音楽マニア(オタク?)だったと、初めて知りました。

    なんかもう、笑えるくらいの知識の豊富さに加えて、とても耳がいいんだと思う。わたしなんかみたいにレコードを集めてなんとなく「聞く」んじゃなくて、「聴く」ということをしている人なんだなと。小澤征爾さんとこんなに話が噛み合うんだから、物書きの天才はやはりそこだけには留まらないんだなーと。

    対談はとても面白くて、二人が聴きながら話しているCDを聴きながら読むともっと面白い。残念ながら同じ指揮者やソリストじゃないんだけど。。

    マーラーも真剣に聴いたことがなかったけど、読みながら聴くと面白い。マラ2素敵。
    オペラも『フィガロの結婚』と『魔笛』くらいしか観に行ったことがなかったんだけど、今ものすごく興味を持ってしまっている。『ラ・ボエーム』が観たい。

    話している内容ってほとんどわからない(同じレコードがなし、知らない人物の名前が多いしで、とても調べながら読んではいられないから)んだけど、音楽熱がかなり上がる一冊でした。

    • yoshie3さん
      さっき、別ルートからこの本を知って、WEB予約をしようとしたけど、出来なかった。。
      帰国したら、図書室で予約をしてみる♪
      さっき、別ルートからこの本を知って、WEB予約をしようとしたけど、出来なかった。。
      帰国したら、図書室で予約をしてみる♪
      2012/06/17
  • 驚きました。春樹さんといえば、ジャズとクラシックがとてもお好き、ということはもちろん知っていたのですが、世界の小澤からこんなにも深い話を聞き出せるほどの“好き”であったとは。





    私はクラシック音楽には全然詳しくないのですが、小説家村上春樹のファンなので、ただ、春樹さんの語りが読みたい、という興味でこの本を手にとりました。

    小澤征爾さんの娘さん・征良さんとたまたま知り合いだったというご縁から、春樹さんは時折、小澤さんとも親交を持たれるようになり、特に、小澤さんが大きな病気をされてからはその機会が多くなったとか。そして、(たぶん)音楽畑にいない自分だからこそ気楽に語ってくれるこの話を誰かがテープにとって文章として残すべきである、と思われた、というきっかけには頷けるものが。
    だって、春樹さんって、これまでにも感じていたたけれど、その人が語りたいことをピンポイントで引っ張り出す優しさをお持ちの方だなぁ、と思うから。
    小澤さんという人も、たぶんかなりフランクなお人柄で、音楽の話をするのもお好きではあったんでしょうが、こんなにも気持ちよく話せた自分(*^_^*)に驚かれているのでは、と思います。

    春樹さんは、この本の最初で、世の中には「素敵な音楽」と「それほど素敵じゃない音楽」がある、というデューク・エリントンの言葉を引用しています。
    これだけで、春樹さんは音楽がホントにお好きなんだなぁ、と感じとられ、とても嬉しくなりました。どのジャンルであれ、音楽ファンには、いいものはいいと認めつつ、それほどでもない、という演奏にはかなり辛辣になったり、極端なことを言えば、悪口が言いたいがために音楽の話をしているんじゃないの、と思えることもあるから。

    それにしても・・・
    上にも書きましたが、春樹さんのクラシック音楽に対する深い愛情と膨大な知識にはホントに驚きました。素人が“蘊蓄”を語ることなく、こんこんとただ綺麗な水が湧きでるようにひとつひとつの演奏や指揮者、演奏者についてさらっと口にし、小澤さんがそれに応え、かつ、忘れていたけど…と言われながら当時のあれこれ(これは小澤征爾の、そして、クラシック界の貴重な歴史なんでしょうね)を語る、というパターンが実に素晴らしいです。

    小澤さんがスイスで毎年行われている、若い弦楽者たちのためのセミナーにも春樹さんは同行されてます。寄せ集めの若い演奏家たちの演奏がたった10日間ほどでどんな具合に“良き音楽”になっていくか、の美しいレポートには感嘆するばかり。
    (私は、中・高・大・社会人、と吹奏楽バンドでピッコロを吹いていたので、1人の指揮者によって音楽が変わって行く様、特に、バンドの他メンバーの音が急に厚い層として耳に入ってくる&その中に身を置く自分の位置が喜びを持って感じられる、という経験は持っています。レベルは全然違うけれど、そんなことをふっと思い出したりもして、これも嬉しいことでした。)

    また、休み時間に受講者たちと話をしたことを小澤さんと後に語っていた際、「彼らはそんな風に思っていたんですか」と小澤さんが驚かれるのも面白かった。プロの音楽家ではない春樹さんだから、(そしてやはり春樹さんが人の本音を引き出すのがお上手だから)話してくれたんでしょうね、と言われているのも納得できたし。

    「音楽好きの友人はたくさん居るけれど、春樹さんはまあ云ってみれば、正気の範囲をはるかに超えている」、そして、「春樹さん、ありがとう。あなたのおかげですごい量の思いでがぶり返した。おまけになんだかわからないけど、すごく正直にコトバが出てきた」という小澤さんによる後書きが、春樹ファンとして、とても誇らしかったことをここに記しておきます。(*^_^*)

    • ゆきさん
      はじめまして。goodマークありがとうございました!
      春樹さんの、お話を聴き出す優しさ、能力に改めて感嘆、そして納得されたようですね。自分...
      はじめまして。goodマークありがとうございました!
      春樹さんの、お話を聴き出す優しさ、能力に改めて感嘆、そして納得されたようですね。自分の感想ではその部分について書き忘れていたので、「そう、そう!」と思いながら読ませていただきました。
      わたしは村上春樹もクラシック音楽も好きなので必然的に(笑)手にとりましたが、クラシック音楽にとくにご関心のない方にもこのように楽しめるのだなあ、と思いました(あ、じゅんさんは吹奏楽部で演奏されていたので、クラシックにお詳しくないとはいえ音楽自体はお好きなんですね)。
      わたしも本についておしゃべりするのが大好きです。よろしくお願いします♪
      2012/01/03
    • じゅんさん
      >文月遊亀様
      嬉しい書き込み、どうもありがとうございます!(*^_^*)
      この本の感想を書く前に、皆さんの感想を読ませてもらおうと思って...
      >文月遊亀様
      嬉しい書き込み、どうもありがとうございます!(*^_^*)
      この本の感想を書く前に、皆さんの感想を読ませてもらおうと思って文月遊亀さんのお部屋にたどりついたんですよ。(*^_^*)

      文月遊亀さんの感想には、うんうん!そうだよね!と、深く共感させてもらいました。(*^_^*)特に、春樹さんが、書くことを音楽から学んだと言われたところでは、やっぱり文章にはリズムが大事なんだぁ~~と楽しくなっちゃって。(*^_^*)

      遊亀さんはオケでバイオリンを弾かれていたんですね。春樹読者で、クラシック音楽がお好きで、となるともう無敵!\(^o^)/じゃないですか。
      新年早々、素敵なお友だちができたようでとても喜んでおります。どうぞ、あれこれたくさんおしゃべりできますように!
      よろしくお願いします。
      2012/01/03
  • 刊行当時入手して、おもしろく読了したことになっているが、何も記録がないので、2024年2月、小澤征爾の訃報を聞いて改めてじっくり読み直した感想を書く。

    ***
    小澤征爾が病後療養中だった2010年11月から2011年7月にかけてさまざまな場所で行われたインタビュー、村上春樹自身が録音した会話を書き起こして、小澤征爾とともに検討しまとめあげた本。指揮台に立てなかった期間ということで、世界を飛び回り先々の予定でいっぱいいっぱいで多忙だった状況ではとても息抜きにはなりえなかった音楽の話や過去の回想をかなりつっこんで引き出すことに成功している。その意味で、かなりの音楽好きで分析的に言語化できる作家がたまたま近くにいて話を聞き出して世の中に共有してくれたのは奇跡的なありがたいことだったと改めて思う。話し言葉は文字起こししてずいぶん整理してはいるだろうけど、小澤さん「とても」=「めちゃ」だったんだなあ…

    全体を通して、小澤征爾にとって、カラヤンはあくまで「カラヤン先生」、対するバーンスタインは「バーンスタイン」あるいは「レニー」であり、その指揮についての考えも師弟関係も対照的なものであったことがにじみでていた。そしてなにより斎藤秀雄先生の存在感、十代のうちに徹底的にたたき込まれた指揮者としてオーケストラを仕込む技術のおかげで、若くても言葉のハンデがあっても外国の一流オーケストラでいい仕事ができたのだと断言しており、自分が斎藤秀雄から受け取ったギフトを次世代に渡すためなら骨身を惜しまない姿勢だったのが印象的だった。
    ただ、(「狂言サイボーグ」と同じような)型を徹底的に叩き込むという方法に感謝しつつも、自分は相手に合わせた穏やかな指導をとったあたりが興味深かった(秋山和慶の追悼文に「臨終の床にあった斎藤先生が、小澤さんと僕の目を交互に見て「ごめんな」と言ったことがあるんです。「君らをよく怒ったのは僕が未熟だったから」。あの言葉がずっと、音楽や人間というものに対する小澤さんの愛の根源であり続けたのではないか」とあったが、つまり未熟な指導を乗り越えた指導を探って得られた結果といっていいのだろうか)。

    言葉などとびこえて音楽でコミュニケーションができるからいいのかと思いきや、言葉ができなくて外国の音楽家とじゅうぶんつっこんだ話ができなかったことを(繰り返し)すごく悔いているのはちょっと意外だった。政治的駆け引きから距離をおいたり、雑音が直接届かないぶんのびのびとしていらられるというメリットもあったと思うが、本人にとってはいろいろ不便でコンプレックスだったし、ほんとうは音楽についてプロフェッショナル同士でもっと議論したかったのかな…

  • 小澤兄弟の放談会の本を読んだあと、何かの拍子にこの本のことを思い出して読了。素晴らしい企画、素晴らしい本である。
    小澤征爾さんというのは当たり前だが音楽家であり、音楽を作るプロフェッショナルである。だから、小澤さんの考えていることを知るにはその音楽を聴けば十分なのかもしれないが、言葉でも知りたいというのが人情である。だがマエストロにその複雑すぎる思考(ですらないかもしれないもの)を自ら言語化してもらうのは大変な難題だろう。そこに果敢に挑み、私たちにも読めるようにしてくれたのが、言葉のプロフェッショナルである村上春樹さんである。
    春樹さんは昔からインタビューという形式に興味を持ち大切にしてきた。日本では対談という形にされがちなところを、インタビューと対談は全く違うとしてインタビューに拘っていた。その面目躍如とも言うべき一大インタビュー本である。
    春樹さんがインタビュワーに徹して交通整理しつつも、マエストロの記憶を深く深く辿っていくところが、やはりワクワクするほど面白い。あとがきでマエストロ自身が書いているとおり「すごい量の想い出がぶりかえし」「なんだかわからないけど、すごく正直にコトバが出てきた」様子がまざまざと想像できるのである。インタビューってとても難しいものだと思うのだが、こんなに上手にインタビューできたら聞く方も話す方も本当に楽しいことであろう。
    ベートーベン、ブラームス、マーラーなど、とりあげられている音楽そのものに興味のある人はもちろん面白いだろうが、もっと普遍的に、プロアマ問わず音楽というものに真摯に向き合ったことのある人は、きっと何か心に響くものを見つけられるに違いない。
    あと、章の間に「インターリュード」という項目があるのだが、ここの文字組が絶妙で、本当に間奏曲のように場面転換的に働いていて感動した。本文が一段組で息を長めに読むように組んであるのに対して、インターリュードは2段組で少しくだけたフォントでカジュアルに組んであり、軽い呼吸で読める感じなのである。おかげで章間でも巻を措くこと能わず一気呵成に読んでしまいましたがな。あー面白かった。

  • 予想以上に面白かった。小澤征爾さんと村上春樹さんがCDを音楽をかけながら、「ここは」「ここは」としゃべっているのをそのまま書き連ねている、かのように見える。これはある種、掟破りなんだけど、絶妙のト書きがはいって、くつろいだ場に同席しているよう。小澤氏からお宝ネタを引き出す村上氏のクラシック音楽に対する博識ぶり(オタクぶり)、鋭い視点は特筆ものなのだけれど、本書を比類ないものにしているのは、さりげなく置かれた表現の的確さ、すなおさが真水のようにさわやかで、さらさらゆくよ、と軽快に流れていくから。彼は「文章はリズムだ。良い耳がないとよい文章は書けない」と中に挟まるコラムで企業秘密!を明かしてくれているが、やっぱりそうなんだ。文章自体だけではなく、会話にからめるコラムのありかた、要所要所で微妙に変えるフォント(字体)までリズミカルに構成された、これはひとつのセッション、演奏なのだ。もちろん、一番の腕の見せどころは、音楽を言語化するひとつひとつの練られた言葉。音を文章であらわすことを試みるひとはみな、これを勉強しましょう、と言いたい。プロとファンの、村上氏いわく「高い壁がある」関係。しかし「通路は見つけていくことが、何より大事な作業」そのとおりなのだ、あぐらをかいてはいけない。その努力を怠ってはいけないと、肝に銘じた次第です。

  • 図書館で借りて読んだんだけど、あまりにも面白かったので、買ってしまいました。話に出てくる曲を収録した三枚組CDも。曲と向き合う村上春樹の集中力は彼の小説に対するそれと全く変わらない。プロの小澤征爾が驚嘆するのも頷ける。彼の音楽に対する造詣の深さと聴き込みの深さ、とにかくすごい!

  • 対談ということで非常に読みやすい。小沢征爾が語る他の演奏者、クライバーやバーンスタインについてなど興味深かった。村上春樹の聴き込みの深さ、音楽についての鋭い洞察、音を言葉にする技術に脱帽。クラシック音楽はよく聴くけど、これまでやや敬遠していた「世界のオザワ」の演奏を聴きたくなった一冊。

  • こんなに解らない分野のことを、こんなに面白く読めるって
    やっぱこの人の文章力なんだろぉか。
    それとも、心から好きなことを語り合う人同士の話って
    解る解らないを跳びこして、こんなにも面白いものなんだろぉか。
    ともあれ、凄い♪

    録音した会話の中から、丸々書き起こしてる訳じゃないだろうに、
    例えば
    「これ、砂糖ですか?」みたいな本題とは関係ない部分のチョイスが
    効いてるんだよね~。
    その辺は、やっぱり著者のセンスだわね♪

  • 考えてみれば、この二人の対談というのはアリだろう。村上も自分で書いているが、二人には確かに共通する部分があるからだ。何点かの共通点は、実際に村上の文章で読んでもらうことにして、一つ思い出したのは、どちらも日本で権威があるとされている人たちにこっぴどくいためつけられていながら、ちょうどそれとは反対に海外ではたいそうな評価と好意を得ている点だ。

    今の人は知りもしないだろうが、小澤は忘れていない。ちゃんとN響からボイコットを受けたことを口にしている。村上にしても日本文学の権威筋からはかなりバッシングを受けている。はっきりと書いているわけではないが、村上はそうした二人の共通する部分をかなり意識しつつ、このインタビューを持ちかけたにちがいない。

    小澤がここまで心を開いて音楽について語ることができたのは、村上に対する信頼があってのことである。たしかにかつてジャズ喫茶のマスターであった村上は自分で言うほど音楽の素人ではない。クラシックにしても、そのレコードコレクションがどれほどのものかは、小澤が驚くほどだ。

    ではあるにせよ、演奏家でなく単なる聴き手にすぎない作家相手にずいぶん突っ込んだ話をしているし、最後にはセミナーの会場に同席を許してさえいる。音楽と文学という異なる分野で仕事をしていても、互いを理解し合える相手を得たという悦びがインタビューから伝わってくる。音楽について話される内容は勿論のことだが、何よりそういう生き生きした前向きな感動があるのだ。

    音楽については、大好きなマーラーについて「巨人」第三楽章の曲をかけながらの対談が素晴らしかった。小澤の「とりーら・ヤ・った・たん、とやらなくちゃいけない」というようなくだけた語り口調がそのままマーラーの曲になって頭の中に響いてくる。音楽について書かれた本を何度も読んだが、こんな経験ははじめてだ。

    対談の中で村上が文章を書く方法を音楽から学んだと語っている部分に感銘を受けた。「文章にリズムがないと、そんなもの誰も読まない」「でも多くの文芸批評家は、僕の見るところ、そういう部分にあまり目をやりません。文章の精緻さとか、言葉の新しさとか、物語の方向とか、テーマの質とか、手法の面白さなんかを主に取り上げます」。このあたり、かなり手厳しい日本の文芸批評に対する反論になっている。村上はきっと音楽を聴くように自分の作品を読んでくれる批評家を待っているんだ。そう思った。

    でも、日本にも村上の良さを分かる批評家はいる。例えば、清水徹が、こう語っている。「普通に書いているようでいて、突然予想外な発展をしていくし、それから文体に魅力というものがある」(『書物への愛』)。これなど、村上の「しっかりとリズムを作っておいて、そこにコードを載っけて、そこからインプロヴィゼーションを始めるんです。自由に即興をしていくわけです。音楽を作るのと同じ要領で文章を書いていきます」という発言の言い換えのように読める。

    村上は小澤の音楽についての話を書き残しておきたいという思いがあったのだろうが、期せずして作家としての自分の仕事について誰かに心おきなく話しておきたいという気持ちも無意識の裡にあったのではないだろうか。それが、小澤という願ってもない相手と向き合ううちに自ずから顕れ出たのが、このインタビューであったような気がする。まさに、運命の出会いというべきである。

  • 一気読みした。
    村上春樹がクラシックを勉強しすぎていてビックリした。小澤さんよりも音楽史的なことは把握出来ていて、小澤さんに「そうなんだ。」と言わせていた。

    小澤さんが本をあまり読まない様で、「文章にリズムなんてあるんだ。知らなかった。」みたいなことを言ってる。村上春樹がインタビュアーだったら何かしら作品の話するかな、と思ったけど一切出ず。。。

    バーンスタインの弟子時代・副指揮時代の小澤さんの勉強の取り組み方はすごい。早朝からスコアとにらめっこする。誰にとっても楽譜を読み込むことは基本中の基本なこと。誰も劇場にいなくなってからスコアをピアノで勉強する。安月給でも他のアルバイトをしていては勉強の時間が無くなるので一切しない。常に劇場へスタンバイしている。だから、急遽指揮者交代しないといけないときは小澤さんが信頼されて指揮を任された。ここまで仕事にかけていたから今の成功があるんだと思った。

    • mitsukinomoriさん
      面白そう!!読んでみたくなった。
      面白そう!!読んでみたくなった。
      2011/12/26
    • なっちゃんさん
      ありがとうございます!面白いです★是非♪
      ありがとうございます!面白いです★是非♪
      2011/12/26
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      早く文庫にならないかなぁ~
      早く文庫にならないかなぁ~
      2012/05/29
  • 162春の祭典、指揮が難しい。作曲者自身が上手く指揮出来なくなって改訂版を出したらしい※印税切れ対策?説も
    40 カラヤン先生は長いフレーズを作っていくことを重視
    レニー(バーンスタイン)は天才肌
    マーラー、オーケストラの使い方がすごく上手い。楽譜には指示ビッシリ
    マーラーは突然変異、ドイツ音楽の流れではスコア読めない
    オペラのセット、貸し出しで元をとる、ウイーン。
    ミラノ、オペラのブーイングは文化

  • 小沢征爾とは、何者なんだろう。
    どうしてこんなにも、自分の好きなこたに向かっていくことができたのだろうか。

    この世代にはいるのだろうか?
    オノヨーコや、草間彌生、コシノジュンコ。塩野七生もそうか。

    戦争で抑圧されて、飛び出た世代。


    世代論だけではないと思うかわ。

  • クラシックつながりが止まらない。やっぱり、村上春樹はエッセイのほうが面白い!インタビューの中に出てくる音楽を収めたCDを合わせて聴きながら読むと面白さ倍増!マーラー聴きたくなった。音楽って不思議な世界だな。

  • 2011.12記。再掲です。

    いや、こんな本がいきなり書店に並んでいたら「また出版社にまんまと乗せられて・・・」と言われようとも買うしかないのであった。

    村上春樹と言えば小説に出てくる音楽の描写はもちろん、「意味がなければスイングはない」に代表されるマニアぶりをさく裂させた評論などもあり、本書でもそれが遺憾なく発揮されている。

    冷静に読むと、対談部分はともかく、ところどころに挿入されるエッセイは、村上春樹のもっとも上質なそれに比べるといまいち精彩を欠くというか、本来「うまく言葉では言えないが」と言いつつ、それこそ「その世界のありようをありありと思い浮かべることができるような」日本語にするのが彼のすごさなのに、今回はいささか表面的な表現になってしまっている気もする。たとえば小澤のレッスンを受ける前と受けた後の学生の変化について触れている部分。らしくないですよね・・・

    が、しかし伝わってくるのだ、村上春樹の「楽しくて仕方ない」雰囲気が。
    「ノルウェイの森」に伊東君、という登場人物が出てくる。
    「(伊東は)あまり多くを語らなかったけれど、きちんとした好みと考え方を持っていた。フランスの小説が好きで・・・音楽ではモーツァルトとモーリス・ラヴェルをよく聴いた。そして僕と同じようにそういう話をできる友だちを求めていた」「彼は田舎の人々が山道について熟知しているように、モーツァルトの音楽の素晴らしさを熟知していた」。
    その彼から主人公が音楽の良さを教わる暖かいシーンは、そのままこのインタビューの風景と重なる。

    ところでこの本で一番印象に残ったのは若き日の小澤さんが文字通り死ぬほど仕事をしていること。気に入った仕事しか受けない、みたいな気難しい若き天才芸術家のステレオタイプとはもっとも遠いところにいる。超一流の人はやっぱり人とは桁違いのレベルで働いて勉強している、ということが分かる。

  •  村上春樹がクラシック音楽にまつわる様々な感想を展開し、小澤征爾が村上の発言に同意するというような組み立て。
     流石に売れっ子小説家だけあって、音楽を言葉で表現する術に長けているとは思うが、村上春樹の音楽のとらえ方、聞こえ方が的を射ているのかどうかの判断はぼくにはできない。小澤征爾が殊更ツッコミを入れないところを見ると、間違ってはいないのだろうけど。
     それより、これまで毛嫌いしてきた小沢の演奏を聴いてみても良いかなというのが、この本を読んだ唯一の収穫。
     村上春樹の本は読んだことがない。正確に言えば「ノルウェーの森」を読みかけて途中でギブアップしたんだが、こちらの方は当分の間敬して遠ざけようという意志は変わらない。
     

  • 以前読んだ本の再読。

    小澤征爾と村上春樹という、ある意味「道を極めた」人どうしの対話だから、面白くないはずがない。

    村上春樹氏はジャズの人かと思っていたら、クラシックにも深い造詣があることが、本書を読むと理解できる。

    また小澤征爾氏の音楽家との交友関係も垣間見え、非常に興味深い。多くの音楽家とのふれあいから、マエストロが形作られたのだろう。

    本書で村上が「世の中には「素敵な音楽」と「それほど素敵じゃない音楽」の二種類しかない」というデューク・エリントンの言葉を引用しているが、まったくその通りだと思う。

    音楽好きであれば楽しめる一冊だと思う。

  • WikipediaやYouTubeを参照しながらじっくり読むのがおすすめという感じ。文章と音楽の関係というくだりになんとなく共感できて、村上春樹読んだことないけどひょっとするとわたし読めるのでは……?と脱線。どこを読み取るとかここを学ぶみたいなことを決めにくいけれど楽しい本ではあった

  • 小澤征爾と村上春樹の組み合わせにびっくりしたが、村上春樹のインタビュワーとしての誠実さ・率直さ、音楽に対する深く真摯な愛情が、小澤征爾をその気にさせ、極めて良質の本を作り上げている。小澤征爾と一緒に色々なベートーベンピアノ協奏曲3番をききながら、あれやこれやいい、カラヤンやバーンスタイン、マーラーについて語り尽くす・・・。何とも贅沢な一冊である。
    それにしても、村上春樹の「音楽もの」は素晴らしい。どんなそのへんの音楽評論家の言葉より、その音楽の「核」のようなものを伝えていると思う。本当に音楽が好きで、その好きな気持ちを自分の言葉でしか語らないからであろう。自分は村上春樹の影響でジャズ(ポートレイト イン ジャズ)が好きになり、フルニエ(海辺のカフカ)の大ファンになった。

  • どちらもすごい知識。

  • 世界の小澤と村上春樹氏の対談形式のインタビュー本、非常に面白く愉しく読了。

    小説は同じ村上でも春樹より龍 派ですが、今作に至ってはもう村上春樹 一体何者なの?!という程の音楽知識量、また聴き込み方で驚きました。
    何しろ小澤さんとオケの細かいディテールや音楽的な聴き分け諸々を、対等に語り合っている。
    もともと音楽好きとは知っていたけど、この聴き方はもう確実にマニア。脱帽です。

    小澤さんのフランクで熱く芯の通った性格の良さが会話の端々に浮彫になっていて微笑ましかったです。

    自分自身も音楽を勉強してきましたが、ピアノ科だったのもあり、マエストロやオケの関係や繋がり、各楽器の名プレイヤーなどはあまり詳しくなかったので、その辺の流れも多くの人々と共演されてきた小澤さんの語り口でとても勉強になり楽しく読めました。

    読みながら、是非BGMとして会話に出てくる作品をかけてみるのをお勧めします。
    そうすると音楽がより身近に楽しいものになるかと。

  • 小澤征爾×村上春樹
    小澤征爾さんと、音楽について話をする

    内容は、その名の通り、 
    指揮者 小澤征爾さんと、小説家 村上春樹さんの対談です。
    村上春樹さんの奥さんと、小澤征爾さんの娘さんが友達らしく、そこから交流がはじまったそうですが、
    初めは2人とも、音楽についてきちんと話してこなかった。

    音楽=仕事だから、2人の時はそれ以外の会話の方がいいだろうと思っていたようですが、
    小澤さんが病気になり、音楽生活から離されたころから、本格的に2人で音楽について語りだした。
    その記録です。

    この本で、何より驚いたのが・・・
    村上春樹さんのクラシック+ジャズに関する知識のすごさ!
    本人は素人だと言っていますが、そんなのはるかに超えています。(後で知りましたが有名な話らしいですね)

    小澤さんより、村上さんにびっくりした空音でした(笑)

    ちなみに空音は村上小説を読んだことはありませんですが・・・(爆)

    色々な指揮者+ソリストの
    ベートーヴェン:ピアノ協奏曲を流しながら、それについて語ったり、

    ブラームス交響曲1番を流しながら、それについて語ったり、

    オペラを流しながら、それについて語ったり。。。

    曲に対する小澤さんの思い出話や、レコーディング秘話など満載です。

    ニューヨークフィル、ボストン交響楽団、カラヤン、バーンスタイン・・・

    マーラー、サイトウ・キネン、シカゴ・ブルーズ、森進一(笑)・・・
    盛りだくさんです。


    この本に出てくる言葉で、一番よいと思ったこと。
    ====================
    「レコードマニアについて」
    お金があって、立派な装置を持って、レコードをたくさん持っている人
    そういう人は、やれ、フルトヴェングラーだ、グレングールドだといっているが、
    そういうお金持ちのマニアって、忙しいから、音楽自体はちょこっとしか聴いてくれない。

    だからこの対談はそいういうマニアのためにはやりたくない。
    マニアの人には面白くないけど、本当に音楽の好きな人にとって、読んでいて面白いものにしたい。
    =====================

    まぁ、語られている内容はかなりマニアックなのですが、
    逆に言うと、やもすればマニアにしかうけないような内容を、マニアでもない人間が読んでも面白いそんな本になってます。

    私はマニアではないけれど、しっかり楽しめました。

    オススメ。

  • とにかく村上春樹のクラシック音楽についての知識がすごい。
    曲を知らないと面白くないかもしれないけれど、もう一度聴き返してみたい曲、欲しいCDが増えた。

  •  非常に面白かった。知性的、情感的な言葉にあふれ、クラシックを多少かじったぐらいの私でも、豊かな学びの時間になった。小澤征爾でなければ見えない音楽の世界を、村上春樹がナビゲーターになり導き出す。驚くのは、春樹のクラシックに対する造詣の深さ。それは知識といえど、人間と世界に対する並ならぬ洞察と感心、シンパシーがなければ勝ち得ることができないものであろう。
     そんな二人のやりとりが、心躍るように楽しかった。人間と世界の深みにもう一歩はまっていった読書の時間だった。

    15/7/24

  • 小澤さんと対等に語り合う村上さんの音楽の知識の豊富さには驚きます。オーケストラを聴きに行きたくなりました。

  • 村上春樹氏の音楽への造詣の深さとシロウトっぽさが絶妙で小沢征爾氏の話を深いところまで掘り起こしている様な気がした。小沢氏の振られた曲の数々、いろんな音楽家とのエピソードが本当に面白い。そして、言葉がわからなかったから残念なこともあったけれど、またそれで得をしたこともあると言う、小沢氏の飄々としたお人柄がきっとみんなに愛されたのだろう。最後の章での、若い人の育成に力をそそがれるところも素晴らしいと思った。

  • 2010年11月から翌年の7月にかけて、様々な場所で(東京からホノルルからスイスまで)機会を捉えて、ここに収められた一連のインタビューを行った。

    「サイトウ・キネンはどんなところで録音しているんですか?」
    「ごく普通の劇場(長野県松本文化会館)でやってます。だから音が硬いっていうか、そんなに残響がないんです。わーんがない。今いちばん良いのは墨田区のトリニティホール。あれが今、東京の中では、レコーディングするにはいちばん良いホールだと思います」

    2010年12月サイトウ・キネン・オーケストラ カーネギーホール公演
    「管楽器といえば今回のホルンの人、とてもよかったですね」
    バボラーク 「彼は今、サイトウ・キネンと水戸室内管弦楽団と、両方に来てくれているんだけれど、僕とすごく気が合う。今はベルリンをやめて、チェコに帰ったっていう話を聞いていますが」

    ミラノで浴びたブーイング

    楽団の演奏者たちはみんな僕を温かく応援してくれました。日本風に言えば、いわゆる判官贔屓っていうのかな、「この若いの、東洋から一人でやってきて、みんなにいじめられてかわいそうだ。俺たちがひとつ盛りたててやろう」みたいな。

  • 飛び出す名前はクラクラするほどの偉人ばかり。興奮さえ覚えるほどで、同タイトルのCDを聴きながら、行きつ戻りつ堪能しながら読み終えた。世界に誇る指揮者と作家の対談が実現した事が奇跡に思える。時折は村上さんの知識の羅列がうっとしく感じる所もあるのだけど、小澤さんからこれだけの事を聞き出せたのは、その知識があったからこそだろう、と思う。多少クラシックを知らないと読みにくいとは思うけど、馴染みのある人には珠玉の一冊でしょう♪暫く買っただけで満足して飾り物にしてたなんてバカだった!欲しいCDが7枚増えた…。

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