- Amazon.co.jp ・本 (544ページ)
- / ISBN・EAN: 9784103534334
感想・レビュー・書評
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抽象的な物事がなにを指しているかわからないままだけど、すごく好みだった
村上春樹の作品の中でかなり好きかも
秋川笙子とまりえの美しい二人を、「クリスマスと新年がいつも連れ立ってやってくるみたい」と形容したのが心に残った。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
母親を早くに亡くした中学生まりえ。
まりえの父親である可能性がある免色。
そして、妹を少年時代に亡くした画家の主人公。
雨田具彦邸の屋根裏部屋で見つかった絵画「騎士団長殺し」を軸に、奇想天外な物語が静かに進んでいく。
小田原の静かなはずの邸宅のそばで見つかった「穴」。
摩訶不思議な展開に、抗うどころか心地よく魅せらせていく。
子どもの頃に慣れ親しんだ童話の世界のように。
仏典に説かれた時空を超えた説話のように。
物語に寄り添い、共に時を過ごす中で、これまで気が付かなかったものに気が付くことが出来る。
昨日の自分より今日の自分。
今日の自分より明日の自分。
先の見えない洞窟のなかにいるような苦難にあっても、それを乗り越える術は、自分自身の中にある。
全ての出来事には意味がある。
目の前に見えていても、見えていなくても、繋がっている。
自身の中にあるレジリエンスを引き出す文化芸術の力。
春樹ワールドから帰ってきたら、少しだけ、何かが前に進んでいた。
#村上春樹
#騎士団長殺し
#レジリエンス -
2022年11月24日読了。美しい少女まりえの肖像画を描き始めた「わたし」は、周囲の人々の思惑に流されるうち奇妙な世界に旅立つことになり…。おいしい朝食を作ってセックスして女性の胸の形にこだわったりしているうちになんだかんだ奇妙な住人に導かれて穴の底の地底世界に降りて脱出を目指すことになる、と「めっちゃいつものハルキ小説やないかい!!」と叫びたくなる。要は「いつも通り・期待通りおもしろい」ということでとにかくつるつると読まされる村上小説。いろいろほのめかされる登場人物の秘密めいた情報や伏線はあまり回収されず「??」を頭に浮かべたまま読み進むことになるが、まあ人生とはそういうもの、なのかもしれない…。
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前編のゆったりとした日常からは想像出来ないような、物語はスピーディーにかつ不思議な雰囲気をおびていく。秋山まりえが免色の実の娘であるかもしれない。まりえの肖像画を描くことになった主人公は、13歳の不思議な少女まりえとの接点を持つようになる。森に空いた不思議な穴、騎士団長、顔長...などなどこの世のものではないイデアやメタファーとの出会いが、主人公を2つの世界に迷い込ませ、まりえを救い現実世界に戻るため、主人公はメタファーの世界を進むことになる。細い洞窟の穴を這うように抜けると、そこは雑木林の穴の中だった。不思議な鈴をその穴から見つけて以来、2つの世界を繋げる環を開いてしまった。
一連の騒動を終えて、柚との関係は元の夫婦に戻った。そこには娘もいる。物語は上手くいったように終わったが、前編のはじめに顔のない男がペンギンのお守りを持って現れている。環は閉じられ、2つの世界は交わることがなくなったように思われたが、顔のない男が自分の肖像画を描くように(以前メタファーの世界で主人公を助ける代わりに肖像画を描くと約束していた)、自分の周りの人を護りたくば肖像画を描くように言ってきたので、物語はまだ見えないところで続いているのではないだろうか。この時顔のない男の肖像画を描くことが出来なかった主人公が、今後どのような展開を迎えるのかは私たちの想像の中で補うしかない。 -
ねじまき鳥のクロニクルと同じ要素がいくつか。井戸と類似した存在の穴(入口出口がないのに通り抜けられる)はその最たる例だ。物語が推進力をもち、物語そのものが望む方へと筆を走らせると、その人の中では同じような場面へと帰着するのだろうか?計り知れない境地。この作品は、登場人物の会話が特に秀でている。会話の中から新たな価値観や物語を進める符丁のようなものが生まれる。それは常に、インフォメーションギャップのあるコミュニケーションだから、他愛もない会話でも目が離せない。東北大震災の出し方が、村上春樹の人間性を物語っている。というより、主人公の一人称からして、それ以外の出し方は考えられない。さり気なくて、慎ましい思慮に富んでいて、それでいて事実をズバッと指摘する端的さを含んでいる。一瞬一瞬を切り取りながら、その雰囲気を楽しむ作品だと感じた。