みみずくは黄昏に飛びたつ

  • 新潮社 (2017年4月27日発売)
4.07
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  • Amazon.co.jp ・本 (345ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103534341

みみずくは黄昏に飛びたつの感想・レビュー・書評

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  • こんな愉快になれる本は珍しい。
    村上春樹は、自分の書いたもの、言ったことを忘れることが多い。というかこれからのことしか興味がない。また、彼の執筆のスタイルは精神世界に降りていき、展開される景色を描写していくスタイル。悪くいうと行き当たりばったり。
    これに彼の熱烈なファンで、彼と彼の作品を正しく理解し、研究熱心な川上未映子がインタビューする。
    その結果、
    『「あの女の子、なんて言ったっけ?」と川上未映子に問い、彼女の方が「まりえです。なんて言ったっけって(笑)」』って会話になる。最近の『騎士団長殺し』の主要な登場人物なのにもう忘れている。なので川上未映子としてはあきれるばかりで、どうしたって責める感じになってしまう。

    『「僕はただそれを「イデア」と名づけただけで、本当のイデアというか、プラトンのイデアとは無関係です。ただイデアという言葉を借りただけ。言葉の響きが好きだったから。』なんて言うものだから

    『「村上さん・・・あのですね、原稿を書いていて、イデアっていう単語を村上さんが打つ、こうやってキーボードで「イデア」。イデアってまぁ有名な概念じゃないですか。そしたら当然、「ちょっとイデアについて調べておこう、整理しよう」みたいなこと考えませんか?」
    「ぜんぜん考えない。」
    「それは本当ですか。」
    「うん。ほんとうにそんなことは考えない。」』

    村上春樹がボケで、川上未映子がツッコミというところでしょうか。こうしたやりとりのおかしさは、二人のキャラクターがあってのことで、稀有なことと思うので特別なおかしさということになる。
    『「これ読んでいる人、「川上も(村上の発言を)真に受けちゃって、くっく」って笑ってるんだろうか」というほど村上春樹のボケぶりがおかしい。ワタシは天然だと思うが。

    また、「騎士団長殺し」完成直後のインタビューで、作品の裏話が聞けるのも興味深い。まずあったのは「騎士団長殺し」という言葉と書き出しと「二世の縁」という作品のイメージだけだったそうだ。それを長い間寝かしておいて、書き始める。落語の三題噺みたいだ。しかしその時は「騎士団長殺し」はどういう形で出てくるか分かっていない。

    『「「騎士団長殺し」という言葉が絵のタイトルだとわかったのはいつですか。」
    「それはずっとあとのことです。ずっとあと(笑)。穴を開いたあとで。」
    「それはマジですか。」
    「マジで。」
    「穴を開くまで、「騎士団長殺し」は、まだ単なる言葉だった。」
    「まずは「騎士団長殺し」ってタイトルが頭に浮かんで、それから書き始めて、書き始めてすぐに、主人公は肖像画家にしようときめたのは確かです。それで彼が、屋根裏から一枚の絵を見つける。そのタイトルは「騎士団長殺し」であった。そういう流れですね。
    ああ、これでなんとか話をもっていけそうだなと、そのときにやっとわかった。」』
    川上未映子が思わず「マジですか。」という言葉を使ってしまったほど驚異的な話だ。何も考えないってそこまで何も考えないで、物語というのは成立してものなのかと思う。
    「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」で違う話を書き出して、最後つながるのだが、これも頭の中で考えてつなげたのではなくて、自然に合体したそうだ。

    村上春樹は巫女さんとか小説が通過する器官のようなもので、作品の中で起きている事件に意味とか考えないようにしている。考えて意味付けしてしまうと失速するので考えない。しかしそれで物語がキチンと完結していくという作用がなんとも不思議だ。

    『「地底の世界。ここについてもちょっと聞きたいんですけれども、大丈夫ですか?」
    「たぶん大丈夫だと思うけど。」
    「では続けます。・・・」』
    と一方的に攻め込まれてる。
    最後、
    『「しかしそれにしてもこれ、すさまじいインタビューだったなぁ(笑)。あと二年くらい何もしゃべらなくてもいいかも。」
    「では、ぜひまた二年後に。」』
    と終わるのもおかしい。

    『「語り口、文体が人を引きつけなければ、物語は成り立たない。内容ももちろん大事だけど、まず語り口に魅力がなければ、人は耳を傾けてくれません。僕はだから、ボイス、スタイル、語り口ってものすごく大事にします。」「僕はもう四十年近くいちおうプロとして小説を書いてますが、それで自分がこれまで何をやってきたかというと、文体を作ること、ほとんどそれだけです。」』

    と文体ありきという話が繰り返される。ある意味職人みたいなところがあるのだろう。どんな家を建てるかよりも大工としての腕が大切というようなことが。そしてどんな家になるかの部分は、物語が降りてくるので他人事のようなところがある。

    それにしても川上未映子という人もエライ人だと思う。村上春樹も突っ込まれながらも自分の世界をうまく伝えてもらえるという確信があって、彼女をインタビューアとして選んだのだろう。村上春樹が好きな人にはたまらない一冊だ。
    彼女の作品も真面目に読んでみようと思う。

  • 川上未映子さんの春樹フリークっぷりがすごい。作品の内容について本人よりよく覚えてる! すごいよほんと。わたし全然覚えていなくてそれにも驚いた。。
    あと川上さんは、フェミニストなんだね。知らなかった。

  • インタビュアーとしての川上さんの優秀さに驚愕しっぱなしでした。。。作家はどうして作家たり得るのか、よくわかる本でした。できれば「騎士団長殺し」を読んでからのほうがいいかなと思います。

  • 川上さんの問いがすべからくスカっているところが、村上さんの特異性を炙り出すことになっていて面白かった。
    「作者も物語がどうしてこうなったか、サッパリわからん」とハッキリと言い切ってくれて、何かスッキリした。

  • [語り語られ,書き書かれ]小説家である川上未映子が,小説家である村上春樹に対して行った4回にわたるインタビューを書籍化した作品。書くことについて,男女の性について,そして村上氏による新作の『騎士団長殺し』について,突っ込んだ対話が重ねられています。


    インタビュアーの川上氏が村上春樹のファンであることもあり,かなり前のめりに質問している様子がところどころで垣間見えるのですが,その熱が村上氏にも伝わるのか,とても活き活きした対話であるように感じました。また,投げかける質問も興味深ければ,それに対する回答ももちろん興味深いので,一言一句を堪能しながらも,あっという間に読み切ってしまう一冊です。

    〜リズムが死んじゃうんだよね。僕がいつも言うことだけど,優れたパーカッショニストは,一番大事な音を叩かない。それはすごく大事なことです。〜

    『騎士団長殺し』を読んでから本作を手に取るのが断然オススメ☆5つ

  • 長年の愛読者である作家 川上未映子が村上春樹にアレヤコレヤを延べ4日間10数時間にわたり、切っ先鋭く執拗に斬り込んだ25万字にも上るインタビュー集。
    何と言っても川上未映子の綿密かつ丹念な準備。鮮明かつ仔細な記憶力。巧みで執拗な問いかけにたじろい、はぐらかし、時に饒舌に語る村上春樹。また、過去の様々な村上春樹のインタビュー記事にも目を通し、「あの時こう言ってましたよね?」と証拠物件を提示するかのような念の入れよう。入念な準備が余裕を生み、奔放なアドリブも醸し、「生き生きとした、限りなく素に近いであろう村上春樹」が紙面から立ち昇る、読み応えのある一冊。

  •  リンカーンが言っているように、ものすごくたくさんの人間を一時的に欺くことはできるし、少ない数の人間を長く欺くこともできる。しかしたくさんの人間を長く欺くことはできない。それが物語の基本原則だと僕は信じています。(中略)善なるものというのは多くの場合、理解したり嚙み砕いたりするのに時間がかかるし、面倒で退屈な場合が多いんです。でも、「悪しき物語」というのはおおむね単純化されているし、人の心の表面的な層に直接的に訴えかけてきます。(p.101)

     頭で解釈できるようなものは書いたってしょうがないじゃないですか。物語というのは、解釈できないからこそ物語になるんであって、これはこういう意味があると思う、って作者がいちいちパッケージをほどいていたら、そんなの面白くも何ともない。(p.116)

     僕は思うんだけど、人が人生の中で本当に心から信頼できる、あるいは感銘を受ける小説というのは、ある程度数が限られています。多くの人はそれを何度もなんども読み直しては、じっくり反芻します。(中略)そして結局そういった少数の書物が、僕らの精神性のバックボーンになっています。(p.188)

     チャンドラーの比喩で、「私にとって眠れない夜は、太った郵便配達人と同じくらい珍しい」というのがある。これは何度も言っていることだけど、もし「私にとって眠れない夜は稀である」だと、読者はとくに何も感じないですよね。普通にすっと読み飛ばしてしまう。でも「私にとって眠れない夜は太った郵便配達人と同じくらい珍しい」というと、「へぇ!」って思うじゃないですか。「そういえば太った郵便配達人って見かけたことないよな」みたいに。それが生きた文章なんです。そこに反応が生まれる。動きが生まれる。(pp.217-218)

     完全に囲われた場所に人を誘い込んで、その中で徹底的に洗脳して、その挙句に不特定多数の人を殺させる。あそこで機能しているのは、最悪の形を取った邪悪な物語です。そういう回路が閉鎖された悪意の物語ではなく、もっと広い開放的な物語をつくっていかなくちゃいけない。囲い込んで何か搾り取るようなものじゃなくても、お互いを受け入れ、与え合うような状況を世界に向けて掲示し、提案していかなくちゃいけない。僕は『アンダーグラウンド』の主催をしていて、とても強くそう思いました。肌身に染みてそう思った。これはあまりにも酷すぎると。(p.336)

  • 村上春樹分析本みたいのを2冊ほど読んで、うーん村上さんて実はそーんなにありがたがるほどのものでもないのかな(失礼)とか思ったりしていたんだけど、この本を読んでいろいろ過去の作品を思い出したりしているうちに、やっぱり好きだという気持ちがよみがえったので、とてもよかった。昭和っぽいだの古くさいだのといった細かいことはどうでもいい、村上春樹は村上春樹なんだ、というか。(分析本に対して、細かいことでいちいち揶揄するな、っていうような記にもなったり)。
    川上未映子さんが実によく村上さんの作品を読み込んでいてすばらしいなと思った。本当に村上さんを好きなことがよくわかって。かといって、持ち上げるだけじゃなくて、ああそういうのきいてみたかったっていうこともきいていて。たとえば、女性の扱いがちょっとひどいんじゃないか、とか。

    作品の分析がどうのこうのっていうより、単純に、やりとりを読むのがおもしろかった。
    結局、作品って、作者が意識して書いたことだったらこういう意図だ、とか説明できるかもしれないけど、とくに意識しないで流れのままに書いてそうなった、っていうことだと、きかれても作者もわからないんだろうなっていうことがわかったような。

  • 春樹が最もこだわっているのは文体と比喩。

  • 村上春樹も川上未映子も良い読者ではないが、緊張感と真摯さと親愛感が伝わってくるインタビューだった。
    善き物語は人間の精神を支えてくれる。春樹さん、わたしはハルキストではないがその通り、あなたの言葉に深く共感します。

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