みみずくは黄昏に飛びたつ

  • 新潮社
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本棚登録 : 748
レビュー : 95
  • Amazon.co.jp ・本 (345ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103534341

感想・レビュー・書評

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  • 芥川賞作家の川上未映子氏による村上春樹へのインタビュー。
    熱心な春樹ファンである川上氏の質問は、的確で深く、村上氏が答えやすそうな場を作っています。
    文学を愛する文学者同士が親密に語り合う場に、自分もお邪魔しているような気分で読み進みます。

    一愛読者であるからこそ、聞いてみたい事柄をあふれんばかりに準備してきた川上氏。
    互いに誠実な受け答えをしています。何回かに分けて行われたインタビューは、総11時間に及んだとのこと。様々な質問から、著者が語る村上ワールドが見えてきます

    人の話を引き出すインタビュアー。やはりその人によって、相手の語る内容は違ってきます。時に聞き古したような質問を受けて、退屈そうな反応を見せる村上氏の記事を読むにつけ、あまりインタビューを受けるのは好きではないのかと思っていましたが、川上氏の情熱に取り込まれて、普段は見せないようなラフな一面も見せてくれているよう。

    私は概して村上作品は好きですが、往々にして女性が男性の犠牲となる描かれ方に、耐えがたい思いを抱くこともあります。フェミニストだという川上氏は、猶更その点が気になるようで、村上氏に真っ向から女性の立ち位置に関する質問をしていました。
    村上氏は無自覚のようで、あまり納得のいく的を得た答えではなかったのが残念でしたが、聞きづらいことを避けずに敢えて踏み込んだ、川上氏の勇気に感服しました。

    かなり踏み込んだ質問もあり、最終的に村上氏に「しかしこれ、すさまじいインタビューだった。あと二年くらい何もしゃべらなくてもいいかも」と言わしめた川上氏。
    とても読み応えのあるインタビュー集になっています。

  • こんな愉快になれる本は珍しい。
    村上春樹は、自分の書いたもの、言ったことを忘れることが多い。というかこれからのことしか興味がない。また、彼の執筆のスタイルは精神世界に降りていき、展開される景色を描写していくスタイル。悪くいうと行き当たりばったり。
    これに彼の熱烈なファンで、彼と彼の作品を正しく理解し、研究熱心な川上未映子がインタビューする。
    その結果、
    『「あの女の子、なんて言ったっけ?」と川上未映子に問い、彼女の方が「まりえです。なんて言ったっけって(笑)」』って会話になる。最近の『騎士団長殺し』の主要な登場人物なのにもう忘れている。なので川上未映子としてはあきれるばかりで、どうしたって責める感じになってしまう。

    『「僕はただそれを「イデア」と名づけただけで、本当のイデアというか、プラトンのイデアとは無関係です。ただイデアという言葉を借りただけ。言葉の響きが好きだったから。』なんて言うものだから

    『「村上さん・・・あのですね、原稿を書いていて、イデアっていう単語を村上さんが打つ、こうやってキーボードで「イデア」。イデアってまぁ有名な概念じゃないですか。そしたら当然、「ちょっとイデアについて調べておこう、整理しよう」みたいなこと考えませんか?」
    「ぜんぜん考えない。」
    「それは本当ですか。」
    「うん。ほんとうにそんなことは考えない。」』

    村上春樹がボケで、川上未映子がツッコミというところでしょうか。こうしたやりとりのおかしさは、二人のキャラクターがあってのことで、稀有なことと思うので特別なおかしさということになる。
    『「これ読んでいる人、「川上も(村上の発言を)真に受けちゃって、くっく」って笑ってるんだろうか」というほど村上春樹のボケぶりがおかしい。ワタシは天然だと思うが。

    また、「騎士団長殺し」完成直後のインタビューで、作品の裏話が聞けるのも興味深い。まずあったのは「騎士団長殺し」という言葉と書き出しと「二世の縁」という作品のイメージだけだったそうだ。それを長い間寝かしておいて、書き始める。落語の三題噺みたいだ。しかしその時は「騎士団長殺し」はどういう形で出てくるか分かっていない。

    『「「騎士団長殺し」という言葉が絵のタイトルだとわかったのはいつですか。」
    「それはずっとあとのことです。ずっとあと(笑)。穴を開いたあとで。」
    「それはマジですか。」
    「マジで。」
    「穴を開くまで、「騎士団長殺し」は、まだ単なる言葉だった。」
    「まずは「騎士団長殺し」ってタイトルが頭に浮かんで、それから書き始めて、書き始めてすぐに、主人公は肖像画家にしようときめたのは確かです。それで彼が、屋根裏から一枚の絵を見つける。そのタイトルは「騎士団長殺し」であった。そういう流れですね。
    ああ、これでなんとか話をもっていけそうだなと、そのときにやっとわかった。」』
    川上未映子が思わず「マジですか。」という言葉を使ってしまったほど驚異的な話だ。何も考えないってそこまで何も考えないで、物語というのは成立してものなのかと思う。
    「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」で違う話を書き出して、最後つながるのだが、これも頭の中で考えてつなげたのではなくて、自然に合体したそうだ。

    村上春樹は巫女さんとか小説が通過する器官のようなもので、作品の中で起きている事件に意味とか考えないようにしている。考えて意味付けしてしまうと失速するので考えない。しかしそれで物語がキチンと完結していくという作用がなんとも不思議だ。

    『「地底の世界。ここについてもちょっと聞きたいんですけれども、大丈夫ですか?」
    「たぶん大丈夫だと思うけど。」
    「では続けます。・・・」』
    と一方的に攻め込まれてる。
    最後、
    『「しかしそれにしてもこれ、すさまじいインタビューだったなぁ(笑)。あと二年くらい何もしゃべらなくてもいいかも。」
    「では、ぜひまた二年後に。」』
    と終わるのもおかしい。

    『「語り口、文体が人を引きつけなければ、物語は成り立たない。内容ももちろん大事だけど、まず語り口に魅力がなければ、人は耳を傾けてくれません。僕はだから、ボイス、スタイル、語り口ってものすごく大事にします。」「僕はもう四十年近くいちおうプロとして小説を書いてますが、それで自分がこれまで何をやってきたかというと、文体を作ること、ほとんどそれだけです。」』

    と文体ありきという話が繰り返される。ある意味職人みたいなところがあるのだろう。どんな家を建てるかよりも大工としての腕が大切というようなことが。そしてどんな家になるかの部分は、物語が降りてくるので他人事のようなところがある。

    それにしても川上未映子という人もエライ人だと思う。村上春樹も突っ込まれながらも自分の世界をうまく伝えてもらえるという確信があって、彼女をインタビューアとして選んだのだろう。村上春樹が好きな人にはたまらない一冊だ。
    彼女の作品も真面目に読んでみようと思う。

  • こちらは買っていたのだが騎士団長を読み終えるまで手が出せなかった。本編より評価が高い。
    対談とは「誰が聞くか」次第なんだと、仕事としてインタビューをする身として身につまされる。川上さんが村上さんのファンで、過去の著作はもちろんイデアのためにプラトンを読み、村上さんは「そんなこと書いたっけ?」「プラトン?知らない」などと答えている。作家でもあり村上さんが後進を応援する気持ちも表れている。そこらの評論家では無理だったろう。
    いろいろと腑に落ちた。「同じことを書いている」事に関しては、自分の物語は必然的にそうなるのだと。結果読者を「悪いようにはしない」、確かにその通りだ。同音異曲と文句を言わず腹をくくって読みます。
    しかし、女性の扱い(巫女的な女性が主人公男性を助けるために利用される)に対する回答の歯切れは悪い。鋭い質問を投げかける川上さんもそこまで突っ込んで攻められなかったか。

  • 川上さんの村上作品への愛がすごかった
    それに全然退屈しない素晴らしい本だったなぁ
    フェミニストとしての意見も良かった。たくさんの女性登場人物についての話が聞けて楽しかったなー。

  • 川上未映子さんの春樹フリークっぷりがすごい。作品の内容について本人よりよく覚えてる! すごいよほんと。わたし全然覚えていなくてそれにも驚いた。。
    あと川上さんは、フェミニストなんだね。知らなかった。

  • 川上未映子による村上春樹へのロングインタビュー。
    村上春樹にとって小説を書くとはどういうことなのかを説明する時の喩え話が興味深く、合点が行った。
    一階が共用の場所、二階がプライベートルーム、地下一階が自我で通常の私小説はここが舞台、そして地下二階が作者自身にもわからない心の闇の世界。そこへ行くには壁抜けしなければならず大変な労力を伴うという。
    確かに「世界の終わり~」「ねじまき鳥クロニクル」「海辺のカフカ」「1Q84」「騎士団長殺し」は壁抜けしてその世界と行き来していた。
    地下の話は、優れた音楽家とは何かという話に繋がっていく。
    グレン・グールドの演奏は右手と左手のスプリット感が独特で、乖離の感覚と、乖離されながら統合されている感覚を生み出し、それが本能的に人の心を強く引きつける。この危うい感覚こそ彼が地下二階まで到達している証だという。グールドの凄さを言語的に表現できるとは。さすが村上春樹、とても感心した。
    そして自身のスタイルを洞窟の中で語り部として集合的無意識に語りかける「洞窟スタイル」と語ったり、具体的な創作の方法論や過去作の話などどれも興味深かった。
    村上春樹の全てを知れたとは思わないが、かなり深く理解できたと思う。「騎士団長殺し」の余韻が残る中で読んだが満足できる一冊であった。

  • インタビュアーとしての川上さんの優秀さに驚愕しっぱなしでした。。。作家はどうして作家たり得るのか、よくわかる本でした。できれば「騎士団長殺し」を読んでからのほうがいいかなと思います。

  • 川上さんの問いがすべからくスカっているところが、村上さんの特異性を炙り出すことになっていて面白かった。
    「作者も物語がどうしてこうなったか、サッパリわからん」とハッキリと言い切ってくれて、何かスッキリした。

  • [語り語られ,書き書かれ]小説家である川上未映子が,小説家である村上春樹に対して行った4回にわたるインタビューを書籍化した作品。書くことについて,男女の性について,そして村上氏による新作の『騎士団長殺し』について,突っ込んだ対話が重ねられています。


    インタビュアーの川上氏が村上春樹のファンであることもあり,かなり前のめりに質問している様子がところどころで垣間見えるのですが,その熱が村上氏にも伝わるのか,とても活き活きした対話であるように感じました。また,投げかける質問も興味深ければ,それに対する回答ももちろん興味深いので,一言一句を堪能しながらも,あっという間に読み切ってしまう一冊です。

    〜リズムが死んじゃうんだよね。僕がいつも言うことだけど,優れたパーカッショニストは,一番大事な音を叩かない。それはすごく大事なことです。〜

    『騎士団長殺し』を読んでから本作を手に取るのが断然オススメ☆5つ

  • 長年の愛読者である作家 川上未映子が村上春樹にアレヤコレヤを延べ4日間10数時間にわたり、切っ先鋭く執拗に斬り込んだ25万字にも上るインタビュー集。
    何と言っても川上未映子の綿密かつ丹念な準備。鮮明かつ仔細な記憶力。巧みで執拗な問いかけにたじろい、はぐらかし、時に饒舌に語る村上春樹。また、過去の様々な村上春樹のインタビュー記事にも目を通し、「あの時こう言ってましたよね?」と証拠物件を提示するかのような念の入れよう。入念な準備が余裕を生み、奔放なアドリブも醸し、「生き生きとした、限りなく素に近いであろう村上春樹」が紙面から立ち昇る、読み応えのある一冊。

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著者プロフィール

1976年大阪府生まれ。2006年に随筆集『そら頭はでかいです、世界がすこんと入ります』を刊行。2007年に初の中編小説『わたくし率  イン 歯ー、または世界』が第137回芥川賞候補になる。同年、早稲田大学坪内逍遙大賞奨励賞を受賞。2008年、『乳と卵』が第138回芥川賞を受賞。2009年、詩集『先端で、さすわ さされるわ そらええわ』で第14回中原中也賞を受賞。2010年、長編小説『ヘヴン』で芸術選奨文部科学大臣新人賞と第20回紫式部文学賞を受賞。2013年、詩集『水瓶』で第43回高見順賞を受賞。

「2013年 『りぼんにお願い』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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