エクソダス: アメリカ国境の狂気と祈り

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103536512

作品紹介・あらすじ

そこでは子供が、妊婦が、故国を追われた数多くの人々が息絶えてゆく――。米国とメキシコを隔てる3200キロの国境に世界中の移民が集まっている。中南米のみならず、アジア、アフリカからもやって来るのはなぜか? 麻薬組織が支配する砂漠、猛獣が棲むジャングルを越えて向かう理由の中に、私たちが知るべき世界の真実がある。2019年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞の迫真ルポルタージュ。

感想・レビュー・書評

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  • 移民たちが母国を去り、米国で難民申請をするまでの果てしない道のりと、大量の移民が生まれる原因を綴った渾身のルポ。

    移民にとって、越境は命懸けだ。

    例えばメキシコの南、グアテマラやホンジュラスやエルサルバドルから米国境を目指す移民たちは、家庭内暴力やマラスという青少年ギャング集団、そして貧困を理由に母国を離れる。だが、米国境までの道中は恐ろしい。犯罪組織に狙われ、「野獣」と呼ばれる列車に必死にしがみつき、国境には命を奪う砂漠と川、そしてトランプが建設を強調した壁が立ちふさがっている。

    もっと南下すると、その危険性は想像を絶する。

    コロンビアとパナマの間には、地図上の空白地帯「ダリエンギャップ」が存在する。双方の国立公園がある密林で、その密林をガーナやハイチ、バングラデシュ、パキスタン、カメルーン、ペルー、ブラジル、チリ、インドなど世界中の移民が命がけで越境する。マラリア、毒蛇、麻薬密輸組織などに襲われ、命を落とす人も大勢いる。それでも多くの人が、母国で殺されるのを待つより、密林で死ぬほうを選ぶという。

    次元が違いすぎて、身の毛がよだった。

    日本列島の端から端より長い距離を歩き、米国境を目指す移民たちと、生まれながらにして世界最強とも言われるパスポートを持っているわたしたち日本人。
    地球の裏側の彼らの存在が、多くの人々の目に触れ、関心を持たれるようになってほしいし、ならなくてはならない。

    難民問題解決の糸口は、頑丈な壁を建設することでも、国境警備や麻薬取り締まりを強化することでもない。

    貧困対策と教育支援だ。

    世界中の格差に通じるその根本的な原因に、またここでもぶつかったと思った。

    p1
    どのパスポートを持っているかは、ときに人の命をも左右する。
    (中略)
    それを見せつけられたのが、米国とメキシコの国境だった。

    p35
    民主党が共和党の主張をのみ込む形でいったん国政での争点化が「封印」され、党派を超えて支持されてきた国策だったのだ。グローバル化への不満が再び鬱積する時代の空気を読んで、その封印をわざわざ解き放ち、主要争点として初めて大統領選に持ち込んだのがトランプだった。
    それは、勝負師が持つ天性の「嗅覚」とでも言うべきものだったのかもしれない。

    p44
    話は米南西部が元々メキシコ領だった19世紀前半までさかのぼる。
    テキサスの帰属を巡って米国がメキシコに侵攻した1846〜48年の米墨戦争の結果、当時のメキシコ国土の半分にあたる広大な地域が米国に割譲された。それを境に、カリフォルニア州などに住んでいたメキシコ人は「メキシコ系米国人」になった。
    「自分たちが国境を越えたのではなく、『国境が自分たちを越えていった』わけです。動いたのは国境であって、メキシコ系米国人ではない。それが出発点です。米国による侵略と略奪の歴史と、メキシコ人に対する人種差別に対して、私たちは強い反米感情を抱いています。それと同時に、米国の文化や商品、政治制度を愛しています。米国とメキシコの関係を考える時、この愛憎感情を忘れないでください」

    p74
    米国の1人当たりの国内総生産(GDP)はメキシコの約6倍。賃金にはもっと差がある。

    p99
    米大統領選では毎回、共和、民主両党が激戦を演じる「スイングステート」以外の州の勝敗はほとんど変わらない。16年の大統領選で、オハイオ州やミシガン州、ペンシルベニア州など、「ラストベルト」(さびついた工業地帯)お呼ばれる北東部にあるスイングステートを手中にして勝利を収めたのがトランプだった。
    メキシコと国境を接する南部4州では、保守的なテキサス州は共和党が強い「レッドステート」で、リベラルなカリフォルニア州は民主党が優勢の「ブルーステート」。16年の大統領選でま、トランプがテキサス州と共和党候補が連勝してきたアリゾナ州を、対抗馬のヒラリー・クリントンがカリフォルニア州と民主党が獲得してきたニューメキシコ州を順当に押さえていた。

    p110
    国連麻薬犯罪事務所の統計を見ると、エルサルバドルの2017年の10万人当たりの殺人発生率は61.7人。15年の105.2人より下がったとはいえ、データのある国では3年連続で世界最悪だ。日本は世界最低レベルの0.2人。単純計算で、殺される率は日本の300倍ほどということになる。
    ホンジュラスが41.0人で世界4位、グアテマラは26.1人で11位と、いずれも世界で指折りの危険地帯になっていた。
    治安の悪化で、「来たの三角地帯」から米国に逃げる家族連れや子どもも急増していた。

    p142
    マラスに追われ、貧しさに絶望して国を逃れ、道中も犯罪組織に狙われる。「野獣」の背に必死にしがみついて向かう先の米国境には、命を奪う砂漠と川、そして壁が立ちふさがる。

    p189
    国づくりのあてが外れて経済は低迷し、親は仕事を求めて「野獣」で米国へ。柱を失った家族や地域社会の揺らぎにマラスが巣くい、命を狙われた子どもたちまで米国へー。

    p209
    メキシコの市民団体「治安と刑事犯罪のための市民評議会」が毎年発表する「世界で最も治安が悪い都市トップ50」で、サンペドロスーラは2011年から4年連続で世界ワースト1になった。マラスによる殺人が蔓延し、10万人当たりの殺人発生率が13年は187人、14年が171人に達し、いずれも2位だったベネズエラの首都カラカスの1.5倍に近い、断トツのワーストだった。この時期、殺人発生率が国全体として高かったのはエルサルバドルだったが、一都市として突出していたのがこの街だった。

    p235
    フエンテが添付した呼びかけ画像がソーシャルメディアを通じて拡散し、初めてキャラバンというものを知ったホンジュラスの人たちは、「米国行きのチャンス」と受け止めた。出発時に約1300人だった参加者は翌日に約2千人、グアテマラ入国時に3千人規模となり、メキシコ入国時には4千人と、雪だるま式に増えていった。

    参加者はメキシコを北上する間も増え続け、7千人規模にまで膨らんだ。

    これまでとは異質で規格外の新たな移民集団は、「約束の地」を求めて大量脱出した旧約聖書の出エジプト記になぞらえて、「エクソダス」と呼ばれるようになった。

    p258
    私の知っている限り、南米コロンビアと中米パナマを結ぶ国境地帯は、人が通ることはできなかったはずなのだ。
    「ダリエンギャップ」
    直線で100キロほど。北米アラスカから南米パタゴニアまで縦断する「パンアメリカンハイウェー」が唯一途切れる地図上の「空白地帯」は、そう呼ばれていた。
    密林と湿地帯。
    マラリアや毒蛇。
    麻薬密輸組織と左翼ゲリラ。
    いくつもの危険が人の往来を拒み、ダリエンギャップは貧しい南米から豊かな北米への道を閉ざす「壁」になってきた。

    p266
    ハイウェーが開通すれば、コロンビアのゲリラや武装集団が国境を越えて影響力を強めて治安が悪化したり、麻薬の密輸が一段と増えたりしかねない。口蹄疫などの疫病が持ち込まれたり、移民が急増したりする不安も根強い。人口約400万人のパナマが約5千万人の隣国コロンビアにのみ込まれ、ダリエンが「コロンビア化」しかねないと心配する声もあった。
    ともにユネスコの世界自然遺産に登録されているパナマ側のダリエン国立公園、コロンビア側のロスカティオス国立公園にある動植物の生態系や森林など、自然環境の破壊に拍車がかかることも懸念された。湿地と沼が多い熱帯雨林を切り開くのは工費や維持費用がかさむうえ、先住民の文化や暮らしへの悪影響も心配された。
    たかが100キロとはいえ、国際情勢から内政、経済、環境、麻薬、ゲリラ、移民、疫病、先住民保護といった、おおよそ考えうるあらゆる難問が集中する「されど100キロ」だった。

    p275
    世界中から南米大陸に入り、多くはエクアドルを経てコロンビア北部の港町トゥルボへ。ボートでカリブ海の国境の町カプルガナ、あるいはパナマ側の村プエルトオバルディアへ。数ヵ国、数十人の集団になって密林を数日がかりで踏破して、この最奥の村バホチキトへ。そしてさらに約6300キロ先の米国境を目指す-。

    p309
    ダリエン湾を渡るボートの出発地トゥルボから、米国境に面したメキシコ・ティフアナまで、飛行時間でわずか10時間。移民たちが命懸けでたどる約7千キロの道のりを、私は安全に、軽々と、飛び越えていくことができる。
    道中にあるコロンビアもパナマも、エルサルバドルもホンジュラスも、彼らが目指す米国へも、私は自由に入国できる。ビザを取る必要すらない。当たり前だと思っていたが、それは命をも左右する「特権」だったことに気づかされた。彼らと私の違いは、どの国のパスポートを持っているかに過ぎない。
    それは生まれた時点ですでに決まっていたことだ。
    それがダリエンギャップに身を投じる彼らと、機上の私という決定的な格差になっていることが、とてつもない不条理に思えた。

  • 米国とメキシコ国境を仕切る「壁」の建設は、ベルリンの壁崩壊直後から始まったという。移民(不法入国)とは、政情不安・治安の悪化・貧困と様々な事情を抱えた人々が母国で生きることに絶望し、残された唯一の選択肢が命を懸けて国境を超えることにある。密入国者を検挙する側の「壁」の論理と相容れない難民問題を、経済格差と犯罪発生率が著しく際立つ中南米諸国の現状を人道的な視点からルポしている。つくるべきは「壁」ではなく「国境を越えなくても生きていける世界」だと著者は言う。そのためには何をすべきなのか、道程は遠く険しい。

  • 多くの国や地域から、様々な方法でアメリカに入国しようとする人々。彼らを阻むために、メキシコとの国境に巨大な壁を建設すると公約し当選した大統領。だが、国境にはすでに壁が存在していた──。
    そんな基本的な事実も知らずに、なぜ中南米やアフリカ、はたまたアジアから大勢が国境を目指すのかを理解できるはずもない。本書はその“なぜ”に迫る骨太なノンフィクションだ。生ぬるい日本に暮らす我々には決して理解できない厳しい現実が描かれている。
    第43回講談社本田靖春ノンフィクション賞受賞作。

  • アメリカ前大統領のトランプは以前、メキシコとの国境に壁を作ると宣言した。国境の壁といえばベルリンの壁であり、もはや冷戦時代の遺物というイメージ。

    結局、様々な批判や問題があふれ、壁はできないまま、トランプは失職した。が、この壁発言によって、移民たちの侵入はアメリカ国内の大きな問題となっていることを世界中が知ることになる。それどころか、中南米諸国で暴力と貧困から逃れたい人々にとって、壁ができる前に行動を起こさなければと、アメリカへの移住を後押しする結果となった。なんとも皮肉だ。

    著者は何度も中南米を訪れ、徒歩やヒッチハイク、列車でアメリカを目指す移民たちの行動を取材。移民たちは入国審査がずさんな国に入り、そこから陸路でアメリカやメキシコなどの豊かで平和な国を目指していた。

    そして、2018年。これまで国境を越えようとする人々は少数でひっそりと移動することが当然だったのに、1000人を超える人数が集団で行進をはじめた。それは聖書に記されるエジプト脱出の民「エクソダス」に例えられる。

    今後、アメリカには、より多くの移民が堂々とやってくるのだろう。おそらく壁や軍隊などのリアルな力は役に立たない。「国境のない世界」を本気で考えるときなのかもしれない。

  • 読了しての感想は、ショッキングの一言に尽きる

    どの国に生まれるかでこんなにも違うのか、パスポートの違いで私は密林を歩かなくてもいい
    日本に生まれて良かったと改めて感じた。
    そしてこの本はもっと読まれて欲しい、米-中南米で何が起こっているのか、もっと日本人に知ってもらいたい。

    --
    以下メモ
    2016年大統領選挙を州別ではなく群別に見ると、国境地帯は民主党が勝っていた
    →よく実態を知らない人が壁建設支持。なんとも滑稽


    壁は越えれるので、壁建設はなんの解決にもならない
    根本的には①アメリカで麻薬を求めさせない、②メキシコ 国内で雇用問題を解決
    の2点が有効か。


    JICA ラセイバ村 生活を改善するサークル活動
    藤城一雄氏
    自立出来るような支援を

    SDGs「あらゆる場所のあらゆる形態の貧困を終わらせる」
    日本も国内でSDGs達成への取組に注力しているが、その前に海外にも目をやるべきなのではないかと個人としては感じる。生改さんのように、ソフト面で日本が与えれることがいっぱいあるのではないだろうか。ただ資本援助を行うだけでなく、国境を越えなくても生きていける国を作る手助けができるのではないだろうか。

    壁がしばしば問題になるが、国境を越えなくても生きていける世界を作りたい。このフレーズに強く心を打たれた。

  • 体当たりのレポというしかない。

    アメリカという巨大な経済に吸い込まれる移民たちの命がけの道のりを、著者も命がけで辿る。

    本書を読むと難民と移民の区別がむなしくなる。

  • 歯医者に行くために米国からメキシコへ国境を越えていく話や、米国内で生まれたので米国籍を有し毎日国境を越えて通学している子供たちの話など、興味深い。

  • メキシコのさらに南のホンジュラスなどから、移民の集団が米国へと向かったのは2018年のこと。シリア難民やトランプ大統領の壁騒動など、移民を巡る問題がメディアを賑わせたころだった。
    本書は米-メキシコ国境や中南米の対米移民を追ったルポ。
    きれいな取材では決してわからない生々しい現実。身体を張った突撃ルポのような取材でなければできなかったろう。
    米国のメディアの報道を追いかけるだけの日本の新聞では決してわからない現実がよく理解できる。
    日本のジャーナリストによる報道を読むことができてありがたく思う。

  • アメリカとの国境を越える、トランプ政権になり、大きな壁が立ちはだかる。野獣と呼ばれる列車に、飛び乗り、国境に向かう人々は、ホンジュラス、エルサルバドルのマラスという集団が国に影響を及ぼすところまで来ている。マラスに入らなければ殺すと脅され、一家を連れて逃げる。国境までの命懸けの逃避行。そこに同行した記者の目から見たレポートは、生々しい部分もある。色々、記者だからこそ言えないこともあるのかもしれないが、一日がどれだけスリリングなのか、そして、命を削る旅なのか、そのあたりももっともっと凄まじいものだったと想像する。深夜特急に感化された若かりし頃、思わずそのイメージで読んでしまったのが間違いだったかなとも反省。
    メキシコとの国境にいくにあたって、こういう事実を知っているかどうか、非常に勉強になった。自分の目でもちょっとでも確かめてきたい。日本から遠い、そして想像つかない現実を、伝える本として読まれていくといいなと思った。

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