- Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
- / ISBN・EAN: 9784103549512
作品紹介・あらすじ
「島崎、わたしはこの夏を西武に捧げようと思う」。各界から絶賛の声続々、いまだかつてない青春小説! 中2の夏休みの始まりに、幼馴染の成瀬がまた変なことを言い出した。コロナ禍、閉店を控える西武大津店に毎日通い、中継に映るというのだが……。さらにはM-1に挑み、実験のため坊主頭にし、二百歳まで生きると堂々宣言。今日も全力で我が道を突き進む成瀬から、誰もが目を離せない! 話題沸騰、圧巻のデビュー作。
感想・レビュー・書評
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『成瀬の一挙手一投足が尊い』
主人公・成瀬あかりの中2から高3までを描いた疾走感あふれる青春小説。子気味良いテンポで淡々と進んでいく。それでいてウケを狙っているわけではないのにクスッと笑える。このシュールさこそ本作の魅力。たまらない。
まず成瀬あかりという人物を紹介しておこう。滋賀県大津市出身の中学2年生(のちに高校3年生まで成長)。成績優秀。物怖じしない。マイペース。中学では陸上部、高校ではかるたに傾倒。200歳まで生きることが目標(?)。M-1グランプリを目指す(??)。急に坊主頭にする(???)。クラスではちょっと浮いた存在で、悪意を込めると変わった子。だが、言葉を文字通り受け取る素直な子でもある。この尖ったキャラクターが、なぜか愛おしくてたまらないのだ。
本作は6話で構成される。1~5話までは成瀬の幼馴染・島崎みゆきをはじめ、成瀬を取り巻くキャラクターの視点から描かれる。ここで読者は成瀬という突拍子もない人物を目の当たりにする。そして満を持して最終話で初めて成瀬視点の物語が綴られるのだが、最後の最後で成瀬の人間味が垣間見られてグッとくる。なんてハートフルな作品なんだ。
1話目の「ありがとう西部大津店」は新潮社の新人文学賞・女による女のためのR-18文学賞で史上初の三冠を達成。つまり本作は著者・宮島未奈さんのデビュー作である。宮島さんは大津市在住。なお西部大津店は2020年8月に本当に閉店しており、そこから着想を得たという。著者の思い出がたっぷり詰まった作品であり、行ったことのない大津市のことも好きになってしまう。
意味がないと思われる行動に意味を持った時、人は手のひらを180度返す。本作ではそんな感動を味わえる。バカらしいことを大真面目に全力で振り切っているから面白いのだ。琵琶湖のようにキラキラした、パワーたっぷりの青春応援ストーリー。成瀬はきっと200歳まで生きるので、この物語はまだ序章にすぎない。成瀬の一挙手一投足が尊い。たぶん明日も明後日も成瀬のことを考えてしまうだろう。 -
これは面白い!小説において「笑える」というポイントは怒りや悲しみ、楽しみに比べて感じ取ることが難しいと思うのだが、本作は笑える青春小説だった。出てくる単語がいちいちツボでユーモアのある作者だなあ、と感心してしまう。成瀬のキャラ造形の素晴らしさは当然として脇を固める人々の描写がいい。特に幼なじみで、物語の裏回し的存在でもある島崎が見事。最後まで読むと単なるキャラ小説で終わらず、友情小説に変わっていく過程が描かれて最高の気分になった。
蛇足だが帯の辻村深月さんの推薦コメントが秀逸。これだけでも見て欲しい -
滋賀滋賀してて、西武西武しててこんなん好きに決まってる!笑
池袋西武にわざわざ聖地巡礼するの好き -
購入きっかけは作者さんのアマチュア時代の作品を読んでいいなと思ったため。『宮島ムー』というペンネームで、集英社コバルト文庫の短編コンテストで受賞した作品を読んだ。
アマチュアにしてはものすごくこなれた文章を書くなあと感心していたら、『女による女のためのR-18文学賞』も受賞していた。Twitterに飛んで作者さんのことをいろいろ知って、もっと違う作品も読んでみたいなーと思っていたところで本作を知って速攻でポチった。
この作者さんの強みは『飄々とした文章』だと思う。平易な言葉で紡がれた文章はとても読みやすく、漫才のかけあいのような面白い表現があって思わずクスッと笑ってしまう。作者さんが楽しんで文章を書いているのがよく伝わってきた。
登場人物たちも嫌みがなくて爽やかなのも好印象だった。メインの登場人物である『成瀬』はめちゃくちゃハイスペックでなんでもできてしまう完璧超人だけど、ただ鈍感なだけで意外と繊細な一面がある、という設定も人間味があってすごくいい。
文句なしで☆5……といいたいところだけど、ストーリーに関しては『物語の大目標』がなくてすこし退屈だった。
本作は『サザエさん』よろしくのいわゆる日常ほのぼの系で、まったりした気持ちにはなれるけど何か大きなイベントが起こるわけではない。
『成瀬は天下を取りにいく』という壮大なタイトルを掲げているのだから、もっと主人公には『試練』を与えてほしかった。というわけで☆4つ。
あとこれはどうでもいいことだけど、デビュー作にも関わらず帯で有名作家さんたちの推薦文がずらりと並んでいて少し心配になった。出版社側の「推し」は悪いことではないとおもうけど、あんまりやられると少し引いてしまう。笑
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R-18文学賞受賞って物語のジャンルにとらわれず本当に面白かった作品に送られるんだなと改めて認識した。性にまつわる物語から、今作のような突き抜けた勢いのある青春小説までもが目にとまるなんて、素敵な賞だ。
成績は抜群で何でもできてしまうが人として変わっている成瀬を主役に、全力で取り組む彼女とまわりの人々が織りなすそこまで大きくない日々がとても愛おしい。単に突っ走るだけでなく、成瀬も成長する。恋、友情、そして地域によって成瀬自身が深まっていく様に読む手が止められなかった。
成瀬をもっと見ていたいと思う読者はきっとかなりいる。 -
成瀬がカッコ良すぎる。最高の青春小説。
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あー、西武大津店のもとで育って成瀬と滋賀への思いを共有したかった…と、ちょっとだけ思ってしまった。
でも、何を隠そう、私も中学の文化祭で漫才を披露した黒歴史がある!
突然そんなことをしちゃうのが青春、
しょーもないことを試したくなっちゃうのが青春!
なににもつながらなくても、チャレンジすることが楽しいのだ!
成瀬が公言通り200歳まで生きるとしたら、青春時代って多分50歳くらいまで。(五行思想によると)
100歳でもまだ朱夏、人生真っ盛り。
そう思ったら元気が出てくる! -
主人公の成瀬あかりが変人で、突拍子もないこと考えて、でも大真面目だし、天然で、悩みはするが、常に冷静。しかし胸に秘める熱量はすごい。とにかく応援したくなるキャラクター。笑って読んでいたんだけど、最後のほう、なんか泣けてきてしまった。お前、一生懸命生きてんだな。話は中学生から高校生までの話で終わってるけど、成瀬は200歳まで生きるつもりらしいから、これはまだ序章に過ぎない。俺は成瀬を応援する。激推しだ。成瀬!天下を取れ!