万両役者の扇

  • 新潮社 (2024年5月16日発売)
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  • 本 ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103556510

作品紹介・あらすじ

すべては奴の筋書きどおりなのか――狂気と喝采に満ちた舞台の幕が今上がる。江戸森田座気鋭の役者・今村扇五郎にお熱のお春が、女房の座を狙って近づいたのは……。芸を追求してやまない扇五郎に魅せられた面々の、狂ってゆく人生の歯車。ある日、若手役者の他殺体があがり、ついには扇五郎本人も――「芸のため」ならどこまでの所業が許されるのか。芝居の虚実を濃密に描き切ったエンタメ時代小説。

感想・レビュー・書評

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  • 江戸の芝居小屋、人気役者に狂わされた人々… 天才と狂人の狭間に映し出されたものとは #万両役者の扇

    ■あらすじ
    江戸の森田座、今村扇五郎は街中で大人気の役者であった。彼は芸のためなら人の道を外れても追求をやまない。そんな彼に魅了されてしまった人々は、次第に人生を狂わされてゆく。さらに人が亡くなってしまうような事件が発生してしまい…

    ■きっと読みたくなるレビュー
    江戸時代、歌舞伎の芝居小屋。当時は街中を賑わせたエンタメの世界を背景に、人気役者である扇五郎を中心に関係する人々を描いたもの時代小説。中盤以降に思いもよらない事件に発展し、ミステリー要素もある作品となっています。

    まずは臨場感ですよね、まるで江戸時代の芝居小屋にタイムスリップしてしまったようです。まるで映画やTVの時代劇と同じ、いやもっと綿密に感じられる。街の賑わいや活気、人間が生活している様子が伝わってくるんですよね。筆力がエグイっす。

    本作は連作短編集になっています。扇五郎が中心となりながらも、各話ごとにメインとなる登場人物が変わりながらストーリーが綴られていきます。読めば読むほど扇五郎の天才ぶり、いや役者馬鹿っぷりが赤裸々になってくる。

    扇五郎の妻、入れ込んでしまうファン、芝居小屋で売り子をしている饅頭屋、木戸芸者、衣装屋、鬘職人、ライバルの役者。そして芝居のためだったら命を懸けられる役者扇五郎と関わるがゆえ、人生が少しずつ狂わされてゆく…

    どんなに華やかな世界でも、自身の活力につながる程度の関わり合いであればいいのですが、ここまで入れ込んでしまうと怖い。現代の推し活、推し狂いにも通じるものがあって、震えが止まらなくなります。ただ、ひとりひとりの扇五郎に対する気持ちだけは、静かに心に刺さってくるんですよね…

    たしかに彼の行動は「粋」であるかもしれない。しかし同じ人間として、男として、社会に貢献する職人として、彼から学びたいとは思わない。たしかにモテる男で惚れる対象ではあるかもしれない、でも目指す対象ではないんですよね。

    しかし終盤、役者としての壮絶な生き様を見せつけられるのですが… これは確かに惚れる。結局、すっかりと世界観と扇五郎に引き込まれてしまったのでした。

    ■ぜっさん推しポイント
    本書とは全く関係ないですが、芝居の世界に足を踏み入れた知り合いを思い出しました。華やかな世界ながらも、辛く厳しいこともいっぱいあるだろうと想像できる。

    きっと彼女ならどんな困難でも立ち向かっていくと思うし、きっと幸せな人生を送っているに違いない。思い切り芸を突き詰めて、好きなことを思う存分やって、めいっぱい自分を楽しんで欲しい。

  • すべては推しのため――底なしの役者沼に沈んでいく崇拝者と役者本人の狂気を描ききる、蝉谷めぐ実の最新刊『万両役者の扇』、5月16日発売! | 株式会社新潮社のプレスリリース
    https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001481.000047877.html

    時代小説作家・蝉谷めぐ実、遠かったデビュー引き寄せた歌舞伎愛 : 読売新聞(2023/09/05)
    https://www.yomiuri.co.jp/otekomachi/20230829-OYT8T50025/

    作家の読書道 第250回: 蝉谷めぐ実さん - 作家の読書道(2023年2月24日)
    https://www.webdoku.jp/rensai/sakka/michi250_semitani/

    岸あずみ(@kishiazumi) • Instagram写真と動画
    https://www.instagram.com/kishiazumi/

    蝉谷めぐ実 『万両役者の扇』 | 新潮社
    https://www.shinchosha.co.jp/book/355651/

  • お初の蝉谷めぐ美。江戸の芝居小屋を舞台にした、何とミステリーだ。ひねりの効いた展開に惹きつけられること間違いなし。
    ある登場人物がしゃべったり動いたりするというのが小説の普通の順序だが、この作中ではいきなりしゃべったり動いたりする。誰がしたのかはその後に明かされる。
    読者はその「誰」を気にかけながら読む。ハラハラ感に繰り返しおそわれるという技巧だ。初めての表現法である。
    賢い人だ。

  • 江戸時代の役者と女房、芝居関係者のお話。芝居の魔力に取りつかれた人々の行く末。

  • 『おんなの女房』の蝉谷さんの最新作。
    『おんなの女房』の読了後の感想と重ねてみると・・・
    >結構読み辛い文体で、最初は物語になかなか入り込めませんでした。
    そのままですね。しばしば話がぱ~っと飛ぶ。段落さえ変えずにそれまでの主要人物が死んだことになっている。キーワードを隠すように書く。気付かず通り過ぎて後もどり、を繰り返す。
    >私が苦手とする情念の世界が非常にテンポよく描かれている
    これもそのままです。さ~っと通り抜けるものがだから、後から「アレッ」ってなることも多い。
    >「情」が走り過ぎて「理」に無理が生じたようなストーリーもありますが
    ストーリーに無理があるのもそのまま。但し「情」や「理」という感覚ではなく、辻褄が合わなくてもオドロオドロしく描くことを重視した結果という気がします。

    次作に手を出すかと問われれば、しばらく様子見カナ。
    今までの三作はいずれも「芝居」を舞台にしたもの。他の世界を描いた時どうなるのかな?

  • 【収録作品】
    一春 役者女房の紅
    一茂 犬饅頭
    一辰 凡凡衣裳
    一狛 狛犬芸者
    一柳 鬘比べ
    一栄 女房役者の板

    演じることに取り憑かれた役者の狂気が周囲の人々の視点で描かれる。彼の妻の執着、彼の贔屓たちの狂気と移り気も気持ちが悪い。
    我に返って距離を取った人たちの真っ当さにほっとする。ただ、扇五郎にそこまでの魅力を感じなかったので、周囲の熱狂ぶりに今ひとつついていけなかった。

  • 扇五郎は歌舞伎役者で当代1の人気を誇っている。しかし、その妻を初め周囲が彼の役者魂に引き込まれて人生の危うい方向に流れていく。途中グロテスクな描写もあり、最初は役者への興味から読み進めたが、後半は狂気の部分についていけなくて離脱しそうになりながら結末まで読んだ。

  • 江戸三座 中村座の次は森田座が舞台。
    千両役者の上をいく万両役者、森田座気鋭の役者今村扇五郎に魅せられた者たちの狂いゆく歯車。
    芝居のためなら犬を殺しその血を搾り取る、扇五郎、そして扇五郎の芸を支えるため己の「女」を捨てて尽くす妻のお栄。
    火に惹かれる虫のように集まりくる人々。日常から外れて踏み込む甘美で辛酸な罠。
    扇五郎に惚れぬき、惹かれゆく心の危うさを蝉谷めぐ実の筆が艶やかに妖しく描いていく。

  • 歌舞伎の世界を描き続ける時代小説の新星の、第4作。

    デビュー作『化け物心中』とその続編『化け物手本』は時代ミステリ×ホラーだったが、本作にホラー色はなく、ミステリ色も薄めだ。

    それでも、相変わらずゴージャスなエンタメである。

    連作短編形式で、全体としては長編。
    演ずることに憑かれた役者・今村扇五郎が主人公で、彼の演技に魅せられて狂っていく人たちが、各編の語り部となる。彼の女房・お栄、“扇五郎推し”の町娘、歌舞伎の裏方、仕出し屋など……。

    江戸言葉を自在に操り、歌うような文体。その躍動するリズムが心地よい。
    「乙粋(おついき)」「極上上吉(ごくじょうじょうきち)」などという言葉を、日常会話の中で使ってみたくなる(笑)。

  • まるで歌うような文章力には驚く!舞台役者の舞台に対する執念には感心する。主人公の死に直面した時も舞台役者としてカッコよく取り繕うとはビックリ!

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著者プロフィール

1992年、大阪府生まれ。早稲田大学文学部で演劇映像コースを専攻、化政期の歌舞伎をテーマに卒論を書く。広告代理店勤務を経て、現在は大学職員。2020年、『化け者心中』で第11回小説 野性時代 新人賞を受賞し、デビュー。21年に同作で第10回日本歴史時代作家協会賞新人賞、第27回中山義秀文学賞を受賞。22年、『おんなの女房』で第10回野村胡堂文学賞を受賞。

「2023年 『化け者心中』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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