軍艦島: 雜賀雄二写真集 棄てられた島の風景

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (131ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103632016

感想・レビュー・書評

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  • 今や長崎の人気観光地となっている元炭鉱の島、軍艦島(端島)の閉山に立会い、当時の写真を撮り歩いた写真家雜賀雄二の写真集だ。
    閉山前後の日記風の記録と、閉山10年後に廃墟となった島を訪ねた記録がかなりの読み応えで収録されている。
    それ以外にも雜賀に導かれて廃墟と化した軍艦島を訪れて魅せられた作家の洲之内徹のエッセイも収録されていて、「観光地になる前の軍艦島」の姿を「島の外の人間の目」を通して丁寧に描かれていて非常に興味深い。
    軍艦島という固有の土地だけれではなく、日本の高度成長期と呼ばれる時代について語り、写し取っているように感じた。

  • 雑賀雄二は兵庫県出身で愛知県立美術大学在学中の1974年、島に渡り、無人になるまで撮影を続けた。

    「雑賀雄二写真集軍艦島棄てられた島の風景」は、雑賀さんが作家、洲之内徹さんと渡った際に撮影したもの。巻末には1974年に無人化される滞在した時のレポートがある。

    作家、洲之内徹は「廃墟は人間の営みにのみ起こる現象である」と書く。自然界は一度は失っても再生するからだ。

    また、廃墟が怖いとみるのは、人間そのものの怖さではないか、とも指摘する。

    「人間のいる恐ろしさではなく、いるはずの人間がいない恐ろしさだが、それはそれで、人間の恐ろしさといえないだろうか」(洲之内徹)

    建物は人間が消えた瞬間から、人間の支配から離れ、廃墟という「死という時間」を己のエネルギーを振り絞って生き始める。だから、廃墟は最後の最期まで朽ちるまで、死の時間を「生きている」とも言えるかもしれない。

    廃墟は「独特のオーラを持つ」といった形容をされるが、廃墟のエネルギーのメカニズムはこういったことじゃないか。

    だから、人々は廃墟を忌み嫌い、恐れ、一方、それに魅力も感じる人もいる。廃墟は常に崩壊(死)に向かって進行している。そういう風に見えていくと、廃墟と人間は非常に似ているんじゃないか、と思えてくる。

  • ずいぶん前に知ったオープロジェクトの「軍艦島オデッセイ」というサイトはお気に入りのひとつでして、そこが去年写真集を出していることを知り、検索をかけたら何冊か軍艦島の写真集を見つけまして借りてみたその中の1冊。
    この写真集はモノクロですけど、カラーではわからない陰影がいいです。
    写真はオープロジェクトの方が私は好きですけど、この雑賀氏、この軍艦島が閉山になる直前に行って閉山式を挟んで数ヶ月に渡って滞在して撮影をされてたみたいです。
    そのときの写真は文章に添えるように小さくしか使われてないけど、そのときの様子がわかる文章が興味深かったです。写真集の写真じたいは、閉山後10年経って改めて撮りに行ったときの写真のようです。さらに時間が進んでから撮られたオープロジェクトの写真と比べると、さらに朽ちている様子がわかります。それにしても、大正から昭和前半にかけての建造物(当時としては超ハイテク駆使よね?)なのに、この自分が住んでる今の公団住宅を見るようでねぇ。
    なのにとんでもなく廃墟な、そのタイムラグの不思議感にヤラれちゃうんだろうなぁ~。
    (周りが海だし、塩害と台風で普通の数倍のスピードで朽ちるせいでもあるみたいけど。)

  • 高校時代、この写真集で端島(軍艦島)と出会った。当時たしか1000円くらいで古本屋にて購入。今は絶版となって希少価値が出てきている(らしい)一冊。

著者プロフィール

洲之内 徹(すのうち・とおる):1913 - 1987年。愛媛県出身。美術エッセイスト、小説家、画商。1930年東京美術学校建築科在学中、マルクス主義に共感し左翼運動に参加する。大学3年時に特高に検挙され美術学校を退学。20歳で再検挙にあい、獄中転向して釈放。1938年、北支方面軍宣撫班要員として中国に渡り、特務機関を経て、中国共産党軍の情報収集に携わった。1946年、33歳で帰国してからの約20年間、小説を執筆。3度芥川賞候補となるが、いずれも受賞はかなわず。1960年より、田村泰次郎の現代画廊を引き継ぎ画廊主となった。1974年から連載を開始した美術エッセイ「気まぐれ美術館」は人気を博し、小林秀雄に「いま一番の批評家」と評された。

「2024年 『洲之内徹ベスト・エッセイ1』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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