天平の女帝 孝謙称徳

著者 :
  • 新潮社
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感想 : 25
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  • Amazon.co.jp ・本 (399ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103737155

作品紹介・あらすじ

奈良時代、二度も皇位についた偉大な女帝がいた。著者渾身の本格歴史小説。「女に天皇は務まらない」と言われながら、民のため、国のため、平和の世のために生きた孝謙称徳帝。遣唐使を派遣し、仲麻呂ら逆臣の内乱を鎮め、道鏡を引き立て、隼人を傍に置いた。一人の人間として、女性としての人生も求めた女帝の真の姿とは。突然の死と秘められた愛の謎を和気広虫ら女官たちが解き明かす、感動の歴史大作。

感想・レビュー・書評

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  • 古代小説が面白いという日経の文化系記事がキッカケで読んだ本、2冊目。

     今度は、女性の労働環境を考えさせる一冊だ。女帝孝謙・称徳(重祚)天皇は、一般には「僧の道鏡に傾倒したため、男によろめいた女帝」という醜聞が思い出されるが、著者は「それを覆したかった」と筆を執る。
     女帝に仕える高級女官和気広虫の目線で物語は綴られ、朝廷内で様々な役割を担う女性官僚の活躍が描かれる。著者は古代史を学ぶ上で「能力があれば女性も評価されるシステムだった。男社会で奮闘する女官の姿は、現代に重なる。女性の読者に共感して読んでもらえたらうれしい」と語る。

     つまり、道鏡事件スキャンダル、その後の女帝の死の真相を暴くことと、古代を舞台に女性労働力のあり方を考えさせる二軸を描いている。そこが、ちょっと中途半端で冗長になっていて残念。
     ミステリー的に“道鏡事件”の真相に迫る迫力にも乏しく、一方、女性にとっての働きやすい職場環境を実現させたいという女帝の遺詔を成文化する作業も最後はどうなったのか?というところで終わってしまってスカっとしない。
     そもそも作者も、広虫と共同戦線を張る女官由利(吉備真備の娘)を評して、「しょせんは由利も女。もろいばかりに情と熱とに流されてしまう、女なのだ」と、そこで“しょせん”を使っちゃいけないんじゃないと思うほど、根柢のところでは女性登用に対しての諦念が見て取れる気がして凄味に欠けるところが、ちょっと惜しい。

     とはいえ、確かに古代史は資料も少なく、歴史考証も諸説紛々、自由に現代の意図や解釈を、皇統の歴史においてでさえも投入できる面白さは大いに感じることができた。もっともっと自由にダイナミックに描けると思ったけど、天皇家のスキャンダルや、女帝の政治思想なんだもんなぁ、けっこう頑張って創り上げてるのかもしれない。邪推だが、本書が書き下ろしなのは、どのメディアも連載として取り上げるにはタッチ―だと感じたからか、あるいは著者が掲載媒体サイドの圧力を回避し自由に筆を振るいたかったがためか、と。
     古代史を描いた水木しげるの著書も、そういえば書き下ろしだった(大和朝廷から皇族に繋がる歴史の正当性の担保のために神話は利用されているという主張が入っているからね)。

     閑話休題。
     日本にはかつて男女の差のない律令が定めた官人制度があり、それは当時手本とした中国にもなかったこと(中国は宦官制度という世にも恐ろしい、人を人とも思わない制度があった)。男性と女性が協働する仕組みが大和朝廷の中にあったということを自覚するのは、現代の労働環境を考える上で大いなるヒントになる。

     また、女性の天皇という可能性も。

     本書は、最後に
    「この後、この国において、数百年間にわたって女帝の即位はない」
     と語り、
    「男たちの政権はその後、久しく続いて行くが、人々が求める平和で安らかなる日本に落ち着くには、歴史はまだまだ、時間を必要とするようである」
     と締めくくる。

     女性の活躍と、女帝もありじゃなかろうか?という問いかけが、他の作品でも女性の活躍を描く著者の思いではあるのだろうが、孝謙・称徳時代の混乱を克明に描いた本書を読むと、やはり女性天皇の存在は多くの問題を孕むと思わざるも得ないところ。

     著者はいう(誰もが言うことだが)
    「歴史は繰り返す。それは人が歴史から学ばないからだ」

     はてさて、学んだが故の現在もあると思う。遠い記憶の彼方に霞む古代史に、現代の思考、主義主張を自由に羽ばたかせることが可能なように、歴史も現代の“都合”でどうにでも解釈できるだろうし、利用もできるもの。学ばないのではなく、学んではいるが、それでも繰り返す、繰り返せざるを得ないところがあるのが人の世なんじゃないかな、と思いながら読む歴史。 やはり面白いな、歴史は。

  • 切ないです。
    女帝は現代では、評価されてないですよね。
    唯一の女性の皇太子。
    昔は人権なんてなかったから仕方ないのかもしれないけど。
    この国で一番上の地位にはついたのに。
    切なかったです。

  • 天平期の女帝 孝謙•称徳天皇について、主に側近の和気広虫の視点から書かれた作品。
    孝謙称徳女帝に関して、著作によっては我儘娘や悪帝と記すものがある中、平等に書かれる姿勢が印象的であった。玉岡さんは特定の人物を悪く書くことがなく、変に悪印象を受けずに読めた。

  • この時代のお話はあまり読んだことがなかったので新鮮だった。中継ぎとしての女帝でなく皇太子として立てられ、即位して孝謙天皇、重祚して称徳天皇。そのそば近く仕えた女官の目を通して描かれる女帝の物語。
    頼りになる年上の男性に恋する乙女であった彼女は、大きな挫折も味わいながら、やがて男だけに政治をまかせるのでなく、女性も共に手を携えてやっていこうという理想を持つに至る。僧である道鏡を重用した女帝だが、その真の思いとは。

  • 自分の勝手なイメージで聖武天皇は素晴らしい!なんてね
    正倉院展観に行くと文化の素晴らしさにやられちゃう
    それで続く孝謙天皇もいいかもーって

    この辺りの時代は身内の争いがすごいって
    分かってたんだけど
    その背景で生き抜く女帝像に期待し過ぎたかな

    この物語はヒロインである女帝を回想する形で
    中心人物はお付きの女官たち
    女性を語らせるのはお得意の玉岡節で
    主題がきっちりして小気味いい
    問題ありありの歴史人物を悪く描かずに
    謎を解くようにしていくのはよかった
    フィクションはこの辺?と考えながら
    史実と比べながら興味深く読みました

  • H31/3/6

  • 天平の女帝、孝謙・称徳。重祚した2回の治世とも、廷臣の専横を招いた女帝。
    恋に盲目だった乙女の孝謙期と、全てを慈しむ母性へと変わった称徳期。

    彼女の死後の宮廷で、過去を思い出し現在を俯瞰する女官の目線で物語は進みます。
    良くも悪くも、一人の愛の行く末に左右された時代だったのだな、と。

    彼女の愛の生涯をたどるように進む物語の裏で、暗躍する藤原氏の権力への執着に恐れ戦く。

  • なかなか読み進まなかったが、中盤からは毒殺の犯人捜しが気になってなんとか読了。

  • 登場人物の名前がややこしくて苦労した。特にカタカナの名前の彼ら。

  • 孝謙、称徳天皇や道鏡など、歴史の授業などで聞いたことあるなー、というくらいの知識だったけど、楽しめた。
    ただ登場人物の名前が難読で覚えにくく、人物相関がわかりにくかった…。

    歴史物、ではあるけれど、女性が働くには、など現代とも共通する点もあり、はるか昔のお話が身近に感じられた。

    フィクションを交えたあくまでも「物語」なのでこれが真実とは思わないものの、歴史上の人物や事件には色々な解釈の仕方があり、それが古い時代であればあるほど100%の真相がわからないだけに「もしかしたら…」と思わせてくれる、楽しいお話だった。

    ただ、後の男性たちが女性天皇を貶めることは大いにありえそう。

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著者プロフィール

◎玉岡 かおる(たまおか・かおる)作家、大阪芸術大学教授。兵庫県三木市生まれ、神戸女学院大学卒業。15万部のベストセラーとなった『夢食い魚のブルー・グッドバイ』(新潮社)で‘89年、文壇デビュー。著書には『銀のみち一条』、『負けんとき ヴォーリズ満喜子の種蒔く日々』(以上新潮社)、『虹うどうべし 別所一族ご無念御留』(幻冬舎)などの歴史大河小説をはじめ、現代小説、紀行など。舞台化、ドラマ化された『お家さん』(新潮社)で第25回織田作之助賞受賞。『姫君の賦 千姫流流』(PHP研究所)は、2021年、兵庫県姫路市文化コンベンションセンター記念オペラ「千姫」として上演。2022年5月『帆神』で新田次郎文学賞受賞。

「2022年 『春いちばん』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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