さきちゃんたちの夜

  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (227ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103834106

作品紹介・あらすじ

その夜〈さきちゃん〉は、小さな奇跡に守られていた――。失踪した友人を捜す早紀(さき)。祖父母秘伝の豆スープを配る咲(さき)。双子の兄を事故で亡くした崎(さき)の部屋に転がり込んだ、10歳の姪さき……。いま〈さきちゃん〉たちに訪れた小さな奇跡が、かけがえのないきらめきを放つ。きつい世の中を、前を向いて生きる女性たちに贈る、よしもとばななの5つの物語。

感想・レビュー・書評

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  • 「さき」と読む名前を持つ、5人の女性のちいさな物語。

    情熱を傾けた仕事の相棒や、風変りな叔母、慈しんでくれた祖父母。
    赤ちゃんを宿して育てる夢や、双子の兄。
    大切な人やものをなくしたさきちゃんたちが、さみしさを受けいれ
    やわらかく明日に向かって顔を上げるような、そんなお話が丁寧に綴られます。

    ことに胸打たれたのが、『癒しの豆スープ』と『さきちゃんたちの夜』の2作。

    『癒しの豆スープ』は、離婚した息子の元妻と孫のさきちゃんを自然に家に迎え入れ
    道行く人たちに無料で温かい豆スープを振る舞い続けた祖父母が、とにかく素敵で。
    豆スープがあまりに好評で、祖母は洗い物に追われ、手をあかぎれで腫らしている。
    それでも、善きことをしているという自負や陶酔とは一切無縁で
    くれるものはもらっておこうとする人のせちがらさや
    ありがとう、おいしいと言いながら、作ってくれる人の手のあかぎれを目にしていても
    特になんの感慨も抱かない身勝手さ、卑小さも、「そういうもの」と受け入れる。
    人として、その場でどう感じ、どう行動することを美しいと感じ、選ぶのか。
    言葉ではなく、その佇まいで教えてくれる人がいてくれたことの幸せが
    さきちゃんのそれからの日々を、明るく照らすのです。

    表題作『さきちゃんたちの夜』は双子の兄を喪ったさきちゃんと
    その姪っ子で、つまりは父を喪ったもう一人のさきちゃんが
    いつもの自分のテリトリーでは外に出せなかったエネルギーで
    お互いに明るく照らし合い、あたため合う物語。
    ふたりのさきちゃんが、喪失感に押しつぶされそうになりながらも
    芯にはどこかとても健康的な感覚を持っているのが素敵です。

    私にとってどうでもいい人たちにも、
    それぞれにその人をどうでもいいと思わない人がいる。
    そして私にとってどうでもいい人の中に、
    やがてどうでもよくなくなる人が出てくるかもしれない。
    増えたり減ったり、満ちたり引いたりしている。

    飾らない素直な言葉で、大切だけど忘れがちなことを
    思い出させてくれる短編集です。

  • 本の余白に大切な余白を感じた物語でした。

    いろんなさきちゃんの短編が5つ。

    中でも「癒しの豆スープ」が良かった。
    華やかな世界から、狭く不便で地味な家で生活することになった母娘。
    母と娘の関係、元父と娘の関係、元父と母の関係が癒されていく。
    時が、人が、まじわり過ぎて行くうちに。

    よしもとばななさんの小説はひさびさ。
    なにか余白を感じる。
    時であったり、心であったり、人との距離感であったり。

    人は出会うべき人と出会い、出会った結果は幸せじゃない時もあるかもしれないけど無駄じゃない。
    人と出会い、時間をともにし大切にしてきたことが最後に通じていく。
    だから面倒だなーと思っても人と触れ合うことはステキだよって残してくれる物語でした。

  • 早紀、紗季、咲、沙季、崎とさき、
    それぞれの「さきちゃん」の5つの物語。

    何か特別大きなことが起きる訳ではないけれど、
    そのゆっくりと丁寧に描かれる日常の中で、家族や友人との関わりや、
    普段見落としがちな綺麗なものを思い起こさせてくれる。

    人間ってそうだよなぁ。
    ちょっと難しくて、時には傷つけて傷ついたり、でも優しくて温かい。

    「癒しの豆スープ」「さきちゃんたちの夜」が特に良かった。
    安心して優しい気持ちで読了。

  • この本を読まなくちゃと思って、この時期に読んだのは
    なかなか言葉にできず、自分の気持ちも整理できないことが
    さらっと語られ、すっきりすることがわたしに必要だったのだと思う
    短い小説のなかの、それぞれのさきちゃんが語る言葉が
    すとんと、心のなかに落ちてきて心地よい感じ
    あまりにも、そうそう、そうだったと思うことが多くて
    なんだか涙がでそうになった
    俯瞰から見ているような、ちょっと達観したような
    そんな気もするので、現実はもっともっともがいていいんだと思う
    それでも、ほっとあたたかい気持ちの読後感
    ばななさんの
    「すごくおいしい三時のおやつのような、
     夜中のコーヒーとチョコレートみたいな、
     そういう本にしたかったです。」の言葉がうれしい

  • 久しぶりのよしもとばななさん2冊連続読了。
    読後が重苦しくならない。なってもおかしくない内容だったりするのに、じんわりと、ほんわかした気分になれる短編集。
    頑張らずに頑張ろうと思えるような。

  • 優しい気持ちになれる一冊。
    人の死がキーワードなのかな。
    わたしも早くに親を亡くしているので共感できる部分がたくさんあった。
    とくに「癒しの豆スープ」と「さきちゃんたちの夜」がよくて、ちょっと泣いた。
    こういう本を読んでも苦しくなくなったのは、自分の中でも整理ができてきたってことなのかな~。

  • 初吉本ばなな。
    優しい短編集だった。
    優しいって言っても、それぞれのさきちゃん達は過酷だったり、寄るべない立場だったりするが、そこを自覚しつつ、しっかりと自立している感じ。
    他人のアラを見ても(家族だったりもする)諦観しつつも認めてる。
    どの話も面白かった。
    表題作の「さきちゃんたちの夜」、さきちゃんのお母さんが村田くんと再婚しても、崎ちゃんとバーバが一緒にいたらいいなって思う。

  • よしもとさんの文章はなんでこんなにも当たり前のことを輝いて見せてくれるのだろう。

    七人の『さきちゃん』の夜の物語。

    『スポンジ』
    妊婦のさきちゃんは担当だった作家の恋人から、彼と連絡がとれない、家の合鍵も持っていないから鍵を貸して欲しいと頼まれる。あまりに濃い時間を過ごした人たちだからこそ見えた彼の部屋の浴室に置いてあったギリシャの海綿スポンジの開いた彼への視界。
    この話の作家が私にはたまらなく好きな人物だったけれど、よしもとさんがこういう人物を主要において物語を書いたりはしないだろうなぁ。

    『鬼っ子』
    変わり者で芸術家肌だった叔母さんが亡くなっていた。すでに骨になってやってきた彼女の晩年を費やした鬼の人形造り、そして愛した青島の風景、それらを確かめに、彼女の遺品の整理にやってきたさきちゃんを迎えたのはおばさんの作品のような小鬼に似た黒川さんだった。

    『癒しの豆スープ』
    さきちゃんとお母さんは離婚したお父さんの実家のちいさなお家に一緒に住んでいた。祖父と祖母は毎週日曜日に豆のスープを散歩や通りがかりの人たちに無料で振舞っていた。そのには無償のものを貪る人たちの顔と、それを受け取った時の幸福そのものの笑顔を見てきたさきちゃんとお母さんは、二人が亡くなった後、この豆のスープを復活させようとイタリアンシェフのお父さんに相談する。

    『天使』
    子宮癌で子宮を除去したさきちゃんは何より子供が好きだ。子供が産めないなら男なんて意味がないと思うくらいに。そんな彼女を『天使』と呼ぶ男性と知り合う。彼の誠実さからくるマメなところが少しずつさきちゃんの心から子宮と過去の流産の後悔を少しだけ許す気持ちを持ち始めるが…。

    『さきちゃんたちの夜』
    高齢の絵本作家の秘書という仕事に閉鎖間を感じているさきちゃんには、ベトナムで輸入品の会社を起こした兄が飛行機事故で亡くなったことが一年たったこの頃でもどこか嘘のような気持ちが拭えない。双子の兄の、一人娘の名前もさきで、それはさきちゃんのように健康的な考えをできる子になるようにお兄さんがつけた名前だった。そんな姪のさきちゃんから突然のSOSの電話がかかってくる。
    人と触れ合うことの生臭い、生温かい気持ち悪さは、けれど大切で必要なものだった。一人の時間と同じくらいに。そんなさきちゃんたちの夜。おばあちゃんのエビピラフが美味しそう。エビ食べられないけれど。

    あとがきも含めて好きな本だった。

  • いろんな『さきちゃん』で繋がる連作短篇。
    舞台がどこでもいつも異国のにおいが混じってる。繊細に上澄みをすくうところと、深部へ向け、ダイナミックに踏み込んでゆくところと。纏う空気に停滞の気配は無く、ひとつ違えばべつの未来になるけれど、それでも今の自分にとっては大差ない展開だっただろうと、言えてしまう受け皿の大きさ視界の広さが読んでいて心地よかった。一部二度読みではあったが、タイミングによって気になる部分は変わりそう。

    むかしむかし、よしもとばななを読みふけっていた頃の記憶も雲づる式に呼び起こされるオマケ付。

  • さきちゃん「たち」の様々な人生模様。
    「癒しの豆スープ」が特に心ひかれました。

    「店っていいもんだろう」
    誰かの笑顔を見られるって、本当に素晴らしいことだと思います。
    作品のさきちゃんたちはみんな現実に立ち止まりそうになりながらも、誰かしらに支えられ、力をもらって前に進もうとしています。笑顔はもっとも大きな力になるもの。

    決して一人ではない。誰かのおかげで生きていられる、進んでいける。
    それぞれに光を見つけられたさきちゃんたちのように、自分にも光があるのだと明るくなれると思います。

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著者プロフィール

1964年07月24日東京都生まれ。A型。日本大学芸術学部文藝学科卒業。1987年11月小説「キッチン」で第6回海燕新人文学賞受賞。1988年01月『キッチン』で第16回泉鏡花文学賞受賞。1988年08月『キッチン』『うたかた/サンクチュアリ』で第39回芸術選奨文部大臣新人賞受賞。1989年03月『TUGUMI』で第2回山本周五郎賞受賞。1993年06月イタリアのスカンノ賞受賞。1995年11月『アムリタ』で第5回紫式部賞受賞。1996年03月イタリアのフェンディッシメ文学賞「Under 35」受賞。1999年11月イタリアのマスケラダルジェント賞文学部門受賞。2000年09月『不倫と南米』で第10回ドゥマゴ文学賞受賞。『キッチン』をはじめ、諸作品は海外30数カ国で翻訳、出版されている。

「2013年 『女子の遺伝子』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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