- Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
- / ISBN・EAN: 9784103834120
作品紹介・あらすじ
愛は戦いじゃないよ。愛は奪うものでもない。そこにあるものだよ。たいせつなひとの死、癒えることのない喪失を抱えて、生きていく――。凍てつくヘルシンキの街で、歴史の重みをたたえた石畳のローマで、南国の緑濃く甘い風吹く台北で。今日もこうしてまわりつづける地球の上でめぐりゆく出会いと、ちいさな光に照らされた人生のよろこびにあたたかく包まれる全6編からなる短篇集。
感想・レビュー・書評
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短編集。大切な人の死。喪失感を抱えながら旅し、日常とかけ離れた時を過ごしながら少しずつ傷を癒していく。軽やかだが深みもあり、読むと自然と心が軽く穏やかになる。悲観でも楽観でもない。なんだろ、白黒はっきりさせなくてもいいかなって感じ。淡々と過ごす日々の中に、ささやかな幸せがあるんだなぁってしみじみ思った。もう少し歳を重ねたら、きっと感じる部分や感じることが違うんだろうな。またいつか読み返したい。
こちらの本は図書館の予約待ちしていた本。他にもブグ友さんの涙活などのおすすめ本や、自宅の本棚に並ぶ積読本など、読みたい本があり過ぎて時間がいくらあっても足りない!ってなっています。幸せな悩みですね。さて、次も図書館本です♪ -
6つのお話が収録された短編集。
それぞれがどこか、今とは違う場所(旅先や過去に住んだことのある街)である、金沢、台湾、ヘルシンキ、ローマ、香港、八丈島が舞台で、確か、一つ目と最後のお話以外、身近な人の死が、主人公の思考の根底にあった。
「何ということもない話」を書きたかったと吉本ばななさんがあとがきで書かれている通り、大きなことが起こるわけではないけれど、旅先の風景と、小さな出来事を背景に、主人公の心の動きがとてもよく伝わってくる短編ばかりだった。表現の仕方が、素敵だった。あの街だからあの心情になって、ああいう表現になって・・・と行ったこともないのに、そんな風に思えるような、というか。
旅先のヘルシンキが舞台の、表題となっている「ミトンとふびん」、亡き友人の形見を届けに行ったローマが舞台の「カランテ」は特に印象に残った。
とても好きと思えるものではなかったけれど、なんというか、読んでいる者の心に染み込んでいく主人公の心情描写が、心地よく、さすが、吉本ばななさん、と思った。
吉本ばななさんの「キッチン」が好きで、というか正確に言うと「キッチン」に収録されている「ムーンライト・シャドウ」が好きで、だから文庫本「キッチン」は数回の引っ越しでも手放すことなく、今も本棚にある。もう一度読みたいな、と今回思った。
うまく言えないけど、良かった。読んで良かった、そう思える作品だった。 -
喪失を描いた6つの短編集。
静かにふんわりと漂うような不思議な感覚になる作品でした。
大切な人を失ってしまう。
きっと生きてれば誰もが経験する事なんだろうけど、どんなに悲しくても、朝が来て、また夜がきて、残された者は生きていかなければならなくて。
ばななさんがあとがきに書かれてた通り、どの話も大した事は起こらないんだけど、日々の暮らしの中でのちょっとした出来事に幸せを見つけ、また歩きだしていく感じが良かった。
重いわけでもないし、めちゃくちゃ励まされる感じでもない。
ばななさん特有の空気感が心地いい。
癒えることのないぽっかりあいた穴を、優しくふんわりと包んでくれる様な作品でした。 -
こちらもブクログのオススメ機能で出てきたので、数十年ぶりに吉本ばななさんの小説を読んでみた。
吉本ばななさんの小説の主人公は、どんな話であろうとも、哀しみを抱えている。
いろんなことが起こるけれど、静けさを決して手放さず、静けさの中で哀しんだり微笑んだりしている。
「ミトンとふびん」は短編集だ。
連作ではないけれど、1番目の「夢の中」と最後の「情け嶋」以外は、登場人物の誰かが必ず誰かの死を背負っている。
ひとりっ子とか、親(それも母子家庭が多い)が亡くなったとか、そういう類似設定のある短編たちが並んでいたので、連作短編集ではないけれどバラバラではなかった。
吉本ばななさんの小説の主人公は、良くも悪くも毎回とても似ている。
すごく語りが淡々としていて、傍目には波乱万丈な人生におもえるのに、それをさらっと、そういうことがあったと書かれる。
喜怒哀楽の起伏が少なく、騒がしくなく、真夜中の海みたいな、さざ波のようなお話たち。 -
大切な人の喪失。それでも生きて、寂しさや孤独を感じながら日常を取り戻していく様子が描かれている短編集。
ゆったり落ち着いた環境で読みたくて、夜に少しずつ読みすすめました。
作品のあちこちで文章がじんわり染みた。
何てことない場面なのに心に残る。
自分の気持ちにしっくりはまって、人生のしみじみとした場面や、感情の記憶を呼び起こさせてくれました。
ばななさんの作品は、個人的にストーリーを楽しむというよりも、“感覚”と“感情”を楽しむという感じ。
大切な人を失い、日常に埋もれたささやかな幸せに思いを馳せたり、一抹の寂しさのなかにある光みたいなものを感じたり。
ほんのりとした温かさが漂う短編集。
『幸せなやりとり、生きている者同士、肉体があって、同じ時間軸の中に存在していて、ほんとうにはわかりあえないのにとにかく気持ちを伝えようと一生懸命で』
『“ああ、もう時間もないのにお母さんにおみやげを選ばなくちゃ、どうしよう!”。失くしてみるとよくわかる、それが家族がいるという幸せの、本質なのだ』 -
旅の話、という背骨に、その旅をする人たちの思いや、くぐり抜けてきた別離の痛みなどが肉付けされて、たくましく生きていく生き物となった、その美しさを、私はこの短編集に見いだしました。あとがきの冒頭の「登場人物それぞれにそれなりに傷はある。しかし彼らはただ人生を眺めているだけ。」ということなのですね。傷ついた登場人物が癒しを得るという筋の小説は多く書かれていますが、ここまで到達した作品は、実はあまりないように感じていました。さすがは吉本ばななさん。ぜひ「次の山を登り」きるように、次作にお取り組みくださいますように!
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孤独な自分の感情や失われた思いも、誰かとは繋がってしっかりと存在したんだという痕跡を認めてくれる、そんな印象的な場所。
悲しげな物語もどこか前向きな気持ちで読み終えられる六話。
ちょこっと泣けちゃったカロンテ、家で恥ずかしい感じなりまして… -
読みながら、自分の大切な人達の事が思い浮かぶ。両親、夫、友達。自分が先に死ぬかも知れないし、突然大切な人を失う事になってしまうかも知れないけど、自分の場合はどうやってそこを乗りきるのかなぁ。