傷: 慶次郎縁側日記

著者 :
  • 新潮社
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感想 : 8
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  • Amazon.co.jp ・本 (342ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103892045

感想・レビュー・書評

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  • 最近ドラマの再放送がされているのを見て原作を再読したくなった。初読は10年以上前、久しぶりの再読なのだがやはり良い作品は心に残っている。

    シリーズ名の<縁側日記>というほど中身はほのぼのしていない。
    何しろ第一話「その夜の雪」では慶次郎の娘・三千代が祝言前に見知らぬ男に乱暴され自害するという残酷な話になっている。
    見習い同心を経て定町廻同心となり三十年、『仏の慶次郎』と呼ばれ罪を犯さぬ者が出ないように努めてきた彼が、娘を自害に追いやった男・常蔵を見つけ出し復讐しようとする。

    初読の際、慶次郎をこれほどつらい目に遭わせる設定にした作家さんの狙いは、後に慶次郎が様々な人々を諭す際の説得力を持たせるためではないかと考えたのだが、今回再読してみてさらに感じたのは慶次郎の人徳だった。

    常蔵をついに見つけ出し刀を向ける場面では、かつて自身と同じように復讐相手に匕首を向けたのを慶次郎が必死に止めた手先の辰吉が文字通り体を張って常蔵をかばい、常蔵の娘おとしはこの最低の父親に『お父つぁんなんか、斬られて死んじまいなさいよ』と言いつつ必死に慶次郎の足にしがみ付き、お上の御用を強請の種にしている蝮の吉次までが雪と恐怖でこわばったおとしの手を必死に温めている。
    皆が復讐の鬼と化した慶次郎を必死に『仏』に戻そうとしていた。

    『女房を死なせた男が女に埋もれた男を立ち上がらせ、女房に逃げられた男が、父親に死んじまえと叫ぶ娘の背をさすっていて、雪は、その四人の軀をひとしく白に染めていた』
    この一文が堪らない。

    その後、慶次郎は隠居し三千代の婿として迎えるはずだった晃之助に家督を譲り、自身は酒問屋<山口屋>の寮番になる。
    ここでもまた慶次郎がなぜ同心を辞める設定にするのかと思ったが、読みすすめていくと市井の人々が抱える問題は法度で裁けることなど少ないことに気付く。
    むしろ法度で白黒つけて裁くことで幸せになれるのなら皆苦しんではいない。
    慶次郎も晃之助も辰吉も吉次もみな苦しみを抱え『誰もかばってやれない傷』を持っている。
    その傷を理解して分かち合い、それでも生きていくことを伝える存在として慶次郎のキャラクター設定が出来上がったのだろうと思う。

    慶次郎は決して完全体ではない。武芸や真相を見抜く目は秀でていても寮番としての仕事…炊事や掃除、整理整頓などは全くできず、同僚の佐七の仕事が増えるばかりで文句を言われている。若い女性にちょっと寄りかかられればよろめいてしまうだらしのないところもある。

    一方で強請に精を出している蝮の吉次も単なる悪徳十手持ちとして描くのではなく、むしろ魅力的に見せている。吉次がそもそも強請に手を出したきっかけ、そのことを突き詰めていったことのしっぺ返し、それでも止めない人の業…人間の様々な部分を吉次一人取っても見せてくれる。

    書き出したら止まらなくなるこのシリーズの魅力なので続きは第二作のレビューにて。
    ただシリアスモードだけではなく、時に滑稽話のようなものもあったりほのぼのするものもあることは追記しておく。
    現代とは比べ物にならぬほど格差社会だったこの時代、社会のシステムそのものが間違っているとしか言いようのない理不尽さに苦々しく感じる一方で慶次郎のちょっとした目こぼしや諭しで救われる者、罪を犯さずに済む者がいる様は見ていてホッとする。

    最終話、逆上して男を刺そうとした娘に対し
    『人を殺せば、もっともっと血が出るんだよ。決して気持のいいものじゃない。恨みが晴れるようなものじゃないんだよ』
    と慶次郎が諭すシーンで結ばれる。
    第一話の後、慶次郎が悩み苦しみぬいて行き着いた答えがここにあった。

  • 久々にハマるシリーズの予感!

    宇江佐真理といい、高田郁といい、女流作家が好きなのかな?
    でも平岩弓枝はそうでもないな~。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「久々にハマるシリーズの予感!」
      残念なコトに作者の北原亞以子は亡くなりましたね、、、
      この時代劇は昔NHKでドラマ化されてました。ちゃんと...
      「久々にハマるシリーズの予感!」
      残念なコトに作者の北原亞以子は亡くなりましたね、、、
      この時代劇は昔NHKでドラマ化されてました。ちゃんと見てないのですが、石橋蓮司や奥田瑛二が良い味出してました。
      2013/04/04
  • 慶次郎縁側日記シリーズ。以前、ドラマで見かけたことがあったので、図書館で借りてみた。登場人物はほぼ同じ、短編集のようなもの。

  • 人を咎人にさせないように思案する仏の慶次郎の娘、三千代の自害から物語が始まる。辰吉、吉次、晃之助といった取り巻きが江戸を東奔西走する。

  • 今一番大好きな時代劇&時代小説。
    ストーリーがいい。登場人物が立ってる。
    そして、なにが好きかと言えば、北原先生のあの「物語の切り方」
    『えっえっ、どうなるんだろう!?』というところで、ふっと物語が終わる感覚が、たまらなく心に残る。
    物語が終わったからといって、しかし日々の生活が終わる訳ではない。悩みがなくなる訳でもない。「それでも人間はどうしようもなく生きていく」
    たまらないです。本当……。

    第一話はとてもつらい話ですけれど、あれを読んでこその物語の深みだろうから、何巻の、どの話から読んでもいいけれど、とにかく第一話だけは最初に読むべし。

  • 慶次郎縁側日記シリーズは面白い

  • 三千代をなくした慶次郎は、三千代の許嫁を養子にして家から出た。兼ねてから懇意にしている商家の寮の管理人に。
    次々と小さな事件は起こり、なんとかして、罪に問わずに道を正してやれないかと今日も慶次郎のおせっかいは続く。

    一つ一つの短編は終わりまで描かれていない。
    ハッピーエンドを想像させるフェードアウトで終わる。

  • 森口庆次郎和那个周边的人们的人情话。

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著者プロフィール

作家

「2017年 『化土記』 で使われていた紹介文から引用しています。」

北原亞以子の作品

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