巡礼

著者 :
  • 新潮社
3.66
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本棚登録 : 236
レビュー : 51
  • Amazon.co.jp ・本 (233ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784104061112

作品紹介・あらすじ

いまはひとりゴミ屋敷に暮らし、周囲の住人たちの非難の目にさらされる老いた男。戦時下に少年時代をすごし、敗戦後、豊かさに向けてひた走る日本を、ただ生真面目に生きてきた男は、いつ、なぜ、家族も道も、失ったのか-。その孤独な魂を鎮魂の光のなかに描きだす圧倒的長篇。

感想・レビュー・書評

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  • 「橋本治は天才だ」との評をいくつか目にしたことがあります。
    ゴミ屋敷を扱った本書は,橋本氏だからこそ傑作に仕上がったのだと感じました。ゴミ屋敷をつくり出した忠市の心理描写や時代背景,家族など刻々と移り変わっていく様の描写が,坦々とした内容であっても僕の中に入ってくる感じを受けました。
    登場人物すべての心理が理解でき,普通の脇役が主役であり,主役が脇役というような不思議な感覚で,視点や時代の巡る流れが面白かったです。
    これを機会に,橋本治ワールドへ足を踏み入れたいと思います。

  • とても深い内容の本だった。

    ゴミ屋敷、片付けられない症候群、そんな言葉はよく聞くけれど、その裏に込められている個人個人の意識や事情まで今まで考えた事がなかった。

    結婚もうまくいかず孤独な忠市は、幼くして死んだ自分の息子の名を母親から久しぶりに聞いて一瞬誰の事か解らなくなる。それだけ読めば、酷い父親だと思ってしまうけれど、次にこう書いてあってハッとした。

    ”「それを分かれば涙が出る」ーそう思う心が、記憶の蓋を閉ざした。”

    悲しい時間の中で止まっている忠市は、自分が他人から「ゴミ」だと言われるものを集めていることが無意味な事だと頭では分かっている。ここでも「分かっているなら止めたらいいのに」と思ってしまうけれど、彼にとってはそんな簡単な事じゃない。
    自分が意味のあることをしていると思いたい彼の心情が、無駄を省いた文章に強く表れていた。

    忠市と弟、修次の食事に関する記載がとても良いと思った。
    初盤、中学を卒業した忠市の祝いで、尾頭付きの鯛が出た時に、忠市はそれを弟の修次に分けてやった。
    終盤、修次の助けによりゴミ屋敷から出た忠市は、修次との旅中に精進揚げをうまいと喜び、そんな兄に修次は自分の分も勧める。でも忠市は修次に食べさせる。

    いろいろな事が重なって別な方向の人生を歩んだ2人だけれど、互いへの愛情は変わっていない、この最後のシーンはそんな風に思えました。少し悲しい終わりかただけど、きっとこれで良かったんだと思う。

  • 「ゴミ屋敷」の特集は、TVで何度か見たことがあった。
    でも、なぜ人がゴミを集めてしまうのか、納得がいかなかった。
    でも、この小説を最後まで読んで、
    このような理由からゴミを集める人もいるのかもしれないと
    初めて納得がいった。

    人は、頭で分かっていることを、
    必ずしも実行できるわけではない。
    それは意志が強いとか弱いとかそういう問題ではなくて、
    こみあげてくる不安とどう向き合うかという
    問題なのではないかと思う。
    それをこの小説はとてもよく描いていたと思う。
    主人公の不安や焦燥感や絶望が分かるから
    読んでてやりきれない気分になった。

    ラストは、一瞬「え、こうやって終わるの?」と思ったけど
    ラスト二行を読んで、この終わり方でよかったと思った。

    橋本治の文章は、理屈っぽいというか
    観念的というかで、ちゃんと読んでないと
    分からなくなってしまうことも多々あったけど
    中盤から読みやすくなった。
    久しぶりに重~い作品を読んだけど
    最後まで読んでよかったと思った。
    いい作品だった。

    • christyさん
      >reader93さん、この作品、本当にいい作品でしたよ~。もうぜひ、ぜひおすすめです。ものすごく奥の深い作品でした。タイトルの「巡礼」とい...
      >reader93さん、この作品、本当にいい作品でしたよ~。もうぜひ、ぜひおすすめです。ものすごく奥の深い作品でした。タイトルの「巡礼」というのも、最後で納得のできるタイトルでしたよ。
      最初のほうの文体が読みづらくてイライラして、やめたくなるのですが、途中から変わってきますので、前半だけ我慢して読んでもらいたいです。これで、またブック倶楽部したいですね~。
      2012/03/24
    • reader93さん
      これ読み終えました。何だかとても考えさせられる本でした。自分を忠市の状況に置き換えると胸がしめつけられそうでした。ラストはそうくるか〜!と思...
      これ読み終えました。何だかとても考えさせられる本でした。自分を忠市の状況に置き換えると胸がしめつけられそうでした。ラストはそうくるか〜!と思いました。でもchristyの書かれたとおり、この終わり方で良かったのでしょうね。忠市が最後に弟と一緒で良かったと思います。
      2012/07/01
    • christyさん
      >reader93さん、reader93さんのレビューも読みました。とても的確に表現されてて、「そうそう」と思いながら読みましたよ(笑)。自...
      >reader93さん、reader93さんのレビューも読みました。とても的確に表現されてて、「そうそう」と思いながら読みましたよ(笑)。自分では言語化できなかったので!
      この作品は本当に深いですよね。喪失感とか孤独とか、誰もが体験するものをどう自分の中で消化、あるいは浄化させるかというのが、大切なことなんだなあと思いました。また、やはり人を支えるのは人の愛情なんだなあと強く思った作品でもありました。
      2012/07/02
  • 空き家問題に、ゴミ屋敷問題が、最近話題になっているのですが、、、、

    これからの、生活において、自分も断捨離しなくては、、、と、家の中を見渡していた時に、この本と出会った。

    最初は、ゴミ屋敷の周りに住む隣人や周りの人達の事が書かれており、周辺にする者たちは、迷惑千万であることが、、、

    しかし、ゴミ屋敷の主の忠市が、どうして、ゴミの山の中で生活してきたのか・・・・

    戦時下に少年時代を過ごし、敗戦後は、周りのものからの勧めでお見合いらしき事で、妻を娶り、子供も生すのだが、、、、その息子にも幼き時に亡くしてしまい、妻も実家に帰ってしまう不幸な出来事があった。

    もくもくと、ただひたすらに、仕事をし、真面目に生きてきたのだが、周りの高度成長期に、のまれてしまって、自分自身が、どう変化して行けばいいのか、戸惑いだけで、生活をして来た。

    忠市の両親も、戦争下において、生きるために、努力してきたはずなのに、世の中の動きにただ、日々を過ごすことだけを目的に月日を費やしていたのだろう。

    弟の修次も、狭い実家から出て生活をして来たのだが、実家からの拒否で、訪れる事もなく、孫の顔も両親に見せる事も出来ず、妻も亡くし、一人住まい。

    兄の忠市のゴミ屋敷を見て、実家へと戻り、兄の姿と家の中のゴミに驚くのだが、、、、全部廃棄状態をしてしまう。
    兄弟って、今まで、確執があって、会わなかったのに、どちらも、年を重ねたせいか、修次の提案したお遍路巡りへと出かける。

    弘法大師の徳を貰ったのか、忠市の顔に笑顔が、現れる。
    生きるという事に辛かったのか?
    意味もなく歩き回っていたのかも知れない。
    でも、皆、生きていたら、、嬉しい事も、辛い事もあり、孤独な事もあるだろう。

    この小説で、お遍路さんの満願成就迄、忠市を生かしておいて欲しかったが、、、家の整理も出来て、美味しいものを笑顔で食し、家族の弟とも和解出来、苦しまずに、仏の元へと旅立ったのは、良かったのかもしれない顛末であった。


    親の時代、物が豊かでなかった時に、高価な品、、、しかし、今は無用の長物化している物を、廃棄するべきなのに、、、、小説の中の忠市の行きて来た時代を思いながら、断捨離の途中で、考えさせられた本であった。

  • 第一章、第二章は少々日常過ぎて普通過ぎて退屈。しかし第三章であっけなくもあるがこういう結末かと納得させられる。

  • 悲しい、救われた名作❗️

  • ・次の朝、修次が目を覚ますと、隣の布団の中で、兄はそのまま死んでいた。その表情はなにも語らず、ただそのままになっていた。

    ・死んだことに驚きながら、修次は「兄貴にすれば、生きようとすること自体がつらかったのかもしれない」と思った。兄が死んだことをまず認めてしまった修次は、その冷静さ図々しくも思って、試すように兄の体に手を掛けた。「兄貴!」と揺すって命を呼び戻そうとしたが、忠市は冷たくなって答えなかった。「答える」ということから自由になった体は、固く、ぎこちなく揺れるだけだった。
    「自分はもう、ずいぶん昔から、ただ意味もなく歩き回っていたのかもしれない」と思った時、忠市の体は、深い穴に呑まれるようにしてすっと消えた。「生きる」ということの意味を探るため、弟と共に歩き始め、「自分がなにをしている」とも理解しなかった忠市は、自分が巡るあてのない場所を巡り歩いていたと理解した時、仏の胸の中に吸い込まれて行った。拒まれるのではなく、招かれることを素直に受け入れて、「会いたい人に会いたい」と思いながら、どことも知れぬ虚空に吸い込まれて行った。
    修次は、暗い闇の中にいた自分の兄が、金色の仏と夜の中で出会ったのだと思った。そのように思いたかったー。

  • 生きようとすること自体がつらかったのかもしれない

  • 2013.1.9読了。

    自分が何をしようとしているのかが分かっている人間は、一体どれほどいるだろう。

  • 感覚としては重松清の疾走に近いかな。序盤の流れが重くて結構読むのがきつかったです。

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著者プロフィール

1948年、東京生まれ。イラストレイターを経て、77年小説『桃尻娘』を発表。『「三島由紀夫」とはなにものだったのか』で小林秀雄賞、『蝶のゆくえ』で柴田錬三郎賞を受賞。著書多数。

「2018年 『おいぼれハムレット』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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