草薙の剣

著者 :
  • 新潮社
3.61
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本棚登録 : 190
レビュー : 28
  • Amazon.co.jp ・本 (347ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784104061150

作品紹介・あらすじ

なんで僕はこんなところにいるんだろう? 日本人の心の百年を辿る壮大な長篇小説。62歳から12歳まで、10歳ずつ年の違う6人の男たちを主人公に、その父母や祖父母まで遡るそれぞれの人生を描いて、敗戦、高度経済成長、オイルショック、昭和の終焉、バブル崩壊、二つの大震災を生きた日本人の軌跡を辿る。戦後日本の行き着いた先である現代のありようを根底から問い直す、畢生の長篇小説。作家デビュー40周年記念作品。

感想・レビュー・書評

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  • そういえば、自分がまだ生まれていなかった戦中(祖父母の世代)から現在へと至る流れを、一続きのものとして振り返ったことがなかった。教科書的な歴史としてではなく。その意味で本書は貴重。
    時代を生きた本書の登場人物たちの人生が、まるでバトンリレーのように語られる。わずかな年齢差が時代の捉え方を変え、また、相互の理解を絶望的に遮断する。こうして戦後の時間が流れてきたのだということを、肌で実感している。歴史小説というのとも少し風合いがちがう。こういう小説の形があってもいいのだな。

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    読了してみて、ほんとにリアルだなと思う。終盤にポケモンGoが登場することも。そしてそれは、日本人が戦後、成熟するタイミングを失ってしまったことを効果的に象徴している。現実はまだ、本作の枠組みの外へ出る方法を知らない。その著者は、残念ながら、もはや故人になってしまった。

    驕れるものはひさしからず。どんな時代の、どんな傲慢な権力者でさえ、けっきょくいずれは死ぬのだ。例えば現政権は歴史上に汚名を残すはずだが、そのことを自覚できないしょせん一人間である権力者の悲しみにさえ、思いは飛ぶ。
    本書は、未来から現在を見た、死者による語り。それは、過去から現在を見た、死者による語りと対称をなす。

  • 日本の戦後から今に至るまで、10代から60代の男性とその人達を取り巻く親世代、子世代を通して日本の姿を描いている。小説というより、ドキュメンタリーといった感じだ。
    自分は自分なりに道を選んできたつもりでいたが、個々の選択は、その時代の勢いや世相というものに大きく影響されている。
    違う時代を生きる親子が互いに伝え合うことをしなければ、知っておくべき事実や知恵は受け継がれず、世代間の理解はないままただ内向きに生きる人が増えるのでは…この国はどうなっていくのだろうか。
    深く考えさせられたが、ほのかな希望も感じられた。2019.1.2

  •  昭夫、豊夫、常夫、夢生、凪生という、似たような名前で10才ずつ年齢の違う、まったく接点のない男たちの半生を、昭和・平成の激動史を交えながら描いている。
     かつて世間をにぎわせた事件や当時の世相をドキュメンタリータッチで淡々と列挙しながら、男たちが生き、戸惑い、戦かってきた姿、そして連綿と続いていく家族の営みを浮かび上がらせていく。

     それぞれの場所で生きている男たちの物語が過去から未来へ次から次へと変わり、五人の男の家族や両親、祖父母まで登場するため、最初は人物関係がまったく整理できず頭が混乱する。
     読んでいくうちに、それぞれの時代の登場人物たちが過去からのバトンを渡されて並んで走っている”時代”そのものに視点が移っていき、誰の物語かはあまり意味がなくなっていく。

     戦中・戦後のある一家の三代の歴史をたどった角田光代著『ツリーハウス』が家族小説そのものなのに対して、本書は、誰しも(男性なら特に)一度は感じたことのある”あの時代”の空気感を一冊に凝縮して詰め込んだ一種の記録小説のようだ。

  • 橋本治の遺書。
    彼はこれで、この国の歴史を神話時代から現代にいたるまですべて書き終えた。方法は美術史であり、古典の翻訳であり、芸能論であり。戦後社会の解析は小説という形式だった。「桃尻娘」から50年。この仕事の山をたどり直すことをできる人は二度と出ないだろう。偉業といっていいと思う。小説の最後に「始まりの予感」を記していることに涙がこぼれた。冥福を祈る。

  • 登場人物が多いだけでなく親やその祖父母に至るまでの系譜が描写され、どの人物の親が誰で、その頃の事件などもメモしながら読む。
    ラジオで著者の橋本氏が亡くなった時に「これは現代の平家物語だ」と源一郎氏が発言したと記憶してるのだけど、旧約聖書のように始まる。が、草薙の剣は古事記で、面倒なことは考えない、その時になって考えればいいと言うのはスカーレット・オハラのようでもある。

    登場人物はどれも暗澹として澱んでいて「これらと自分は違う」と思うのだが、終盤には私もこれらの世間に含まれていることを自覚せずにはおかず、登場人物に頑張れと祈りながら読むのは切なかった。親の背中を見て育たない、夫婦も分かり合えない。過去を無きもの、関係のないものとすればそれは即、現在の意味もない。ある本で読んだ描写がこの本にも通じている。

    それにしても、冒頭と末尾の仮想現実的な描写は何を意味してるのだろう。
    全ては見えない糸でつながっているということなのか、ゲンジツさえもマボロシ的な何かだろうか。橋本氏が表現するのだから、きっと何かを示唆しているはずだ。

  • 12歳から62歳までの6人の男たちと、その父母、そして祖父母たちの「人生とその歴史」。敗戦からポケモンGOまで、次々と語られる日本の歴史。さまざまな事件や事故、世相など、そのどこかに自分の生があり、自分の親たちの生があり、だけどだれもその主人公ではなく、その他大勢の誰かである。
    6人の男たちは自分の人生を生きている。でもなぜか、みんなそれほど必死ではない。彼らの親や祖父母の必死さに比べてなぜかみんな淡々と流れるように生きている。どの時代のどの場所にも彼らはいて、そして自分の人生を生きている。彼らの親たちと彼らの間にはどんな違いがあるのか。彼らが持たない「必死さ」が、名前を付けられなかった石なのか。
    登場人物が多く、年代も行ったり来たりするので、誰の話でいつの時代で、と読みながらメモを取る。けれど後半はそんな年表など必要なくなってくる。誰が誰で今日がいつで何が起こっていたとしても、それは結局みんな自分の人生であり、誰かの人生でもあるのだから。

  • 戦前から平成のポケモンGOが登場するまでの期間で、登場人物が時代に流され、振り回され、翻弄される様が描かれている。それぞれの時代で10歳の歳が離れた人物6人が描かれており、読者はどこかの人物に感情移入することになる。決して幸せな世の中が書かれているわけではない。自分と照らし合わせると、自分より幸せに生きている人もいるし、そうではない人もいる。マクロな歴史の中で個人の歴史が語られているようで、そういえば、あの時はあんな感じだったなと自分の当時を思い浮かべながら読み進めた。登場人物の関連が唐突なので、読みやすい本ではないと思う。伝わるものは多くあるので、うまく言えないが何かを得たような気がするし、得たことを認めたくないような気もする。顔では泣けないが、心の内側で泣きたくなるような読書体験だった。



  • 10歳ずつ年の離れた6人の男性とその父母、祖父母の人生や主な出来事を通じて、昭和初期から平成晩年までの世相が描かれる。

    登場人物は各世代を象徴しているだけで、特段の意味を持つわけではない。
    人物への感情移入が難しい、という意味では叙事詩なのかと思うが、作者が裏に込めたメッセージを拾うのも容易ではない。

    巻末で再現する冒頭の夢のシーンも、難解な演劇を見せられた気分になる。

  • 自分は今50代後半だが、自分のこれまでと重ね合わせて感慨深い。生まれるのが10年、20年遅かったらかなりの確率でフリーターになっていたかもしれない。アベノミクスは低失業率を誇るが必ずしも質が高い雇用とは言えない。橋本治が亡くなった後も現代版「平家物語」は続いているのかもしれない。

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著者プロフィール

橋本治
1948年3月25日 - 2019年1月29日
東京生まれの作家。東京大学文学部国文学科卒業。イラストレーターを経て、1977年に小説『桃尻娘』を発表、以後文筆業を中心とする。同作は第29回小説現代新人賞佳作となり、映画・ドラマ化もされた。1996年『宗教なんかこわくない!』にて第9回新潮学芸賞、2002年『「三島由紀夫」とはなにものだったのか』にて第1回小林秀雄賞、2005年『蝶のゆくえ』にて第18回柴田錬三郎賞、2008年『双調 平家物語』にて第62回毎日出版文化賞、2018年『草薙の剣』で第71回野間文芸賞をそれぞれ受賞。
編み物にも通じており、1989年『男の編み物(ニット)、橋本治の手トリ足トリ』を刊行。自身の編んだセーターを着てCMに出演したこともあり、オールラウンドに活躍を続けた。

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